私の名前は『
吉良吉影』。年齢は33歳。
自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり、結婚はしていない。
仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。
タバコは吸わない。酒はたしなむ程度。夜11時には床につき必ず8時間は睡眠をとるようにしている。
寝る前にはあたたかいミルクを飲み、20分ほどのストレッチで体をほぐし床につくことを習慣としている。
そのおかげか、赤ん坊のように疲労やストレスを残すことなく朝目を覚ますことができる。
健康診断も異常なしとの言葉を医者からもらった。
そんな私にもたった一つ、趣味と呼べるものがある。それは………
「ちょっと待ちたまえ…ジョルノ・ジョバーナ。人に役割を押し付けて逃げるとは都合がよすぎないかい………?」
「別に僕はついてきて欲しいと言った覚えはありません。むしろあなたにはあそこに残っていて欲しかった」
館より少し出た住宅街。私の前で二人の男が言い争いをおっ始めた。
いつもの私だったらこんな茶番じみた他人の言い争いなど一切興味を示さない。むしろ避けるべきものなのだ。
しかし…今回ばかりは話が違う。寧ろ私に関わり重要な話し合いとも言えるのだ…。
この平穏を第一とする私が他人の問題に首を突っ込む?この私が?
柄にもないことだとは理解している。その理解と対極にあるのは欲望である、となにかで読んだ記憶がある。
まったくもってその通りだ。今私は身をもってそれを体験している。
男たちの口論を前に私は一人思案にふける。
ここに来てからろくな目にあってない。
平穏を望んだ私の生活はめちゃくちゃ…こんな場所に呼び出された私は不幸の星の元に生まれたのだろうか?
起きた出来事を反芻するとあまりのツイてなさにため息が口をつく。
男たちは口論を続ける。私も思案を続けた。
だが唯一、そう唯一と言ってもよい幸運が転がり込んだ。
空条承太郎が死んだ、それもあるがなによりも…。
そのことを考えると私は思わず顔がニヤつくのをこらえることができなかった。
周りを警戒するふりをして何気なく顔を背けると震える頬の筋肉を必死で引き締めた。
私は今まで48人の手のきれいな女性を殺してきた。そしてその美しい手と共に生活することを生き甲斐にしている。
そんな私であるから人の手を見る目には自信がある。美しさを語らせたら右に出るものはいないと自負している。
そんな私に転がり込んだ、幸運。
誤解がないように先に言おう。私は女性が好きだ。
そっちの趣味は毛ほどもないと思っていただきたい。
だが…それを差し引いてでも…控え目に言ってでも―――
未完の美しさとでも言えばいいのか?そこがイイッ!凄く素敵だッ!
逆境の中から立ち上がり、時には泥にまみれ、時には身も凍るような寒さに晒された。
そう、あの手には底辺から這い上がった気高さがあるッ!
生まれついての輝かしさではない、粗暴の側面を時折見せる美しさ!
嗚呼…美しいィ………
ぜひとも…あの手を私のものにしたい。
男の手だ。決して実用的でないし、そのつもりもない。
ただ一人の手を愛する者としてあれを逃すわけにはいかない。あれは私のものなのだから…!
…フゥ、珍しく熱くなってしまったな。落ち着くんだ、吉良吉影。
そう、手だ。あれを我が物にするため。そのためにもこの二人…ジョルノ・ジョバーナと
エンリコ・プッチは重要なのだ。
まずなによりも見極めなければいけないのは三人の関係だ。
この舞台で知り合っただけなのか?私と
山岸由花子のように元々顔見知りなのか?
私が彼を始末したとき、二人がどうでるか。そこにこれは大きく関わってくる。
二つ目は彼らのスタンド能力。場合によっては共闘、敵対するかもしれない。ならばぜひとも彼らの能力は知っておきたいところだ。
尤も私は闘争を好まない。戦いはよっぽどのことがない限り避けたいものだ。
「…このままじゃ埒があきません」
「私の助言を聞き入れてはくれないのかね?こうしている間にも私はディオのことが心配だ」
一段落した思考を中断し会話に集中を向ける。なによりも必要なものは情報だ。
どうも待たせ人のことで揉めているようだな。お互いに譲らないまま話は平行線をたどる。
「論点をまとめましょう。僕は
エシディシの元に向かい、時間や遭遇者の関係もありナチス研究所の襲撃の延期を交渉したい。
それにたいしてあなたは彼らに約束したのが僕である以上僕が館へ残るべきだ、と。
さらにディオさんをあそこに残してきたというのが非常に心残りである。こういうことですよね?」
「ああ」
「ですから僕はさっきから言ってるじゃないですか。
妥協案ならば僕は館に、あなたはエシディシの元に。釈然としないのはあなたの態度なんです」
「………」
エンリコ・プッチは口を開きかけ、そのまま何も言わず黙りこんだ。
何か言いたいがどこか言いづらい、歯切れの悪い態度。
それを見てピンときた私は助け船を出してやることにした。
「ちょっといいかな、ジョルノ君?」
「なんでしょうか?」
「これは私の憶測でしかなないが…プッチ神父は君のことを心配してるんじゃないかな?」
これはチャンスだ。私が有能であることをこの二人に印象づければディオ・ブランドーと接触する機会も増える。
もちろんやりすぎは彼らに警戒心を与える。
あくまでも植え付ける印象は『無力だが状況に合わせて自己を犠牲にすることができる大人のサラリーマン』。
「ジョルノ君、君はいまいくつかな?」
「15歳です」
「15歳…とてもじゃないがこんな物騒な世界に子供を一人で歩かせるわけにはいかないよ。君はまだ子供なんだ。
確かにさっきの演説にはびっくりした。とても立派だったと私は感銘を受けた」
「…」
「でも…だからこそ君を危険な目に合わせるわけにはいかない。それが言いたかったんですよね、プッチ神父」
お節介ぐらいでちょうどいい。それは例え子供であろうと強力なスタンド使いであるということを私が知らないかのように演出するだろう。
それは私が『何の力も持たないサラリーマン』であることに錯覚させてくれる。
賛同を求めた神父は思わぬ助け船にホッとしながらジョルノを説得しにかかる。
「エシディシは君と一度戦っている。君が例え冷静であっても彼は非常に気まぐれなんだ。
それに他の参加者のこともある。六時間で22名もの参加者が亡くなった以上、強力な力をもったものがいるのは確かなんだ。
そんなところに君を一人にするわけにはいかない。」
「君はあの偉大な父をも越える逸材なんだ。将来人の上に立つべき男に君はなる…」
「私は君を失いたくない」
まったく、歯の浮くような台詞だな…鳥肌でも立ちかねないね。
あまりの青臭い台詞に私は一人身震いした。
見るとジョルノは迷っているというより戸惑っているようだった。さて、どうすべきか。
ここはやはり私がもう一押しして―――
「………!」
震源は私のポケット。動揺を悟られぬよう何食わぬ顔で手をポケットへと伸ばす。
握りしめ伝わる伝導。たが…これでどうする?
そう、私が携帯電話を持っていることは山岸由花子しか知らない。当然だ。
空条承太郎との例の会話が入っている以上、可能な限り携帯電話については知られたくない。
…だがここで、この電話をかけてきた人物をうまく仲間にできるようなお人好しなら。
戦力を増やした私への信頼は一気に上昇、手への道は極めて近くなる。
だがなにもこれだけではない。迷いのあるジョルノ。先を急ぐプッチ。
そう、天秤を傾ける権利を握っているのはこの私なのだ。
プッチを手助けするにはこう一言言えばいい。
『それなら私がそのエシディシに会いに行こう』。
要はプッチはディオも心配、ジョルノも心配という軟弱者なのだ。
そう、つまりプッチの現在の第一目標は『ディオとジョルノの安全を確保すること』
私がメッセンジャーに名乗りをあげれば喜んで私に仕事を託してジョルノと供にDIOの館に向かうだろう。
しかし同時に私の脳裏をよぎったのは一人の女の微笑。気になるのは山岸由花子の行動だ。
ヤツの行動次第では手がどうなるかわからない。それだけは…それだけはあってはならないッ!
ならば…私が向かうべき先は元の場所。愛しの手があるDIOの館だ。
そのためにはこう囁けばいい。
『ジョルノ君、とりあえずはDIOの館に戻ろう。またそこでじっくり話し合えばいいさ』
ベットすべきはどのテーブルか。
仲間を得れば一気に二人の信頼を得る、ハイリスクハイリターンの携帯電話か。
確実にプッチから信頼を得るメッセンジャーとしての一人旅か。
手の安全を第一に館へ戻る現状維持か。
考えるんだ、吉良吉影。
ジョルノが決断を下すよりはやく、携帯の振動が消えるより早く。
◇ ◆ ◇
静まり返った部屋には俺一人。
右見てェー、左見てェー、上を見て周りを見渡して…よし、OK。
「そこにいるのはわかってんだぜ…出てこいよ」
これで誰もいなかったら正直かな~り恥ずかしい。いい年した俺としてはそんなことは遠慮したいもんだぜ。
俺の大きくもない声が部屋内に消えていく。暫しの沈黙の後ありがたいことに反応が返ってきた。
正面に見える窓がゆっくりと開くとどこからともなく現れた男が窓枠を跨いで部屋の中に入る。
やっぱりな…。歓迎の証しに口笛をひとつ吹いてやると男の方から話し掛けてきた。
「どうして俺の存在に気づいた?」
「いや、たまたまなんだぜ?お前がこの屋敷に来たのってエンリコ・プッチとかジョルノ・ジョバーナが来たときと同じぐらいだろ?
偶然窓に目をやったら一瞬だけ人影が横切ったように見えてな。
確信は持ってなかったが…まぁ、結果はこの通りさ…ヒヒヒ…ラッキー、ラッキー」
「………」
顎で椅子を勧めてやる。素直に座ったところを見ると…俺の話を聞く意志があるのか。
…俺の腕の見せどころだな。よし、交渉開始だ。
「ところで、お前あの話聞いたか?」
「…時代を越えるというのはまだ半信半疑だ。まだ断言するには早いと俺は思っている」
「あー、そっちの話じゃなくてだな、ジョルノ・ジョバーナの話だ。あいつの宣言、どう思う?」
「そうだな………魅力的ではある。勝ち抜いたところであの荒木の目的がわからない以上優勝した所で俺が故郷へ帰るかわからない。
そう考えたら俺としてはうまい話ではあると思う」
「………本当にそう思うのか?」
俺の言葉にインディアンは反応する。身を乗り出すように姿勢を正すと俺の話を聞こうとする。
俺は自分の考えを言うべきか悩んだ。なんてったって俺のスタンド能力関わることだからな…あんまり言いたくねぇんだが…。
俺から言わせてもらえばジョルノ・ジョバーナの話は所詮夢物語だ。実例はなりよりもこの俺自身。
自慢じゃねーが少々の爆撃や炎、衝撃にも俺のイエロー・テンパランスは耐えれると自負してる。
それこそ爆弾だってそんな大規模じゃなけりゃ死ぬことはねぇ。だがそんなことを荒木か知らねェと思うか?
こんなビックイベント、プレーヤーの情報や選考にはヤツもじっくり時間をかけたはずだ。
ならわざわざ
ルールを壊せるようなヤツを参加者に選ぶとは思えねぇ。
よって荒木を倒すのは不可能、俺は優勝を目指すことにしましたとさ…ヒヒヒ………!
もちろん金が目当てってのもちょっぴりあるけどな!
結局俺はこの話を男に言わないことにした。メリットとデメリットを比べるとあまりに圧倒的だ。
ここでの口約束なんてあってないようなもの。口止めしたところでコイツだっていつか殺すんだ。
一瞬の相棒に与える信頼とスタンド能力がバレるじゃわりに合わねぇ。
身を乗り出した男を無視して俺はコイツが会話で漏らした『故郷に帰る』に注目した。
交渉再開。
「インディアンよ…お前の目的ってなんだよ?」
ジョルノ・ジョバーナの話にコイツが食いついたのは荒木が信用ならないから。
だがそれはある意味裏返しでもある。つまり…
「目的といえば一つしかない。一秒でも早く故郷へ帰る。先祖たちの土地を白人から取り戻すためにな」
予想通りだ!こいつのこの目…なにをしてでもっていうどこまでもハングリーな精神の塊よ。
そしてそういう輩なら…ハッキリとしたメリットを示せば俺と組むことに躊躇いは持たないだろう。
ケーブルカーの中でも水中でも、そしてマンホールの時も。
反撃は予測できるものだった。だが俺は油断した。それが敗因!
だから今度こそ念には念を入れるぜ…。このインディアンを俺の切り札にしてなァ!
「俺と組まねえか?あんな甘ちゃんたちがいう仲良しクラブの同盟じゃねえ。
俺は俺のために、お前はお前のために。互いの利益のためだ」
七人の同盟もDIO軍団も知らねェ、とっておきの切り札。
予定では今夜七人がここに集まる。だがな…俺のイエロー・テンパランスで顔を変え混乱を起こすことなんて朝飯前よ。
誤解が誤報を生み、最後に待ってるは…二つの全面対決よ!
傷つきボロボロの中、最後に俺はジョーカーを切るッ!
残るは…この俺とこのインディアン……ヒヒヒ!
承太郎…俺は反省すると……強いぜ?お前への借りは返す!必ずな!
男に躊躇いはなかった。一拍も置かず鋭い返事がきた。
「それを組んで俺が得るメリットは?なにか詳しい取り決めは?」
「人数を減らそう。しかも脱出に役立ちそうなヤツは残してだ。
俺だって荒木は気にいらねぇからな。優勝はたしかに魅力的だが、ま、生きれるってならそっち優先だ。
だから役に立たない、無駄に正義を振りかざすやつらを俺が潰そう。
これがお前が得るメリット。脱出が不可能な時、少しでも人数が少ないほうがお前もいいだろ?」
「……続けてくれ」
「で、取り決めは俺としてはお前と組んでることをなるべく他のやつらには知られたくない。
まずは別行動が基本。
それで俺がお前を必要としたときは…この伝書鳩を送る。お前はこれを受け取り次第、同封されてる場所で俺と合流。
現地では俺のいう通りに働いてもらおう。
そして……特別サービスだ。これを依頼料としてやるよ」
ポケットをまさぐると目的のものを見つけた。放り投げてやると軽快な動きで男はそれを掴んでしげしげと赤石を眺めた。
遠距離への攻撃手段を失うのは痛ぇが…この光線の威力はたかが知れてる。銃のほうが使い勝手がいいし、ここは俺の器を見せてやるか。
返事を待つ。しばらくの沈黙の後、インディアンは赤石をデイバッグに入れながら立ち上がった。
「いいだろう…協力体制成立だ。別行動は俺も望むところだ。だがひとつだけ言わせて貰おう…殺すか殺さないかは俺が決める」
「なにィ?」
「希望を絶望と決めつけるのはお前じゃない。俺は俺の目しか信じない。…だが約束は必ず守ろう。不要と判断したならば俺も手を貸す」
使いづれぇが…約束しちまったもんは仕方ねえ。今さらなし、っていうのもなんだしな。ここらが妥協のしどころだろうね…。
男は窓へと向かっていく。そういやまだ名前聞いてなかったな。
「てめー、名前は?」
「サウンドマン…我が部族で音を奏でる者」
「サウンドマンか…覚えたぜ。そういや言うのを忘れたがお前、『足』はあるのか?なんだったら俺の馬でも貸してやるが」
「問題ない。この足ひとつで駆けつけてみせる。」
「では、さらばだ」
窓から飛び出したサウンドマン。なるほど、納得だ。やつの跳躍力を見て俺は目を丸くした。
ひとっとびで壁を越えていったあの筋肉。もしや俺みたいにスタンドを纏ってるのかもしれねぇな。
さて、それじゃ俺も動くとするか。
上に向かったのはもやしっ子ディオと…東洋人の女か。
んで…たった今聞こえたあの声は…
タルカスっておっさんの声。さては誰か侵入してきたのか?
さてさて…ヒヒヒ…どうしようかね?
悪巧みを考え、俺はそれに呼応させるかのようにイエロー・テンパランスを動かした。
◇ ◆ ◇
いつかのツェペリのおっさんの言葉を思い出す。
『“勇気”とは“怖さ”を知ることッ!“恐怖”を我が物とすることじゃあッ!』
とてつもない重い言葉だ。おっさんは長い間戦ってきた。だからその言葉にはこれほどの重みがあるッ!
「話を聞きにいかなくていいのか?」
「…門番がいなくなるんでな。それに俺は頭を使うのが仕事ではない。主君がどんな姿であっても守るもののはただひとつだ。」
「そうか…」
門の陰で息を潜める俺の耳に二人の男の子会話が入る。
まったくのんきのもんだぜ…。
こっちは正直ブルっちまってるっのによォ…なんせあのタルカスだ。
そう、ツェペリのおっさんの仇でありジョースターさんを散々苦しめたあのタルカス。
ジョースターさんの波紋で跡形もなく消え去った…あのタルカスだぜ?!
まったくどうなっちまったんだ…今更ながらこれが俺の悪夢だったらどれたけいいのに。
そんな都合のいいはずがなく、結果俺は自分の頬っぺたを痛めるだけに終わった。
「そういうお前は行かなくていいのか?ジョルノ・ジョバーナ、確かお前が戦った相手だと聞いたが」
「一度世界に触れた者に興味はない。奴は奴だけの光輝く道を行くだろう。
俺の世界と奴の道は一点でしか混じらなかった、ただそれだけのこと。」
だが…俺は転んだらただじゃ起き上がらない男よお!
痛みに俺のオツムは冷静になったのか、一つのことがわかった。
タルカスはディオとは違い、以前同様に太陽の下を歩けない。よ~く観るとタルカスの奴は俺が見える範囲にはいない。
ただ喋り声があの半開きのドアから聞こえるだけだ。
つまり…実質門番はあの男一人ってわけだな?
そうとわかりゃ…こりゃチャンスなんじゃねぇか?
俺だってあの貧民街に住んでた男だ。自慢にはならねぇが油断したら死が待ち受けるあそこを生き抜いた俺。
腕には少し自信があるッ!それこそそこらのチンピラには喧嘩負けしねえほどのな。
「タルカス」
「………?」
だが違う。戦うことイコール守ることじゃあねえ。
例えばジョースターさんならいいだろう。あの人にはそれができるだけの力がある。だが俺には力がねえ。ならよォ…
「貴様は日が沈むまで動けない、そうだったな?」
「うむ」
こすずるいと馬鹿にされるかもしれねえが俺にしかできないことをやるべきなんじゃねぇか?
そう、それは潜入捜査。
まずは恥を忍んでディオの仲間のふりをする。そして中に乗り込んで…やつらの情報を手に入れるッ!
さっき見た限り、タルカスの野郎はディオの仲間を集めてるようだ。だったら…俺がなに食わぬ顔でディオの部下のふりをしたら…いけるんじゃねぇか?
「ならば門番としての『借り』は必ず返してもらおうか」
「…墓穴を作っ「借りの返しは戦いだ。夕陽が沈んだ六時ごろ、お前には俺の世界を知る義務がある」
だが気になるのはディオに同行していた二人の男達。その二人を含む三人はさっきこの門を出てどこかに行っちまった。
見知らぬ第三者の男もいて警戒から俺は話しかけなかったが…俺としてはどうしてディオとつるんでいるのか?気になるのはそこだぜ…。
特に金髪のガキ。あいつは『臭い』がしなった。それどころかどこかジョースターさんと同じ波紋、太陽の臭いがした。
そんな野郎がどうして?
「…KWAAAAA!いいだろう、リンゴォ…貴様との戦い、決着をつけようではないかァ!
このタルカス、売られた戦いより逃げるほど腰抜けでは断じてないッ!」
「…よろしくお願いいたします」
なにもかも救えるのは力がある人だけだ。残念ながら俺にはその力がねえ。
だからこそ、救えるごく僅かな可能性は取りこぼしちゃならねえ!
貧民街で生き抜いた『誇り』か。
泥を啜ってでも弱者を守る『誓い』か。
今まで俺を支えてきてくれた『人を見る目』か。
俺の心は、揺れる。
◇ ◆ ◇
…ここらでいいか。ゆっくりと呼吸を整えながら俺は次第に速度を緩める。
眼前に湖を前に足を止めると俺は木陰が被さる岩の上であぐらをかいた。
俺が足を止めた目的、それは
グゥ~……
腹が減ったので食事をとるためだ。
俺はデイバックから飲料水と食料を取り出すと食事を始めた。
その拍子に例の小僧…いや、男からもらい受けた赤石が転がり落ちた。
湖の反射にキラリと自身を輝かせるそれを俺は見つめる。味気なさそうな食料を口に放り込みながらその美しさに見とれた。
「不味い…」
一方の食事は…これはひどい。
あの
トニオ・トラサルディーとは比べ物にならないほどだ。と言ってもないものはない。
俺は黙って食事を進め、完食した。
一息吐くと俺は意識を手中にある輝きに移す。
ゴロンと横になり、手の中であらゆる角度から眺めると一層その美しさがわかった。
これほどのものを俺に渡すとは…よっぽどの大物か、物の価値もわからぬ馬鹿か。
思い出を脇に追いやり、俺は目の前にある問題に取りかかる。
…俺からして見たらメリットしかないな。赤石を得た、自由を制限されることはない。そして奴との約束も…
「…所詮口約束」
ニヤリと口端をつり上げる。無論、約束は守る。俺とて考えなしに殺しに走る危険人物をそのままにしてはいられない。
だが仮に奴が俺を呼び出し、敵対する相手を俺が『必要』と判断した場合…
「手は出さんぞ…」
いや…もしもそいつが荒木打倒の確固たる準備ができている人物ならば…。
もしもそいつが億康のように『彼らの意志』継ぐものならば…。
俺は笑みを深くした。心のどこかでこうなるとは思っていたが…こうなるとなんの考えなしに約束した奴に同情してしまう。
「始末する相手は…貴様になるかもしれんぞ………」
誰も俺を縛ることはできない。不敵な態度に切れる頭。体からにじみ出る自信とどす黒い感情。
あのやり取りはむしろ俺に警戒心を抱かせただけに終わった。そう言えば名を聞くのを忘れたが、まぁ、いい。
次会う時が何時になるかわからんが、どっちみち俺に『選択』の権利があるんでな…。
「DIOの館に向かったのは正解だったな…」
となると次に気になるのは…ジョースター邸。
距離も幸い遠くはない。その上近くに豪華客船も鉄塔ある。
目的地には困らないな…ルートとしては北より湖を回り、南下していくのが理想か?
そうなると北東にある施設に足を向けてないが…追々考えればいいか。
満腹になったからか、思考が一段落したからか急激な眠気が俺を襲う。
周りの気配を探る。眠気に邪魔されぬよう、意識を集中し直し探るが…気配はない。
時間を確認すると
第二回放送までは二時間といったところだった。
寝過ごすような心配はないわけではないが…ここで体力の回復を計るのもいいかもしれないな。
わずかに漏れる木漏れ日より俺は顔を腕で覆った。
意識を手放す直前に目にした赤石の輝きは故郷の姉を思い出させた。
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最終更新:2016年07月05日 23:08