【世界の交流と産物と】

ゲート開通から特に地球側数か国が進めている異世界側との大々的な交易。
しかしそれは大ゲートの大きさやゲート通過に関わる“神々の意思”により実現には至っていない。
それならばと小規模な物資の移動が政府、民間問わず盛んに行われてきた。
異世界の物品が流入する中で注目された要素は、やはり“地球には存在しないもの”である。物質を形成する元素の多くが未知のものというのも重なって研究や製造層が求めてやまない。

異世界にて地球との交易交流を目指し種族も国境も越えて結成された、ラ・ムールに本拠を置く大商会“オバンコーバン”はイラクゲートより交渉を開始。
最初はいくつかの民間団体と繋がりを持ち文化研究などをする程度であったが、それらの噂を察知したイラン・イラク両国の諜報機関が接触。
その結果、多少のすったもんだはありつつも先の未来での利益獲得という共通の目標の下で世界間で多種多様な情報から物品が行き交うこととなった。
地球側で特に話題となっているのが異世界の鉱石とそこから精錬される金属類。
異世界からもクルスベルグより名うての鍛冶工を招聘し、研究工場にて両世界の素材を組み合わせて新種の金属の精製や特殊な加工が実践されている。
大量生産は最初から切り捨ててのワンオフ一点ものや需要点数は少ないが必要度の高い物を対象に製造を目指した結果。
鎧スラヴィアンが人体を補助するという例を受けて試作された義肢。
内部で導通する力の流れを反射し増幅する性質を持つ鏡鋼にカーボン系を混合させて加工した金属繊維は人工筋肉を微弱な肉体電流のみで可動させることを可能とした。
更に義肢の動きを速く強くするために外殻を複層とし、それそのものが電力を伝え増幅する構造として出来上がった。
高効率発電設備研究の副産物であったが、それは素晴らしい性能。

激しい運動よりも精密で自然な動作を重点に試験運用するために選ばれた被験者の中の一人、白鷺 輪(しらさぎ りん)は元レースドライバーである。
日本人だが母方がイギリス人であるハーフ。子供の頃からTVゲーム、特にレーシングものが好きでそこから高じて車の運転にものめり込み、アマチュアから実績を積み重ねプロ契約を果たし海外を主に活躍することになる。
日本に娘を残し世界各地を転戦する中、まだ異種族に対して関心の薄かったところにデザートラリーにてナビシートを鳩人に預け見事優勝という快挙を成し遂げた。
車の運転も相方の活かし方もその持ち味を最大限に発揮することを信条にする彼女は他が躊躇う異種族人材登用も積極的に行い着実に実績をあげていく。
しかし彼女のレース人生は大舞台にて終結する。
島の都市全体をコースとして走るレースにて三位でゴールしたものの、その後のクールダウンランの途中でコースアウトし激突事故を起こす。
原因はレース前日に発売されたレーシングゲームの徹夜プレイが原因の寝不足、居眠り運転であった。
命はとりとめたものの、左足を切断することになりレーサーは引退。その後は講師などに就いていたが運転に対する欲求は消えることはなく、義足を付けて後タクシードライバーとなった。
そこを異種混合警備会社を運営するブレメンに声をかけられ、社の運用する乗用車領の運転手となった。
異種族に対する理解と前向きな性格、事故前の芸術的な足捌きの再現という点から特殊義肢の被験者として白羽の矢が立ったのである。
激痛を伴う神経伝達接続器の装着手術も無事成功し、運転試験と生活運用のデータを詳細かつ数多く提供し義肢開発に大きく貢献する。

その後、報酬として仕上がった義足を受領し今日も荒ぶる運転で街を駆け巡っている。
「今度完成する義肢は指の一本一本まで正確に動かせるようになるんだってね。いやはや世界交流の技術進歩は凄いねぇ」
「姐さんもそんな義足に付け替えたいんですかい?」
「うんにゃ。つま先が動くだけで十分さ。それに今の足がすっかり馴染んでるから、これ以上の高望みはしないさ」
「流石姐さん、名手足を選ばずですな」
アルプス山脈にて遭難者を迎えに行くために片輪走行で峰を走るオフロード車。
鼻歌混じりで運転する四十前の健夫の後ろ、三列座席にて変な格好で硬直している赤髪赤肌の鬼人とつるつる頭のオーガは一心不乱にバランスを取ろうとしている。
「おっ、現場が見えてきたよ。あそこで積み上がってる岩石を除去して遭難者を救助するよ!」
「「アイアイサー!」」


世界交流からどんなものが出来るのか想像して一本

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最終更新:2019年11月03日 00:48