むかしむかし、鳥人の国がまだ無かった頃…私たちの住む世界に天を覆い隠すほど大きな意思を持つ目の付いた嵐が現れたの…
嵐は恐ろしい勢いで周りの生き物や建物ばかりか草木や石、大地や山、河川海湖…この世にあるありとあらゆるもの根こそぎ全てを破壊していったわ。
そしてその当時のヒトは今ほど数も神の加護もなくて、この暴虐に為す術も無く嵐に蹂躙され、何百年何千年…死と破壊を受け入れるしか無かったの。
ある時、一人の平凡な鍛冶師の妻と三人の子がこの嵐に巻き込まれて無残に死んだわ…
家族を何よりも愛していた鍛冶師は嘆き悲しみ、怒りに燃えて嵐を倒すための武器を作り始めたの。
大地を砕く槌、大空を断つ剣、精霊王すら無理やり従わせる杖…平凡だった鍛冶師は愛する家族を失い、体も魂も削って恐ろしい武器を作り始めたわ。
でも、勝てなかった。
どんな恐ろしい武器を作って勇者を募っても嵐に傷を負わせることは出来なかったのよ…
そして、鍛冶師は武器を作ることを止め、兵器を造りだしたの。
空間すら打ち壊す破城槌、空を飛ぶ磐の戦船、全てを焼き尽くす火精霊を集めた砲…たくさんの狂った兵器が造り出されたわ。
でもやはり、あの嵐には勝てなかった…
最後の嵐を遠い世界へ吹き飛ばす兵器が潰された後、落胆した鍛冶師はたたらで萎えた片足を引きずり、火の粉で潰れた片目から血の涙を流してどこかへ消えてしまったわ。
そして数百年後…
空に見たことも無い大地を覆い尽くすほど大きな黄金の鳥が現れ、神々すら追いつけない速度で嵐のように世界を滅ぼし始めたの。
その鳥は、あの鍛冶師が異界で創ったものだと言われているわ…
何故、鍛冶師がそんな物を創ったのかって?
きっと……何よりも大切だった家族を失って怒りと悲しみで狂ってしまったんでしょうね。
世界を破壊しながら黄金の鳥は進み、そして今
オルニトと呼ばれる国がある地域であの意思を持つ嵐と出会ったの。
それはそれは恐ろしい戦いになったわ…
地が裂け、海が干上がり、終いには天が堕ちてきたそうよ。
七日間戦い続けた後、嵐は片目を潰され一回り以上小さくなり、黄金の鳥はバラバラにされて今、
新天地と呼ばれている国の辺りに墜ちていったそうよ。
新天地で希少な金属や宝石が採れるのはきっとそのせいね…
その戦いの後、嵐と鳥の戦いで家族を失った嘴に歯を持った鳥人の子供が傷ついた嵐に何事かを伝え、嵐はその子を飲み込みオルニトの地を大地から浮かせて鳥人達の楽園としたらしいわ
そして嵐に飲み込まれた子共はその後、嵐から力を与えられて謎の多いオルニトの初代トラトアニになったということよ。
オルニトという国ができてからも嵐はその地にとどまり続け、死と破壊を振りまき続けたわ。
…でも、今までと違った事を嵐はし始めたの…
それは、死と破壊の後に大きな『恵み』をもたらすようになったこと。
この大きな有形無形の『恵み』のお陰で、荒れた土地だったオルニトは鳥人達の巨大な帝国となり、多種族が仲良く暮らしていた大スラフや
隆盛を極めた
クルスベルグ帝国が滅びた今も変わらず、嵐の神の加護を得て飛べる鳥人達の楽園として存在しているわ……あら?
お話を聞いていた息子が寝息を立てている事にドードー族の母親は気づいた。
ダチョウ族の娘さんからもらった毛布を息子にそっとかけ、母親も馬車の揺れに身を任せそっと目を閉じる。
息子を生贄にしようとしたオルニトの神官から着の身着のままで逃げ、どうにか新天地行きの馬車にまでもぐりこめた。
オルニトの神官たちは、なぜかは知らないが飛べない鳥達の中でも特に古い種族をよく生贄にしたがる。
王や神官に抵抗して助けてくれたティタニス達は既に滅び、息子を連れ去ろうとした神官を殴った夫は殺された。
私達は私達で身を守らなければいけないのだ。
最後のフロンティアはオルニトと違い、虐げられた飛べない鳥人達の楽園になってくれるだろうか?それとも…私達も鍛冶師のように全てを失って『狂う』のだろうか?
ドードーの母親は少しの不安を抱えながら眠りについた。
家族を失った私達と哀れな鍛冶師がいつか救われますようにと願いながら…
- 神に相対するということはどんな感情が切っ掛けでも人を狂わせてしまうのかなと思いました。過去に鍛冶師が渡った世界も気になりました。目を潰されたからなのかは分かりませんが嵐の変化と今に至るオルニトを考えるとその力には全くの衰えなしと思わせるのが底知れません -- (名無しさん) 2013-09-23 18:11:01
最終更新:2013年03月28日 18:56