── ポートアイランド中央総合病院
異世界交流特区にて多種族多様な住民の健康を一手に担い、治療と研究を行う大型施設である。ポートアイランド各地点より幾つものバスが発着しており、アクセスも十二分である。
異世界の
ミズハミシマにある大
ゲートからのアクセスも年々利便性が高くなっており、異世界からの訪問者も見受けられる。
「検査、お疲れ様です」
「レントゲンというものは、何度受けてもむず痒いものであるな」
レントゲン室から検査着を結い直しつつ出てきた長身は見るも見事な肉片の一つも無い髑髏の姿。 一見すると人間のものにも見えなくもないが、何処か異質な造形と雰囲気を醸し出す白磁の体。
異世界国
スラヴィアにある大ゲートと繋がっている地球は南極であるため、都市部などと交流を求めるスラヴィアンは交通の便の取捨選択により
ミズハミシマを経由し日本へと向かう者が多いという。
「して、研究は何か進捗がありましたかな?」
廊下で歩み寄ってくる医者然とした数人が冊子を恭しく差し出す。
「結論としては…やはり“神の力”は人智の範疇外ということですね。尽きることのないエネルギー波長を発生させる力場、となりました」
「昨今、世界の違いで実現不可能と判断された分野に関しては助成も打ち切られる方向になりまして…いやはや」
「成程のぅ。概念という概念、ものというものに共通項を見出し個として確立する人間の智は興味をそそられ実益も伴っていたのだが、残念であるな」
「スラヴィアンの治療と健康を目指した研究として上申していたのですが、通りませんでした。 スラヴィアン方々が病院いらずという事実があるので見込みは薄でしたが」
スラヴィアンの体組織研究に協力するに合わせ、地球の医学を学びに機会を見て訪れていた髑髏王。
「スラヴィアンの身体を形成する有機物無機物問わず、それらを活動させる信号を発生しているものが魂であり頭脳であり心臓である神力。 髑髏王様の場合は体から離れた部位、例えば削った骨粉からは信号が発せられていませんでした」
「精霊の力は消え失せる地球で力は落ちるも平然といられる、世界を越えて神の力の強さを実感するとはの」
「ところで髑髏王様、こちらとしては得るもの様々でありましたがそちらはどうでしたか? 新たなスラヴィアンを造り出す程の術をお持ちであるとなれば…」
「否否、一体一体を個として捉えていたのを全としての共通項を見出すことで画一的に組み上げる意識を持てる様になったのは大きい。 後、神力を漠然としたものではなく概念として強くはっきり理解することでより効率を上げることが可能にもなった」
「そうであれば一同安堵します。 これからも良き創造を」
地球用にと二足歩行に最適化改造された骨格にブーツを履きロングコートを羽織った髑髏王は総合病院を後にした。
「例えば身に宿した神力が微々たるものであっても、他者の神力、波長の作用を受ければ増幅されるのではなかろうか? 成長する体組織、それに対し常に波長を与え続ける共振者…」
思いを巡らせながら提げたジュラルミンケースに視線を落とす。
「エンブリオン以来、興味をそそらせる嵐より堕ちたる赤い肉。 使用法も研究により見えたところで…さてさてどう活用させようか」
髑髏王の新たな創造の一手が直に始まろうとしていた。
最終更新:2020年11月22日 22:05