0403:愛をとりもどせ!!


 ――やっぱりだ。やっぱりこういう結果になった。
 あれだけ大層な口を叩いておきながら、ケンシロウはDIOに敗北した。
 所詮、人間が吸血鬼を倒すことなどは不可能。
 勝者こそ真実。敗者こそ偽り。
 やっぱり、私は間違っていなかった。私の『愛』は、正しかったのだ。
 このままDIOが勝ち進み、優勝する。
 そして、西野さんは生き返って私は死んで、真中君と一緒。
 こんな平和な解決方法が、他にある?
 西野さんは真中君のことを忘れて私に生きろって言うけれど――それはやっぱり間違っている。
 私にはもう、生きる資格なんてものはないのだから。
 だからせめて、私が迷惑を掛けてしまった強敵(とも)には、生きてもらおうと――


 恋する少女は盲目で、友達の声も聞こえない。
 自分の『愛』を絶対だと信じ、それ以外の『愛』を否定する。正に、盲目。
 東城綾は、盲目なまでに、恋をしているのだ。

「……西野さんも、ケンシロウさんも、みんな、『愛』を履き違えてる」

 好きな人みんなに幸せになってほしい。
 その一念こそが、『愛』ではないか。


  ♪


「あ、ア――――ッ!?」

 そこはいったい、どういった世界なのか。
 名で表せば、それこそ無限大のバリエーションがある。
 天界、霊界、あの世、地獄、超人墓場etc……
 分かるのは、そこが『世界から外れた世界』であるということ。
 その片隅で、黒尽くめのボディを持った男が一人、モニター越しに焦りの混じった叫びを上げていた。

「け、ケンシロウが負けてしまったァーーー!!」

 その男の名は、人呼んでファイティングコンピュータ・ウォーズマン。
 生前、ケンシロウと魂震わす激闘を繰り広げ、誇らしく散っていた戦士である。

「この俺の『氷の精神』を利用し、多数の参加者を苦しめた男……
 DIOほどの悪党を倒せるのは、ケンシロウしかいないと思っていたのにーッ!」

 苦悶しながらも、ウォーズマンはモニターから目を離してはいなかった。
 スクラップと化した護送車は、未だケンシロウの亡骸を覆って映さない。

「い、いや、まだだ! ケンシロウほどの男なら、きっとまた立ち上がる! 奴と直に拳を合わせた俺が言うんだ、間違いない!
 俺はお前にエールを送り続けるぞ――ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ!」

 既に退場してしまった男が、今正に退場していこうとする男を応援する。
 その声援が届くことは決してないが、或いは、奇跡が起きることがあるかもしれない。
 DIOという手の余る悪を倒すには、魂ある拳の制裁が必要だ。
 それを下せるのは、北斗神拳継承者であるケンシロウしかいない。
 ウォーズマンは、そう信じて疑わなかった――


  ♪


 『ウヌには北斗七星の脇に輝く、あの星が見えているか?』

 ――見える。見えるぞラオウ……

 薄れゆく意識の中、ケンシロウは死の片鱗を感じていた。
 圧倒的な圧力に屈服しながらも、未だ脳は活動をやめず、心臓も動き続けている。
 タフな生命力、と言ってしまえばそれまでだが、彼を生かし続けている要因は、いったいなんなのか。
 DIOに対する怒り、DIOを始末せねばならないという義務、
 止めなければならない少女、迎えに行かなければならない少年、協力しなければならない仲間達――
 やるべきこと、やらねばならぬことは、まだ結構残っているではないか。

 『ケンシロウ……ウヌは、この拳王に唯一膝を突かせた男。帝王などと名乗る斯様な小僧に負けることは、絶対に許さん』

 ――強敵(とも)よ、この俺に、まだ死ぬなというのか。

 幻聴は、走馬灯のように駆け抜ける。
 今までにケンシロウが拳を突きつけてきた、数々の男達。
 その勇士が蘇るごとに、ケンシロウの闘志は再燃し、奮い立たせる。

 北斗神拳とは、即ち『愛』。
 北斗神拳が敗北するその時、『愛』は崩れ去る。

 ――俺はまだ、東城綾に『愛』を叩きこんでいない。

 魂を燃やし、教えてやらねば。
 想い人であるユリアを『愛』し、強敵(とも)であるラオウを『愛』した、あの素晴らしい感情の真意を――


  ♪


「も、燃えているッ!!?」

 そのあまりの熱と衝撃に、護送車は破片を巻き散らしながら燃え、飛んでいく。
 DIO、そして綾も、その映像が信じられず、夢か幻影の類だろうと思い込んだ。
 しかし、これは現実。
 護送車の残骸から帰還し、微かな炎を帯びた大地に立っているのは、光り輝く鎧を着込んだ男。

 不死鳥の如く蘇った、ケンシロウ。

「……言ったはずだDIO。俺は、貴様から全てを奪い取ると」

 安心、生命、東城綾。姑息な悪党に残すべきものはなにもない。
 炎の復活を遂げたケンシロウは、未だ死なず。
 なおも、DIOの障害として立ち塞がる。

「俺を倒したいなら、貴様自身の拳で、魂を叩き込んで向かって来い。そうでなければ、俺は倒せん!」

 一歩、DIOに歩み寄る。
 幽鬼の如く近づくケンシロウに、DIOは後ずさることさえしなかったものの、確かに威圧されていた。
 それ自体ありえないこと。恐怖や不安などという概念は、とうの昔に超越している。
 DIOが恐れるものなど、何も存在しない。

「……護送車でも『ザ・ワールド』でもなく、このDIO自身の拳で来いというのか……面白い!
 だがケンシロウ、これだけは心得ておけ!
 人間を超越した存在であるこのDIOの拳が――既にモンキーに耐えられる次元の威力ではないということをなぁ!」

 DIOは恐れず、前に進む。
 スタンドを消し、自らのフットワークと怪力を使って、ケンシロウを全力で殴りにかかった。


 ――この人は、なんで。

 突き進むDIOの後方、静観を続けていた綾は、妙な気持ちに全身を蝕まれていた。
 ケンシロウは何故諦めない。何故倒れない。何故敗北を認めない。
 分からない。理解できない。DIOの方が上だというのは明白なのに。
 それが分からないほど、お馬鹿なモンキーなのだろうか。
 自分の『愛』が間違っていると、何故気づけないのか。
 なんで――


 一瞬で間合いまで接近したDIOが、スウェーを駆使しながらケンシロウの顔面目掛けて拳を振るう。

「見せてやるぞ、ゴロツキどもがやる貧民街ブース・ボクシングの技巧をな!」

 バキッ、鈍い音が響く。
 コンクリートをも容易く破壊する吸血鬼の攻撃を、顔面からモロに喰らったのだ。
 当然、骨は砕け脳はグチャグチャに噴出されることだろう。
 顔面に一撃。この一撃だけで、ゲームはDIOの勝利。常識で考えればそう、なのだが。

「んなっ!?」

 確かに顔面で受け止めた。そのはずなのに。
 ケンシロウは、微動だにせずその場に君臨している。

「……これが、貴様の魂を込めた一撃か?」

 骨は折れていない、脳もぶちまけていない、鼻血すら出ていない。
 DIOの拳を正面から受けて、まったくのノーダメージ。

「ぐっ――ありえん!」

 すぐさまケンシロウから距離をとり、体勢を整えるDIO

「このDIOのパンチを受けて、まったくの無傷だとォ!? ありえん、絶対にありえん!」
「貴様の拳など、所詮はこの程度だということだ……」

 DIOの拳をノーガードノーダメージで済ませたケンシロウが、新たに構えを取る。
 今度はケンシロウが攻めに転じる番――そう感じ取ったDIOはそこで初めて、
 凍結させたはずのケンシロウの右腕が、元通りになっていることに気づいた。

(こ、この男……沸騰している!)

 護送車を爆散させ炎を撒き散らしたのは、全てケンシロウの闘気から来る熱が原因だった。
 怒りの感情が、人間であるケンシロウに超常的パワーを与えたとでもいうのか。
 もしくは、彼の纏ったフェニックスの聖衣に何か秘密があるのか。
 DIOが真相を知る術はない。
 目の前の男は、もうDIOを倒すことしか頭にないのだから。


「覚悟しろDIO! 腐りきったその思想ごと……貴様の生命、我が北斗神拳が破壊する!!」
「ありえん! ありえんぞケンシロォォォォォォッ!!!」


 恥を忍んで、あえて認めよう。
 自身を悪の帝王と称し、人間を超越した存在であるDIOは――この時、確かに恐怖心を抱いたのだ。
 目の前に聳える巨大な闘気の塊、その宿主であるケンシロウに対して。


「見よ! 真の北斗神拳を―― 北 斗 剛 掌 波 !! 」


 ケンシロウの翳した掌から、凄まじい闘気の帯が放出される。
 過去にDIOが受けた、かめはめ波にも似た技。
 波紋ともスタンドとも異なる、圧倒的なエネルギーの塊。
 力を超越した『力』が、一直線に伸びる。
 悪の吸血鬼を討ち滅ぼさんと、DIOに襲い掛かる。


「UURYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」


 奇怪な叫び声が上がったのは、ほんの一瞬。


   ♪


 恥の多い生涯を送ってきました。

 自分は、愛しいあの人が死んだ時点で、生きることを放棄しました。
 それでもすぐに死のうとしなかったのは、まだこの世に強敵(とも)がいたから。
 恥を背負って、自分は生きている。
 死んだ人を思い続けて、友達を殺して、歪んだ愛だと罵倒されて。
 間違っているなんて、やっぱり思えない。
 疑問を抱いてしまったら、それまでだから。
 信念って、貫くから強いんだよね。
 夢って、諦めないから叶うんだよね。
 私、もう迷わないよ。
 真中君、西野さん。
 あなた達がどう思おうと――私は、『AYA』として生きることを選ぶ。


   ♪


 微かな火種は既に消滅し、森林内は元の静寂を取り戻しつつあった。
 立ち上る煙と、薙ぎ倒された数々の木。
 男達の戦いがどれほど壮絶であったか、その情景が物語っている。

 だが、戦いはまだ終わりを迎えたわけではない。

「…………DIOは、殺させない」

 ケンシロウの放った北斗剛掌波は、DIOを屠ることができなかった。
 確実に命中したと思われた技は、寸でのところで逸れ、いくつかの大木を薙ぎ倒す結果に終わる。
 DIOが回避したのではない。ケンシロウが、自ら技を外したのだ。

 射線上に、東城綾が乱入したから。

「……それがお前の答えか、綾」
「そう。私は、私の『愛』を貫く。DIOを優勝に導き、西野さんを生き返らせる――
 それが、私が殺してしまった最愛の強敵(とも)への『愛』」

 悪に対しては非情に徹する北斗神拳も、悪でない者には……ただの盲目な恋する少女には、振るうことはできない。
 例えケンシロウと綾の『愛』に対する考えが違ったとしても、それはどちらが『正義』でどちらが『悪』とも言えない。
『愛』に、明確な答えなど用意されていないのだから。

「例え真中君が認めてくれなくても、西野さんが認めてくれなくても……!」

 吸血姫。
 石仮面を被り、破滅の運命を背負った彼女は、それでもDIOとは違った。
 友達を思う、人間らしい感情をその内にまだ宿している。

「私は、自分の『愛』を信じる! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」

 ――この宣言から、ケンシロウは綾に対する認識を改めた。
 彼女はもう、西野つかさの友達などではない。
 DIOという絶対悪に仕える、北斗神拳を振るうに相応しい、一人の『悪』だ。
 ケンシロウもう、AYAを倒すことも厭わない。
 非情に徹し、この二人の吸血鬼を打ち滅ぼす。

「――君の決意、しかと受け止めたぞ」

 発狂したAYAの後方、平静を取り戻した吸血鬼の親玉が、前に躍り出た。
 ケンシロウとDIO。最後の決着をつけるべく、因縁の二人が再度まみえる。

「ならばAYA。ここでもう一度誓ってくれ――このDIOに、永遠の忠誠を誓うと。
 このDIOを絶対に裏切らないという、極上の『安心感』を与えてくれ」

 その言葉に、AYAは跪いての服従のポーズで示した。
 完璧なる意思表明。DIOのカリスマはやはり圧倒的なのだという、瓦解寸前だった自信の再構築。

 ――やはり、このDIOこそ、悪の帝王に相応しい器なのだと。


「もう、茶番はなしだ! このDIO、持てる全ての力を出し尽くし、勝利を掴む!
 ケンシロウ、最後の勝負だッ! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」

「来い、DIOォォォォォッ!!!」


 最後の衝突が始まる。


 最後の輝きを放つフェニックスの聖衣。
 その輝きが、太陽を忌み嫌うDIOへの挑発となる。

「仮定や道筋などはどうでもいい! この能力こそ、誰にも攻略不可能なDIOの力なのだ!」

 3メートル、2メートル、1メートル、互いの距離が近づく。
 その間、発現したDIOのスタンドはおぞましい躍動を見せ、ケンシロウの拳が伸びようとしたその刹那、


「世界(ザ・ワールド)!」


 ――時を、再び止めた。


 拳を突き出したまま、停止した時間の中に取り残されたケンシロウ。
 スタンド使いでもない彼に、この『ザ・ワールド』を打ち破る術はない。

「ケンシロウ、貴様に人間を越えた生命力を与えているのは、おそらくその鎧!
 このDIOに討ち滅ぼせないものはないと、止まった時の中で思い知れぇ――ッ!!」

 ――DIOの世界にて、DIO以外に動ける者なし。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

 一点集中。
 フェニックスの聖衣が当てられたケンシロウの胸部目掛けて、『ザ・ワールド』のラッシュが叩き込まれる。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

 ケンシロウに、抵抗する術はない。
 自身が攻撃を受けているという自覚もないままに、胸を砕かれる。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――ッッ!!!」

 時が再び動き出そうとしたその直前。
『ザ・ワールド』の拳は、フェニックスの聖衣ごとケンシロウの胸を貫いた。


 ――時が、再び動き出す。


「お前はもう、死んでいるぞケンシロォォォォォッッ!!!」


 動き出した時の中でAYAが目にしたのは、胸に風穴を空け、鮮血を垂らすケンシロウの姿だった。

「…………ごっ」

 微かな呻きを漏らし、ケンシロウの巨体が崩れ落ちる。
 DIO、AYA、二人の吸血鬼が見届ける中、男は地に伏したのだった。

 一秒、十秒、静寂の世界が舞い戻る。
 言葉なくその闘争の行く末を見届けたAYAは、DIOの勝利という覆しようのない事実に歓喜し、心を震わせていた。
 勝者こそ真なり。これで、AYAの『愛』が真実だと、ケンシロウの『愛』を凌駕するということが証明された。

「……やった」

 搾り出した声で再度喜びを得ようとしたのは、ケンシロウが倒れて一分が経過した頃だった。
 その一分が、彼に再生の時間を与えた。

「そんな……嘘……?」

 信じられないことに、また立ち上がった。
 人間でありながら、不死鳥の如く羽ばたく男、ケンシロウ。
 その男が、今正に眼前で、

「嘘でしょ――ッ!?」

 再び、蘇った。
 驚くAYAを歯牙にも掛けず、真っ直ぐにDIOを見つめている。


 ――まだ、戦うというのか。
 この人の『愛』は、それほどまでに強いというのか。
 人間を超越した力を『愛』が生み出す――なんて素敵な御伽話。
 でもこれが、北斗神拳の底力だというのだろうか――


「……刻んだぞ、ケンシロウ。貴様と、北斗神拳の名を」

 再度立ち上がったケンシロウは、拳を突き上げようとはしなかった。
 DIOも、消したスタンドを再発動させようとはしなかった。
 その様子に違和感を覚えたAYAは、そこで初めて気づく。

 ケンシロウが、既に死んでいることに。


   ♪


 ――彼が立ち上がったのは、執念の賜物なのかもしれない。
 悪の前で倒れることは許されない、とか。
 最後の最後まで闘志は消さない、とか。
 そんな、男性特有の闘争本能。
 彼を突き動かしたのは、正にそういった感情なのだろう。
 だからDIOも彼に敬意を払い、立ったまま逝かせてあげることにした。

「んん~……イイ! このジョースターの奴等にも似た荘厳なる血の躍動……馴染む! 実によく馴染むぞケンシロウッ!!」

 立ったままDIOに血を吸い尽くされたケンシロウは、それでも誇り高い表情を保ったままだった。
 我が生涯に一片の悔い無し!!――と言わんばかりの満足そうな顔つきは、戦いで散っていった武人の顔なのだろう。

「ンッン~~~~♪ 実に! スガスガしい気分だッ!
 歌でも一つ歌いたいようなイイ気分だ~~~フフフフハハハハ!」

 ケンシロウの血を得たDIOは、さっきとは打って変わってご機嫌だった。
 血が馴染む、というのは私にはよく分からないのだが、そんなにいいものなのだろうか。

「100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ! 絶好調のハレバレした気分はなかったなァ……
 フッフッフッフッフッ、ケンシロウの血のおかげだ! 本当によく馴染む!!
 最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!!」

 ……西野さんの血は、私に馴染んでいるのだろうか。
 少なくとも、私は西野さんの血で最高にハイにはなれない。
 真中君、真中君のだったら……なっちゃうかも。

「――DIO、これからはどうするのですか?」

 食事を終えたDIOに、私が尋ねた。

「うんん~……そうだな、空はまだ曇り、太陽が照らし出す気配は一向にない。
 次なる獲物を探す意味も含めて、ここは一旦アジトへ帰還するかァ」
「彼の亡骸は、どうしますか?」
「そこに置き捨てておけば良かろう。
 このDIO、もはや恐れるものはなにもない……立ち塞がるもの、全て捻じ伏せてやろうじゃないかッ!!」

 素晴らしい。私は単純にそう思った。
 この圧倒的な余裕。そんなに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
 絶対的な安心感。私が望んだもの。私の『愛』が真実であるという安心感。
 DIOが、全部与えてくれた。

「……DIO。私は、貴方に一生付いて行きます」
「ククク……当たり前じゃあないかAYA。このDIOの傍にいれば、何も恐れるものはない。
 西野つかさも、きっと蘇ることができるさ、なぁ……」

 ああ、なんてカリスマ。
 私は、計画成就への確かな手ごたえを感じ、
 これからもDIOに付き従う。

 恋する少女は、盲目なんかじゃない。
 愛する人の嘆きや、友達の声も、全部耳にして。
 それでも尚且つ、私は『吸血鬼AYA』として生きる道を選ぶ。


   ♪


 ――ハー、ハー、

 呼吸を、整えろ。

 ――ハー、ハー、

 今、自分が目にした光景を整理しろ。

 ――ハー、ハー、

 殺されたのは誰だ、殺したのは誰だ。

 ――ハー、ハー、

 ケンシロウ、そして金髪の男。

 ――ハー、ハー、

 熱くなるな。冷静に、先の先を読め。

 ――ハー、ハー、

 よし、状況を再整理だ。

 ――ハー、ハー、

 ケンシロウが、吸血鬼に血を吸われて死んだ。


「……マジ?」

 春野サクラがその光景を目にしたのは、まったくの偶然だった。
 仙道の熱を治めるため、薬になりそうな植物を探しに出て数時間。
 雨が止んだこともあって少し調子に乗ったのか、気づけば琵琶湖から少し離れ、岐阜県の外れに位置する森まで来てしまった。
 多少時間を浪費したが、遠くまで脚を運んだ甲斐あって、薬草は無事入手。
 さぁ帰ろう、と琵琶湖に歩を進めたその瞬間。
 人間のものとは思えない狂った雄叫びと、大音量の戦闘音を耳にしてしまったのだ。

 無論、無視できるはずもない。
 警戒しながら接近を続け、当事者達に接触したのは、全てが終わった頃だった。
 立ったまま微動だにしないでいるのは、愛知県で出会ったケンシロウ。
 ケンシロウに指を突き刺し、不気味に微笑んでいるのは、おそらく彼が『倒さねばならぬ敵』と称していた男。
 サクラはその男について詳しく聞かされていなかったが、次の光景を見て確信した。
 この金髪の男が、『吸血鬼』なる偶像の存在であるということを。

 人の血を吸い、自らの糧とする魔の生物。
 そんなものが実在するのかどうかは、定かではない。
 だが否定は出来ない。現にケンシロウは目の前で干乾び、生気を失ったのだから。
 その異様な光景に恐怖を覚えたサクラは、知り合いが目の前で殺された怒りを必死に内に留め、忍としてクールに立ち回ろうとした。

 DIOとAYAが去った後、呼吸を落ち着かせ、これから成さねばならないことを整理する。
 ケンシロウは、確かに死んでいる。あの逞しかった肉体は、ボロボロに傷つき、血色を失っている。
 哀れに思ったが、今は供養や埋葬をするべき時ではない。
 一番問題なのは、ケンシロウを殺した人物が西――琵琶湖に向かったという事実。
 あそこには、ダメージを負ったアビゲイルに、疲労困憊の仙道と香がいる。
 もし彼等と鉢合わせるようなことが起きれば、激突は必至。もちろん、みんなが無傷で生存なんて結果は望めないだろう。

「……アビゲイルさんに、早く知らせないと」

 結論を出したサクラは、立ち尽くすケンシロウの亡骸に一礼し、その場を駆け出していった。
 まだ生きている仲間を、危機から救うため。
 悲しみに塞ぎこんでいる暇などない。


   ♪


 ケンシロウという名の男がいた。
 北斗神拳という名の暗殺拳があった。
 その事実を知る者は、この世界に僅か数名。
 その中で、北斗神拳に『愛』を覚えた者は、僅かに一名。
 例えその思想が違えど、『愛』貫くという信念に、揺ぎ無し。





【岐阜県南西部/森林/午後】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:体力90パーセント、最高に「ハイ!」な気分
 [装備]:忍具セット(手裏剣×8)@NARUTO
 [道具]:荷物一式×6(五食分と果物を少し消費)
     マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(半壊)
 [思考]:1.琵琶湖の小屋に移動。付近の地形(湖など)を使った戦闘方法を考える。
     2.太陽が隠れる時間を利用し、『狩り』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。

【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、マァムの腕をつけている
 [装備]:双眼鏡
 [道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
 [思考]:1.DIOに絶対の忠誠。DIOの望むままに行動する。
     2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
     3.真中くんと二人で………

【春野サクラ@NARUTO】
 [状態]:ナルトの死によるショック小(悲しんでいる場合ではない)
 [装備]:マルス@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)、薬草
 [思考]:1.アビゲイルに危機を伝える。
     2.薬草を届け、仙道に薬を飲ませる。
     3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
     4.四国で両津達と合流。
     5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
     6.洋一を心配。
     7.ヤムチャは放っておこう。


【ケンシロウ@北斗の拳 死亡確認】
【残り27人】

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401:暗い森 DIO 418:ヨルヨルユカイ
401:暗い森 東城綾 418:ヨルヨルユカイ
410:暴走列島~信頼~ 春野サクラ 415:アビちゃんの撤退大作戦
387:魂の座 ケンシロウ 死亡

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最終更新:2024年07月27日 06:36