精霊だの土地の力だので局所的に気候や環境が変動する異世界も、今の時期は大体寒くなる。
新天地の東も東、未踏破地帯に近づいていく辺境の荒野は最後に立ち寄った町から遠くだだっ広いので風通しも良いだけに寒い。
そんな見映えも何もない風景と寒空の下で、何でこうも大勢が大勢で闘り合っているんかね。
「社長、まだここに停留するんですか?とばっちりが来る前に移動しないのですか?」
「客がやって来る以上は移動するのもな。店の評判ってのはそういうとこでも変わっていくんだぞ? なぁに心配しなくても重石甲張りにした外装なら余程のモンが当たらない限りは大丈夫だって」
とは言え、実際に矢だの自然現象だのと飛んでくると移動せねばというのは当然だろう。客商売ってのはここいらの線引きが何とも難しい処である。
給仕は周囲の変化に敏感である
エルフ種であるため尚更だろう。
「客とは言っても豆茶や草茶しか注文しない客ばかりですぜ。水揚げも大したこたないですよ」
「どう見ても休憩所代わりやなぁ」
調理場で湯を沸かしながら材料を煎じている厳めし顔の人間は少しうんざりしている。
同じくうんざりしている青毛の狗人は、レジで嵩張っていく小銭の整理に追われている。
「あああ!っとわっ!」
どこをどう見ても敗走中の
ケンタウロス騎士三名ご来店。
『タクス!タクス!タックス!』
戸を押し開き敷居を跨ぐや否や黒光る甲殻腕がケンタウロスが持つ剣や槍を掠め取る。
咄嗟の出来事に驚く三人は、瞬く間に腕が引っ込み蓋が閉じた鉄箱を凝視する。
縦横高さ、1x2x1.5メトル。くすんだ錆びが古さを醸し出す青鈍色の鉄箱。
「げぇっ!?俺のエモノが?!」「何だ何だ!?」「槍を獲られたぞ!一体どういうこった!?」
「あぁお客はん、うちは武器持ち込み禁止なんですわ。防具は大丈夫ですんで」
「おいおいおいぃぃ!」
『この箱の中は我が
領地!契約により汝らの武器は我に託してもらう!』
「ちょっ、こんな箱の中に?入ったってのか?!」
『外より中は見えぬ。見えぬは解らぬ。入っているのか入っていないのか…ならば入っていると思え!』
「いやなんかもう何が何だか分からんぞ!」
「心配しなくても店を出る時には返しますので。後、何か注文して下さいねお客さん」
(おい、どうするよ?)(すぐ外に出るのもな…)(逃亡ってワケじゃねぇし団長も許してくれるだろうし、体力回復していこうぜ?)
「はいな。お客様三名ご案内~」
『がう』
「熊だーっ!?」「給仕服を着た熊だーっ?!」
強面ケンタウロス三人でも驚く巨体の灰色熊が二足立ち、摺り足で近寄り大テーブルをお盆で指す。
「クマ子さんは立派なウエイトレスですよ。安心して下さい」
『がう』
(いやもうどうでもよくなってきた…)(とりあえず茶の一杯でも飲もうや)
「お?屋台に毛が生えた程度の店車かと思ってたけどよ、意外と品揃えが多いな」
外で争っていた空気も忘れて茶を楽しんだ勢いで酒も頼む三人組。
そうしていると次は赤と赤のローブ姿の二人組が駆け込み入店してくる。そして即、戦杖を奪われるまで定型。
何とも言えぬ空気の店内ではあるが、腹に何か入っていく間は戦意が溶けるのか、大立ち回りの真っ最中である傭兵団も宗教団体も盗賊団崩れも戦闘を始める気配はなかった。
何せ武器が無い。
「面白いところに面白そうな店があるんだな。ハイエス二頭が牽く三輌連結の店獣車、派手だな!」
『ウニャァ…』
少年の面影はありつつも精悍さを纏う猫人がマントを畳みながら入店する。
その肩にはぐったりしている青白い毛玉が乗っている。
『タクス!』
甲殻腕が毛玉を掴み取ろうと伸びる。ソレが威力であると認識したために。
『ウニャ…』
しかしソレは力なく項垂れたまま。
「お客はん、何だか肩のそれ、元気がありおまへんけど何処か悪くしてるんやろか?」
「あぁ、昨日荒野一つ向こうの砂漠でバカでかい緋蟲とやり合ってな。火精霊をこれでもかってくらい撒き散らすわ噴き付けるわで氷霊獣のこいつがすっかり弱っちまった。なもんでちょいと回復させたくてここに入ったって寸法さ」
『タッ…クッ…』
『ニャス…』
『許可す!』
腕は何も取らず箱へと引っ込んだ。
「ところであんたら何処へ向かってるんだ?商売しようにもここいらにゃまともな町なんてないだろ?」
クール茶と肉樹の干し革を堪能しながら猫人が店内で社長と呼ばれる、首に龍頭を模した兜を提げる人間の男に尋ねた。
「辺境、いや未踏破領域と言う方が分かり易いか。相棒の夢、約束なもんでね」
傍から聞けば意味が分からぬ言であるが、何かを感じ取った猫人は一度頷くとそれ以上は尋ねることはなかった。
『ウニャス!』
氷結果実片を食み元気になった毛玉は鉄箱の上でふよふよと横跳びしている。
「そういや地球じゃ今日はクリスマスじゃなかったか?向こうで聞いた話じゃ戦も止まる日って聞いたが、この店の中は正にクリスマスだな」
「異世界に来てクリスマスなんて聞いたのは初だな。しっかし何で今日が12月の25日って分かるんだ?」
社長が酒棚に吊るされている煤けた日めくりカレンダーを指した。
「そいつはこれ、信頼と実績の…じぃしょっく?って時計のおかげさ」
猫人が大
ゲート祭で地球へ旅した際の土産だという無骨な腕時計の液晶にはしっかりと12月25日と表示されている。
「こいつはすげぇぜ。悪戯好きの光精霊も気圧して近寄らせないんだぜ、オーラがあるぜ」
「Gショックなら納得だ」
地球に置いてきた思い出にクリスマスの今は少し浸っても良いかと虚空を見上げた。
今年のクリスマスは…何ごともありませんでしたぁっ
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最終更新:2019年12月28日 01:36