マイク・Oは生まれて間もない頃から『枷』を与えられた人生だった。
彼は子供のころから朝一番から外へ出て活発に遊び、ヘトヘトになりながら家に帰るのが日課だった。
家に帰れば母親がつくったスープを飲み干し、父親に今日の出来事を話す。
どこにでもあるような子供時代を送る、1人の少年だった。
「おいみんな、どうしたんだよ! 遊ぼうぜ?」
彼が最初に枷の洗礼を受けたのは、いつもと変わらない日曜日だった。
いつも遊んでいたはずの仲間たちが露骨にマイクから離れ、無視を決め込んだ。
マイクは『あいつの家のおやつを勝手に食ったのがバレたのか?』と唾を吐きながら家に帰った。
次の日、マイクはお小遣いを全額はたいて買った飴を友人に渡した。
マイクは仲直りの証のつもりだったのだが、友人は口を聞こうとしなかった。
口を聞こうとしなかったのは友人だけではなかった。
学校の先生も、近所のオヤジも、ボケ気味の婆も、マイクと口を聞こうとしなかった。
「ねぇパパ! どうしたらみんなと仲直りできると思う?」
マイクは晩御飯中に父親に相談するが、父は首を横に振るだけであった。
事情はわからなかったが、涙を流しながら抱きついてきた母をみてマイクは思った。
(ぼくはみんなと一生仲直りできないのかもしれない。ぼくがこの世界をそんな風にしてしまったんだ)
それからマイクは誰とも会話することもなく、青春時代をすごした。
両親とは毎日楽しく会話しているので寂しくはなかった。
周囲が冷徹な視線を送るのも、自分が招いた罰の結果と考えていた。
友人のおやつを勝手に食べなければ、もっとみんなと仲良くできたから。
(この世界にも大分慣れてきたな。絶えられない世界ではなかったんだ)
両親を愛し自然を愛し育ったマイクが、成人になったある日のことだった。
村で一番偉い長老に一家全員呼びだされたのだ。
「お前さんたちには悪いと思ってる。だがもう限界じゃ」
長老は自分たちに村を出て行く要求をしてきたのだ。
マイクには何がなんだかわからなかった。
わからなくて当然だった。
彼の故郷はとても閉鎖的で、情報が中々入ってきづらい場所だった。
“肌の色を問題視する”風潮が完全に広まってはいなかった。
だからこそ誰もが得体の知れない恐怖にかられて、マイク一家と距離をとっていた。
「若い衆が町まで行って調べてくれたんじゃ。お前さんたち一家はワシらを不幸にする」
謂れのない非難や風評が“事実”としてはびこる時代に、マイクは生まれていた。
どうして村を出て行かなければならないのか、マイクは納得できなかった。
この村の全てを愛しているというのに。この村の全ての敵意に耐えて生きていく世界を選んだというのに。
マイクの思いとは裏腹に、両親はあっさりと頭を垂れ、長老の指示に従った。
(今度は、故郷が無くなった世界に、耐えて生きなければならない世界なのか)
旅支度をすませ、村を後にしようとした時、1人の少女に話しかけられた。
「おにいちゃんは***なの?」
その少女はマイクのよく知る友人の娘だった。
聞いたこともない言葉を受けたマイクには、笑って答えるしかなかった。
少女は、金きり声を上げて走ってきた母親に連れられて、家の中に入っていった。
「マイク・Oです。なんでもやります」
それからのマイクの人生は、己の枷で実に苦しめられる人生だった。
就職はロクな働き口がなく、職についても真っ当と呼べる仕事は無かった。
昼は話したくもない中年女の罵声を浴び、夜は不当な理由で男からリンチを受ける。
全身を布で覆い隠しながら裏道を歩き、酒場のごみ箱を漁る毎日。
優しかった両親はすでに事故でこの世を去っていた。
(どこまで耐えればいいのかわからない世界だ。どうしていったいこうなった!? )
町に捨てられた新聞紙や、初老が営む古本屋で書を盗み、知識を蓄えた。
自分がなぜこんな境遇になってしまったのか。それを理解するには、全てが遅すぎた。
子供時代とはかけ離れた惨状に、マイクの怒りは勢いを増していた。
来る日も来る日も書物を漁り、ときにはページを破り食事の代わりにするほど、彼は没頭した。
すべては、この国に復讐するために。奴らの
ルールを知り尽くして優位に立つために。
(法とやらを仕切り、支配者気取りの世界にすむ政治家。今の俺は奴らを始末する世界にいるッ! )
極限にやせほそった身体と持ち前の知識を活動させて、マイクはとある政府関係舎に忍び込んだ。
マイクの目に最初に止まった高官らしき男の首に、ナイフを突きたてようと飛び掛った。
「見事だ。目前に接近するまで、まったく気配を感じ取らせないその動き。恐怖のかけらも感じられない」
しかし――暗殺は失敗した。確かに彼の両手はナイフを刺したはずだったのに。
マイクは捉えられ、逆に首筋にナイフを立てられてしまった。
「く……やはり栄養失調でまともに動けない世界だったのか」
「む? 随分と流暢な英語じゃあないか。***」
「その名で俺を呼ぶなッ! 貴様らがそんな風に呼ぶから俺はこんな生活を――」
「嘘をつけ。この屋敷は最新鋭の防犯措置をとっている。どうやって進入した? どこぞのスパイか?
よほどの教養がなければこの建物は突破できない。力だけの粗暴な奴らには無理だ」
「教養は大学に行かなければ身につかない世界か? 違う。本人の努力で身につく世界に教養はある」
「……名前を教えろ。私はファニー・ヴァレンタイン。議員の端くれだよ。少しお前に興味が湧いた」
ナイフは首筋を切ることは無かった。
代わりに、興味という名のナイフがマイクの心臓に刺さっていた。
この夜のマイクは久しぶりに暖かい暖炉の前で寝た。ゆらゆらと燃える火はマイクの心を溶かしていった。
(こんな夜もある……世界なのか)
数年後、マイクはアメリカ大統領専属SP部隊の長、および大統領夫人の護衛を一任されることとなる。
■
(あの方は周囲の目にも気にせず、私を重宝してくださった)
F-4から西へ。マイク・Oは身体に鞭を打たせる。
目指す当ては無い。あるのは忠義の思いだけ。
見た目で優劣を選ばない――まさに我が祖国の根底に流れる精神。
差別と偏見が渦巻いた世間に長い間、置かれていた青年は、このとき思い出したのだ。
そういえば自分が生まれた国は、自由の名の下に生まれた世界だった。
それを貫くのに、どれほどの理解と、どれほどの時間と、どれほどの心血を周りに注いだか。
ヴァレンタインは世の中をチェンジできる力とカリスマを持っていた。
(悪魔の手のひらへ探索を命じられたあの日のことは、忘れもしない)
とはいえ失脚を狙う過激な反対勢力の視線を感じ取れば、すぐに表舞台から舞台裏を回す配慮もあった。
ファニー・ヴァレンタインはマイク・Oにスタンド能力を授けることで、秘書から護衛官として代わる道を与えた。
チューブラー・ベルズによる大統領護衛の功績は反対勢力も黙らざるをえなかった。
持ち前の知能と言語能力も相まってか、理解者も増えていった。
“マイク・O、お前はあの夜このファニー・ヴァレンタイン大統領を殺したのだよ。重罪人だ。
だからお前が望むのなら、いつでも俺の元を去っていい。できるのならな、フフフフ”
叩かれる憎まれ口がいつも嬉しかった。
家族のように話し合っていた晩のような楽しさがマイク・Oに戻っていた。
己が大統領に尽くすのは忠義なのか、それとも親愛からなのか。
「――あ、マイク・Oじゃな~い! おッはー、 ごきげんよう♪」
それは、今の彼にはどうでもいいことだった。
地から登る朝日とは逆に地に沈む大粒の涙。
「お、お、お……」
「ちょ、ちょっとマイク・O!? 」
「お会いしとうございました、大統領夫人(ファーストレディ)……ごきげん、麗わしゅう」
マイク・O――彼の出身はアメリカ合衆国だ。
【市街地(F-3北西部とF‐2北東部の境目)/1日目/早朝】
【マイク・O】
[時間軸]:SBR13巻、大統領の寝室に向かう途中
[状態]:左足に銃撃による傷が複数。全身に打撲。右肘に擦り傷。疲労
[装備]:金属片(方位磁針の外殻)
[道具]:支給品一式(方位磁針を除く)
[思考・状況]
基本行動方針:大統領夫人(
スカーレット・ヴァレンタイン)を護る。
1.!!!
2.大統領夫人を命を賭けてでも護る。 無用な戦いは避けたい
3.自分の身は護るが自分から襲ったりはしない(下手な逆恨みで大統領夫人を危険に晒さない為)
4.襲ってきた相手には容赦なく反撃する。
5.大統領夫人を襲ったりしないのなら別に誰かに協力するのもやむを得ない。
6.できるだけ大統領夫人と共に脱出したいが無理そうなら大統領夫人を優勝させる為最後の二人になったら自決する覚悟。
7.
マウンテン・ティムと
ナルシソ・アナスイの二人を警戒。
8.マウンテン・ティムをはじめ、どういうわけか死人ばかりだが気にしない。大統領夫人を襲うつもりなら元同僚でも容赦しない。
[備考]
※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。
※マウンテン・ティムが「裏切り者」(ルーシー・スティール)をかくまった謀反人であることは知っているようです。
※ナルシソ・アナスイのスタンド能力『ダイバー・ダウン』の一部(罠の作成)を知りました。
※マイク・Oが進んでいる方向は次の書き手さんにお任せします。
【スカーレット・ヴァレンタイン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:ルーシーに眠らされた後
[状態]:健康、多少の動揺、仮眠中
[装備]:スーパーエイジャ(首飾りとして)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1(本人は確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
1:マイク・O、見つけた! 少し疲れた……
2:政府公邸に行けば、誰か助けてくれるかも? もしくは鉄塔に行く?
[備考]
※ジェイル・ハウス・ロックは制限されていました。ミューミューが仮眠をとったので能力が解除されたようです。
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最終更新:2009年11月03日 21:46