「どういう事です」

ウェザー・リポートブラックモアはポンペイ遺跡の中を散策しつつ、情報交換を行っていた。
ヴァニラ・アイス及びラバーソウルの対策を練っていく上で、まず問題となったのがラバーソウルの変身能力。

道中の会話から、なりすましを防ぎ、お互いを認識しあうため各々のパーソナルデータを交換すべき、と言う話になったのだった。
それがあればラバーソウルが化けても偽物か否か判断できる素材になる。
他に変身能力を持つ者がいてもおかしくないのだ。出来るだけ先に手を打っておく必要がある。

そのように提案したのはウェザーだった。
故に彼は自分の肩書き、参加者の中に自分や仲間と敵対していた人物がいるらしいことを話した。
それを受けて、ブラックモアは自分の職業及び直轄の人物がどういった人間かを明かした。
あくまで他人に知らせても良いぎりぎりの範囲の情報だが。
まず、彼の付き従う人物は、第23代アメリカ合衆国大統領。ここで双方に困惑が訪れた。

この話が本当ならば、ウェザーから見ればブラックモアは過去の人間、ブラックモアから見ればウェザーは未来の人間、ということになる。

お互いに嘘を付く利点が無いという理由から、おそらく荒木の能力で集められているのは同時代の人間ばかりではないらしいことを悟った。
改めて荒木のスタンド能力、その異質さにゾッとした二人だったが、そこまではまだ良かった。
その次にあげられた名前にウェザーが異を唱え、改めて場が混乱してしまう。

『ファニー・ヴァレンタイン等と言う合衆国大統領は聞いたことがない。』

そして冒頭のセリフがブラックモアの口から零れたのだ。
「第23代大統領はそのような名前ではなかったぞ。俺も歴代の大統領を全て覚えているわけではないが…。」
まさか自分の上司の名前を間違えるまい、といった様子ではあるが、ウェザーは疑惑の籠った目でブラックモアを見ている。

ブラックモアはしまった、と思った。自分は嘘はついていないが、余計なことで余計な疑いを持たれては…。
緊張しつつ、なるべく感情を出さないよう顔の筋肉を意識してウェザーと目を合わせる。
自分の思惑を読み取ったのかどうかは定かではないが、ウェザーの言葉が動揺を打ち消してくれた。
「いや、お前は嘘は言っていないだろう…嘘だとしてもお前のような策士が間違えるとも思えないし、ここで嘘をつくメリットも見当たらん。」
胸の内でひそかに安堵のため息をつく。彼が自分を知恵者と買ってくれていたことで助かった。
相変わらず表情を変えぬよう気を配りつつも、相手の次の言葉を待った。

「しかし、参加者名簿にあったな。”スカーレット・ヴァレンタイン”…関係があるのか?」
「はあ、ファースト・レディかと。同姓同名の別人でなければ。」
大統領夫人、という重要な人物にも拘らず、それに対するブラックモアの反応は全く持って淡泊だった。
違和感を感じたウェザーは、訝しげな顔で問うた。
「…探さないのか?上司の配偶者ならば…」
「生憎、私の職務の管轄外ですので。」
軽快に、どこか気楽ささえ漂わせながら、ブラックモアは答えた。
自分と所縁のあるはずの人間に対してこうも興味無さ気に答えられるものなのか。
ウェザーが寄せていた眉根に、さらに力がこもる。
ブラックモアのこういうところが不安点だ。同時に先ほどから垣間見える、その狡猾さも。

「……。いいだろう。なぜ大統領の名前がお前が居た時代と俺が知っている歴史で違うのか…全く見当もつかない。が、今は…考えないでおく。」
目下、やるべきことは他に山ほどある。
話を先に進めようと、ウェザーはブラックモアの職務内容を詳しく話すよう求めた。
本心から申し訳なさそうな様子を顔に昇らせ、困ったような声音でそれに答える。
「すいませェん…それは申し上げることはできません。何というか、種類としては…どちらかと言うと悪の領分でしょうか。あまりクリーンなものではありません。
まあ、そんなことは取るに足らない事ですがね…だから彼ら、とびきりの殺人鬼達にも取り入れたのでしょう。…何せ、私とて必死ですから。」

ぽつりと漏らされた言葉に、ウェザーははっとした様子で相手の顔をじっと見る。
その表情から何かが読み取れそうな気がした。

(こいつは、生き残る以上の目的が何かある。その為になら、危険な橋を渡ることをも厭わない目的が。)
今まで掴みかねていたブラックモアの人格の一端を今、見た。ウェザーはそう感じた。
薄く微笑みながら歩き続けるブラックモアは、聖なる遺体に思いをはせているのか、自ら忠誠を誓った人物を想っているのか。
ウェザーが自分の表情を見ていることに気が付いていない。
今が機、と判断し、ウェザーは今まで口にしなかった懸念事項を口に昇らせた。
先にヴァニラ・アイス襲撃という大きな戦いを控える今、疑惑を断ち切り、自分の考え全てをはっきりさせるべきと考えたのだった。

自分がここに連れて来られてから、初めて遭遇した死体のこと。
その死体が握り締めていた繊維屑のこと。
そしてその繊維は、ブラックモアの衣服の物と酷似していること。

語り終えたウェザーが、特に弁明を求めたわけではない。
だがブラックモアは自らの利益を考えてか、早々と口を開いた。
その発言は、自らの犯した殺人を認める体のものではあった。
「すいませェん…言い逃れはできませんね。その青年が私を殺そうとしたので、やむを得ず正当防衛を「嘘だな。」」

ブラックモアは立ち止まった。
予期せず素早く、確固たる意志で示された否定の言葉。至上の言い訳と思ったのだが。
(真実に嘘を混ぜれば、嘘はばれ難い、はず……)
彼は戸惑う。心音が大きくなる。信用を失ったか、攻撃されるのでは?という懸念が頭の中をアラーム音のように駆け巡る。
自分達の周りでは、地面に染み込み続ける雨粒の、優しい、ごく小さな音だけが響いている。

ウェザーが先ほどまで北上させていた雨雲は既に解除している。
消耗が激しい中、今自分達が襲われると対応の遅れにつながりかねないためだった。
今は襲撃者に対応できるよう、自分達の周り、最小限の範囲で小雨を降らせる雨雲を維持しつつ移動している。

何よりもこの雨を止められてしまえば彼には何の対応もできない。
だが、今は聞くべきことを聞く。
相手を論でねじ伏せることができれば、同盟を結んだ時のように無益な争いを起こす事もない。
焦るな、と自分自身に言い聞かせつつ、ブラックモアは口を開いた。
「…なぜそう思われますか?」
「『尤もらしすぎる』…これが理由だ。勘と言ってもいい。まあ死体の状態も鑑みてだが。
俺の持つこの繊維が、お前の衣服から千切り取られたものだと完全に証明することはできないが、お前の正当防衛を証明する手段もない。」

ブラックモアと同様に立ち止まったウェザーは低い声で答える。
囁く様な彼の声は、柔らかく地面に染み込む雨音と同時に、確かな確信を含んでブラックモアの耳に届く。
「おそらくお前が一方的に襲った。俺はそう考えている。しかし、俺はお前を攻撃しない。死亡していた男には仇を取ると誓った…。
だがお前はエンポリオと早人を助け、殺人鬼だらけのこの同盟を恐るべき手腕でまとめあげた。」
「…お褒めに与り。」
ウェザーの言葉を受け、ブラックモアは片足を後ろに引くと優雅な動作で礼をした。
肯定も否定もせずにいるのは、後のウェザーの出方を伺っているのか、単に成す術がないだけか。
ウェザーは計りかねながらもさらに己の言葉を吐き出し続ける。
「茶化すんじゃあない。それで殺人が帳消しになると言っているわけではない。
だが、お前は見境なく殺人を犯すようなゲスとは違う…。悪を悪と認識できる。俺の考える『最悪』とは違う性質を持っている。」
「…そうですか。いや、自分のことを改めて言われるとわからなくなるものですねぇ…。」
「…生き残る、さらにその先の目的が何かあるのか?お前の行動は何か大きな目的の為のものか?内容を話せとは言わない。とにかく俺はお前を攻撃しない。今は、な。」
聖人の遺体を集めるという自分の目的を話すつもりなどさらさらなかったが、ウェザー・リポートが物分かりの良い人間で助かった。
ブラックモアは内心ほくそ笑む。
彼のスタンド能力こそ自分に必携のもの。
件の殺人はほぼばれてしまったが、今は攻撃しないという彼の言葉にウソはないだろう。
動機に対する明言は避けさせてもらう事にしよう。
「ハイ…どうも、感謝いたします。目的がある…まあ、そんなところですとだけ言っておきましょう。」
子供の安全確保のために成すべきことがある今の状況下、ヴァニラ・アイスを倒すまでは自分達の仲違えなど無益の極み。
駅舎襲撃時には嫌でも共同戦線を敷くことになるのだ。その中でならさらに強固な信頼を得ることもできよう。ブラックモアにはその自信もある。
差し当たっての行動の為、自ら率先して行く先を提案する。
「ところで、現在地はG-5という事になりますが、当面はマップ上のこのマス内を隈なく散策、という事でよろしいですか?」
「ああ…駅襲撃は時間的にも余裕をもって進めたい。あまり離れずにいよう。誰か、ゲームに乗っていないマトモな人物と接触できれば最良だが…。」

話し合いつつも、ウェザーは迷い続けている。
(だがおまえから”善”の要素を読み取ることもできない。出会った当初に感じた悪意は、まだ間違いなくお前の内にある。
目的を持ち、自らを悪と認識しているものに、俺はどう出るべきか…?)


ブラックモアが取るのは確固たる意思の上に成り立った行動。
だが問題なのは殺人を厭わないその人間性だ。
彼の心は正しい場所にあるのだろう。憂慮すべきは彼の頭の方だ。
だが今は共闘体制を敷くことに異存はない。むしろ関係を強化しておくべきだ。
「それからまた提案だが…。さらに素早くお互いが本物であることを確認するために、合言葉を決めるというのはどうだ?」
「ああ、それは良い考えです…何か言葉がお決まりですか?」
ウェザーは軽くあごに手を当て、考えるような素振りをしながらブラックモアの顔を覗き込んで言った。
「『悪魔に首を懸けるな』…これでどうだ。」
「…わかりました。では、移動開始でよろしいですかねぇ…。」
二人は再び歩き出した。お互いの間に流れる信頼にもならない、敵対心にもならない、奇妙な空気をそのままに。

「さらにヴァニラ・アイスについては、ウェザー・リポート、いかがお考えですか?」
一つ議題が片付き、もう一つのさらに厄介な問題を解決するため、ブラックモアがウェザーに考えを促す。
まっすぐに眼前を見据えて歩いているウェザーは、目線を一瞬ブラックモアに流し、述懐した。
「能力が最大の難点である以上、不意打ちで即死させるのが最上だろうな。つまりは暗殺だ。」
これを聞いたブラックモアは、ほう、といった風に目を開き、斜め下、地面を見つめて考えるような挙動を示しながら賛同した。
「暗殺…成程。では駅舎の地形、相手の位置を予め詳しく知る必要がありますね。」
「そうだな。早人がいる分、我々は動きにくいと言わざる負えない。放送まであと3時間強…早めに駅に行きたいが、今は時間をおくべきだ。」
「そうですねえ…一先ずはお仲間になっていただけるような人物と接触したいものです。」
具体案がはっきりと決まらず、2人にはもや付いた気分が残る。
しかしなんといっても焦って先走った行動をとり、自らの首を絞めることだけはあってはならない。
この点、2人の認識は一致していた。

会話が終わり、さらに数歩歩いてから、ブラックモアは支給品のペットボトルを取り出した。
ふと先ほどの好奇心を抑えきれずに質問する。
「ああ、そうそう…この容器は何という材質ですか?初めて見ます…軽くて、ガラスのように割れたりしない。」
「……、それはプラスチック。合成樹脂と言って……」

降りしきる小雨の中に、歩く2人の背が霞んでゆく。
彼らは止まることを知らない。
お互い思うように進みそうで進まない苛立ちと、焦る気持ちを控えようともがく理性に、心を翻弄されながらも。


【G-5/1日目 午前】

【ブラックモア】
[時間軸]:ジャイロの鉄球が当たって吹っ飛んだ瞬間
[状態]:左腕にかすり傷
[装備]: 一八七四年製コルト
[道具]:支給品一式、予備弾薬(12/18)不明支給品1~3(本人は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.G-5のマス内を散策。協力者を募る。駅には早めに戻って、その場の状況確認をする。(”早め”の程度は後の書き手さんにお任せします。)
1.ウェザーの信頼を得ることを第一に考え行動する。その際に生ずる損得を含めて。
2.第二回放送時にサンタ・ルチア駅を襲撃する。ただし無理はしない。
3.早人救出作戦を考える。場合によってはウェザ-と相談する。
4.七人の同盟をまもるかどうか、場合によってはウェザーと相談する。
5.20時にDIOの館に向かう…?
6.早人が用済み(ウェザーの信頼得た後ならば)になったら始末する。
7.名簿にある“ツェペリ”“ジョースター”“ヴァレンタイン”の名前に注目
8.遺体を捜す
9.傘が欲しい…。
10.ラバーソウルは見つけ次第対応する、Jガイルとアンジェロはしばらく放置
11.駅周辺を移動して仲間を探しつつ、対ヴァニラの作戦を考える
12.大統領の名前が違う?訳がわからない。が、今は考えないでおく。
[備考]
※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。"ツェペリ""ジョースター""ヴァレンタイン"の名に警戒と疑問を抱いてます。
※時代を越えて参加者が集められていると考えています
※ブラックモアがほかの七部の参加者をどのぐらい知っているかは不明です。→スカーレットが大統領夫人であることは知っていたようです。
※エンポリオからは情報を聞き出せませんでした。
※支給品一式をJ・ガイルに譲りました。ウェザーリポートにはばれてません。(二つ持ってたことも渡したことも)
※J・ガイル、アンジェロのスタンドについては理解し切れていません。水、及びそれに順ずるものを媒介とするとだけ把握しています。
※ヴァニラアイスの能力を把握してます


【ウェザー・リポート】
[時間軸]: 12巻、脱獄直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3(本人は確認済み)、黒い糸数本
[思考・状況]
基本行動方針: とりあえず殺し合いには乗らない。襲ってきた相手には容赦なく反撃する。
0.G-5のマス内を散策。協力者を募る。駅には早めに戻って、その場の状況確認をする。(”早め”の程度は後の書き手さんにお任せします。)
1.早人の安全を確保したい。
2.第二放送時に駅を襲撃する
3.ブラックモアを警戒。
4.20時にDIOの館に向かう…?
5.早人救出作戦を考える。場合によってはブラックモアと相談する。
6.七人の同盟をまもるかどうか、場合によってはブラックモアと相談する。
7.エンリコ・プッチを警戒
8.ラバーソウルは見つけ次第対応する、Jガイルとアンジェロはしばらく放置
9.駅周辺を移動して仲間を探しつつ、対ヴァニラの作戦を考える
10.ファニー・ヴァレンタインなどという大統領は聞いたことが無い。ブラックモアが嘘をついているとも考え難い。
…一体どういうことだ?
[備考]
※男(ロメオ)を殺したやつを探す。相手次第で始末する→ブラックモアだという事が自白により確定。だが今は手を出さない。(早人救出を優先するため)
※時代を越えて参加者が集められていると考えています。
※北上させていた雨雲は解除しました。今雨が降っているのは、2人の周り、最低限の範囲です。
(”最低限”の程度は後の書き手さんにお任せします。急な戦闘に備えて降らせています。 )
※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。早人と情報交換しました。
※黒い糸はブラックモアの服からちぎりとったものです。
※ブラックモアは生き残るだけではなく、さらに先の目的が何かある事を知りました。内容(遺体を集めること)までは知りません。
※ヴァニラアイスの能力を把握してます

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86:忍び寄る気配 ウェザー・リポート 144:偉大なる死 その①
86:忍び寄る気配 ブラックモア 144:偉大なる死 その①

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最終更新:2016年07月05日 22:51