0257:キルアとラーメンマンと飛刀と





「くっそ……マジかよ……」

姉崎まもりのもとを離れたあと、キルアは適当な木陰で休息を取っていた。
本当ならすぐにでもゴンを探しに行きたいのだが、そういうわけにもいかない。
原因は、まもりにくらったナイフの一撃。
ただのナイフではない。0.1mgで鯨でも動けなくするほどの強力な毒が仕込んである、殺人鬼愛用のナイフ。
そのナイフの傷は、キルアの身体に毒を浸透させ、苦しめている。

(はは……なさけねー。オレが毒に苦しむなんて、何年ぶりかな……)
ゾルディック家で一流の暗殺者となるため、キルアが幼少の頃から受けてきた様々な訓練。
中でも、毒や電撃に耐え、耐性を強化する訓練は相当ハードなものだった。
だが、それだけに得たものも大きい。
電撃に耐え切ったおかげで、キルアはオーラを電気に変化させる念能力をマスターし、毒には完璧と言えるまでの耐性をつけられた。
そのキルアが、今は毒に苦しんでいる。
中期型ベンズナイフの毒。噂には聞いていたが、これほどまでに強力なものだったとは。

(アホだなオレ……さっさと毒抜きなりなんなりしときゃあよかった)
それは、完璧すぎる毒耐性を過信したがゆえの結果。
キメラアントの毒も全く効果がなかったキルアの身体が、たかが殺人鬼如きが作った毒に苦しめられるとは。
いや、もしかしたら、この苦しみはこの世界に科せられた、変な制限のせいかもしれない。
ここに来て何度か念能力を使ったが、どうにも調子が悪い。
もしや、自分の身体の毒に対する耐性も、念と同じようになにか制限を受けているのだろうか……?
結論は出ないが、今後もあまり過信することはできないだろう。

(とりあえずなんとかしないと……ん? まてよ……毒……?)

そこで、キルアはなにかに気づき、おもむろにデイバックの中を漁り始める。
中から取り出したのは、一丁の銃と弾丸。
先ほど、危険な思考を持つまもりから没収した魔弾銃である。
デザインは変わっているが、それは、たしかに銃と呼べる立派な武器。
毒に苦しみだす少し前、その使い方を確認しているとき、この銃が興味深い効果を持っていることがわかった。

「キアリー……解毒効果のある弾丸ね……」

俄かには信じがたい話だった。人を殺めるために作られたはずの弾丸に、解毒の効果があるなど。
しかし、キルア自身が持つ特殊能力、『念』の存在を考えれば、決してありえない話ではない。
解毒効果のある弾丸を作り出す……具現化系。弾丸に解毒効果を持たせる……強化系。
念能力でも、十分創造できるものだった。

「手持ちの少ない道具で処置するとなると面倒だし……これが一番手っ取り早いか」

自分に銃を向ける、というのは抵抗があったが、これで楽になるなら万々歳だ。
キルアはキアリー弾を込めた魔弾銃を、自分に向ける。
そして、その引き金を――


――旦那ぁ、そんな急ぐことねぇんじゃねぇか? せめて傷を治療してからでも……
「なにを言っている飛刀よ。事態は一刻を争うのだ」

適当な川で簡単な傷の洗浄を済ませたラーメンマンは、まだ傷の癒えぬその身体で、走り回っていた。
自分にこれほどまでの深手を追わせた奴……趙公明を野放しにしないためにも、一刻も早く太公望を探さねば。
当てなどなかったが、それでも動かずにはいられない。
こうしている今も、趙公明が新たな者を手にかけているかもしれない。
一刻も早く……一度趙公明を倒したという仙道、太公望を探し出す。
そして、その太公望と協力し趙公明を倒す。
それが、今のラーメンマンの使命。

「……!」
――しかしなぁ旦那。いくらなんでもその傷じゃあ……
「静かに。黙っていろ飛刀」
なにかに気づいたラーメンマンが、小さな声で飛刀の口をふさぐ。

ラーメンマンの視界の先。そこには、木陰に腰掛ける一人の少年。
その手には銃が握られており、その銃口は少年自身の身体に向けられている。
(……まさか!!)
気配を殺していたラーメンマンだったが、少年のその動作を見て、思わず飛び出した。

「待て! はやまるな少年――!!!」

ラーメンマンの制止もむなしく、自分に向けて、少年は引き金を――引いた。


木陰の下で、二つの馬鹿笑いが木霊する……

「だははははははははははははっ!!」
――ひゃーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!

「……笑ってくれるな少年。飛刀、おまえもだ」

笑っているのは、キルアと飛刀。顔を隠すように背けているのは、ラーメンマン
話は数分前。
ラーメンマンは、キルアがキアリー弾で毒の治療をしようとしたところを止めようとした。
その光景が――まるで自殺を図ろうとしているように見えたから。

キルアと飛刀は、そのラーメンマンの勘違いに、爆笑していたのだ。
しかし、ラーメンマンの勘違いも当然といえば当然。
見た目は普通な少年が、殺人ゲームの舞台で、自分に銃口を向けているのだ。
なにをしようかなど、明白ではないか。
それでも勘違いは勘違い。ラーメンマンは恥ずかしい気持ちでいたたまれなかった。

「しかし、毒を治療する弾丸とは。なんとも摩訶不思議なものが支給されているのだな」
「オレはおっさんの持ってるその刀のほうが摩訶不思議だと思うけど」
「ふむ。確かにそうだな」
――おいおい旦那、そりゃあねえだろ。

自殺をしようとしていると勘違いをし、わざわざそれを止めに入ったラーメンマン
そのことだけで、ラーメンマンがキルアに敵意を持っていないのは明白だった。

その後、それぞれを敵ではないと認識した両者は、情報交換に躍り出ることにした。
それぞれがゲームに乗っていないことの確認。それぞれの当面の目的の確認。
キルアは友を、ラーメンマンは仲間と姿も知らぬ参加者を探しているという。

太公望? おっさん、太公望を探してるのか?」
「知っているのか!?」
運のいいことに、キルアはラーメンマンの探し人、太公望と面識があった。
そしてさらに運のいいことに、彼が今どこにいるのかも知っているという。

太公望なら、四国に渡るとか言ってたぜ。あとそうだな……人外語を話せる奴を探して欲しいとかいってたな」
「四国……それに人外語とな……」
キルアとラーメンマンの視線が一瞬、喋る刀に向く。

――おい、言っておくが俺は獣の言葉なんてわかんねぇぞ!?

とにもかくにも、太公望は四国にいるという。
ならばラーメンマンの行動方針は決まった。明確な目的地を定めたいま、一刻も早くここを発たねば。

「おっさんが西へ行くなら、オレは東の方を探してみようかな」
「一人で大丈夫か? なんならこの飛刀を渡してもいいが……」
――じょ、冗談だろ旦那ァ!?

今さらラーメンマンのもとを離れるのは嫌だという飛刀。
そんな飛刀を尻目に、キルアは素っ気ない言葉を返した。

「別にいいよ。荷物は少ないほうが動きやすいしさ。それに」

その瞬間。
一瞬、キルアが消えた。

「オレ、おっさんが心配するほど弱くないぜ?」
「――!!」
消えたと思ったキルアは、一瞬でラーメンマンの背後に移動していた。
瞬時に後ろを取られ、ラーメンマンが反応して振り向くが……

「つーわけで、飛刀だっけ。それいらないから」
「そ、そうか」
気のせいだろうか。
この少年……キルアから、一瞬嫌な寒気を感じたのは。

「おっさんの仲間、正義超人だっけ? 額に文字の入った奴と、牛の角を生やした大男と、黒尽くめの無愛想な奴ね。会ったらおっさんのこと伝えとくよ」
「よろしく頼む。キルアの友達の名はゴンだったな。私も見かけたら伝えておこう」
「おっけー。お互い、探し人が見つかるといいね。んじゃ」
もう用はないといった感じに、キルアはそっけなくその場を去っていった。
友人、ゴンを探すため東へ――


「……」
キルアがすんなり立ち去った後も、ラーメンマンはしばしその場を動けなかった。
思うは、さっきの一連の出来事。

(深手を負っている身とはいえ、この私がああも容易く背後を取られるとは……)
キルアが只者ではないことは、あの一瞬でわかった。
いや、今はそんなことよりも。

(もし、彼に殺意があったら……殺されていた)
ラーメンマンは、キルアが元暗殺者であることなど知らない。
だから、キルアがそんなことをするはずはないとは思っていたが……
もし、あれがキルアではなく趙公明のような、『ゲームに乗った者』であったならばどうか。


――旦那? おーい旦那。なに考え込んでんだよ? 居場所がわかったんならさっさと行こうぜ。
「……ああ、そうだな。事は一刻を争う」

飛刀に急かされ、ラーメンマンは再び動き出す。
太公望を探すため、四国へ向けて。
そう、事は一刻を争うのだ。
一秒たりとも、趙公明を野放しにしておくわけにはいかない。

(……だが、私自身はどうだ? このままで、本当にいいのか?)
ラーメンマンは、趙公明に負けた。
それでもなんとか生き永らえ、今度は一度趙公明を倒したという、太公望を頼ろうとしている。
傷だらけの身体を引きずりながら。
相手に殺意がなかったとはいえ、易々背後を取られるような身で。

(もしまた、趙公明ほどの実力者に遭遇したらどうなる? 私は……戦えるか?)
おそらく、無理だ。この身体では、瞬殺されるのがオチ。
それをわかってはいるが、趙公明のことを考えれば、休んでいる暇などない。

(ならば……趙公明ほどの実力者が、弱者を襲っている場面に遭遇したら?)
正義超人としては、見過ごせないシチュエーション。
だが、もし今そんな場面に遭遇したら、助けることなどできないだろう。

(私自身……もっと強くならねばだめということか)
自力で、趙公明に勝てるような力を――


ラーメンマンと別れたキルアは、一人東へ向かっていた。

(しかしすげーなあの弾丸。毒があっという間に消えちまったよ)
もはやその身体にベンズナイフの毒は残っておらず、足取りは軽い。

そして、歩きながら考えるは、先ほどであったラーメンマンのこと。
(それにしても、正義超人ねぇ……そんな正義の味方みたいなのまでいるのか)
キン肉マンにバッファローマン、ウォーズマン、そしてラーメンマン
ラーメンマンの話では、いずれも相当の実力者だという。

(参加者は藍染みたいな奴ばっかじゃないってことか)
正義超人。もし主催者達との戦いになれば、彼らも重要な戦力になるかもしれない。
全員が本当にラーメンマンと同じ思想かはわからないが、なんにしても味方が多いのはいいことだ。

(ゴンのやつも……正義超人みたいな考えの奴と一緒ならいいんだけど。なんとなく気が合いそうだし)
弱者を見過ごせないところなどそっくりだ。

ラーメンマンとの出会いは、キルアにちょっとした希望を持たせた。
藍染、大蛇丸、まもり。このゲームには、ああいう危険人物ばかりではないのだと。





【大阪/午後】

【ラーメンマン@キン肉マン】
 [状態]:左腕裂傷、後背部打撲、重度の疲労
 [装備]:飛刀@封神演義
 [道具]:荷物一式、髪飾りの欠片(※)
 [思考]:1.四国へ向かい、太公望を探す。
     2.ゴンを見かけたら、キルアのことを伝える。
     3.弱き者を助ける。(危害を加える者、殺人者に対しては容赦しない)
     4.3を実行するため、力を求める。
     5.正義超人を探す。
     6.ゲームの破壊。
※神楽の髪飾りの欠片を持っている理由は以下の通り。
 ・形見として少女の仲間、家族に届けるため
 ・殺人犯を見つける手がかりにするため


【キルア=ゾルディック@HUNTER×HUNTER】
 [状態]:少々のダメージ、イルミの呪縛から解放(恐怖心がなくなり戦闘力若干アップ)、(頭部の血は止まりました)
 [装備]:なし
 [道具]:爆砕符×3@NARUTO、魔弾銃@ダイの大冒険、中期型ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER
     クライスト@BLACK CAT、魔弾銃専用の弾丸@ダイの大冒険:空の魔弾×1 ヒャダルコ×2 ベホイミ×1
     焦げた首輪、荷物一式 (食料1/8消費)
 [思考]:1、東の方でゴンを探す。
     2、太公望、正義超人を見かけたら、ラーメンマンのことを伝える。
     3、人殺しはしない。ただし、明らかな敵対心を持つ者にはそれなりに対応。

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187:読者諸君、待たせたね!それではそのつぶらな瞳をしっかりあけて僕のエレガントなバトルをしっかり堪能してくれたまえ!by趙公明 ラーメンマン 302:『嘘』つきな『真実』
234:似て非なる二人 キルア 273:交錯する想い、光……そして闇

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最終更新:2024年05月28日 23:53