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【門開】

 今は昔。

「此処より西、ルミコープ大河の河川沿い。 そこに宮をひとつ建てましょう」
 後の世に「占星王」と呼ばれることとなる、カー・ヴァルチェの発言はいつだって唐突であった。
 遥か古の時代に「武王」ハグレッキが持ち帰った邪龍王マルドラークの頭蓋を王の座直上に掲げた、広き議会場。 その中央に据えられた砂漠大地図に立ったカー・ヴァルチェは、その宮を建てるべき一点を指し示す。
「何故に斯様な場に宮が必要なのか、その由をお聞かせ願いたい。 但し、『星の導き故に』という曖昧な理では、三度は人も金も動かせませんぞ」
 国庫管理局長が、静かに、だが確実に怒気を孕む言葉尻で問う。
 それも当然のことである。
 第一に、カー・ヴァルチェが指し示した場所に宮を建てる必然性がない。 近隣には政治的にも宗教的にも、民生的にも宮を必要とする理由が発生しうる要因がない。
 第二に、人的資源も物的資源も、そして金も無限にあるわけではない。 必然性のない施設の建立に必要なあらゆる資材と資財を目算で弾き出すだけでも、他の国策に充てるべきという判断が容易に立つ。
 第三に、先にも明らかに使途が不明瞭な施設(それもまるで墓としか思えないような)を思いつきのような発言で建立させられたばかりだ。
 まるで思い付きであるかのような発言から始まった施策により、王都と大河が繋がり通商としても民生としても王都はさらに拡充されたわけだが、同様の効果を期待して乗った先の施策は、意味不明な施設の建立という形で決着しただけであった。

「さぁ、我々にも納得できる理由をご提示頂きたいものですな、カー・ラ・ムール。 それとも・・・ご自身の財にて人を募りますかな?」
 事ここに極まれり、という顔で、国庫管理局長はカー・ヴァルチェを見やる。
「私の私財で募るという前提ならば、人を募る御助力はして頂ける、という認識で宜しいでしょうか」
「人員募集にかかる経費まで出すのであれば、勘案致しますが?」
「そうですか。 では」
 カー・ヴァルチェは左肩にそっと何事か呟き、そして右手を揮う。
「これだけあれば、十分でしょうか」
 並の猫人青年男性の体格ほどもある、巨大かつ高純度の日長石《ヘリオライト》が、カー・ヴァルチェの右手に現れる。
「わたくし、こう見えてもカー・ラ・ムールですの。 お忘れで御座いまして? それはそれは御転婆でしたのよ、わたくし」
 国庫管理局長としても、目の前に正規のラインで取引するだけでも十分に石造りの宮をひとつ建てるのには問題ない程度の財を提示されてしまっては、二の句を継ぐことが出来ない。
 さらにもう一つ、ほぼ同じ程度サイズと純度の日長石が現出した時、議案は可決を以て通るより他無かった。
「では、仔細は追ってお伝え致しますので。 人員と資財の募集につきましては宜しくお願い致しますね」
「・・・せめて、理由だけはお聞かせ願いたい」
「星の導き故に」
「その『星の導き』のためなら・・・これだけの財も惜しくはないと!?」
「ええ、仰る通り。 私が生き長らえてきたのも、数々の試練を以てこの日拠出するべき玉を手にするに至ったのも、総てはこのため。 そう確信しておりますから」

 その言に偽りなく、使途不明の宮の建立が完遂したのを見届けたまさにその瞬間、カー・ヴァルチェは光と為り、御霊は太陽へと還って逝った。





「ふむ、最近何かにつけて、髭がビリビリ震えるのぉ」
 玉座より歩み出た先のテラスで、城下を見ながらカー・ブラークマが呟く。
「どうしたの、おとうさま」
 爺と孫ほど年も離れた、まだ十にもならぬ娘、ネネに問いかけられたカー・ブラークマだが、
「さぁ、こればかりは分からぬ。 先日クウリ殿とお会いしたが、何かしら『氣』の乱れのようなものを感じておると申しておった」
 今はそう答えるしか出来ない位の状況しか把握出来ていなかった。

 それから数日後。
 11の国にひとつずつ、11の箇所で今までに見たこともないような衝撃と発光、神気の発露が発生する。
 ラ・ムールとしても、光点の方角から箇所を割り出してみれば
「まさか・・・『占星王』はこの事態を予見しておられた、とでも言うのか・・・!?」
 神官長の発言に、緊急招集された議会は凍りつく。
 占星王の二大愚策と呼ばれた使途不明施設のうち、神殺王の墳墓となったとされる「蜃気楼王墓」ではない方、がらんどうで半ば朽ちかけた宮。 まさにその宮こそが、光点の出所そのものであった。
「かの占星王の先見の明については、別の機会に識者に確認させればよかろう。 それより、今はその光点、宮で何が起こったかが重要じゃ。 検視に遣わせた者の報告は」
「それが、まだ戻っておりませぬ。 選りすぐりの早駆けを遣わせたので、そろそろ戻ってもおかしくはないのですが」
 検視の者が戻り自体が把握できるまで事態に関する結論を出すことが出来ない以上、議会は一時中断となる。
 その折、カー・ブラークマは左肩に佇む、自分以外には誰にも見えない神霊コロナに話しかける。
「のうコロちゃんや。 コロちゃんはこの事態について、上からは何も聞いておらぬのか?」
<父祖ラー様よりお伺いしてはおりますが、カー・ブラークマにお知らせする由が、今は御座いませぬ。 これも試練で御座います故>
「ほっほ、試練か。 相変わらず、何時ポックリ逝くとも知れぬ老体に鞭打つのが好きよのぉ」
<試練の前に齢など無価値に御座いますれば。 生きとし生ける総てのモノの魂は、総て在る限り試練に捧げられるべきに御座います>
「そうであった、そうであったのぉ。 そろそろ次の王の目の担い手の元へ往くべき頃合だが、今時の若者にはその理屈は受け入れられぬかも知れぬぞ?」
<受け入れられなかろうと、試練とは天地開闢の時より定められた絶対の真理に御座いますれば。 ヒトの意思や思想を遥かに超えた所に試練は有ります故、次代の王にも当然ながら試練は課されましょうな>
「次の未来王は苦労しそうじゃの」
 そんな話をしていた所に、けたたましい騒音と共に議場の扉が開かれる。
「神聖なる議場に何事か!」
「議会の・・・最中、申し訳ございま・・・せ、ぬ」
 飛び込んできた駝鳥人には、矢で射かけられたのに似ているが違う傷跡が各所に見て取れ、かなりの重傷であった。
 彼を使わせた機動兵団の部隊長が、彼に駆け寄り、立つのも
「その傷は・・・何があった! いや、今はいい、休め」
「御心遣いだけ、頂ければ・・・十分に御座います。 それよりも、今は」
「・・・何を見てきた?」
「光の柱は、大河にほど近い・・・朽ちた神殿にて、起こっておりました」
「そうか、それで?」
「我々はそこに近づきましたが・・・神殿からは、猿人に似た、見たことも、ない、装束と、武具と思しき物と」
「猿人・・・なぜそのような所に? 砂漠を越えて神殿に駐留していたとしても」
「否、死に逝く者の他愛事かも、知れませぬが、あれは、この世の、ものでは」
「何を言う! おい、すぐに医師と薬師をここに寄越せ! 話はそれからだ!」
「隊長、医師も薬師も、待てませぬ・・・奴らが持つ鉄の筒と、自走する鉄の箱・・・途轍もない脅威に御座います。 どうか、御用心を・・・」
「おい! まだ聞きたいことはある! 眼を開け!」
 部隊長は駝鳥人に激しく声を掛けるが
「・・・スライ部隊長、もう良い。 彼を休ませてやれ。 それだけの傷を負いながら、ここまで走ってきたのだ。 そうでなくとも、彼らには緊急で国の今後に関わるかもしれぬ大事への出動を命じたのだ。 少しくらい早めに休暇をやっても、罰は当たるまい」
「団長・・・心得、ました・・・」
 豹人スライの固く握りしめた拳が議場の床を叩き、乾いた音と共に軽い亀裂が床に走る。 三人向かわせた検視が二人戻らず、一人が今ここで天に帰った事実が、その場で何があったかを理解するに十分な材料であった。

「儂が向かおう」
 カー・ブラークマの発言が、議場を激震させる。
「家族にも等しき我が国の民が犠牲になった。 故に、儂は座して皆の戻りをここで待つことなど出来ぬ。 世界各地で同様の現象が確認されておるこの事態、これほどの規模で世界に関与できるとなれば・・・神の御業とも判断出来よう」
「御言葉ですが、カー・ラ・ムール! 王自ら何があるかも分からぬ地に赴くなど!」
 法務騎兵団長が真っ先に声を荒げ、カー・ブラークマを制止しようとするが、
「もし真に神の御業が絡んでおるとなれば、神よりこの左目を授かった儂にしか出来ぬことも有ろう。 それとも、儂の他に神と直接相対するだけの度胸がある試練好きはおるか?」
 こう言われてしまえば、議会は黙るより他無くなってしまった。
「では、事は急を要する故、儂は先に出る。 各員、後から人員を揃えて来られたし。 以上、緊急議会は解散じゃ」
 カー・ブラークマが議場を去るのに合わせて、議場の各員が属する組織でどう動くべきかを模索し、慌ただしく持ち場に戻り始める。

「御父様、一体何が起こったのですか?」
「案ずるでないぞ、ネネ。 さて、儂はこれから出かけてくるからの、早く寝るのじゃぞ」
「危ないことは・・・なさいませんよね?」
「安心せい、ネネ。 すぐに帰ってくるからな」
 ネネの頭を優しく撫でて、カー・ブラークマは西へ向けて単身走り出す。


「成程のぉ・・・猿人に似た見たこともない装束、鉄の箱、そういうことか」
 件の光柱を放った神殿の周囲が伺える砂山に身を潜め、カー・ブラークマは様子を伺う。
 神殿の周りには、何処から来たとも知れぬ者たちが、昼間の如くに輝く原理不明の明かりで照らし出し、聞いたこともない言語で何やら話し合いをしている様子が見て取れた。
「しかし、何処から来た者かの、彼らは」
<あの宮の中に、門が御座います。 この地のいずれでもない、この世のどこでもない大地と繋がる門。 それを通り、彼らは<向こう側>の大地から訪れたので御座います>
 発せられた神霊コロナの言葉だが、カー・ブラークマとしては、今神殿の周りに滞在する者たちが持つ総てが常識から外れていることからして、その位突拍子もない方が自然に聞こえていた。
「アレと同じ門が他国にもある、ということか」
<左様に御座いますれば>


「ぢゃっぢゃ~ん! はろはろ~! はっずぃめまして余所の世界の皆様ってうっわさっむ! 雪しかないし! そして誰も居ないし!」
 異界で「南極」と呼ばれる極寒の地の只中に、一人の死神が眩く光り輝く門を背に、たった一人立ち尽くしていた。
「ボクが発案したんだぞぉ! なんでこんな一番ハズレっぽい出口を引かなきゃいけないのさぁ! ちっくしょ~! こうなったらお土産代わりにこの氷掘って持って帰ってやる!」
 死神はせめてもの思い出に甲子園の土を持って帰る高校球児たちの心境で、足元の氷雪を掘り始める。
「どうせならこれで氷菓子でも作ればサミュラも喜ぶかな? ・・・っと、何だろコレ?」
「てけり・り?」
 あちら側の変なモノと、こちら側の変なモノが巡り合った、誰も知らない歴史的瞬間であった。

「たっだいむぁー!」
「お帰りなさいモルテ様。 〈向こう側〉は如何でしたか?」
「聞いてよサミュラー、せっかく行ってきたのに向こうっては氷と雪しかないんだぜー? ドニーのどっかに繋がったのかと思ったよー」
「どころで、そちらの緑の方は?」
「むい、ふんぐす、ふたぐん」
「掘ってたら出てきた。 だから持って帰ってきた!」
「返して来てください」
「えー? なんでー? こんなにカワイイのにー!」
「ら! ら!」
 機動骸殻城塞 風雲モルテ城は、二つの世界が繋がった日もいつも通り賑やかであった。


「ふむ、言葉の意味は分からぬが、彼らも少なくとも知性の無い蛮族野獣の類ではなかろう。 ならば・・・少々手荒いが、今我々には受け入れる余地が無いことを伝えて、一度お帰り願おう」
 議会を始めた折には昼の口、王城を飛び出した時には宵も折り返しを過ぎた頃であったが、間も無く夜が明けようかと言う頃合に差し掛かっていた。
 砂漠を陽光が照らしだすのに合わせ、カー・ブラークマは立ち上がり、コロナ曰く異界に繋がる門があるという神殿へと歩き出す。

 恐らくは何者だと制止する声が聞こえ、鉄の筒が差し向けられる。
「ふむ・・・どうしたものかの」
 カー・ブラークマが意志疎通の方法を思案した瞬間、目の前の恐らくは兵卒と思しき物が持つ鉄の筒から炸裂音が響く。
「・・・矢とはまるで違う物じゃの。 それにこの速さ。 成程、健脚で慣らした者たちが射抜かれるわけだ」
 抜き放った獅子牙《ジンガ・ブレザ》により飛翔した物体を叩き斬り落としたカー・ブラークマは、砂地に埋もれた小さな鉄片を見やる。
 すると、鉄の筒からはさらに小さな鉄片が炸裂音を伴い飛びかかる。
「貴殿らの文化風習では、これが挨拶ということか?」
 さらに抜き放った太陽牙《ゾン・ブレザ》と共に、双の光刃で飛びかかる鉄片の悉くを打ち落とす。
「そろそろ城に置いてきた兵たちが来るころじゃの。 では・・・済まぬが、今しばらくは付き合ってもらうぞ、異界よりの来客よ」
 カー・ブラークマが一歩踏み出すと、凄まじい勢いで爆音が神殿の周囲、異界からの客を閉じ込めるように、火炎熱風の障壁が巻き起こる。
「流石にこの老体に、この技は堪えるのぉ・・・かつて占星王は、この宮を建立させるために生きてきたと仰られたが、さしずめ儂は、今この時彼らを迎えるために生かされておったのかもな」

 爆炎を背に、両手に輝く刃を携え、マシンガンの斉射はおろか戦車砲すら叩き落し迫りくる、たった一匹の見るからに老体の、二本足で歩く猫。
 砂漠の最中に突如現れた巨大なゲートを越え、異界の地に足を踏み入れた中東某国軍の臨時本陣は、理解しがたい状況に困惑していた。
 そこに、唐突に、脳内に直接声が響く。
<手荒な真似をして申し訳ない。 儂はこの砂漠の統治を預かる王、ブラークマと申す者。 皆々様同様、我らもかの門の突然の開門について理解が追いついていないのが現状である故に、これだけの恐らくは貴殿らの世界の軍なのであろうが、これだけの武装の手勢が最初に来られては歓迎のし様もない。 故に・・・今ひとたびは、お帰り願えないだろうか>
 何事かとどよめく本陣に、さらに声が響く
<外の障壁は、同胞を射殺され熱くなっておる我が国の者と貴殿らを会わせぬようにするため、そして貴殿らが持つ鉄の筒から放たれるものを我が国の者から護る為に、儂の力で起こしているもの。 近づかなければ害を与えるものではない。 どうだろう、今は一度引いて頂いて、折を見て矛を交える事無く話し合える場を設けたいのだが、如何か>
 目の前に繰り広げられている光景をただ一人の老猫が為しているという事実、それは撤退を決め込むのに十分なだけの判断材料となった。

「ふぅ、やれやれ・・・これは大変なことになったようだの。 戻り次第、クウリ殿やオトヒメ殿らとも話をしてみないといかんな」
 異界からの来訪者が皆立ち去ったのを確認し、火炎熱風の障壁を霧散させたカー・ブラークマは、やはり仇討を望み血気立っていた機動兵団に、直ちに駐屯部隊の編制と非該当者の帰還を促し、王都への帰路につくことにした。

 時は、異界の暦で1991年。 今まで出会うはずの無かった二つの世界が交わった最初の年として、双方の歴史に深く刻まれる年となった。


 それから9年。 異界では2000年となり、ニューミレニアムの到来に湧いている頃。
 神の気紛れで開かれた「大ゲート」により二つの世界にもたらされた騒動。
 ラ・ムールゲートにあっては、時折ゲートを潜る某国軍やそれとは異なる軍隊らを、時に穏便に、時に苛烈に、必要に応じて王自らが出向くことで沈静化を図っていた。
 事あるごとに駐屯部隊の陣を表敬訪問したカー・ブラークマは常々、
「禍根は有ろう。 当然のことじゃ。 儂とて家族を、友を、無為な悪射で奪われたという気持ちは当然ある。 それについて、儂は『水に流せ』と言うつもりはない。 じゃが、ここで儂らも新たなる来訪者へ矛を向けてしまえば、差し向けた矛を収めることは出来なくなるかも知れん」
 そう言い伝え、駐屯部隊に報復行為と称した武力行使を行わぬよう、厳しく制した。
 異界からの訪問者側から発砲されることで緊張感が高まることも幾度もあったが、結果的にカー・ブラークマが徹底させた姿勢を貫き通したことが功を奏し、また初の異界邂逅以降、度々カー・ブラークマ自信が矢面に立ち渉外に務めたこともあり、異界から武力を伴う来訪の頻度は少なくなっていった。

 そんな動乱も講和の席が持たれたことでひとまずの落ち着きを見せた、ある日のこと。
 いつかのようにテラスから城下を見つめるカー・ブラークマの下に、ネネと彼女の養育係を務めるガデリア、法務騎兵団長と機動兵団長が集まる。
「ふむ、忙しい中よく来てくれたの」
 今この瞬間に呼び集められた理由を図りかねる一同へ、カー・ブラークマは言を続ける。
「さて・・・急な話で申し訳ないのだが、取り急ぎ議会を招集し、ネネの補佐役を取り決めてもらいたい」
「は・・・?」
「ネネよ、次の王は、儂の予感では儂にも想像つかんような試練に巻き込まれるじゃろう。 恐らくは、『門開』を経て新たな姿を見せたこの世界の総てをその脚で歩き、その目で世界の姿を見てくるような、な。 そこの座に就く未来王のために、たくさん勉強するのじゃぞ」
「御父様、どうしたの・・・?」
「王よ! まだ御健勝であらせられるというのに、何故そのような! 先日も百まで生きるなどと申していたばかりではないですか!」
「自分のことは自分が一番良く分かっておる。 それに、新たな節目を越えたこの世界で、古き世界の王が果たせる役目は終わったのじゃよ。 <向こう側>は本年で暦を刻み始めて二千年目という節目だという。 こちらも世界の新たな開闢、向こうも新たな世界世代の生まれる頃合。 新世界の王には、新世界で生まれ育った者こそが相応しい。 ではな、太陽の生命連環の中で再びまみえる時まで、暫しの別れじゃ」
 臣下や娘にそれだけ言い残し、別れを惜しむ声にも泣声にも振り返ることなく。
 『門開王』ブラークマ=カー・ラ・ムールは、まるでそこに元々誰も居なかったかのように、静かに陽光の中へと還って逝った。



「只今戻りまして御座いますれば!」
 至高の神器たる虎目石と王の指輪を携え、神霊コロナが神の座へと帰還するが、そこには双子の神霊フレアが捺印作業をしている光景しかない。
「して、ラー様は何処に?」
「あちらで『げぇむ』に興じて御座います」
「げぇむ・・・とは何ぞや?」
「異界に広く伝わる遊戯よ。 他の『ゲート』から紛れ込んだ来客より巻き上げた折、たいそう気に入られたそうで」
「で、フレアは何してるの?」
「見れば分かるでしょう? 異界人の渡航書類に判を捺しているのよ」
「ふぅん・・・さて、次の王の試練をどうするか、お伺いしてこなきゃ」
 コロナはラーが胡座をかいてげぇむとやらに興じているところへ向かい、お伺いを立てる。
 だが、コロナに向けてラーが発したのは
「試練だ。 次の代行者の下に到着後直ちに、いかな手段でも構わないので生命の危機に晒せ」
 ただそれだけであった。
 コロナが未来王の下へ旅立つ時、ラーの右の瞳には、「おお らーよ しんでしまうとは なさけない」という赤い文字と▽の明滅が映っていた。



 それから10年後。
 世間は門開10年目の記念を祝う、大ゲート祭で賑わっている。
 特にラ・ムールでは、ルァ・プローヴァと月を同じくする陽月にもう一つの祭事が加わることとなり、初回となる今回は2回目以降に比べ(それでも盛況なのだが)格別の騒ぎとなっていた。
 外の喧騒とは打って変わって、人気も無く静まり返る王城。
 その中枢にある玉座は、主の座すべき時を、静かに待つばかりである。

「砂漠と異界との交流のために魂の総てを熱く燃やした、偉大なる『門開王』に乾杯、ってとこかな」
 玉座に向けて捧げられた杯。 献杯の主には、杯が交わされる音がしたように聞こえた気がした。





  • 放っておいても勝手に時は流れるように思えても裏側でいろんな人が動いているのが分かる一本 -- (tosy) 2012-10-15 13:25:04
  • やっぱりラムールはドッカンとインパクトのある金銀財宝がよく似合う -- (とっしー) 2012-10-16 02:10:54
  • 国の繁栄とかやっぱりトップの器や資質が大きいなと実感する -- (としあき) 2012-10-21 16:17:38
  • 占星王や門開王と同じく諸国遍歴中の次なる王も一定の歴史上の役割とそれに見合う資質を神から与えられているのだろう。当の神々は下界の人間達の運命には一切頓着していないようだが・・・ -- (名無しさん) 2012-10-30 20:55:00
  • 位の高い人物が多く登場するだけでなく雰囲気や会話もそれにそったつくりでおごそか。異世界の変わった魂のあり方も面白い -- (名無しさん) 2013-02-16 18:08:35
  • 未来王関連で登場する色んな名前は分かりやすさと雰囲気があっていいですね。大ゲート開放のための準備は神々のやんわりとした手腕によって進められていた?なにはともわれ神も民も今の世の中を楽しんでいるようでなによりですね -- (名無しさん) 2015-03-02 23:37:32
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最終更新:2013年03月28日 19:42