【カナンへの道程】

[ゴア描写がありますので苦手な人はご注意を!]

「もう止めろよバカ親父!無理に決まってんだろ!」
俺は親父が手にしようとした掘削機を蹴り飛ばす。
ガチャンッ!と大きな音を立てて掘削機は転がったが俺にはその音は聞こえなかった。
なぜなら、蹴り飛ばした瞬間に親父が俺の顔をぶん殴ったからだ…

殴られた衝撃で倒れながら俺はなおも掘削機を手に取る親父に噛み付く
「ダーフィーもグフィーも他のみんなもいなくなった!もうここでこんな馬鹿なことをやってるのは俺たちだけなんだよ!!」
親父は黙って我が家で何百年とずっと使い続けている掘削機を操り掘削を開始する。
ドドドッ!と生まれてからずっと聴き続けた忌まわしい大きな音が辺りに響く。
「聞いてるのかよ!クソ親父!!
落盤で母さんやミリーが死んだ時も葬儀もせずに掘り続けやがって!このジンピジンが!!」

親父が掘削の手を止め振り向きもう一度俺を強烈にぶん殴る。
「モーティマー…俺たちはな、帰らなきゃいけないんだ。
これは俺たちが世界を創られた偉大な主と一緒に穴蔵に押し込められた神代からの悲願であり、唯一無二の主との約束だ。
俺たちは帰るんだ…簒奪者共に奪われたあの日の当たる世界に…」
「だからって…だからって!今、地上の支配者になってる11神と大量にいる従属種に勝てるわけ無いだろ!!」
親父はその言葉にも反応せず
「俺たちには代々のご先祖様達がずっと頭を捻って考えだしてくれた計画書がある。アレの通りに進めれば何も問題など無い」
そっけなくそう返した。
「その計画はいつ終わるんだよ!この状況は神代から続いてるんだぞ!!」
「もうすぐだ。もう少し掘れば必ず届く」
「クソ親父!そのセリフは俺が十の時から聞いてるぞコンチクショウ!いつ終わるんだよ!」
「もうすぐだ…もうすぐ…」
親父は俺の訴えに取り合わず掘削機の把手を握り締める。

「それにな…俺はこんな薄暗い穴の中で母さんやミリーの墓を作って欲しくないんだ。
お前知ってるか?地上はとても素晴らしいとこだぞ?
空気は澄んでるし水も美味い!食える獣も多いし植物もそこらに生えてるんだ…まるで、俺たちが死んだら行けるっていう楽園みたいだろ?」
「そんなの……もういい!俺は出ていく!!こんな水も食料も枯れた根にいてもじり貧になるだけだ」
俺は踵を返してこの根から出る用意をするために家に戻ろうとする。
「モーティマー」
「止めたって聞かないからな!」
俺は親父の呼び声を突き放す。しかし…
「母さんやミリーの分まで生きろよ」
「…」
続けて発せられた声まではどうしても突き放せなかった。

あれから10数年たった…
親父はもうあの枯れた根の中でくたばっているだろう。
俺はと言うと、実は地上に来ていた。
親父があんなことを言ったから来たわけではない。
ただ、他の根も殆ど資源が枯れてしまっており、仕方なく地上に出てきただけだ。

地上に出てきて色々驚かされたことがある。
まず、11神がこの世界と異世界とをゲートで繋げていた事だ。
そんな恐ろしい力を使える神々と、俺たちはあんな古ぼけた掘削機で戦おうとしていたのだ。
そして、親父が言った楽園は幻想だったということが分かった。
確かに食い物や水、有用な植物はたくさんあったが、それは殆どの場合所有者が決まっていて勝手に取ることができない様になっていたのだ。
あと、意外にも俺は多民族から迫害を受けなかった。
曾祖父の時代ではまだ、俺たち一族は呪われた一族として他の民族から迫害を受けていたらしいが、今では忘れ去られて
そもそも俺たちが穴蔵へ叩きこまれた事すら無かった事にされているようだ。

その状況は俺には丁度良かった。
言葉が通じないのは不便だったが何とかジェスチャーを交えて色々な仕事を渡り歩いて生きてこれた。(まあ、とは言っても殆どがキツイ仕事だったり、俺たち一族特有の手先の器用さを買われての強盗仕事だったりだけど)

今日も新天地とあまり近寄りたくない古巣の近くである未踏破地帯の間の小さな村を襲った。色々と胸糞悪い事はあったが上がりは上々だ。

「ははは!あの神官の顔見たかよ!
首跳ね飛ばされる時まで厳かな顔してたぜ!いけ好かねえ神像の首跳ね飛ばして代わりに置いてきたけど新しい村の名物になっちゃうな!」
ゲラゲラとトカゲ人の盗賊が言う。
「村人みんな塔へ詰め込んで村ごと焼いちまったんだからもう名物も何も無いだろアホ」
猫人が慰霊塔の宝物庫にあった宝物の玉を眺めつつ突っ込みを入れる。
「それよりシケた村だったわ。若い女が殆どいねぇ…前はラ・ムールの奴隷屋に売れるくらい頂けたのに」
狗人が物足りなさそうに言う。
「ぼ、ぼくはま・・・まんぞくだったんだな!」
色々な種族の体を継ぎ接ぎして肉団子の様になった屍徒が、体を震わせ腐ったような匂いをまき散らしながら満足そうにいう。
「…お前はいつも泣き喚くオスやメスのチビガキばっかどっかに連れてって一体何してんだよ?キチガイが」
村から奪った上等の酒を飲んでいた鳥人が嫌そうに呟く。
「あ、馬鹿!」
狗人がそれを咎める。
しかし、耳ざとく聞いていた屍徒が
「な・・・なぐさめて、ぼっ!ぼくのおともだちになってもらってるんだな!」
そう言いながら腹の大きな継ぎ目を開く。
「…ウゲェッ!」
鳥人が後ろを向いて胃の中の物を吐き戻す。

開いた腹の中には切り取られた性器や内蔵、胸部、顔の皮がびっしりと貼りつけられていた。
「こ、こっちはねこじんのエミリー!こっちはりゅうじんのゆきこ、こっちは!けんたうろすのくろーど、こっちはありじんのあるふぁぜろぜろおーいち…」
おぞましいソレを一つ一つ説明しだす屍徒。
説明の時、指をさす度にビクビクとソレが動く。
「分かった!お前の可愛いお友達自慢は分かったからもうしまえ!大事なんだろ?」
猫人が嫌悪を隠さぬ声音で言い放つ。
その様子に狗人は顔を背け、トカゲ人は指を差してゲラゲラ笑っている。

「うぇ…嫌なもん見ちまった…おい!ネズ公!代わりの酒もってこい!!」
鳥人が焚き火から遠く離れた所で上がりの仕分けをしていた俺を呼ぶ。
「ハ、ハイ!オレワカッタ!」
俺は下手くそな新天地の共通語をなんとか発しながら酒瓶をもってそちらへ走る。

途中でトカゲ人が剣の鞘で俺の足を引っ掛ける。
「アッ!?」
俺は見事に転び、酒はブクブクと太った腹を閉じようとしていた屍徒にぶっかかる。
「ああああああああーーーーーーー!!!じょううんんにかかったぁーーーー!!!」
屍徒が悲痛な大声を上げる。
「ああ、可哀想になー!そこのネズ公がやったんだぜー!」
狗人がはやし立てる。

「ね!!ねずこうぉう!?…ゆるさなぁぁぁい!!」
怒り狂った屍徒が俺に向かって来る。
「オ、オレ!ゴメンナサイ!ワザトチガウ!!」
頭を地にこすりつけてキチガイ屍徒に謝り倒す。
「だぁめ!!ぼくのともだちぃきずつけたぁ!!じょーうんよごれた!!!もうつかえない!!」
そのお前のデケェ腹を何に使ってたんだよ?という猫人の突っ込みに他の奴らが爆笑しているが怒り狂った屍徒は気づかない。
その鉄をも砕く、醜く大きな手を天高く伸ばしてこちらの頭を照準している。

俺は地に埋まらんほどに頭をこすりつけて許しを乞うたが
「しいぃぃぃぃいねぇ!!!!」
そう言って手が勢い良く振り下ろされ…
「!?」

その時、突然大きな揺れが辺りを襲った。
「うぁああああああああ!!まんまーーーー!」
「な、なんだ!?何があったんだ!?」
「お、おい!アレ見ろよ!」
鳥人が指さす方向に大きな土煙が立っていた。あの方向は…
「アレ、世界樹の兄弟樹があるっていう帰還不能大森林の方じゃないか?」
「おいおい…キナクセェな。どっかと戦争でも起きたのか?」

ああ、やったんだな親父…ついに、ついに俺達を追いやった神に勝ったんだな…
俺はそのもうもうと上がる土煙の方角を見ながらそう呟いた。
「何、呟いてやがるんだこの穴根住みは?つうか泣いてる?キモッ」
鳥人に言われて気がついた。
俺はもうもうと上がる土煙を見ながらボロボロと涙をこぼしていた。
止めようとしても止まらない。自分の卑小さと親父の偉業への感動がないまぜになってどうしても涙が止められなかったのだ。
俺は…俺は…一体何をしていたんだ!!

「な、なぁいてもゆるさなぁいぃぃぃ!」
頭を抱えて震えていた屍徒が立ち直ってまた俺に向かって手を上げてくる。
ヒュッ!ヒュッ!
銀色の軌跡が二条走り、屍徒の両腕におもちゃみたいな形の小さなナイフが刺さる。
「ブッ!馬鹿か!?そんなチンケなもん死神の加護を受けてる屍徒に効くわけ無ぇだろ」
狗人が嗤う。
「きかなぁぁぁい!ぼ、ぼく!むてき!!!」
そう叫びながら手を俺に向けて振るう屍徒!
グシャリッ!!
大きな肉が潰れる音がした。

みながあっけに取られた顔をしている。
屍徒が興奮のあまり出たヨダレを垂らしながら首を傾げる。
なぜなら、俺の頭が無事だったからだ。

俺は屍徒に向かってちょいちょいと地面のソレを指さす。
「…?…?……あ、あ、あ…ああああああああーーーーーーーおおおおおおーーー!?!?!?!?」
屍徒は地面に腐り落ちた自分の両腕に気づき、泣いて汚らしいソレとの別れを悲しんでいる。
「…ネズ公、テメェ何しやがった?」
他の四人がそれぞれの得物を手に俺を取り囲む。
こいつらは全員、兵隊や傭兵崩れでそれなりの手練だ。おお怖い!
「Maybe…Because of the FBI's!」
「何いってんだテメェ!!」
キレた狗人が斬りかかる!!…が俺は体を縮めてうまく躱す。
次は猫人が両手の短刀で両方向から斬りかかるがこれもヒョイッとジャンプして躱す。
「ちょこまかと!!」
鳥人が槍を突き込んで来たが体をくの字に曲げてこれも躱す。
「な、何だコイツ…?骨が無いみたいにグニャグニャと避けやがって本当にネズミか?」
トカゲ人は戸惑ったように剣を構えて様子を見ている。

「HAHA!IT'S SHOWTIME !!!!」
俺は吊りズボンの中に手を入れるととっておきを出した。
「……な?」
トカゲ人は固まってしまっている…そりゃそうだろう!
俺の慎ましやかなズボンからライフルや拳銃、大砲、ロケットあらゆる銃火器を束のようにしたのが出てきてそっちに銃口向けてりゃあな!

「Enjoy My dick!!!!HAHA!!」
俺がそう言って引き金を引くと銃口からPOM!という音と共に花や鳩や国旗、水、紙吹雪が飛び出てそれぞれ4人を襲いだす!
「ぎゃぁぁぁぁぁあああ!何でだ何でこいつら斬れねぇんだ!!やめろぉぉぉぉおおおー」
大量の鳩に目玉や局部を啄まれながら狗人が叫ぶ。ハハッ!自分で目玉と局部を抉り出して鳩さんにあげたら止まるよ!
グシャ…グシャ…プチュ…ボトッ
猫人は、はや食人花に食われて残りは可愛らしい猫耳だけだ。コスプレ用にオークションで売れば高値がつくね!
「ブゥフゥブゥゥフゥ…!!」
鳥人は万国旗と紙吹雪にまといつかれ締め上げられてる途中だ。やっぱり鳥はよ~く締めなくっちゃね!
「g@え09mb――!!lwjhじゃへんbかいえい;あ――」
トカゲ人は水がかかってドロドロに溶けている。崩れ落ちそうになる体を必死にかき集めて形を戻そうとしているのが滑稽だ。ハハッ!芸術的な絵面だね!

ひとしきり皆に楽しんで貰うと、俺は後ろに残った観客の方へ振り返った。
「Heeeeey!BABY!?……What's up?」
屍徒は短い足を使って何とかこの場から逃げ出そうとしていた所だった。
「HEY!HEY!…」
「ひぃ!ひぃ!ゆ、ゆゆるしてぇ!ぼぼぼぼおくしにたくなぁい!!!!」
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAAAHHHHHHHAAAAHAHAHA!!!」
大・爆・笑だ!俺が生まれてこのかたこんなに面白いジョークを言ったバカは初めてだ!
「Hey Baby!…You! are! DUST!!So…DUST TO DUST!!HAHA!!……Was the prayer finished?Baby…」
「ひゃぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
何となく意味が解ったのか醜い巨体を震わせる屍徒。
賢い君にはご褒美に俺直々にインドーを渡してあげよう!俺の自慢の前歯がギラリと光る。
ハハッ!!


処分が終わって一息つくと、俺はまだもうもうと土煙を上げる創生樹の方向を見た。

行かなければいけない。

俺たち一族の…いや、親父の悲願だ。親不孝者の俺だが、最後までやり遂げさせてあげたい。
そして、取り戻した明るい大地に二人で母さんたちの墓を作ってやるんだ。
「待ってろよ!親父!すぐに行くからな!!」
俺は走りだした。薄汚い簒奪者共から輝く地上を取り戻すために

  • 悪党の前に生きる目的がありそのために悪党の道を選んだ者が安らかな最後などおこがましいと言わんばかりの一幕でした -- (名無しさん) 2013-10-27 18:28:11
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る
-

タグ:

B
+ タグ編集
  • タグ:
  • B
最終更新:2012年01月14日 21:48