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【献花】

作中でゴア表現が多数ありますのでご注意下さい。

『何故だ!?どうしてこんな…』
夜鷹人の騎士キア・ウィトルはその惨状を見て心の中でそう叫んだ。

新天地は、オルニトからの独立以来ずっと諸族乱立の都市国家群のような形態を取っている。
非常に自由で開放的な…と言えば聞こえが良いがともすればアメリカ開拓期の無法とも言える状態がここ三十年ほど続いているのだ。
そんな状態が続けばそこに『法と秩序』を生み出そうとする者たちは必ず現れるもので、近年はゲート周辺都市同盟が創った聖騎士団と名乗る組織が新天地全土を耕し『法と秩序』を育てるためにその力を奮っている。

しかし、『法と秩序』を新たに創るのは非常に崇高で困難な事であり、その改革に賛同しない抵抗勢力が現れるのは珍しくも無い事である。
聖騎士団ではその場合、反抗勢力に対して武力を行使することも厭わない。
それは全て、新天地に住むか弱き人々の未来の為なのだから…

「はぁ、どっこいしょ…トゥームス村までもう少しか。いつも思うが辺鄙なとこだな」
「仕方ないさ。あそこは水が綺麗で涼しくて痛みの早い貴重な香油が取れる薬花を栽培するのに適してるし、ゲート周辺都市で少量取れるのと違って雑な扱いをしてないから遠くでも薬効が薄れず中央区の市場まで持っていけるんだもの」
狗人とモア人、二人の行商が岩に腰掛けて安いクズ葉を詰めた細巻き葉巻をふかしながらこれから向かう村の話をする。
「それにしたってな…もうちょい街道に近いとこでも良かっただろうに」
「…畑の反対側にたくさん墓があっただろ。
村長の年齢からして多分、30年前の独立戦争のもんだ…」
狗人はそれを聞き、初めて合った時にこの村を花で一杯にしたかったと二人に話していた固太りした純朴そうな飛べない鳥人の村長・カーカーポーを思い浮かべて空を仰いだ。
「色々あらぁな…」
「ああ」
独立戦争時にオルニトで同族が大量に粛清されたモア人はうつむいてそう返した。

「さて、そろそろいかんとな……?」
「どうしたね?」
立ち上がって耳と鼻をピクピク動かしている狗人の様子にモア人が問う。
「いや…周りに何かいるな。」
「囲まれてるのか!?」
新天地には危険な野獣や野党がうろついている。
狗人の相棒はそういったアブナイモノについての嗅覚が鋭く何度も助けられた。
「分からん。こんな感覚は初めてだ…警戒しながら離れよう」
「ああ…」
二人は護身用の小振りの剣を手にし、狗人を先頭にソロリソロリと村に向かってその場を離れようとした。

ゾブリ

「~~~~~~~~!!!」
口を抑えられてナイフで心の臓を貫かれたモア人がくぐもった悲鳴を上げる。
「おい!どうした!?」
振り返った狗人が相棒の惨状を見て一瞬止まった瞬間に、同じく後ろから伸びた手が狗人の口を覆い手際よく彼の急所を鋭利なナイフで刺し貫いた…

高い木の枝に二十人ほどの鳥人が止まっている。
「小隊長、処理終わりました」
「ご苦労、死体は上手く処理したか?作戦前に奴らに気づかれると厄介だ」
「ええ、滞りなく」
小隊長と呼ばれた小柄な夜鷹人にヒクイナ人が答える。
「心配しなくてもしっかり埋めときましたよ小隊長殿。これで地を這う厄介者もこの大地の栄養として役に立てるわけだ」
がっしりとしたフクロウ人が軽く答える。他の皆がクスリと嗤う。
それに対して夜鷹人は眉根を寄せ厳しく返す。
「口を慎め!我々はオルニト僧兵団のように民族差別集団ではない。我々は新天地に新しい法と秩序をもたらす誉れ高き聖騎士団の一員なのだ」
チッとフクロウ人は舌打ちをしたがイラついた小隊長が美しく装飾のされた大振りなナイフの宝玉の付いた柄頭を指で叩き始めたのを見て慌てて謝った。
「す、すいません!以後気をつけます…」
「よい、先を急ぐぞ。今夜中に秩序に反抗する奴らを強制排除するのだ」
小隊長の言葉に全員が頷くと一瞬でその場から飛び去った。

聖騎士団は幾つかの部隊に分かれている。
まず聖騎士と呼ばれる少数精鋭の部隊員が所属する特殊部隊
騎士と呼ばれる多数の戦闘部隊員が所属する主力部隊
捜索や追跡を主に行うサーチャー部隊
救助や支援を行う非戦闘部隊員の所属するサポート部隊
そして偵察や暗殺、破壊工作を行うスカウト部隊

特殊部隊長のスパイクを聖騎士団団長とし、それぞれの部隊で隊長と幾人かの小隊長を戴いている。
夜鷹の騎士キア・ウィトルが所属しているのはこの中のスカウト部隊であり、彼女は高い実績と強力な武器を持つ事からその中の第二小隊の小隊長を任されている。
第二小隊は夜行性の鳥人族で構成されており、夜間の『任務』を主に行なっている。
彼女はこの小隊を任されてから任務に失敗したことが無かった。
今回も彼女は細心の注意を払って該当の抵抗勢力が巣食う村を処断するために行動を開始した。

…のだったが

おかしい…とキアは思った。
行動開始から半刻、周りを取り囲むように配置し、反抗勢力をこちらに誘導するように指示を出した部下らのアクションが無いどころか定時の連絡すらない。
彼女は事前に取り決めた至急連絡請うの合図であるこの地方でよくいる長犬の鳴き声を真似て三回行う。
……反応は無い。

彼女は単独で行動を開始する。

まず止まっていた木立から高く飛び、高空から村の様子を観察する。
静かだ。夜遅くということもあり、村の灯は消えているのは分かるが物見すら立ってはいない…
次に木の葉や影に隠れながら低空を飛び、部下を配置した地上の様子を観察する。
ぐるりと村の周囲の配置場所を回っていると奇妙な声のようなものを聞き、声の出所へ飛ぶ!
どうやら声は一本の木の根本から出ているようだ。

羽音を潜め木陰を利用しながら近くに降りてその木を調べる。
「ブー!ゥー…!」
「な!?」
そこにはズタボロにされた隊員のフクロウ人が木の幹に手足を杭で縫いつけられ針金のようなもので首を吊る形に縛られているのが見えた。
キアは周囲を見回し、敵が待ち構えていないことを確認した後、素早く隊員に近づく…
「すぐに下ろしてやる」
顔がすっかり赤黒くなったフクロウ人にそう小声で言うとナイフとは逆の腰に付けた短剣を抜き首を絞める針金を断ち切った。

ブツ……ガサッ!

不自然な葉擦れの音が頭上から聞こえ、とっさに横に転ぶキア。
グチャリと大きな鈍い音が聞こえる。
彼女はすぐに立ち上がり、鈍い音がした方を見ると磔にされていた隊員が頭頂から数本の剣を突き立てられて死んでいた。
その惨状を見て、どうやら何本かの剣を結わえて、針金を解くと頭上から落ちる仕掛けを作られていたらしいと彼女は判断した。
罠に使われた剣には見覚えがある。我が部隊員の剣が数本に少し前に処理した二人の行商人が持っていた護身用の剣が二本入っている…

「チッ…やってくれる!」
キアはそう吐き捨てると考えを巡らす。
こちらの動きはバレていたのだ。流石は独立戦争時の勇士様と言ったところか、しかし…
キアは装飾のなされたナイフの柄頭を気忙しげに指で叩く。
私がこの聖騎士団で確固たる地位を得る為には、この大きな失態を埋めなければならない。
そう考えながら死体の足元に何かが落ちているのに気がつく。
血と脳漿で汚れているが、紛れも無くこの村特産であり、今回の任務の『原因』となった薬花だ。
「ここで待つということか…ロートル風情が!」
彼女は隊員の血と脳漿に濡れた花に唾を吐きかけると勢い良く飛び上がり村外れの薬花畑に向かった。

花畑には色とりどりの花が咲き誇っていた。
元々の薬花の色である美しい青色をはじめに鮮紅色、黄色、茶色、蘇芳色、羽根毛色…
薬花に混じって実に色とりどりの肉の花が咲き誇っていた。
花畑に降りたキアはむせ返るような酷い臭いと光景に顔をしかめる。

「ようこそトゥームスへ…村長のカーカーポーだ。
私達の村の歓迎は気に入って頂けたかな?騎士様」

声のした方を見ると、肉の花が積み上がった上に誰かがこちらに背を向けて座っていた。
月明が向こう側から照らしているため顔形が上手く見えない。
ジリジリと間合いを測りながらキアはナイフの柄に手を添える。
「返答を聞きに来ただけの我々に随分と派手な歓迎だな村長殿…」
「カカカッ!最初っから殺す気で取り囲んでた奴が何言ってやがる…
それに返答?私達のスポンサーの為に村の特産品の薬花の生産を止めて下さいませんか?ってスカタンな奴か?ん?しかも言ってた期限より早いな」
軽く明るく馬鹿にした調子でそう言うカーカーポー。
不快感を露わにした声でキアは位置取りを調整しながら建前の口上を述べる。
「村長殿、わかっているなら話が早い。期限が早まったことは謝ろうだが、あなた達に都合があるようにこちらにも都合があるのだ。……では、返答如何!!」
「……おいヒヨッコ、そんなスカタンな言葉に返す言葉なんぞ決まってるだろ」
キアの口上に対して、先ほどの明るく軽い声ではなく低く背筋が凍るような声が返って来た。
声が返って来た瞬間、キアはナイフを抜き放ちその研ぎ澄まされた黒曜の刃を座っている村長に向かって振り下ろした。

ゾン!!!

一瞬で離れた所にいた村長が上下に両断される。すぐに駆け寄り死体を確認するキア。
そこには…
「な!?」
首の骨を折られ、恨めしげな顔をこちらへ向けた隊員のヒクイナ人の上半身と下半身が転がっていた。
「元オルニト士族のお嬢ちゃんはおっかねえ武器を使いやがる…」
積み上がった肉塊の下から伸びた手に、足をガシりと掴まれたキアは間髪入れずソレにナイフを振るおうとするが、一瞬で逆さ吊りにされてナイフを取り落とす。

ミシリ…
「あぐがあああああああ……は!離せぇーーー!!」
異様に強い握力で足を握られ悲鳴を上げるキア。
「ああ?何だって?」
隊員の血肉に塗れたカーカーポーはわざとらしくそう言い。手に一層の力を入れる
ボキリ!!

「ああああああああああーーーーーーー」
キアの甲高い悲鳴が上がり、掴まれた足首がおかしな方向へ曲がる。
そして、痛みの余韻でもう一度叫ぶまもなく足を持たれたまま地面に叩きつけられる。
「ギャアギャアうるせえよガキが…テメエらに殺された二人はもっと痛かっただろうによ」
「くっグ…こ、こんな事をしても聖騎士団はお前達を許さんぞ」
鼻血と涙と泥でグシャグシャになった顔でキアがそう言い放つ。
「だからどうした?ふざけやがって!こっちは家族や仲間と静かに暮らしてただけだ…
最初にいきなり従わなければ武力で排除すると言い出したのはそっちだろうが!
テメエらのやり方が荒っぽいならこっちも昔と同じく荒っぽく殺らせてもらうだけよ。
…そうだ、テメエの羽を全部ムシって布団にしてから本部に送りつけてやろうか?開けたマヌケはさぞかし面白いツラをしてくれるだろうよ」
そう言いながら這いずって逃げようとするキアの腹を蹴り飛ばすカーカーポー。
痛みと息を吐き出させられた事で喘ぐキア。
「さあ…そろそろおっ死ねや」
彼はそう言いながら落ちていたキアのナイフを拾いキアに刃を向ける。

「それは困るな」
襲い来る白刃に気づき、カーカーポーが一瞬で後ろに跳ねる。
「…ッ!」
しかし、避けるのが少し間に合わずカーカーポーはその装飾剣の刃に手首を斬り飛ばされた。

「『豪腕』カーカーポー殿、お初にお目にかかる。
我が名はスパイク・エンフィールド…聖騎士団の団長だ」
そこにはソードシクティスを構えたスパイクがキアを守るように立っていた。
「は!お山の大将のお出ましかい?コイツは愉快だ!」
カーカーポーは斬り飛ばされた手首に手早く薬花の香油を使った軟膏を塗りつけて止血しながらそう軽口を叩く。
「…カーカーポー殿、部下が先走った事については謝罪しましょう。しかし、貴方は思った以上に危険過ぎる。
貴方は我々が聖騎士団本部で話し合いの場を設けても拒んで一人、戦う道を選ばれた」
「話し合い?…は!だまくらかしあいの間違いじゃないのかい?」
「…今は独立戦争の時代では無い。新天地の平和のために無法のこの地に我々が法と秩序を作っていかなければならないの時期なのだ」
スパイクは真剣な目をしてカーカーポーに語る。
カーカーポーはあっけに取られた顔をした後、『嘲笑い』ながら答えた。
「かかかかっ…テメエの言う法と秩序は家族や戦友と静かに暮らす奴を追い立てるものってことか?」

「違う!」

「違うもんかよ!
法だ?秩序だ?誰もそんなもん望んじゃいねえよ!
この国はなぁ…『そいつら』に虐げられた奴らが自分達の自由と幸せの為に必死こいて空飛ぶバカ共からかっさらった国なんだよ!」

凶暴な光を宿らせた瞳でスパイクを見ながら叫ぶカーカーポー。
「貴方に問答は意味がないか…」
「分かってた事だろうに…」
それぞれ剣と拳を構える二人。

「アンタ、イワンの兄貴ほどじゃねえが強いんだってな?ゾクゾク来るよ」
「勘弁して貰いたいね。私にそういう趣味は無いんだ」
かかっと笑いながらすり足で間合いを詰める片腕のカーカーポー。
同じくすり足で有利な位置取りをするスパイク。

カラ…
密かに這いずって落ちたナイフを掴み上げようとしたキアがナイフを滑らせた音が合図となった。一気に間合いを詰める二人。
カーカーポーは地に付かんばかりに身を屈め滑るように、スパイクは上段に構え地を割り砕かんばかりに踏み込んで一閃を交わす。

ガゴン!!!

鋼鉄が打ち合うような酷い音が聞こえ、スパイクの甲冑がカーカーポーの拳によって砕かれる。
苦痛に顔をゆがめるスパイク、その顔を見たカーカーポーはニタリと渾身の笑みを浮かべて…2つに分かれた。

「なんと…両断されて尚ここまでの力を…」
打撃された部分を抑えながら剣を鞘に戻す。
遅れてカーカーポーの断面から血が噴水のように吹き上がる。

「さて、騎士キア・ウィトル。先走った事に付いて申し開きを聞こうか…」
「私は上部の命令に従っただけだ。貴方こそ他の部隊の作戦に介入するなど越権行為だろう」
「団長は緊急の事案があれば独自に行動ができる。それにその体で言うかね…」
「ッ…」
ギリッと歯ぎしりするキア。
さらにスパイクが問い詰めようとした時、馬車の車輪の音が響いてきた。

「…遅かったようですね」
馬車から降りた数人のうちの一人である異世界人が開口一番そう言った。
「ああ、兄弟…嬉しそうなツラして逝きやがってよぉ」
筋骨隆々としたペンギン族の男がそう言って涙ぐむ。
「…やるせないわね」
ダチョウ族の女がそう言ってため息を付く。
残りのペンギン族とニワトリ族の二人は散華した古強者に押し黙って黙祷を捧げている。

「貴様ら何者だ?ここは今、聖騎士団の作戦区域だぞ…」
片足でフラフラと立つキアがナイフを構えて詰問する。

「…僕らはセントラルシティ市長のイワンからの特使です。
途中で会った村人達の避難を手伝っていたことで遅れましたが、この村は霊園としてイワン市長が買い受けることになりました。もちろんあなた方の飼い主である部族長同盟の承諾も得ています」
異世界人は封蝋のされた公文書を開いて騎士二人に見せた。
「成る程…ゲート周辺都市への薬花の販売の禁止を条件に中央区の直轄地になると記載してある。
これでは、中央区に間借りしている我々聖騎士団は手が出せんな」
古狸めとスパイクが笑う。
「こんな!…こんなモノは偽物だ!!」
それに対して怒り心頭のキアが文書にナイフを振りかざ…

ダン!

キアのナイフが弾き飛ばされ、その衝撃でキアももんどり打つ。
「良いナイフですね…
嵐神の落し物ですか?何故新天地に持ち込んでいるのか知りませんがそんな物騒なモノなくさないで下さいね」
いつの間にか銃を構えた異世界人が慇懃な口調でそう言う。
「……っくそ!!」
「色々と君に聞くことが増えたようだ…
では、我々は失礼させてもらうよ」
「…おや、もうお帰りですか?」
「ああ、ここにいても我々は恨みを買うだけだからね…
亡くなったうちの隊員の死体は後で専門の者が受け取りに来るよ」
スパイクはそう言うと歩けないキアを抱きかかえて、両断された古強者に一礼をすると去っていった。

そしてこの村の名物だった薬花の匂いは踏み潰されて消え去り、後には辺りに咲いた血と臓物の花の臭いが残るばかりとなった…


蛇足
いつも通りのドンパチ話です。
表現等がまずい場合はお知らせ下さい。
キャラや設定を使わせて頂いた外典シリーズの作者様には感謝を

  • 法や秩序ではなく「どう生きたいか」という主張と、それを実現実行する力同士のぶつかり合いは緊張の連続。正義と悪ではなくて味方か敵かの世界観は命の奪い合いを勝負として見せてくれた。既に武器を持ち使った彼らは全員悪党なのかも -- (名無しさん) 2013-05-25 17:21:53
  • 法も秩序も結局のところ誰が誰のためにということに決着するんでしょうか。多様を極める新天地では誰もが誰かの敵になっているような気がします -- (名無しさん) 2014-03-30 18:45:58
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最終更新:2012年04月01日 04:18