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【神官、神狩る剣を求めて】

 今私は、神官としての職務を蔑ろにしてまでも故郷オルニトを後にし、ラ・ムール王都マカダキ・ラ・ムールへと訪れている。
 なぜかと言えば、我が国オルニトの主神ハピカトルと「対話」する手段を得るためだ。

 嵐を掌る神ハピカトル。
 凄まじき暴虐と理不尽を国内外に振りまく一方で、風の恵みを我らに与え賜うてくれる存在でもある。
 だが、その存在と力はあまりに一方的であり、我らオルニトの民はその一方的なまでの神の力に翻弄されながら生きてきたといっても過言ではない。

 ハピカトルとのコンタクトのために、古今の神官たちはありとあらゆる方法を試した。
 為すがままに、あるがままに任せてみたが、それでは何も変わりはしない。
 生贄を捧げ、奉納を以って理解を求める手法も執った、というより執り続けている。 小型の家畜から大型の家畜、時には同胞すらも供物として捧げたが、それで何が変わったわけでもない。 あえて言うなれば、それが信仰の一環として根付いてしまったため今更廃止できない現状が残ると共に、時に心の臓だけ抜かれ尚も行き続ける使徒となってしまうものが出る、というくらいの変化はあったであろう。
 「雛鳥」達の言を編纂し、内容を通じて理解を得られると考えたものが居た。 だが彼らは一人残らずヒトとしての意識を失い、言を記した著を読んだ者も同じ道を辿ることとなった。
 他の神に助力を願う方法も試したが、他の九柱いずれも取り合うことは叶わなかった。 死神には「面倒だからパス。 どうしてもって言うんなら、アンタひとりでウチの腕扱き全員と饗宴して勝ったら、考えてあげないでもないよ?」との有り難いご返答と頂き、獣神には「そうねぇ・・・アンタの国の人全員が一生食っていくのに困らないだけの食事を私に与えてくれるなら、考えたげでもいーわよ?」との御要望を預かり、戦神との対談に臨んだ者は対面即惨死、鍛冶神とは「わんへす」なる神聖なる行事のために取り合うこと叶わず、世界樹や星神、巨石神とは対話すら望めず、龍神は「ウチの嫁のために何でも用立ててくれるなゴファ!?」との御言葉の後昏倒されたため対話を続行できず、太陽神は「そうか試練か! 試練だな! 試練なら話を聞こう! さぁ試練だ!」と仰られるため帰ってきた次第だ。
 この他にも、世界各地の口伝、伝承などを基に様々な方法を試してきたが、その何れを以ってしても、嵐神との対話は叶わなかった。


 だがしかし、私は二の轍は踏まない。 数ある口伝、伝承の中、誰もがアタリを付けつつも実践に移さなかった方法がある。 それを為すための手法を得るため、私はここ、ラ・ムールに来ているのだ。
 実際には、この方法に辿り着いたものはいるのだが、実証に必要となるモノを手に入れるための労を、己一人で為そうとしたために、砂漠の砂と散っていったのだ。
 そこで私は、実証に必要となるモノの存在証明がラ・ムールの歴史を紐解くカギとなることを踏まえたうえで、ここを訪れたのだ。

 狗人の武人について来るように言付けられた私は、謁見の間へ導かれている。 間も無くだ、私の論を実証するための戦いを始めよう。

「おい、御客人を連れて来たぞ」
「ご苦労さん。 さてっと・・・遠路遥々オルニトよりの御来訪、御苦労」
「こちらこそ、ご連絡を差し上げることもなく突然の来訪の上、御目通り頂く栄に預かり、恐縮に御座います、カー・ラ・ムール」
「それで、聞いた話では、我が国の歴史に関わる発見についての助言と助力、ということだが・・・さて、俺と彼以外の皆は退室して欲しい」
 ラ・ムール王の命で、ここまで私を連れて来た武人も、幾人か居た従者も、皆謁見の間から退室した。 最後の一人である妖精が退室した頃合を見計り、私はラ・ムール王へ策を伝える。
「王よ、この国の伝承に伝わる『神殺王』の剣、ご存知で御座いましょうか」
 そう、私が目をつけたのは、ラ・ムール忌伝の一つ、【神殺王の憤怒】。 伝承の時代に在したとされる王カテナセーガが作り給い、太陽神ラーを討ったとされる剣だ。
 力には力、神の力には神を討つ力。 これが私の策だ。 禁忌だ何だと言われようと関係ない。 ハピカトルを制することさえ出来れば、我が国は安寧の時を迎えることが出来るのだから。

 私は熱く、篤く、語った。 神殺王伝承の信憑性から、歴史的発見として世に残るであろうこと、発見のために助力願いたいこと、最終的な目的からすれば上辺だけの話だが、それでも十分なだけの効果はあるだろう。 説に説得力を持たせるだけの調査は既に済ませてある。 あとは王が愚者でないことを願うばかりだ。
「・・・私からは、以上で御座います」
 言い切った。 言い切ってやった。 さぁどう出るラ・ムール王!
「成る程、ね。 ま、そんな些事はどうでもいいや」
 ・・・何だと? 今コイツ、「些事はどうでもいい」とのたまいやがったか!?
「まぁまぁ、そういきり立つなって。 ところでさ、アンタは神官だそうだが、ハピカトルと『対話』して『理解』しようとしたことはあるか?」
「何を仰いますかラ・ムール王。 我々はオルニトの神官、常日頃から対話を」
「してないだろ? 現にアンタは『対話』と『理解』を経てないからこそ、こうしてここに来ている」
 何を根拠にそんなことを言い出すのだ、この愚王は!
「どうせ『このバカ何言ってんだ』とか考えてるんだろ? ま、仕方ねぇ話だけどな、アレを『理解』しろってのは」
「・・・まるで、王はハピカトルと『対話』されたことがあるような口ぶりですなぁ?」
 流石に日頃温厚で通っている私も、苛立ちを抑えられなくなってきた。 玉座で偉そうにしているだけのこの男が、いつ何時にハピカトルと対話したなどと言うのだ?
「自分でしたことない事を相手にするよう進言、強要することほど馬鹿馬鹿しいこともないだろうに。 神官ってくらいなんだから、そのくらい分かるだろ? それにさ、ウチのコレ、どういう神だか知らないわけじゃあるまい?」
 ラ・ムール王は燦然と輝く左の眸を指差し言い放つ。 太陽神ラー、試練の神が、何だと?
「今でこそこんな退屈な王城暮らしなんぞやってるが、ガキのころは、それはもう日々試練ってやつでな。 ハピカトルともそんな時に会った訳だよ」
「・・・それが真実だとして、それでは何故王は」
「イカレポンチになってないか、って聞きたいんだろ? 分かる分かる、俺だってあの時のことはあまりに情報量が多すぎて、上手く言葉に出来ない」
「それでは、本当のことかどうか分からないですな?」
「ま、信じるも信じないも自由だが、少なくともイブライト殿は頭ごなしには否定しなかったな」
 神官長の一人の名を挙げるが、どうせ出鱈目だろう。 聞き流すことにする。
「それにさアンタ、あーだこーだと長ったらしく話をしてたけどさ、要はコイツ持って、ハピカトル脅せばいいとか、そんなくっだらねぇこと考えたんだろ?」
 こちらに歩み寄るラ・ムール王が右手をかざし振り下ろすと、破砕音と共に、床面に『何か』が突き立てられる。
「神殺王カテナセーガが後世のために遺せし遺産、神狩る神器『神殺《インヘストレア》』。 ラーを叩き切ること45代分、最近だと群神《レギオン》の一部もぶった斬ってやったな、ちょうどこの辺りで。 その威力、対神性、<向こう側>風に言えば『折紙付』だぜ?」
 そんなまさか! こんな間近に私が捜し求めていたモノが! 普通であれば禍々しいと形容されるであろうその御姿も、今の私には天啓の恵みにも等しい!
「あ、もう多分必要ないだろうから持ってっていいぞ。 ただし、持ってけたら、な」
 私が神官だからと馬鹿にしているのか! いくら私でもこのくらいの剣くらいなら持って行くなど!




 目が覚めたのは、神官庁にある医務室の寝所の上だった。
「目が覚めたかね。 ラ・ムールに行くなどと書置きを遺していくものだから、念の為に彼に一報差し上げておいて良かった」
「イブライト神官長・・・私はなぜ、ここに?」
「ラ・ムール王城謁見の間で倒れた後、王自ら御主をここまで運んでくれたのだよ。 必要以上に煽る物言いをして悪かった、と仰られていたよ」
「私は、一体どうなったのでしょう・・・?」
「ラ・ムール王が携える『神殺』、アレは手にしたものに狂気をもたらす神器。 制するには長く、険しく、激しい、壮絶な試練を経て心身を鍛え上げねばならない。 その上、あれは王の遺産。 王でなければ振るえぬのだよ。 故に、誰もアレを以ってハピカトルを征するなどとは考えぬ」
「なんと・・・既に、私の考えも、試されていたのか」
「ラ・ムール王がオルニトを始めて訪れた際、どこまで本当かは存ぜぬが、ウルサとの直接戦闘で天高く打ち上げられたところをハピカトルの狂嵐に拾われ、その身一つで嵐を乗り切って、この地に降り立たれたのだそうだ」
「・・・さすがにそれは、絵空事でしょう。 まだ頭がおぼつかない私でも、そのくらいは判断できます」
「風は過去から未来へ、未来から過去へ、今から過去へ、今から未来へ、その流れは千変万化。 風は時であり、そして時は風。 風はあるときは留まり、だがしかして何者にも遮られる事なく縦横無尽に駆け巡る。 時間も空間も超越したハピカトルの思考は、『今』以外の時間も空間も持ちえぬ我らヒトには理解などし得ない。 ラ・ムール王はそう仰られていたよ」
「そんなことが・・・」
「故に我らは、ハピカトルとの『対話』を忘れてはならない。 対話を経てこその『理解』があるのだからな。 武を以って征するなど、愚の骨頂なのだよ。 ・・・さぁ、今は休みなさい。 良くなったら、置いていった仕事をしてもらわねばならないのですから」
「・・・はい」

 次に目が覚めた私が最初にしたことは、『神殺』を以ってハピカトルを征することなど不可能、という確かな記述を遺すことであった。



  • >凄まじき暴虐と理不尽を国内外に振りまく一方で、風の恵みを我らに与え賜うてくれる存在でもある。 もうこの時点からオルニトの盲信か思い込みが始まっているような気がします。極端に振り切った狂信から神のために神を利用するようになってもやはりいつまでも思い知らされるのは身の丈と身の程でしょうか -- (名無しさん) 2013-08-11 18:27:15
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最終更新:2013年03月25日 13:23