眩しいほどに巨大な満月。
今宵は「饗宴」の夜。
スラヴィア最大級の円形闘技場。
観客席には、着飾った紳士淑女たち。
貴賓席には、かの屍姫とそれに連なる大貴族の面々。
そして、闘技場では二人の戦士が刃を交えていた。
一方は、巨大な戦斧を振るう巨躯の
アンデッド戦士。銘を「赤眼のヴォーダン」。
100体の
オーガの死体から最高の素材を集め編み上げた鋼の肉体。
肉を削ぎ落され剥き出しとなった頭蓋骨と、両の眼窩に嵌め込まれた深紅のルビー。
当代随一の死体造形家、『髑髏王』ヴェルルギュリウス伯爵の最高傑作である。
現在、300戦無敗。
円形闘技場の現チャンピオンである。
もう一方は、黒い鎧に身を包んだ女性のアンデッド戦士。
端正な顔と尖った耳。生前はダークエルフの傭兵だったのだろう。
鋼の鞭のように研ぎ澄まされた肉体に漆黒の甲冑を纏い、身の丈程もある巨大な両手剣を自在に操る。
銘は無く、「出品者」も伏せられている。
この闘いがデビューである。
緊迫し、静まり返った闘技場に剣撃の音だけが鳴り響く。
両者の実力はほぼ拮抗しており、刃を交えること既に五十合。
ダークエルフの女戦士は、華麗で俊敏な身のこなしで、暴風のような戦斧の斬撃を巧みに弾き、受け流し、凌ぎ続けている。
しかしほんの僅か、それこそ百対九十九程の微かな差で、巨躯の髑髏戦士の力が、黒鎧の女戦士のそれを上回っていた。
そして、遂に。
「ゴアァァァァッ」
闘技場の小石に足を取られ体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、巨大な戦斧が黒鎧の女戦士の首を斬り飛ばした。
優雅な弧を描いて、美しいダークエルフの生首が遥か彼方の貴賓席に転がり込む。
残された肉体は、ゆらゆらと重心を失い、膝を突き、そして地に倒れ伏した。
敗北した女戦士の肉体から「死神の奇跡」の力が抜け落ちていく。
三名から成る裁定団が「赤眼のヴォーダン」301戦目の勝利を宣言しようとした、その時。
貴賓席に向き直り、勝ち名乗りを上げようとするヴォーダンの動きが止まった。
自分の胸から生えた巨大な剣の切っ先を見つめる両眼のルビーから、ふっと光が失われ、
やがてその巨体は地響きを立てて崩れ落ちた。
背後には、首を失った黒鎧の女戦士の肉体が、大剣を青眼に構え一人立ち尽くしていた。
「なるほど、『鎧』の方にも『奇跡』が込められていたのですな。」
「しかし、レギュレーション違反です。」
「ご覧あそばせ。ヴェルルギュリウス伯が真っ赤になって裁定団に抗議してらっしゃいますわ。」
「裁定は…おっと、女戦士の出品者の反則負けのようです。」
「妥当ですな。」
「間抜けな出品者も居たものですな。」
「いやはや、まったく。」
「しかし、これはこれで見応えのある闘いでした。」
「いやはや、まったく。」
興奮冷めやらぬ観客席の紳士淑女が、三々五々に退席していく。
一方、貴賓席では…
「申し訳ありません、屍姫様。やはりあのヴォーダンには勝てませんでしたわ。」
「いいのよ、あの御方のお遊びに付き合わされて貴女も災難ね。」
屍姫の膝上に抱えられたダークエルフの生首が申し訳なさそうに謝罪していた。
「でも『黒鎧卿』の力までお借りしたのに…」
「自分が始めた競技のルールも碌に把握してないあの御方が悪いのです。貴女が気に病むことはありません。」
「はあ…」
「『黒鎧卿』も意地を張らずに、あのまま敗けを認めてしまえば良かったのよ。」
黒い甲冑の一部を成す、黒い兜が不満気にカタカタと身を揺らす。
「…我ハ、如何ナル敗北モ受ケ入レナイ。次コソハ、カノ者ニ勝ツ。」
「次も何も相手はもう『力』を失っているじゃないの…可哀そうなヴォーダン。」
「素晴らしい戦士でした、本当は2対1だったのに、攻撃を凌ぐのが精一杯だった…」
「ヴェルルギュリウス伯には後で謝っておかないといけないわね。それにしても本当に困った御方…」
屍姫は美しい眉を曇らせて、溜息をついた。
そして、円形闘技場の周囲に聳える尖塔の頂上に佇む、一人の少女と鴉。
「ふうむ。あの二人でも勝てなかったか。髑髏王の奴もやるなあ…」
「あんまり悪戯が過ぎるとまた姫にお説教喰らいますぞ、わが君。」
「ははっ、それはそれで楽しそうだね!本当にこの世界は僕を楽しませてくれる。」
「…それでこそ、彼女を、この国を創った甲斐があるというものだ。」
こうして、「饗宴」の夜は、いつもどおり更けていくのであった。
end
●あとがき
お読み頂きましてありがとうございました!
本シェアードワールドでも一、二を争う(?)人気NPC、死神
モルテ様と屍姫様で一度SSを書いてみたかったのでした。
イメージが違う!という方はスルーしてください。すみません…
何の捻りもオチも無く、勝手に自分の脳内設定を盛り込んだ厨二全開の拙い作品ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです!
(肝心の地球世界のバックパッカーを出し忘れたことに今気付いた…)
- 激しい攻防と礼節を踏んだやり取りで高位の風格を醸し出した鎧と戦士が、まさかおっぱい漫才コンビに転落するとは誰が予想しただろうか -- (名無しさん) 2012-03-26 03:10:42
- ラノベみたい -- (名無しさん) 2012-03-27 03:51:55
- ヴォーダンも戦士も格闘ゲームのキャラみたいな設定でやっている事も武闘大会みたいでスラヴィアがどんな国なのかを描いているようでした。生首でも普通に会話しているのも屍の国なんだと納得しました -- (ROM) 2013-02-18 17:56:53
- 陽気で退廃的な死者たちの遊技場スラヴィア。画面映えしそうなキャラが目白押しで動画で見たいと思った -- (名無しさん) 2013-03-09 20:01:08
最終更新:2013年03月27日 14:41