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【奥山さんと僕 転の章】

ついに僕は11門世界へと足を踏み入れた。
父も、母も、兄も訪れた異世界の地へと。
初めての地であるにも関わらず、どこか懐かしさを覚える。
土地の匂い、なのだろうか。
ゲート出口でキョロキョロと周りを見渡していると、案内人らしき魚人が来た。
ナマズとも何ともつかないツルリとした風貌で、着ている服もゆったりとして、
まるでどこぞの寺の僧侶のようにも見える。
僕と一緒にゲートを通った50人ほどの人が、彼の後をついて行く。
暫く薄暗い通路を歩くと、急に明るい広間に出た。
そこには横断幕に墨でこう書かれていた。
ミズハミシマにようこそ」と。


奥山さんからの手紙を受け取った時、僕が最初にした事は、勇矢兄の部屋を訪ねる事だった。
勇矢兄は、父と同じく十一門対策自衛隊の自衛官だ。
通常の手続きならば軽く10日はかかる渡航手続きを、少しでも短くできないかと考えたのだ。
勇矢兄は僕の話を聞き終えると、深くため息をつき、しばし苦笑して言った。
「全然似てないと思ってたんだけど、お前さ、勇人とか母さんにソックリだよ。
 無茶苦茶な事をサラリと言ってくるところがさ」と。
そのあとしばらくPCに向かい、何かの手続きをしているようだったが、30分ほどして
「4日後の<渡航便>で向こうに行けるぞ。
 ああ、別に門自の独自ルートとか使ってないからな。
 俺が向こうに渡る際の同行者として登録して渡るんだ。
 お前が向こうで何をしたいのか、別に詳しく聞く気は無いけど、
 タイムリミットは2週間だから気をつけろよ」
勇矢兄はそう言って、プリンタで印刷された仮日程を僕に手渡した。

その日から渡航までの4日間は、ひたすら準備に追われていた。
何せ初めての土地だし、初めての長期旅行だし、そこで何があるかもわからないんだ。
できうる限りの準備をしてから渡りたい。
そう考えて学校に顔を出した時に、ふと工業科の工作室の明かりが目にとまった。
以前誰かから聞いた事がある。工業科の工作室の主、惑う才媛ティスト、
クルスベルグ出身の留学生、名前はナフ・レノム。通称ノームのノム子さんだ。
彼女なら<向こう側>で便利な物の一つや二つは所有しているだろう。
僕は初めて工業科の棟、機械と鋼鉄の楽園『アイアンガーデン』へと足を踏み入れた。
異常なまでに堅牢に出来た門を開けて校舎に入ると、そこには漆黒の回廊が伸びていた。
廊下の先、最も奥の部屋に明かりが灯っている。
重々しいドアをガチャリと開けると、そこにはどこにでも居そうな男子学生と、
高校生の平均身長を随分と下回るだろう女子生徒の二人が居た。
一見して僕なんかじゃ何のための装置か理解できそうにない機械をいじくっていた。
「ノム子さんってのは、君で間違いない?」
僕がそう聞くと、二人揃って怪訝な表情を浮かべたが、先に女子の方が口を開いた。
「どこで聞いたかは知らないけれど、そのあだ名は私のものだ」
そう言うと、カツカツと床を鳴らして僕の近くへと歩み寄ってくる。
近くで見ると、本当に小柄な人だ。
「で、どうせ厄介事の依頼なのだろう?さあ話せ」

僕はこれまでの経緯をかいつまんで話した。
男子生徒は両手をグッと握り締めて、うんうんと何度もうなづいて聞いていたが、
ノム子さんの方はイマイチ乗らないのか、あまり興味無さそうだった。
「つまり、愛のために異世界に渡るのか。燃える展開だな。
 オレに出来る事なら何でも言ってくれ」
「君に出来る事など、たかが知れているだろう。
 フラれたのなら新しい女でも見つければ良さそうなものだが、な。
 聞いた手前だ。いいものをやろう」
そう言うと、明らかに落胆した表情を浮かべた男子生徒を置き去りにして
ノム子さんは奥の物置室へと向かった。
ガタゴトとハデな音を立てて何かを探し当てたあと、身の丈の数倍はするような
巨大な箱を持ち出してきた。
「これだ。ああ、せっかくだから<向こう>に行ってから開けた方がいいな。
 取り扱い説明書もつけてやるから、熟読しておけ」
そう言うと、ノム子さんは分厚いテキストを手渡してきた。
どれと思ってパラリとページを開けると、今まで見たことのない文字がビッシリと書き込まれていた。
「クルスベルグの文字で書いてあるから、お前がクルスベルグ語を熟知でもしてない限りは
 『翻訳の加護』を得ないと読めないぞ」
「それはどこで得られるの?」
「<向こう>に行った時に、受付で貰えるから安心しろ。
 私だってそれが無ければ会話もままならん。
 あとハイケプラー繊維とミスリル繊維を編み合わせた無敵ジャケットもやろう。
 ルーンも躍字も使わないで着装者へのダメージを皆無に抑える異常な逸品だぞ。
 二つとも、帰ってきてから返却してくれよ。
 あと、使い勝手のレポートも書いてくれ」
ノム子さんは邪悪な笑いを浮かべながら、そう言った。

次に剣道場に足を向けると、特に待ち合わせた訳ではないのに入口に川津が居た。
「よお。来ると思ったよ」
相変わらず何を考えているのかよくわからない所があるが、大方の事情を何故か知っているようだった。
「何を持って行きたいのかは予想がつくけれど、アナタの持って行きたいモノはゲートで没収される。
 <向こう>だってそこまで治安は悪くないし、まさか武者修行に行くつもりでも無いでしょ?」
川津の後ろから、ヒョイと蛇神さんが現れた。
そうか。奥山さんは蛇神さんにも手紙を出していたのだろう。
「二人とも、僕が何を取りに来たのかわかっているのか?」
僕がそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「まあ、これ、だろ?」
川津の手には僕の愛用している居合刀『犬鳴虎鉄』が握られていた。
「お前の腕でこんなモノを使ったら、死体の山しかできねぇだろ。
 悪いコトは言わねーから、こんな物騒なモンを持ってくのはやめとけよ。
 僕がもっといいモノを餞別にやるからさ」
川津がそう言って『犬鳴虎鉄』を蛇神さんに手渡すと、1本の木刀を僕に手渡した。
側面には雑な彫り味でNordmeerstraseと刻まれている。
「お前の木刀じゃないか」
僕が呆れてそう言うと、川津はニヤリと笑った。
「大暴れしてもロクな怪我人も出さなかった逸品だぜ。
 お守りにするにゃ丁度いいんじゃねーか」
お守り、ね。
「わかった。ありがたく預かっておく。
 ああそれと蛇神さん。首筋、キスマークついてるよ」
顔を真っ赤にして大騒ぎする蛇神さんと、ついて無いから騒ぐなと慌てる川津を後に残して
僕はその場を立ち去った。リア充め。


ミズハミシマの受付にて『翻訳の加護』を受けた僕は、手荷物を受け取って外に出た。
「あとは自由に動け。俺は門自の駐屯地に行くからな。
 リミットだけは守れよ。そんじゃな」
勇矢兄とは、ミズハミシマのゲート敷地で別れた。
ノム子さんから借りた無敵ジャケットを着込み、お守りの木刀を背にさし、
あらためて、自分の目的を確認する。
目的地は、ミズハミシマ陸地にあるオークのヤーマン氏族居住地。
期間は、今から10日以内。
目的は、奥山さんを奪還し!<地球>に連れ帰ること!
決意に燃える僕の耳元で、なにやら小さな囁き声が聞こえてきた。
(・・・箱、開けないんですか?)
なんだろう。この声は。
箱とは。ああ、ノム子さんから貰った超巨大な箱か?
ガチャリと箱の鍵を開けると、箱は自然にガチャガチャと中身を展開し始め、
気づいた時には、まるでバイクのような形状へと変形を完了していた。
「なん・・・だと・・・?」
僕は慌てて貰ったテキストを開くと、まったく理解出来なかった文字がスラスラと読めた。
そもそも表紙にはデカデカとこう書かれていた。
『精霊式バイク』と。

(・・・これは・・・過ごしやすそうです)
また耳元で声がした。
思わず横を向くと、なんだか真っ黒なよくわからないモノが宙に浮いていた。
「お前がしゃべったのか?」
言葉があるなら意思疎通が出来るかもしれない。
淡い期待を込めて話かけて見ると、黒いモノは普通に返答してきた。
(・・・わたしです・・闇精霊です)
精霊!?
(・・・その箱の中に入ってもいいですか)
「あ、ああ。いいよ」
思わずそう言ってしまったが、どういう意味なのかは理解できていない。
すると、周囲の空気がザワめきはじめた。
(入っていいんだってよー!)
(ひゃっはー!久々にわけのわからんモノが来たぜー!)
(ルーンが仕込まれてんぞ!こっちだ!こっちだ!)
(箱の中であばれまわってやんよ!)
ビヒョウ!とつむじ風が吹いたかと思うと、バイクがブルブルとアイドリングを始めた。
(・・・あ・・・入りそこねました。
 ・・・風精霊さんはすばしっこい・・・ですね)
黒いのはどうも先をこされたらしいな。
テキストを読んでみると、箱を解放すると、ルーンの導きにより精霊が寄ってくる。
それを動力源にしてエンジンが回り、バイクは機能しだす、とある。
偶然ながらも手順通りだったと言う事か。
僕はバイクに荷物をくくりつけ、ハンドルを握り締めた。
(・・・あの)
黒いのがスピードメータの辺にチョコンと座った。
より正確に言えば、座ったように見えた。
(・・・わたしもご一緒していいですか?)
心無しか、寂しそうに見える。
「一緒にって言っても、あての無い旅になるんだぞ。
 ヤーマン氏族の村に行かなければならないんだけれど、どこにあるかわからないんだから」
僕がそう言うと、黒いのはちょっと嬉しそうに言った。
(・・・わたし、知ってますよ。案内します)
渡りに船とはこのことか。
僕はこの幸運を神に感謝しつつ、バイクのアクセルをふかした。
想像以上に速度が出たが、あとは目的地まで一直線だ。
「それならナビゲートを頼むよ!黒いの!」
(・・・名前、ありますよ)
「なんて名前!?」
(・・・アシタです)


  • 無茶苦茶続きが気になる…続き待ってます。 -- (名無しさん) 2012-04-16 20:47:23
  • 一大決心から皆の協力を得て彼女の故郷へ!今からという準備だけなのに胸が熱くなりました。バイクとベストと木刀が思ったよりも頭の中で合っていました -- (名無しさん) 2014-05-28 01:44:12
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最終更新:2014年08月31日 01:44