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飛龍の槍・本編01

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「嘴にエネルギー来てないよー!」「バーニアの供給パイプどこやったぁ~?」
「右爪はBパーツだろうがッこのダボがッ!!」「接続シミュレータ次だれ!?」
蒼穹とかいうあの美しい鷲も嘴と爪がなくては惨めなものだな、と思う。
暇だ。
他の大空パイロットは接続シークエンスのシミュレーションしてるし、整備の人たちは蒼穹に飛龍の槍を忙しく取り付けている。
ブリッジ要員はシステムエラーがないか今から探し初めてるし、雷砂も飛龍の槍で増えた何とかってビーム砲の照準調整にかかりっきり。
ザバー隊は特別警戒でひっきりなしにとびかってる。
大空パイロットでもサポート役の私は、接続中は敵を近づかないように射撃するだけ。つまりシミュレーションの必要ほぼなし。
つまり―――やることが何もない。
「ねえ、何か手伝えることないかしら?」
(たぶん20時間ぶりくらいに)休憩を取って昼食とコーヒーをとる整備長、風に新しい手袋を渡しながら聞く。
遠くから「雷砂、浮気だわ!」とか「風様に気安く声かけるな!」とか聞こえるけど無視。そんなんじゃないし。

「丁度いい。今晩の見張りを頼む」
「見張り?」
「今晩は槍状態で保存だからな。狙われやすい」
「了解。じゃあ今は休んでおくわ」
「お前用のザバーを整備させておく。後で試せ」
そう言って、どこまでも愛想のない彼女は去っていった。


「安うけあいするんじゃなかったわ……」
結局、あのあとは調整やら慣熟飛行やらで他の人と同じスケジュールをこなして、
眠い目をこすりながら見張りをすることになってしまった。
まぶたが重い。今にも眠ってしまいそう。
「暇だわ……」
意識して声をだしてみる。このままじゃまずいな。少し壁打ちでもしよう。ラケットとボール……
「ザバーのテニス・ドゥエチルアーを使うわけにもいかないわね」

本当に面白い。この2機の特徴をよく表している。
そもそも大空は、根本的にはザバーと同じ一人乗りの機体だ。その大空が5人で運用されるのは素人のパイロットでも専門家以上の性能を引き出すため。
この聖マリア女学院は幼いころから英才教育を受けたお嬢様や努力と才能でそれにくらいつく生徒がごろごろしている。
そのため、桜ちゃんや銃剣のような万能に何でも出来る人もいる一方で、
鳳のように空間把握能力だけが飛び抜けて凄い人や撃中止のようにアフリカ人以上の視力を持つ人もいる。
前者は一人でも一通り操縦できるからザバー向きだ。
高性能機を自分向きにカスタムし戦うことができる。だが、結局はプロにはかなわない。
一方で、後者はそれぞれの能力を活かすにはお互いのフォローが不可欠で、大空向きだ。
鳳なら大量の敵を同時に攻撃して破壊する能力はプロ以上だが、近接戦に持ち込まれたら確実に撃墜される。その為極ちゃんの近接能力が必要となる。
もちろん、それは銃剣や私のような万能型による下地の上に成り立つのだが。つまり大空は2+3=5の5人乗りだ。
それぞれの能力の先端を取り出し、一つのものとする。きっと一人が抜けても大空は真の性能を発揮できない。

「ロッカーまでとりに行こう」
思考が暴走し始めたのでラケットを取りに行くことにする。
明るい工場から、夜の闇へと一歩だけ踏み出す。背中にあたる光が恋しい。ここからロッカーのある部室までは200m。たいして長い距離じゃないけど、でも私にとっては42.195kmにも等しい長さだ。
「おばけなんてないさ、おばけなんて、うっそ、さ……」まず呪文を唱える。
次にネックレスについた十字架を服の外に出す。
さらにパン、と手を叩いて「何もいませんように……」としっかりお祈りする。
次に右手の薬指、第2関節をよくもんで霊感を弱める。
「よし、いくぞっ」少し強めに囁く。
1歩、2歩……確実に歩を進める。「大丈夫、おばけなんかいない」しっかり自分にいい聞かせて歩く。
―――ガサッ!
「きゃぁっ!」
茂みで音がした。おばけ!?
「どうせネズミでしょう?私にはわかっていてよ。おばけなんてこの世界にいるはずがないもの」
威嚇してみる。
反応はない。
風で草の擦れる音がする。
暗い校庭の中、一人で身構えている私。
自分がむなしくなってきた。
さっさと歩を進め、部室の鍵を開けてラケットとボールを取り出し、再び鍵をしめる。
また暗闇の中に一人だ。
「雷砂ぁ……」
来るはずのない助けを呼んでみる。でも時々、本当にあらわれるから油断できない。
先ほど通じなかったおまじないにかわる新しいおまじないを考えながら工場へもどる。
こういったことを考えながら歩けば早いのだ。
工場に着く。何かをやり遂げた快感。とっくに眠気はない。
「さ、打とう……」
壁打ちを始める。200回ごとに休憩するメニューでいこう。
200回打つ。タオルで汗を拭き、ふと上を見上げる。
飛龍の槍がない。
―――やられた!


「―――と、いうことです。以上で昨晩の報告を終了します」
つとめて冷静に、大空パイロットだけには昨晩起こったことを報告する。
結局ザバーのレーダーで敵機を発見することはできず、飛龍の槍を失い、大空も中破という結果に終わった。
大失態だ。
「学院のセキュリティに気づかれず入るほどの相手だもの。グレースちゃんが気に負うことはないわ」しばらくの沈黙の後で、銃剣が口を開いた。
―――つまり最初から私なんてアテにしていなかったと言いたいのか。
「そうアルよ。レイナの言う通りアル」
―――こいつもだ。
「幸い槍のほうの発信機は電波を出していますし、大空の修理が終わったらみんなで探しに行きましょう」
「そうね。少しあぶりだせば簡単に見つかりますし……」
「メリスピ、怖いアルよ」
―――私を無視して話をすすめるな!

きっと、もう私なんて必要だともおもわれてないんだ。
信頼を築くのは苦労が必要。そして、それを崩すのは一瞬。母様の言葉が重くのしかかる。
こんなところになんか、いたくない……
「曙さん!どこに行かれるのですか!」
「命ちゃん、今は一人にさせてあげよう。傷ついているときは一人にしてあげるのが一番だよ」
「そうね、その後で慰めて差し上げましょう」
言葉がとおりぬけていく。
かのじょたちの言葉をしんじられない。そしてなにより自分をしんじていられない。


先輩が会議室を出てきたときの顔は、一生忘れられないな、と思った。
いつもの澄ました顔。テニスで勝ったときの少しだけ自慢げな澄ました顔。
私が抱きついたときの少し恥ずかしがっている澄ました顔。
朝の少し寝ぼけて髪がボサボサなのに、それでも澄ました顔。
あの頑張り屋な先輩の顔じゃない、寂しい、暗い顔をしていた。
―――声をかけなきゃ。
先輩のために私が今できるのは、声をかけること。一人じゃないって教えてあげること。
でも、どうやって声をかけよう……

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