【パンフィーナ、発つ】

「行きたい行きたい行きたーい!」
「えーい!いい加減聞き分けんかバンビーナ!無理なものは無理なのだ!」
ここは異世界の一国スラヴィアの片田舎、小高い丘に建つ屋敷の地下室。漆黒闇鉄の手術台に固定されながらも頭をぶんぶん振り回しながら叫ぶのは改造ノームスラヴィアンの少女“バンビーナ”。
そんな聞かん坊の臓腑を開き様々な器具で調整するノームのキチガ〇博士“ヴィクター”。何度言っても納得しない愛娘に、眉間の皺もどんどん増えていく。
新たな、今までにない技術獲得のための“地球侵出計画”の一手として大ゲート祭のゲート通行自由化を利用しての地球各国へ赴こうというのである。
クルスベルグ出であり異世界の技術体系とそれに基づいた革新的な発想を持つ博士であるが、やはり未知の世界である地球の技術は何としてでも知りたい入手したい垂涎の的なのである。
だがしかし、平時のスラヴィアのゲートの向こうは南極基地なので得られるものも限られている。故に大ゲート祭はまたとない機会なのである。
「地球にはラーの光も届かないから一日ずっと外に出れるって、この前ショーを開いてたマスクのプロレスラーさんに聞きました!」
「うーむ、最近は各地からの旅行者も増えて色んな情報が入ってくるからのー。好奇心旺盛なのは結構なのだが…無理なものは無理なんじゃ」
博士は何も我が身と領地の安寧のために戦力となるバンビーナを置いておきたいという訳ではなく、むしろ出来ることなら娘を広い世界に送り出してやりたいのだ。
しかし、博士の得たデータがそれを許可できないのである。

 “異世界の物を地球に移動した際の変質”

詳しく言うと物質そのものの構成や元素についてはそこまでの変化はないのだが、精霊力や神力などが関与するものに関しては訳が違ってくる。
基本、精霊は地球で存在出来ないために消失するだけなのだが長年異世界にて超常の力にさらされ蓄え変異した鉱石類やそれを元にして製造されたものは、地球に渡ることで起こる変質が予測出来ないのが現状である。
博士が工房で使っている精錬ミスリル鋼の一欠けらを増幅機構に組み込んだ精霊ラジオを南極基地に持って行った際には、数サンチにも満たないミスリルの重量が数百倍にもなってしまい床に沈んで大慌てをしたことがある。
更に、異世界で行使可能な発電や冷熱等の自然現象が地球では同じ様に発現するとは限らないのである。
精霊などの存在する異世界とは違い、地球の法則は何かと制限が多く、まだまだ博士にも理解できていないことの方が多い。
「だからの、多様な機関を備えたバンビーナをおいそれと地球に行かせる訳にはいかんのだ。かと言って作用しそうなものを全部取っ払うと動けなくなってしまうからの」
「うーん…仕方がないです。羨ましいなぁパンフィーナ」
「帰ってきたら地球での活動報告を詳細にお伝えします、姉様」
バンビーナの隣の手術台で最終調整を受けている猫人の様な改造獣人スラヴィアン“パンフィーナ”が首を90°曲げて言う。
身体の大きさではパンフィーナの方が大きく雰囲気も大人びているのだが、博士の改造製造履歴順ではバンビーナの方が先なので所謂“年上”扱いになっているのだ。
「パンフィーナは特殊系統を基に備えていないからの、膂力特化型でミスリルなどは使っておらんからの。しかし!案ずるでないぞパンフィーナ!装着型腕部の中には精霊力発現可能なモノもあるからの!」
「ところで博士、私の地球での行動指針は決定しましたでしょうか?」
そう言われて、はっとする博士。大ゲート祭はもう直でありそろそろ出立しなければ祭りの期間をフル活用できない。
しかし博士は迷っている。南極基地で貰った雪上車や作業機械のパンフレットを連日読み返しても心を決めかねている。
「まず掘削機械のいくつかは欲しいのぅ!やはりこのメイドインジャパンものが見た目からでもオーラが出ておる!大ゲートの行き先は“日本”で決まりじゃ!」
「了承しました。では入手優先度の高いものから印を付けておいて下さい」

そうしてパンフィーナの行き先は日本に決まり、程なくして博士とバンビーナに見送られ月の夜に出立することになる。
「明るくなってきたら地下の岩窟道を使うんだぞー」
「お土産待ってるよー」
かくして血流によって力を生み出す鉄血機動を備えし改造スラヴィアンパンフィーナは大ゲートのあるスラヴィアの都へと歩を踏み出すのであった。


先のシェアでの補足小話です

  • おお…続きを期待 -- (名無しさん) 2019-12-28 22:01:15
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最終更新:2019年12月08日 08:26