「ヒロト、あそこの島がなんだか賑やかだぞ。行ってみよう」
「え?鳥タクって飛んでる途中から目的地変更とかできるんですか?」
「うちは構わないよ。あの浮遊島でいいんかいな」
「はいよっと。確かあそこは鳥人が祭事場を始めたんだっけかな」
オルニトゲートのある墜落不時着した浮遊島伝いに行ける山頂から鳥タクと呼ばれる空中籠。オルニトの空では主な移動手段である。
「おお!本当に空を岩が移動しているぞ!」
「ガイドブックに書いてある通りで逆に驚きますねー。流石異世界というか」
「はいよー到着だよ」
「帰りはどうするさ?ちょい料金足しであんたらが見物し終わるまで待っとくがね」
「あ、それでお願いします」
「ヒロト、あそこで何か始まるみたいだ。行ってみよう!」
鳥人運営の空中浮遊島でのイベント会場。
ゴブリン商人をアドバイザーにして開店割引もあってか割と盛況である。
そして開店から丁度百人目の客が百人到達記念として無料でイベントを催せるというのである。
「いやー、まさかこんな異世界の空の上で旧知に再開できるとは思わなかったぞ。久しいなリチャード」
「私こそ思わぬ再開だよブレメン。
エリスタリアの一件から地球に戻って以来もう異世界入りしないものだと思っていただけに」
会場に並べられたテーブルの一つに座り談笑する初老の男性二人。 どちらも軍隊風の様相である。
「しかし堅物だと思ってたリチャードにあんな若くて美人でしかもダークな
エルフ嫁ができるなんてなぁ。分からんもんだな世の中ってヤツは」
「異世界にいると色々あるんだよ。君の方はどうなんだ?まだ部隊にいるのかい?」
「あー地球に戻ってから暫くして辞めてなぁ。こっちも色々あって今はしがない警備会社をやっているさ」
しがない警備会社が社員旅行の先に選んだのは観光促進キャンペーンであちこち割引している
オルニト。経費削減で予算の範囲内である。
そんな旅行でふらっと立ち寄った会場にて無料歓迎を受けたので、式を挙げずに一緒になってなぁなぁで今の今まで経過している社員二人が結婚式を挙げるのだという。
そこにディセト・カリマの娼館のハーピー嬢達が帰還祭でオルニトに帰郷するのを護衛に随伴した“砂漠の薔薇”の精鋭数名とリチャードがふらっと立ち寄ったのである。
ハーピー達の翼休めという偶然も偶然であった。
「リチャードはもう式は済ませているのか?この後どうだ?」
「私達はもう戦場で済ませたよ。 おっ、本日の主役の御登場だ」
異世界各地のみならず地球の衣装も揃えているのだろうか、黒の礼服と純白のドレスの二人が準備場になっている神殿より現れる。
無精髭が少し残る大柄な人間男性の青年と純白とは対照な褐色の肌に無数の傷を浮かべる小柄な銀髪のダークエルフ。
「和耶、動きにくい服だな。今戦闘が発生したら遅れを取るかもしれない」
「これが結婚式の儀礼的な衣装ですよコルトパさん。もし戦闘が起こったら私が守りますから」
「フフッ、そんなことは私より強くなってから言うんだな」
ハーピーの合唱団が高らかに祝福の歌を風に乗せる。
ホビットと鳥人がテーブルに料理を配って回る。
空を滑空する大きな鳩から色鮮やかな花弁が撒かれた。
大勢に賛辞を贈られて二人はステージへ歩んでいく。
「ヒロト!ヒロト!けっけっけ結婚式だぞ!」
「いやちょっと興奮し過ぎですよトガリさん。 ちょっ、尻尾びたんびたんしないで下さいよ痛いですって」
顔を紅潮させる竜人に半ば呆れてげんなりしている二人のテーブルの横に大きな鳩が降り立つ。
「お仕事一丁あがりなのだわ。さぁ料理を食べるのだわ」
「酒運んだついでにバイトするとは思わなかったな!まぁめでてえってことで大目に見るか」
「うわぁ綺麗なドレスだなぁ。ボクもいつかあんなのを着て…」
「ん?何か言ったかイスズ。料理の追加は給仕に言うんだぞ」
「もぅ!何でもないよメノー!」
「ところでブレメン。ちょっと訪ねたいんだが、あのダークエルフはひょっとして…」
「いやもう言わなくていいからリチャード。ひょっとしてもしなくても想像通りだ。当人同士が幸せならそれ以上何も言えん」
「エルフ種が非生産的な関係を受け入れるということに少し驚くよ。世界も変わってきているということなのかも知れないな」
「プレジデンテ教エテ欲シイ。人間種ハ後世ニ種ヲ残ス意思ガ希薄ナノカ?」
細い細い体に細い隊服のナナフシ人が訳が分からないよというジェスチャーを複数の腕で示して問いかける。
「いやホント異種族交流も進んだモンダナー」
「もうあの二人には何も言うまい」
荒々しい長髪の赤鬼人と見事なスキンヘッドの
オーガが口端から灰豆コーヒーを垂れ流しながら虚ろな表情になっている。
「自由恋愛に自由な結婚!良いじゃないのさ!」
既に酒瓶数本を空にして出来上がっている片足義足の中年ブロンド女性があっけらかんと笑い飛ばす。
「ねぇねぇメノー、自由恋愛に自由結婚だよ?!」
「意味が分かんねぇよ、何でそんなに嬉しそうなんだよ」
オルニトの空に温かな風が吹く。 これからの全ての未来を祝福するかの様に。
- ヒロトと瑪瑙は色んな意味で結婚が遠いな -- (名無しさん) 2017-06-21 17:39:15
最終更新:2017年06月21日 03:37