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【外典-ボクが聖騎士になった理由-】

 「天然」と言う言葉がある。
 人の手が加わっていない事。自然のままである事。或いは生まれつきである事や、天性と言う意味の言葉である。
 少女――雪花(シャンファ)を表す言葉として最も適した言葉がこの「天然」と言う言葉だった。

 延国には仙人と呼ばれる人々が居る。
 精霊の力を借りず奇跡を起こす業「術」を使ったり、一種の魔法道具(マジックアイテム)である宝貝(パオペエ)を使ったりする人々の事だ。
 つまりエリスタリアで言うハイエルフや、スラヴィアで言う貴族のようなもので、彼らは持って生まれたその特別な力故に、特別な役割を担ったり、風変わりな生活をする事が多いのだ。
 大抵の仙人は宮廷で帝に仕えるか、険しい山奥や谷底、森と言った人の少ない辺境に集まり暮らす事が多い。
 それはやはり一般人が持ち得ない力や奇抜な風貌が、俗世間で暮らす事を困難にするケースが多い為であろう。
 また、仙人は特定の種族が仙人となるものではない。様々な種族の中から偶発的に現れるもので、ある種の突然変異的な存在・生物と言える。
 その為仙人の子が仙人になるとは限らず、また、何の変哲も無い家から優秀な仙人が生まれる事もある。

 雪花は延でも珍しく仙人同士の間に出来た子であった。
 兎人の仙人の間に生まれた雪花は、外見的に何の変わりも無く、また何の術も使わなかった為普通の子供ととして育てられた。
 仙人は術を使う。だから術が使えない雪花は例え両親が二人とも仙人であっても仙人として生まれなかったのだと思われていた。
 だがそれは間違いだったとすぐに判る事となる。
 雪花は何をやらせても一番だった。それも何の努力もせず、苦労する素振りも見せずに何でも出来た。
 始めこそ麒麟児として扱われたが、やがてそれが仙人の持つ特別な力故のものだと分かった時、世間は冷たかった。
 最初に書いた通り仙人は生まれつきの者である。故に生まれた後一般人の子供と同じ教育は受けさせない。それは先に述べた通り、仙人は一般人とは違うからだ。
 だが、時々判り難い術を持って生まれてしまった仙人が一般人と同じ教育を受けてしまうケースがある。そうした場合、大抵悲劇的な結末しか待っていないのは想像に難くないだろう。
 雪花の時もその通りになってしまったのだった。

 雪花は「天然」である。
 天才は少しの努力や常人と同じだけの努力で常人を超える能力を身に付ける者の事を言うが、天然は違う。
 天然は何の努力も無しに始めから簡単に出来てしまうのだ。人間が走りでチーターに敵わぬ様に、泳ぎで魚に敵わぬ様に、始めから勝負にならないのだ。
 当人にとってはそれは出来て当たり前の事。だが常人にとっては決して越えがたい壁の向こう、或いは永遠に仰ぎ見る天の上の事なのだ。
 勉学は講義を一度聞いただけで応用問題まで完璧に解けた。走りも「ケンタウロスでもなければ敵わない」と言われ、球技も演舞も一度の教習で師を凌ぐレベルに到達した。
 では何でも出来る彼女は幸せだったかと言えば決してそうではない。
 雪花は孤独だった。あらゆる場面で仲間も友達も出来なかった。
 それもその筈、仲間とは同じレベルの者同士の間でなければ成り立たない。雪花の周りには同じレベルの者など一人も居なかったのだ。
 そしてもう一つ。自分が簡単に解る事を誰も理解してくれない、自分が簡単に出来る事が誰にも出来ないと言う孤独だった。これが彼女の心をイラつかせた。

 一般人とは違う。何でも出来て羨ましい。仙人だからってずるい。
 雪花を見る周囲の者の目は次第に厳しくなっていった。そして利発な彼女は周囲のそんな思いを理解してしまえたのだ。
 やがて居た堪れなくなった雪花は学び舎へ行くのを止めた。
 雪花は家や街の蔵書館で一人で勉強するようになった。そんな彼女を見て両親はわが子の将来を心配した。
 自分達がもっと早く雪花が仙人だと気づいていれば――そんな両親の思いを知ってか知らずか、雪花はその後学校での事は一切口に出さず、努めて明るくおどけて過ごすようになった。
 雪花の勉学は本を自分で読むだけで十二分に勉強になった。だが運動は一人ではなかなか続ける事は辛い。
 始めこそランニングや演舞を行っていた雪花だが、やがて一人では詰まらないのか止めてしまった。
 友達も無く家に篭りがちとなった我が子を見かねて、両親は雪花に武術の師を紹介する事にした。
 勿論その師も仙人である事は言うまでもない。雪花はこうしてようやくまた運動をするようになったのだった。

 数年後、雪花は師の技の事如くを体得していた。
 その腕前は師を紹介した父を超え、師とも同等に渡り合えるだけの強さを身に付けていた。
 武術は拳法だけではない。途中から母に紹介された暗器術の師からも教えを受け、数々の武器、暗器を使いこなすようにもなっていた。
 そんな雪花の恐るべき上達速度に、師は「このままでは天狗になり実戦で致命的な事になるのでは?」と考えた。
 だが残念な事に既に雪花の力は兄弟子達をも超え、道場には雪花に勝てる者は居なくなってしまっていたのだ。そう、師を除いては。
 師は雪花の為、自分が雪花に敗北を教えてやろうと思ったのだが、この判断が大きなミスだと知ったのは、全てが終わった後の事であった。

「雪花よ、お前に教える技はもう無い。だがこのままではお前の将来が心配だ」
「心配って、私の何が心配なのですか? 老師」

「雪花よ、お前はまだ実戦を知らない。故にこのまま宮に出しては、実戦で大変な事になるやもしれぬ」
「私は道場で一番の腕なのですよ? その私が実戦では後れを取ると言うのですか?」
「そうだ」

「これからわしが教える事が、我が最後の教えと思い心に刻め。雪花、本気でかかって参れ」
「怪我をしても知りませんよ」

 こうして老師は雪花を負かした。それは雪花にとって初めての敗北だった。
 世の中には自分より強い者がいくらでも居る。老師はこれで雪花が実戦の恐ろしさを知ってくれればと思い戦ったのだが、雪花は師の思惑と違う思いをこの時抱いてしまったのだった。
 その思いとは「もっと強い者と戦いたい」「身に付けた技を力の限り振るいたい」「敵の技を破った時最高に気持ち良い」と言う思い。まだ見ぬ強敵と力の限り戦う夢を、雪花は抱いてしまったのだ。
 その日を境に、天然と呼ばれた雪花はより稽古に身が入るようになっていった。それを師は弟子が実戦の恐さを知ってくれた為と勘違いした。
 こうして一年の時が過ぎた頃、ようやく師は雪花の隠された本性を知る事となったのだ。

「雪花! 血火山の火龍を殺したのはお前か!」
「いいえ、違います。人違いですよ老師」

「では血火山の頂に落ちていたこの鉤爪は何とする! これはお前の武器であろう!?」
「嫌だなぁ、バレちゃったんだ」

「そーだよ、火龍を殺したのはボクさ。隣山の大鷲も、奈落渓谷の大百足も、氷の洞窟の大熊も、全部やったのはボクさ」
「何て事を……!」

「何故そのように暴れまわるのじゃ? 依然わしに負けた事を気にしているのなら止めよ。もうお前の力はわしを超えておる」
「自意識過剰だなぁ、ボクが戦うのはそんな理由からじゃないよ。でも老師のせいってのは合ってるかな」

「ボクはあの時力いっぱい戦う事の充実を知ったんだよ。生まれてからずっと退屈ばかりだった人生が、やっと楽しくなってきたんだ」
「自分の享楽の為に人を殺めると言うか!!」

「殺すつもりは無かったけど、夢中で戦っていたら死んじゃったんだよ。結果論だけど、ボクは決して殺生が目的じゃ――」
「問答無用!!」

「雪花よ、依然わしは真の武は活殺自在、力を求め殺法に染まりすぎれば心は闇へ堕ちると教えた筈。お前は拳法の殺の面に染まりすぎた」
「老師、ボクはそうは思わないよ。きっと純粋な力には善も悪もないんだ。人が勝手に物事に善悪を付けているだけで本当は――」
「そこまで堕ちたか!」

「雪花よ! 今この時を以ってお前を破門する! もう二度とこのような傍若無人は許さんぞ!!」
「許さなかったらどうするのさ?」
「わしがお前を討つ!」

 そうして雪花は道場を出た。
 帰った実家では道場での事を知らない両親が、我が子が修行を終えて帰ってきたのだと思い盛大な料理を持って出迎える。
 雪花はその料理を食べながら、実家を離れて以来数年ぶりに泣いた。
 だが一度血の味を覚えてしまった拳は容易には大人しくなってはくれない。その日以降も雪花の強い者と戦いたい欲求は止まる事無く、実家の近隣の神獣・魔獣と次々戦っていった。
 人に害成す魔獣が狩られた時は町の人々は喜んだが、金羅に関係したり纏わる神獣が狩られた時、人々はその犯人を捜した。
 しかし一度足がついている雪花はもうドジはしない。一切の痕跡を残さず犯行現場から立ち去り、かつアリバイまで用意する周到さで少女は戦い続けた。
 やがて少女が獣相手では我慢できなくなるまでに、そう時間はかからなかった。
 誰にも気付かれていないと思っていた雪花だったが、だが両親だけは我が子の変化に不穏を感じ疑い始める。
 神の獣を殺したのはひょっとして子供なんじゃないか?そう思い我が子に問いただすも答えはいいえの一点張り。
 我が子を信じたい両親だったが、遂に雪花を破門した師に家を出ていた間の雪花の素行を尋ねるに至り、疑惑は確信へと代わったのだった。
 それでも両親にとって可愛い我が子に変わりは無い。
 いくら我が子が麒麟児と言えど、悪事がバレない例は無い。天が知り自分が知り親が知っているのだ。いずれ誰かに悪事はバレよう。
 だが言って聞く子でもない雪花を守るには、もう一度師に頼む他、力無き両親には手立てが無かったのだった。

「おぅ、おめーか暴れん坊の兎ちゃんってのは」
「誰?」
「あたしはプレセア=ロッソ。新天地で聖騎士ってのをやってる」
「新天地? わざわざそんな辺境くんだりから何の用で来たのか知らないけど……聖騎士? ぷぷっ、カッコイー」
「笑うなよ! ったく、スパイクの旦那も面倒な仕事押し付けてきやがるぜ」
「で、あなたのその仕事って何? その武装……まさか私と戦ってくれちゃったりするわけ?」
「そのまさかだよ。退屈してんだろ? 楽しませてやるよ。その代わりボコボコにすっけどな」
「じゃあお礼にボクは君の事ギタギタにしてあげるねっ」

 師は古い伝手を頼りに自分が知る中で最も強い男に依頼した。この時既に雪花が自分の力を超えているだろう事を知っていたからだ。
 だが男は新天地から一人のケンタウロスの女を寄越しただけだった。
 師は初めガッカリした。雪花とそう歳も変わらないただのケンタウロスの女が、純血の仙人――サラブレッドで天然の雪花に到底敵う訳がないと思ったからだ。
 しかし結果は引き分け――全くの五分と五分だったのだ。
 魔法騎士だった女、プレセアは仙人の雪花と相打ちとなりダブルノックアウト。その後やはり同時に目覚めた二人はどちらからとも無く話し始めた。

「ボクと互角の人なんて始めて会ったよ」
「あたしは勝つつもりで来たんだけどなぁ……お前歳はいくつだよ?」
「16」
「くそっ、一つ下かよ……おいお前、お前の方が攻撃多く貰ってたよな?」
「そーだっけー? でもダメージはボクの方が上だもん」
「はっ、口の減らねー奴だ。今回はおめーの勝ちって事にしといてやるよ」
「貰った勝ちなんて丸めてポイだよ。今度やる時は完全勝利するからね」
「じゃあ俺は圧勝・楽勝・超完勝だ」

 その後、雪花はプレセアと共に新天地へと旅立つ事となる。
 新たな戦いの舞台、新天地。そこで少女は初めて得た同じレベルの「友達」と戦場を駆ける。
 そう、雪花に必要だったのは鼻っ柱を折る強者でも、温かく迎えてくれる平穏な家庭でもなかったのだ。
 生まれた時から退屈だった少女。その少女が見つけた唯一の暇潰しの方法「戦闘」。だがそれでも心の飢えを満たす事は出来ない。
 本当の充足感を得る事が出来るのは「友達」が出来た時だけだ。仲間足り得る同じレベルの者。それが雪花に必要なものだったのだ。
 もう少女は孤独に怯えたり退屈に悩んだり、まして無意味に暴れ回ったりはしない。
 何故なら今雪花の周りには、同じレベルの仲間達が大勢いるのだから。



「とゆー話だったのよ。感動するなー」
 場所は新天地中心都市に存在する聖騎士団本部建物。
 そこの一室で雪花はネフティーに占いをして貰いながら自分語りをしていたのだ。
「そうだったんですか~それは良かったですね~」
「うん! だからプレセアは今でも一番の友達なんだよ?」
「仲良き事は美しき何ちゃらですね~」
 机に向かい合って占いに用いるカードを並べ終わったネフティーは気だるげな調子で相槌を打つ。
 別に自分語りうぜぇと言う理由で気だるそうな訳ではない。彼女は常にこんな感じなのだ。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、なぁー」
 雪花が幾何学的配列で並べられた占いカードを、指でちょんちょん触りながらどれを引こうか選んでいる。
 ネフティーは聖騎士団に珍しい非戦闘要員なので、こうして戦闘を行う騎士達のバックアップや余暇の相手まで、色々しているのだ。
 それは決して戦闘に負けないくらいの重労働でストレスの筈だったが、彼女は嫌な顔一つせず務めている。
 そんな彼女に聖騎士団団長スパイクは全幅の信頼を寄せているのだ。
「ねぇ、どのカードが当たりだと思う? プレセアー」
「占いカードに当たりもクソもねーだろ! つーか……」
 雪花が斜め後方に向かって話しかける。そこにはプレセアもいるのだが……
「俺をソファー代わりにくつろいでんじゃねぇ!」
「まぁまぁ、堅い事言わずにプレセアもくつろいでよ」
「ここはあたしの部屋だ! どんだけ図々しいんだよったく――って跨ってハイシードウドウとか遊ぶなぁー!」
「余は退屈でおじゃる~、何か面白い事言え我が愛馬」
「占ってもらってるネフティーに失礼だろバカ!」
 そんなこんなで今日も喧嘩になる二人だが、あの日以来決着はついていない。二人は今も一番の同レベル同士なのだ。
 夜中に暴れて隣の部屋から来た時雨に痺れ薬で身動き取れなくされた後、小一時間ほど説教が待っているのだが、そのパートは詰まらないので割愛させて頂く。
「お二人とも本当に仲が良いですね~」
『良くない!』
 同レベルの二人だった。



 お説教が終わりみんなで部屋の片づけをしていた時の事。
(あれ~? 一枚だけカードが無くなってる~)
 ネフティーは占いカードが一枚足りない事に気づき、片付けをしながら探していた。
 相変わらず二人は言い合いとボケと突っ込みを繰り返しながら時雨恐さに大人しく掃除をしている。
「あ~」
 そんな時、プレセアの特大ベッドの下からカードが見つかった。そのカードを捲って見ると……
(『死』のカードォ……)
 占いカードは地球にあるタロットカードに酷似していた。
 カードを引く時の偶然は人の運命を暗示する。人は運命を選べないからこそ、カードを作った古代の人々はままならないカードの引きに運命を見る力を重ね見たのだろう。
 そのカードが「死」を暗示している。
 ネフティーは月夜の晩、夢に未来を見る事がある。それは月神が見せている実現する悪夢。回避できない過酷な運命である事が多い。
 幸い、雪花の夢はまだ見た事は無かった。
 しかしカードの暗示に何か不吉なものを感じたネフティーは、カードを束に戻しながら、雪花とプレセア、二人の友達の未来に幸多からん事を祈るのだった。
 その日の晩は満月の夜。ネフティーが悪夢を見させられる夜だった。



  • 多感な年頃で対応力も未熟な頃に場違いなところにいると歪んでしまうというのはわかりますね。プレセアが引き分けたのも聖騎士の強さ説明になっていました。ところで雪花の種族は何でしょうか -- (名無しさん) 2014-01-04 20:01:40
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最終更新:2012年04月06日 23:12