馬車は揺れる。僕らを乗せて延々と揺れる。
それは旅の楽しさというよりも、人生の辛さを醸し出していた。
「辛いわー。もう何なのこれ。
夏休み前にカノジョができればいいなーと告ってみたら普通に玉砕。
まあそんなモンだよね人生なんてと思ってたら異世界ツアーチケットに当選。
一人寂しくツアーに参加してみたら周りはカップルとジジババのみ。
挙句に異世界に到着したら何の手違いか僕だけ
エリスタリア行き。
ミズハミシマゲートから日本に帰るには2週間で4カ国全部通り抜けて
定期便の出る港まで行かなきゃならない・・・試練か!試練なのか!
エリスタリアに来てんのに試練なのか!とねぇ
僕ぁねぇ、何も好き好んでエリスタリアに来た訳じゃあないんだよ。
ちょっと傷ついた心を癒そうかな、そんなノリで来ただけなんだよ。
それを何だい?
ゲートのトラブルだか何だか知らないけれども、
なんだってエリスタリアなんかに飛ばされなきゃならないんだ。
これはもう、試練ですよ。ねえ、そこん所どうなのトゲオ君」
僕は散々に愚痴りながら目の前にいる鉢植えのサボテンに話しかけた。
この説明だけだと僕は随分と寂しく暗い人生を送っている男にしか見えないが、
実際にはそのサボテンはしゃべる。
「相変わらずうるさい男だねお前も。(ポリポリ)
だからこうやってツアー会社自ら出張って
君をミズハミシマゲートまで送り届けようとしてるじゃないか。(ポリポリ)
イライラしてるのはお腹が空いているからだろう。
ほら、遠慮しないで君も食べなさい。(ポリポリ)」
トゲオ君はひっきりなしに袋から肥料を取り出して食べ続けている。
好意からそれを勧めているように見えるが、これは彼特有のイヤガラセだ。
肥料をニンゲンが嫌がるのを知っているのだ。
しゃべるサボテンを最初に見た時は随分と面食らったものだけれど、
今はもうすっかりと慣れてしまっている自分がいる。
彼はサボテン樹人の・・・なんかやたら長ったらしくて覚えきれない名前の人だ。
覚えられなかったのでトゲオ君と呼ぶことにした。
身長は50cmほどで、地球のサボテンに手と顔をつけたら大体トゲオ君っぽくなる。
「まあまあ、なかなか経験出来る事でもないですからね。
私たち
エルフだって、4カ国全てをまわる事なんてそうそうないですから。
もしかしたら凄くラッキーだったのかもしれませんよ?」
笑顔でそう僕に話しかけてきたのは、エルフのミスターだ。
ミストゥールフォーアなんちゃらかんちゃらとまたやたら長ったらしい名前で
まったく覚えきれなかったのでミスターと呼ぶことにしている。
ちょっと地球ではそうそうお目にかかれない美貌の持ち主で、
細身の体にまるで陶器のような滑らかで白く透き通る肌、そして男だ。
エリスタリアで途方にくれていた時にトゲオ君と一緒に現れた時は、
とうとう僕にも人生の春がやってきたと心底喜んだものだ。だが男だ。
股間のあの絶妙な膨らみ具合は誤魔化せるものではない。
(・・・もうすぐ今日の目的地に到着しますよ)
ふわふわとか細くテレパシーのように脳に響く声が聞こえた。
運転係りの、闇精霊のゆりしーの声だ。
もうおわかりかと思うが、やっぱりまったく覚えきれなかったから
頭文字だけあわせて勝手にゆりしーと呼んでいる。
精霊には性別が無いというゆりしーの話だが、強いて言うなら男だそうだ。
つまり、男4人で馬車に乗って旅をしている。・・・むさい。
「やっぱりゆりしーは仕事が出来るねぇ」
(・・・ありがとうございます)
「それと比べるとだね。
トゲオ君なんてもう昨日からずっと食べてばかりじゃないか。
君は一体何をそんなに嬉しそうに食べ続けているんだ。
ちょっと見せてみなさいよ」
僕はトゲオ君から肥料の袋を取り上げた。
しかしまったく書いてある内容がわからなかった。
翻訳の加護すら僕を見捨てているってのだろうか。
「春エルフ謹製って書いてあるんですよ」
ミスターから助け舟が出された。へぇ。エルフが作ってんだ。
「まあ分かりやすく言えば、エルフのウンコだ」
トゲオ君から解説も得られた。へぇ。エルフのウンコなんだ。
「ちょっと待ってくれないか。トゲオ君、すると君はなんだい?
エルフのウンコなんてものを昨日からずっと食べてたってのかい。
サラっと恐ろしい事を言うもんじゃないよ。
どうなってるんだいこの国は」
僕の困惑をよそに、二人は実に平然とした様子だった。
「ちゃんと食用に加工してますよ。それ」
「さすがにケツに口つけて食べようとは思わないよ。無作法すぎるからな」
おー・・・来たよ。異世界とのギャップが来たよ。
思えばミスターが夕食時に土を調理して食べ始めたのにも驚かされたものだが、
今回の衝撃はそれを楽に上回るものがあるね。
ゆりしーもあんな可愛いナリして時々鬼の形相で何かを食べてる時があるし。
エリスタリア怖いわ。