片桐安十郎と
J・ガイルはともに似た嗜好を持つ、犯罪者だった。
決して他人から理解されることのない者同士が出会い、手を組み、彼らは半日ほど共に過ごしてきた。
彼らの関係は比較的良好だったといえる。
J・ガイルが
ホル・ホースと結託し、片桐安十郎を亡き者にしようと目論むまでは。
DIOの館を後にし、人目を忍びつつ横並びに歩いている現在も好きでそうしているわけではない。
背中を見せれば相手に殺られかねないというひりついた緊張感。
それがため優劣のない横並びに自然となっていたのであった。
片や全身火傷、片や骨折と、歩みを鈍らせる身体的なダメージは互いに熟知している。
だが二人の強さが全くの互角であったかというと、そうではない。
時は夜半。日が沈み、闇は鏡面を包み込む。
夜間においては『ハングドマン』よりも『アクア・ネックレス』に軍配が上がるといえた。
それでもまだ、怒りを抱えた片桐安十郎がJ・ガイルを殺そうとしないのは
『相打ちになったら、他のいい気になってる奴らの得にしかならねぇ』『それは最高にイラつく』
そのギリギリの共通意識が二人の底辺に存在していたからだった。
それはあまりに脆い繋がり。仲間意識とは正反対の感情。
外的な要因があればすぐに壊れてしまうような。
元より『同盟』の規約なぞたかが知れている。提案者の目の届かぬ場所なら尚のこと。
故にJ・ガイルはDIOの館を出立して以降、内心では他の参加者との接触を望んでいなかった。
(実際、俺の有利になるような『何か』が欲しいところだな……)
テレンスがこのゲームに参加したようだが、あの男のことは詳しく知らない。
DIOの名、『同盟』の存在を明かせば味方してくれる可能性はあるが、
能力もわからない以上、あまりアテにはできない。するつもりもない。
(それより、俺が気になってるのは『アレ』のことだ。 チラッと見えた気がするんだよなぁ)
「アンジェロさんよぉ、俺はあんたがよぉ~っく知ってるように仲間意識の強い優し~ぃ人間なんだ
だから中心地に向かう前に俺の野暮用に付き合ってもらえないかねぇ」
* * * *
インディアンが出て行って半刻は経過しただろうか。
すでに目の前の少女の瞳は乾き、意識もはっきりしているように思える。
しかし彼女は「誰にその傷を負わされた?」「敵が近くにいるの?」といった徐倫の質問に対してすべてつれない態度で返答していた。
意識して無視しているのではなく、興味のない単語がすべて「雑音」でしかないかのような反応。
あのインディアンについてはとりあえず敵ではないと判断したけれど、彼女が白か黒か決まったわけじゃない。
彼もこの子の名前を知らないようだったしね……。
だけどこのままなんの情報も聞きだせずに彼を待つのは時間の無駄としか思えない。
「『
広瀬康一は打倒荒木のもとに死んだ、その意志はまだ消えていない』
あなたをここへ運び込んだ人がそういってたわ」
『広瀬康一』の名が出た途端、彼女がブルリと身を震わせ目を見開いたのがわかった。
やはり、彼女の大切な人なんだろう。
「そう、でしょうね…… 康一君はとっても優しかったから……」
それを機に、長らく止めていた息をゆっくりと吐き出すように、彼女はポツリポツリと『康一君との思い出』を語っていった。
彼はね、私よりお勉強は出来ないけれど、キラキラした、素敵なものを持ってるのよ。
康一君は、あんなに酷いことをした私を許して、好きだっていってくれた。
杜王町では、康一君たちのおかげで吉良が死んで……
同じ大学に行けたらいいねって、お話したり…、二人で冬服を見に行ったり……。
そのほとんどがここでは有益になりもしない与太話だったが、徐倫は彼女の言葉を遮らずただ聞いていた。
「こんな、こんなところへ連れてこられなければ、康一君は……康一君は……」
胸がしめつけられるような嗚咽が彼女の口から漏れる。
それは計算でも、演技でもない、無防備な嘆き。
だからこそ
空条徐倫は彼女を信じた。信用せざるを得なかった。
「私は、空条徐倫 あなたは?」
名を告げた時、由花子の表情がわずかに揺らいだように思えた。
それはほんのささいな反応でしかなかったが、徐倫の観察眼はそれを見落とさない。
「由花子、もしかしてあなたは父さん、
空条承太郎の知り合いなんじゃないかしら?
広瀬康一という名前も、どこかで聞いたことがあるような気がするし」
父親の記憶ディスクを見たからといって、すべてをわが身に起こったことのように記憶はしていない。
ポルナレフはかろうじて認識できたが、花京院は本人の言がなければ父親の友人だと確信できなかった。
徐倫本人にとって日本人の知り合いは親族以外に存在しない。
だから聞き覚えのある日本人は父親の知り合いの可能性が高い、そう判断するしかなかった。
「『父さん』…………
そう、あなたが承太郎さんの、娘なのね………」
由花子の顔に微笑が浮かぶ。
どこか諦めたような、何かを悟ったような空虚な笑み。
その意味を徐倫は知らなかった。
まだ、この時は。
* * * *
山岸由花子は絶望していた。
己の失した片腕に。制御不可能な怪物に。広瀬康一はやはり存命ではなかったという現実に。
スタンド使いがどれほど存在しているのか知りようはないが、
この80人余りが閉じ込められた箱庭の中で、同じ能力を持つものに出会うという偶然が起こりうるのだろうか。
いや、現にあったのだ。残酷な偶然が。
愛する『康一君』が死んだ。
その事実は半日前となにも変わらない。
しかし一度抱いた希望は、再び彼を失ったかのごとき衝撃を由花子に与えた。
失血によって朦朧とする頭が『最善策』を選び取ることを拒否してしまったかのように、彼女は哭いた。
見ず知らずの少女に愛する人との思い出を語り、ただただ嘆いた。
そして……
「私は、空条徐倫 あなたは?」
空条徐倫の心中にあったものは、善意だったかもしれない。
だが『ツケ』はノートに書き込まれずとも、確実にたまっていたのだ。
最強の戦士を殺害した罪は、その娘によって罰せられるのだろうか。
山岸由花子は笑う。可笑しいほど凄然とした、自らが招いた運命に。
彼女はもう絶望などしていなかった。
強靭な精神力、愛情に見せかけられた狂気に突き動かされ、彼女はこう考えている。
父親を利用し、彼女も自分の手駒にしてみせる、と。
失敗すれば破滅に陥るこの状況を、必ず自分のものにする、と。
「承太郎さんは、吉良を倒すときに協力してくれた恩人よ
娘さんがいるなんて一言もいってなかったけれど」
* * * *
「改めて見ると、すげぇ威力だな、こりゃ……」
J・ガイルが一崩れの死体を前に呟く。
白塊が覗いて見えるあれは頭部だったものだろうか。巨大なミンチに表情はない。
首から下は繋がってはいたが、不当に肩口が広い。
吹っ飛んでいたのだ、上半部は。この小さな銀環、首輪の爆発によって。
「こんなのが首に付いてるってーのは、やっぱりぞっとしねぇな」
D-4中央部、J・ガイルの目的地が近くなるにつれて苛立ちを募らせていた片桐安十郎も
首輪の威力に関しては同意せざるを得なかった。
彼らが訪れているのはD-4中央部、何者かに殺されたホル・ホースの死体が横たわる場所だった。
J・ガイルにとって、ここを訪れた目的は2つ。
ひとつは突然殺されたホル・ホースの死因を明らかにすること。
対象を選ばない攻撃ならば自分が死んでいた可能性もあった。
無知無策無謀で難敵に挑むことがどれほど愚かな行為であるか、嫌というほど思い知らされている。
そしてもうひとつ、いや、こちらがメインだといって差し支えないだろう、
それはホル・ホースに配された支給品の中身を確認することだった。
アンジェロへの牽制となりうるものならば及第点。
『ハングドマン』の弱点を補うようなものならば最上だ。
「お……… やっぱり、あったな」
ごそごそと死体を漁るようにしていたJ・ガイルが上体を起こす。
途端に彼の奇怪な顔面がニィッと歓喜の表情を浮かべた。
時刻表の灰を落としながら、黒光りする『それ』を手に握り締める。
――ホル・ホースの奴はさぞ歯がゆく思っただろうなぁ、あいつにとってこれほど無用なものはねぇ
「アンジェロさんよ、こいつは『相棒』の形見なんだ
俺がもらっていってもかまわないだろう?」
「まぁ、俺のスタンドにその手の攻撃は効かねーしな
恩を売ってやるぜ、J・ガイルさんよ」
敵意を剥き出しにして、支給品ひとつにぎゃんぎゃん吠えるなどこいつのプライドが許さない。
とんとん拍子に事が進むさまは、空恐ろしいほどだ。
(それにしても、奇妙だな。 これは…繊維……、いや、髪か……?)
ホル・ホースの死体を包み込むきな臭さは、本人から発するものなのだろうか。
夜風に揺らぐその『髪』は、不吉の色をしていた。
* * * *
「私達、似ているかもしれないわね」
あらかたの情報交換が済んだところで、由花子がポツリと呟いた。
「そうかも、しれないわ」
泣き続ける彼女を前にして思った感情をなぞられたようで、言葉を濁しながらも徐倫は内心驚き、強く共感していた。
失ってしまったその人達のことをどれほど大切に思っていたか。
ふざけたゲームに巻き込んだ荒木を、立ちはだかる敵を、どれほど憎らしく思ったか。
安寧なき戦いにどれほど傷ついてきたか。
―――山岸由花子、孤独な少女は、私に似てる……。
「徐倫、あなた傷だらけね」
由花子のか細い指が頬の傷跡にそっと触れた。シーツから引き剥がしたときに残った傷だ。
そういわれてみれば、後頭部はいまだにズキズキするし、頬の様に『糸』を千切った箇所が全身に残っている。
既に応急処置を終えているけれど、脇腹を刺された際に溢れた血は衣類を黒く染め上げていた。
頬にあてがわれた手を自らの手で包み込み、由花子の瞳を見つめる。
「私は、誓ったのよ、荒木を倒すって
そのためならどんな傷を負ってもかまわない
由花子も、そう思っているんでしょう?」
由花子は片腕を失っている。けれども彼女はまだ闘おうとしていた。
それが徐倫には喜ばしい。
『守られる』ことなど必要ない。それが無上の愛情表現だったとしても。
「もちろんよ、徐倫 だから……私と………」
由花子の言葉は最後まで聞き取れなかった。
突然の銃声が、一瞬遅れて窓ガラスの破砕音が、部屋中に響き、
振り返ったとき、彼女の首筋からは鮮血が噴出していたから。
* * * *
「ひぃぃいいいいいいひゃっはっはあああああ これだからやめられないぜぇえええええ」
少女二人が慌てふためく様子を、物陰から男が笑い転げながら観察していた。
その手には黒光りする9mm拳銃が握られている。
銃声に反応した時の驚愕の表情、溢れ出す熱い血液、必死に物陰に隠れるその一挙一同。
すべてが、ゾクゾクするほど完璧だった。
誰を殺しても楽しいものは楽しいが、美人が苦悶に醜く顔を歪ませるのが最も最も最も最も素晴らしいッ!!!!
「アンジェロさんよぉ、てめーのためにあっちの女はとっといてやってるんだぜぇ?」
「うるせー、てめーが『善人面』するから黒髪の女を譲ってやったんだぜ」
二人の殺人鬼に二人の獲物、彼らが少女達を見つけたのは、全くの偶然でしかなかった。
家屋の中で佇む二人、もちろん電灯など付けてはいない。
しかしJ・ガイルの目は引き込まれるようにそれを見つけたのだ。
ホル・ホースの死体に絡み付いていた繊維と同じ、しなやかな黒髪を。
仲間意識などない。それゆえにホル・ホースの敵討ちをしようとは微塵も思わない。
拳銃に怨念でも宿っていたかと疑う偶然に、少し驚いただけだ。
「さっきの女は一瞬で殺っちまったからな
今回はジワジワいたぶってやるんだよ
DIOの館で負わせてやったダメージもあるだろうしよ」
見れば、団子頭の少女の頭上から雨漏りでもしたかのように『アクア・ネックレス』が滴っているところだった。
雨?と少女が天井を見上げ、滴りは流れとなり彼女に覆いかぶさった。
『ジワジワいたぶってやる』という言葉の通り、いつものような内部破壊は行わない。
そのかわり『アクア・ネックレス』の爪は、少女の生肌を引っ掻き回すように切り裂いていった。
決して致命傷には至らない切り傷が、徐々に『アクア・ネックレス』を朱に染めていく。
それはまるで群れなす小動物の狩りの様相。
ようやく彼女が『アクア・ネックレス』を振り切ったときには、上着はズタズタ、息も絶え絶え。
その目だけが爛々と敵意を映し出していた。
「ふぅ~~~~~、たまらないねぇあの顔
もっともっともぉぉおおおおおっと、悔しげな顔で殺してやりたくなるねぇ!!」
『アクア・ネックレス』が跳躍し、再び少女に襲い掛かる。
寄せ付けまいと少女がスタンドで殴りつけるが、『アクア・ネックレス』に物理的なダメージは通用しない。
手ごたえのなさに少女は唖然としている。
下卑た笑いが涎と共にアンジェロの口から漏れていた。
楽しくて楽しくて仕方がない。
もうそろそろ、内臓をズタズタに裂いてやるか……!!
しかし『アクア・ネックレス』は徐倫の口中に侵入することはできなかった。
侵入すべき口が、『糸』が解けるようにバラバラになってしまったから。
「ちっ、あいつもそういう能力かよ、胸糞悪ーな」
「おっせえええなあ、アンジェロさんよぉ、俺が先に殺っちまうぜぇ?」
アンジェロの思わぬ苦戦もJ・ガイルには可笑しくてたまらなかった。
少女達の恐怖の表情、アンジェロの憎憎しげな表情、これほど楽しい気持ちになるのは久しぶりだ。
ひぃひぃ笑いながら拳銃の引き金を引く。その数、計3回。
1発は壁にめり込み、1発は電灯を粉々に破壊した。
そして最後の1発は、物陰に隠れていた少女の足元に打ち込まれ、
凄まじい音を立てて、『爆発』した。
* * * * *
銃声、ガラスの割れる音、突然噴出した血、水のような敵、血に濡れる徐倫―――
なにが起こったのか理解する間もなく、次のなにかが起こり、どうしたらいいのかわからない。
心身ともに疲弊しきった少女は、物陰でただ理解できる『端』を見つけようとするのが精一杯だった。
しかし山岸由花子は見たのだ。
一発の銃弾を。
狙いすましたかのように、なにかに導かれるように、それは吸い込まれていった。
開け放たれた窓を抜け、宙を閃き、側に置いてあった、彼女のデイパックに。
確率の問題ではない。これは運命なのだと、山岸由花子は直感する。
――――この中には、空条承太郎の首輪が………!
スローモーションがかかった世界は静寂に包まれ、次の瞬間、白熱した。
* * * *
「J・ガイル、てめーどういうことだッ!!!?」
火花が夜風に舞い散る中、アンジェロは完全にキレていた。
彼にしてみれば、自らが仕掛けられたガス爆発を再現されたようなもの。
感情を抑えきれぬ怒号、憎悪は深い。
糸状になった女に驚きはしたが、優勢は変わらなかった。
嬲り殺す楽しみも、生の死体を処理する楽しみも、奪ったのはこの男J・ガイル。
「俺が知るか
手榴弾でも所持してたんだろうよ」
しれっと答える様がアンジェロの怒りを加速させた。
「J・ガイル、長くも短くもねぇ付き合いだったが、わりと面白かったぜ」
言うなりナイフを取り出し、J・ガイルへ差し向ける。
スタンドは家屋の中で水蒸気になっていて手元に戻すにはまだ時間がかかる。
窓ガラスから電灯へと移動していたこいつのスタンドも似たようなもんだろう。
「……俺は別にどっちでもよかったんだぜ?
このまま組んでいようと、てめーを殺しちまおうとよ」
「そんな小さなおはじきで、俺を殺れるっつーなら、殺ってみな」
挑発に挑発が重ねられ、殺気を孕む。
アンジェロは音も立てずにナイフを振りかぶった。
対するJ・ガイルは避けようとも迎え撃とうともしなかった。微動だにしない。
その時点でアンジェロは疑問を持つべきだった。
拳銃にそれほどの信頼を置いているのかと。
冷静に物を見ているのはどちらだろうかと。
煌めくナイフが映した奇怪な化け物に、とうとう気付くことなく、彼は逝った。
J・ガイルは暗闇が己の弱点であることを知っていた。
拳銃を手に入れ鏡面を増やすことができたとしても、アンジェロとの差は埋まるものではない。
味方にこそ最大の警戒を。
自分の嗜好を満たすこともやめ、少女が重症を負った時点でスタンドは手元に戻していた。
ただそれだけのこと。それだけの差。
J・ガイルが笑う。全身をのけぞらし、腹を抱え、死体を蹴り上げて。
家壁に反射したその声は増幅し、いつまでもいつまでも、狂ったように笑い続けていた。
* * * *
突然窓ガラスが割れて…、 由花子が怪我を負って…、
水のような不気味なスタンドに襲われて…、 それで…、 それで……?
口に入ってこようとしたスタンドを咄嗟にかわして、
一瞬目の前が真っ白になって、 あれは爆発……?
それにしても、臭いわね、絹が焼けたような匂い、一体何なの?
大体さっきから重たいのよ、私にのしかかっているのは敵?
さっきの奴?
…………じゃあない、私に覆いかぶさるように倒れている柔らかな肢体
これは、由花子………!!!?
「由花子 あなた、私を庇ったの……?」
爆発の直前に水を被ったせいもあるのだろうか。自分には驚くほどダメージがない。
上半身を起こしつつ、ぐったりとした彼女を横たえてやる。
力なく投げ出された三肢、美しかった黒髪はチリチリに焼け焦げ、無残としかいいようがなかった。
血の気のなくなった頬、目元には黒く浮かんだ隈。
床にはジリジリと赤黒いものが拡がっていこうとしていた。
「由花子………」
酷く気怠げに開かれた瞳は、すでに光を宿していない。
もう、彼女は……。
由花子が身体を起こそうとして叶わず、苦しげに唇を震わせる。
なにかを伝えようとしていた。
「なにを伝えたいの……?」
徐倫が由花子の口元に耳を寄せる。
わずかな呼吸が漏れ、言葉を紡いだ。
あ な た の 、 お と う さ ん を
こ ろ し た の は 、 わ た し
その瞬間、徐倫の中で時が止まった。
きな臭さが消え、爆発の熱気が消え、音が消え、感触が消えた。
ただ、耳の奥の方で、血液が激しい奔流となるのを感じていた。
いま、なんていったの?
ゆかこは、なんて?
だれを、だれを、ころしたと…………?
「『似てる』ですって?よくそんなふざけたことがいえたわね この腐ったゲス野郎……ッ」
怒りの余り顔面蒼白となった徐倫。その指が由花子の首をへし折らんばかりに締め上げる。
『似てる』と共感を抱いたのは徐倫。彼女に心許したのは徐倫。己だから、すべてが許せない。
だから……死ね……
……死ね……由花子!
彼女の血でぬめった指を、焼け焦げた肌にめり込ませていく。
抵抗する気力もないのだろう、死んだような由花子の瞳は徐倫の嗜虐心を煽り立てた。
しかし一方で徐倫はとてつもなく冷静に、疑問を感じている。
ならどうして私を庇ったの?
罪滅ぼしのつもりでしょう?
彼女は大切な人を失って泣いていた
すべて演技だったのよ 仲間と共謀して私をはめるための
どうして父さんを殺したの?
最初からゲームに乗ったクソビッチ野郎だったのよ、この女は
そうかしら
『そうかしら』?
彼女にとっては敵だった 私にとって荒木が、DIOが敵であるように
父さんは殺されるような、人間じゃない
本当に? 彼女の目的が、優勝して愛する人を取り戻すことだったとしても?
それは正義なんかじゃない、吐き気を催す『邪悪』よ
あなただって、肯定したんでしょう? どんな善人が傷ついたってかまわないと
私は正しい道を選んだ 彼女の選んだ道は間違ってる
いいえ、私達は『似てる』わ 選んだ道が、傷つけた相手が違っていただけ
「うわぁぁあああアアアアアアアアアアアアアア」
臓腑をひっくりかえされたような吐き気を覚え、胸をかきむしる。
死んでいくのは、私? 由花子?
結局抑えきれず、由花子に背を向けて吐いた。
中身がなくなり、胃液が喉を焼き、涙が止まらなかった。
そうして、再び山岸由花子に向き直ったとき、空条徐倫の瞳はどんな輝きも映してはいなかった。
「由花子、『あなた達』の意志は、私が引き継ぐ」
広瀬康一が遺した『打倒荒木』の意志。
山岸由花子が体現した『すべてを利用する』強さ。
アナスイが私を守ろうというのなら、喜んで盾になってもらおうじゃない。
すべては、荒木を屈服させ、何もかも元通りにする、そのために。
「『また』会いましょう、由花子」
彼女の滑らかな額に接吻を。それは『赦し』の意味じゃない。
立ち上がり、歩き出す。玄関を半歩出たところで振り返った。
「私が『こうなる』と期待して、私を庇ったの?」
答えは期待していない。
そんなことは、もうどうだっていいのだから。
徐倫が遠ざかっていくのを床の振動が伝える。
宙を見つめる少女の目尻から、一滴の雫が零れ落ちた。
「また………会いましょう………、康一君………徐倫……………」
【片桐安十郎(アンジェロ) 死亡】
【山岸由花子 死亡】
【残り 24名】
【E-4とE-5の境目 /1日目 真夜中】
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:身体ダメージ(大)、体中縫い傷有り、上半身が切り傷でボロボロ、火傷(小)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0. 荒木を屈服させ、すべてを元通りにさせる。
1.そのためならばどんなゲスでも利用してみせる。アナスイももちろん利用する。
2.自分達を襲った敵を見つける。
3.インディアン(
サンドマン)と情報交換。
[備考]
※
ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
加害者は問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。
※アナスイから『アナスイが持っていた情報』と『ポルナレフが持っていた情報』を聞きました。
※花京院から支給品一式を返してもらいました。
※居間で行われていた会話はすべて聞いていません。
【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行をホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』
[状態]:左耳欠損、左側の右手の小指欠損、右二の腕・右肩・左手首骨折(治療済み)
[装備]:9mm拳銃
[道具]:支給品一式×3、チューブ入り傷薬、死の結婚指輪の解毒剤リング、ディオのナイフ、ライフルの実弾四発、ベアリング三十発
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺しを楽しみつつ、自分が死なないよう立ち回る
0.大きな施設を回り、参加者を殺害する。
1.同盟の規約を守る。でもいらなくなったら同盟なんか知るか。
2.ほかの参加者を可能な限り利用し、参加者を減らす。
3.自分だけが助かるための場所と、『戦力』の確保もしておきたい。
[備考]
※『吊られた男』の射程距離などの制限の度合いは不明です。
※ヴァニラアイスの能力、ヴェルサス、
ティッツァーノ、
アレッシーの容姿を知りました。
※第二放送をアンジェロに話しました。
※由花子と徐倫は爆発で死んだものと思っています。
【備考】
※ホル・ホースの不明支給品は「ミネベア9mm自動拳銃」でした。
※山岸由花子の所持品は首輪の爆発を受けて、大破か消滅しました。
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最終更新:2011年03月15日 22:19