「よい戦いであった。よき一生であった。私は先に冥府へ行こう。 お前がやってくる前に戦いの舞台でも整えておくとしよう」
大型艦を牽引する海竜は真っ二つ、浮力を維持する機構は双胴共に砕け散った。
沈み行く海上の城で生粋の
クルスベルグ軍人、ブラッグ=ゴズマール提督は大仰な笑顔をガルガドに向けた。
クルスベルグを主とする艦隊と海賊と戦士達との戦いは雌雄を決した。
鉱山からの毒素流出事故から
ラ・ムール商人が島々の扱いを難儀していたところに
ゴブリン商人のナゼフが所有権を買い取ったことによる情勢の変化
そこに鉱物資源確保のために動いたクルスベルグを主とした連合艦隊
北海の島々の所有権を巡って起こった激しい海戦は連合艦隊主艦“三頭城”の轟沈で幕を下ろすと思われた
しかしその後、クルスベルグ海軍提督であるブラッグ=ゴズマールの独立作戦による進撃が起こるもドニー全戦力により首都港を目前にして海の藻屑と消えたのだった
そしてクルスベルグはじめ諸国は平和的交渉により鉱物資源の入手する方向へ舵を取ったのである
「“国と連合軍の意に反して作戦を遂行した反乱分子の鎮圧に感謝を。貴国と完全な和解を望む”… 船長、これを受け入れたので?」
「ナゼフの遺言だからな。“引き際が肝心”と、な。 もう戦いは終わった、これから始まるのは新しい航海だ」
三日夜通しで続いている戦勝祝い。傷を癒すのも忘れて歓喜に沸く港に
オーガの大船長、海賊の長であるガルガドが一つ高い木箱の上に立ち出た。
「皆!何度目の乾杯かはもう分からぬがよく戦い抜いた!勝利に!」
「「「勝利に!」」」
「この戦いの勝利により諸国は我々を国と認めた!確かな故郷、帰る場所を手に入れたのだ!」
原住民、ならず者、海賊、逃亡者…最初の思いはばらばらではあるが、やがてその意思は一つになり戦い抜いた。
「しかし失うものも多大でだった… 人も物も散っていった。俺も無二の友を失ったことで一度は心折れたこともあった…
だが、だからこそ勝たねばならないと負けてはならぬと立ち上がり、戦い、そして今に至ったのだ」
誰もが目を閉じ思いを馳せる。誰もが無傷ではいられなかったあの戦いを。
「諸国が認めた俺達の国の名前、“
ドニー・ドニー”、それは強き力、何ものにも負けぬ意思。
俺はこの戦いを経て確信した。土地だけでは国とは呼べぬ、そこにいる者達の意思なくしては何も成せぬと。
国とは何か?それは俺達、俺達全員とこれから生まれてくる子ら、集まってくる仲間全てが力となり国を作るのだ!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
「世界のどこへと漕ぎ出そうとも、その心ある限り…俺達はドニー・ドニー!俺達がドニー・ドニーなのだ!」
「「「俺達は!俺達が!ドニー・ドニー!!」」」
この後、類稀なき海運海軍力で異世界の海を股にかけて活躍するドニー・ドニーは大いに名を響かせることとなる。
─── その後
海面が総毛発ち飛沫が上がる。
港からは遠い湾の入り口、パララ島の岬を削りながら巨大な背中が現れる。背中の一部だけではあるが、見る限り全体は大型艦三つは軽く越えるだろう。
「…港の入り口を塞いでいた護鎖艦も沈められてしまいましたか。 やれやれ、一隻いくらかかったと思っているんですかね」
遠眼鏡で先を確認するゴブリンが口惜しそうに舌打ちする。海賊なのだろうが身なりはきっちり整えられている。
「あれは“奴”にとっちゃ遊んでいるようなもんだぞ。だからよしとけと言ったろう」
左腕と右足は既に義肢。全身は傷まみれ。髪は全て白く齢が染めている。それでも尚雄雄しく立つオーガ。
「…ただ玩具を与えたわけではありませんよ大船長。アレの概要を把握することもこの後の戦いに役立つでしょう」
「そんなもんか?」
「あぁそれと大船長、出撃前にお話一つよろしいでしょうか? 私の独立についてなのですが」
「いやいや、そういうのは奴を追っ払った後でもいいだろう?お前は本当にせっかちで困る」
「刻は金でも買えぬものですよ。今、大船長が御健在であるうちに伝えておきたいことなので」
首都港に迫るであろう大きな魚影を見ても冷静のままのゴブリンに大船長と呼ばれるガルガド、ドニー・ドニーの頭首は呆れるしかない。
「よう!こんなとこにいたんかよガルガド! 魚人海賊団は全員出撃準備完了だってのによ!」
灯台に並ぶ二人にどすどすと早足で寄って来たのはガルガドには劣るも巨漢の鮫人。
「…カサーゴさんはどうしたんですか?副団長を寄越すとは偉くなりましたね」
「あぁ!?カサーゴなら俺が咽笛噛み切ってやったらサッサと逃げていったぜ! ガルガドぉ、お前を後ろから刺す算段ばかりしやがって鬱陶しいからな、
俺が真正面からぶった斬ってやるわとヤってやったぜ! 魚人海賊団にケチな悪党はいらねぇ!」
「血の気が多いのも考えものだな。じゃあヴヴ、お前が新団長でいいんだな?」
「はっ!いいか?あの鯨を誰よりも先にぶっ倒して次は手前を倒す! それで俺様がドニーで一番だ!」
「…まぁ期待していますよ」
「大父~」
熱気を増す空気を折るような、耳通りのいい陽気な呼び声。鬼人が駆けてくる。
「大父、鬼人海賊団全員配置完了ですよ!
オークの大母も準備完了と伝えておいてって言ってました」
「二代目として頑張ってるなシュラ。先代は健在か?」
「ええ勿論!今も三人目がお腹の中で養生してますよ」
「あぁ!?シュラ手前、ガキなんぞ連れてくんじゃねぇよ!今から出入りだってのに!」
「しょうがないでしょー、団に子守任せれるのがいないんですから。ねー?ちゃんとあたいの背中を見てるんですよー?」
「ねーね ねーね」
背負う鬼子をあやすと嬉しそうに手を空へと向け、次は傍に立つヴヴへと好奇の手を伸ばす。
「あぁあ!?勝手に刀にさわんじゃねぇよ!ってオイ、こいつ力つえぇぞ!?」
「はっはっは。これは次代も安泰だな! ではそろそろ行こうか?ドニー・ドニーのおおいくさだ!」
ドニー・ドニーを脅かすものには全てを挙げて挑む。 ドニー・ドニーの力の象徴でもある海賊団の出航は力強く、希望を背負うのだ。
ドニー・ドニーを建国し牽引した大船長ガルガドは、その後“巨大なる白”と共に海へ消えるまで最前線で戦い続けた。
彼が掲げた大船旗はドニー・ドニーの長の証として受け継がれていくこととなる。
『もうそれくらいでいいでしょう。絶命しています』
『チッ!歯応えねぇなぁ!』
ドニー近海、嵐の中で島ほどの巨巨大の鯨が穴だらけになり浮かび上がる。
『何故急に鯨と戦ったりなど…本当に気紛れな人』
『あ~。あの港にいくなら一匹づつ行けって言ってんのに徒党を組もうとしやがるから説得したんだよ』
『その結果がこれではたまらないでしょうね』
『あー!やっぱ畜生はダメだわ話が通じねぇ~。 空へ帰るぞ、
アグール』
『はいはい。 …
ウルサ、まさかそれを持って帰るのですか?』
『オレが倒したんだからオレのモノだろ?しょうがねぇよ』
かつてドニー・ドニー建国の戦いの最後を想像してみました
- 海賊の国!って感じでいいと思う。次の代もにぎやかそう -- (名無しさん) 2016-03-06 23:37:15
- 海賊団長同士の関係がよいね -- (名無しさん) 2016-03-08 02:51:31
- 神の力を借りずに人の力で戦ったってのがいいわ -- (名無しさん) 2016-03-20 19:45:01
- 絆?連帯感?いざとなれば皆集まる仲間意識の根源が国の起こりにあったという感じですね -- (名無しさん) 2016-04-11 08:44:55
最終更新:2016年03月06日 21:33