8月某日 日本某所
施設内外を行き交う人波の中に二人はいた。 漆黒の長髪に黒いワンピース、黄金色の長髪に白いワンピース、共に少女。
「これがコミティアかぁ!まるで人がゴミゴミだよ!」
「本場は凄い人の数ですね。異種族もちらほら見かけますし交流の成果を感じますね」
リュックだバッグだの背負う担ぐ人々の間をするするとすり抜けながら熱気と歓喜を堪能する二人は
スラヴィアの神と統治者である
モルテとサミュラである。
「うーん、会場マップはもらったけどこの中から目当ての場所に行くのは一苦労だぞっと。動く人の壁だからダンジョンの中よりハードだよ」
モルテがぐるぐると首を360度かけるの三回ほど回していると、サミュラが首に掛けている黒いネックレスがひゅっと持ち上がる。
サミュラに行き先を示すように人混みの先へ向く。
二人はそれに従い人波を進んでいく。
「サミュラ様!来てくださったのですか!」
自己主張の激しいWドリルが逆立ちぐるんぐるんと回転するガチ鎧コスのレシエ卿。
「陣中見舞いだヨ~。売れてる?」
「お疲れ様ですレシエ卿。外貨獲得の地球進出とは思い切りましたね」
「はっ!時代はもう戦うだけが饗宴ではありません。これからは経済貢献によってスラヴィアを盛り立てていくのも重要だと確信しています!」
お前達!ぼけっとしていないでポカリスエットとかお出ししなさい!」
レシエに言われ白銀と赤銅のリビングメイルが売り子の手を止め対応する。
「えぇと売ってるのは何々… 【華麗で荘厳なるレシエコレクション大全】【素晴らしきサミュラ様の日々】 の二冊かー。売れてるの?」
「勿論。通りすがりのカメラマンに依頼して我が邸所蔵のコレクションを撮影し全ページフルカラー掲載&解説という豪華版ですからね。色んな人が買っていきますよ」
「レシエ卿?もう一冊の方は倍以上のページで持ち運びが大変ではありませんか?」
「愛故にですね。私の中ではメインはこちらですので。地球にてサミュラ様の素晴らしさを広めるたいのです!価格は原価ギリギリです!」
「中々凝った中身じゃないか?レシエの意外な才能見たりって感じだわー」
「何でも地球にやってきて連日徹夜で製作したと言ってましたね。スラヴィアン24時間頑張れますものね」
「おっ、あそこにいるのは監獄姫と海賊娘じゃないか。あの二人も来てたのか」
ブースの長机にちょこんと座しながら大きな手でひょいひょいと本を渡していく長い長い髪と安全ヘルメットの監獄姫と三本の腕で器用に金の受け渡しをこなすアニー。
「お疲れ様です。調子はどうですか?」
「あっ、これはサミュラ様とモルテ様いらっしゃいませです。想定よりも売れ行きは好調ですです。スラヴィア観光促進のために大迷宮の広報誌【迷宮の歩き方】なのです」
「私はレシエ様とのめくるめく愛の物語を描いた【アニーちゃん注意報!】です」
広報誌と言いつつハードカバー仕立てで重厚な雰囲気を醸し出すのとは対照的にキラッキラのコッテコテな少女漫画風の二冊が並ぶと何とも言えないオーラを発する。
「姫ちゃん、岩窟王は来てないのかい?」
「暑苦しいから客受けが悪くなりそうなので来てませんです。ムーク毛を刈らない主義なので仕方ないのです」
「そっかぁー。 …しかしアニーのはレシエが男の子になってるしアニーは可愛くなってるしすっごいお花畑だねぇ」
「いけそうならこれを足掛かりにりぼんとかちゃおに進出しようと思ってます!」
「それはすごいですね。是非頑張って下さいね」
「色々買ったら結構な荷物になってきたねー。色んな本があってついつい買っちゃうヨ」
「あら?あそこは
ケンタウロスの方が売り子をしているのですね目立ちますね」
「いらっしゃいませー!」
「どうぞ見ていって下さい。いくつかバージョンがあるので好きなのを選んで下さいの」
ケンタウロスの牧場がせっせと売り子をする傍らで双鏡が戦利品を確認している。
「何々? 【トールスとウーフの物語】 、西
イストモスの話だっけかこれ」
「バージョンというのは何でしょうか?」
「よく聞いてくれましたの。これは一つの物語をトールスとウーフの性別を変えて作っていますの。男x女、男x男、女x男、女x女の4バージョンがありますの」
「水増し感あるなぁ。でもシノギのニオイがするぜぇ」
「いえいえ!一見するとそうですが実はそうではないんですよ!」
「全てのバージョンで性別に合わせて描写も行動も違っていますの」
「何だかよく分からないけど何やらすごいパワーを感じるヨ!」
「では4冊いただきましょうか」
「あーあっちーあっちー。こんだけ人がいると空調もききやしねー」
「だらしないのだわ瑪瑙。シャキっとするのだわ」
「水バケツに足突っ込んでる鳩に言われたくねー」
「もう二人ともシャキっとしてよ!僕ばかり働いてるじゃないか。 あっいらっしゃいませー」
人間と大きな鳩と
エルフという面白い組み合わせのブースに到着する。
「どれどれ? 【俺の大活劇譚】 【俺の革工房】 、へー異世界冒険記録と革製品作りの体験記ね」
「聞くのは無粋でしょうけども、この冒険記録はどこまで事実なのでしょうか?」
「全部さ!」
「七割くらいです」
「瑪瑙は誇張し過ぎで物書きには向いてないのだわ」
「そろそろ時間かなー」
「最後にあのブースを見てみましょう」
人の波も少し引いた終了時間少し前。ぐったりとしている三人組、人間、竜人、鬼人が目に留まる。
「いらっしゃいませ。ヒロト、お客だ」
「あぁ…うぅ…らっしゃぁ~い」
「だめよー朝からずっと働き通しでヒロト君バテてるし無理させちゃ。 それにしてもトガリさんは暑いのは平気なのね」
「そう言うが、そんな暑苦しい服で平気なカスミには頭が下がる」
流れるような異種族コントのようなやり取りの前にあと少し積まれている本。
「知り合いが作った本なんですけど、異世界の旅行記とかポートアイランドの日常を描いたものです」
「良かったらどうぞ見て下さい」
「【イレヴンズゲート】をよろしく!」
イレヴンズゲート世界のコミティアを想像しました
- 地球住まいの異種族サークルとかどんどん増えそう。故郷本とかよさげ -- (名無しさん) 2017-08-20 22:34:51
- コミティアで薄異本買いたいなぁ種族混合のイベントいいなぁ -- (名無しさん) 2017-08-21 23:00:48
最終更新:2017年08月20日 17:25