「……以上だ。君が眠っている間の事は、第三回放送も含めて」

「そう。その、ポルナレフ……さん、は?アタシを直接助けたのは彼なんでしょう?」

「ああ、彼なら今話した事を含めて俺と情報交換をしたあと、『次も“間に合う”ように』と言い残して出て行った。
 具体的な場所は聞いてないが、南西の方に行くと聞いた。ああ、君が起きたらよろしく伝えてくれと」

「そう。確かに今の情報を聞いた限りじゃあアタシ達の向かっていないコロッセオだとか研究所だとかの方にも人がいる可能性は捨てきれないって訳ね」

「ああ――また出会えるといいなと思うよ。彼も君の事をひどく心配していた」


一通りの状況確認が終わったのち、暫くの沈黙が部屋を包む。


第三回放送が終了してからおよそ十分後。空条徐倫が目覚めた時の反応は怒りでも悲しみでもなく、驚くほど淡々としていた。しかし、下を向いている彼女の目には光り輝く星が映っているはずである。
ナルシソ・アナスイはこれが彼女の精神の強さなのだろうと理解していたし、その強さが誤った方向に歩きだすことのないよう、自分が傍で見守る事こそ己の使命だと感じていた。

そんなアナスイの想いがこもった瞳を見る事無く、ベッドの上でうつむいたままの徐倫がふと沈黙を破る。

「プッチも死に……いよいよ大詰めと言ったところね。先の情報によれば危険人物は――」
「ポルナレフの話によれば、彼の仇でもあるJ・ガイルと、君が向かった館にいた人間の数名。いや、大半と言った方が良いかな」
徐倫の口調が荒ぶる前にアナスイが答えを挟む。


徐倫が今までどのような戦いを繰り広げてきたか、それは多少なりポルナレフから聞いている。
それゆえに、彼女がこの事を口にし、再び行動を起こしそうになった時、自分はどう対処すればいいのか。その事ばかりがこの十分間、アナスイの脳内を駆け巡っていた。
そして、その答えを示す時が来た……否、示さなければならない時が来てしまった。

「大事な二人を忘れているわよ、アナスイ。ディオ……そして、全ての元凶である荒木をね。
 そして、そこまで分かっているなら話は早いわ。このアタシ、空条徐倫がこういうシチュエーションの時どう言った行動をとるか……知ってるでしょう?」
ベッドからゆっくりと、しかし力強く降りる徐倫。その目は見つめる、と言うよりは睨みつけるような鋭さでアナスイのそれとかちあった。
一方のアナスイも、こちらはどちらかと言うと力強さの中に戸惑いや悲しみの色が見え隠れする濁った瞳で――徐倫を見据える。

「もちろんだ。だが、俺は君が死んでしまうような真似を見過ごす事は出来ない。共に行き、君を守ろう」

「アタシは死にに行くんじゃあない。ディオが生きていると分かった以上、再びあの館に殴りこみに行き、この血統の因縁にケリをつける。
 そして――何が何でも荒木のところに辿り着いて見せる。これはアタシの目的よ。あなたが口を挟む事じゃあない」

「いや、口を挟ませて貰うよ。俺だって君の強さはよく知っている。だが、この一日の間に何があった?君だって無事では済まない。
 俺はそれを何も知らないところで黙って見ている事は出来ない。君を荒木のもとに導く事は俺だって賛成だ。だが、その時に君の体力はどうなってる?」

決して一触即発と言ったムードではないが、重苦しく耐えがたい空気が部屋に充満する。
お互いがお互いの思う、正しい事を口にしており、それが間違った意見ではない。となればこの状況にも納得がいく。
ポルナレフは――この場にいなくて正解だったかもしれない。あの情熱はここでは空回りし、行き場のない苛立ちを抱えたまま……今後誰かの命の際に間に合う事は決してなくなるだろう。


「アタシはあなたが思うほど弱くない。女だからって守られてばっかりなんてのはゴメンよ」
「それはよく知っている。だがこれから無傷で勝ち残る事が出来るほど甘い世界ではないだろう。今ここに残っている連中が全員ラッキーで生き延びているのか?」

「そうは言ってない。むしろ強者ばかりが残っているならアタシが荒木に辿り着くための障害ばかりだという事。それを乗り越えてこそ辿り着けるものが荒木」
「話がループしてるぞ徐倫。障害が多いという事は君が負う傷はその数以上だってことを言いたいんだ」


重苦しかった空気が今度は一気に膨れ上がる。まるで徐倫の怒りが部屋全体を震わせているかのようだった。


「アタシが戦う事を望んでいないようね」
「厳密に言えば君が傷を負わなければ構わない。そして、それが不可能だと言ってるんだ」
「最強のスタンド使いである父さえもこの世界で死んでいった。傷を負わない戦いなどもう存在しないわ」
「そうして君が傷を負う事を俺は望んでいないし、傷を負えば君自身だって荒木に辿り着く事が不可能に近付くとわかるだろう?」


そして……アナスイが最も望んでいなかった事が徐倫の口から放たれた。

「だったら――力ずくでアタシを止めてみなさいよッ!」

同時に繰り出されるスタンド。その両拳をアナスイは寂しげな目で見つめていた。

「君に殺されるのなら本望だ」

自らの化身とともに唸り声をあげながら突っ込む彼女にアナスイの声は届かない。
もっとも、届いたところで拳を止める気などさらさらなかった。今の彼女にとってアナスイは『荒木打倒への障害物』でしかない。




「……とは、とても言えないな」
徐倫の怒号にかき消されるアナスイの唇が、そう動いた。




「徐倫―――」

迫りくるストーン・フリーの左拳をダイバー・ダウンが右肘を使って受け流す。
同時に、突進力に物を言わせ繰り出される右拳を左掌で抑える。
そして――空いた右手をストーン・フリーの左腿へ、能力を発動。

体内の構造を変えられてしまったストーン・フリーがぐらりと傾く。
それでもなおアッパー気味の左。彼女の精神は肉体がどうなろうとも留まらない。



「いつまでも―――」

彼女の事を想っていた。彼女の強い意志と聖母のような優しさがとても好きだった。
自分の闇が彼女によって晴れていく、そんな気持ちが彼を動かしていた。

バランスが崩れたアッパーカットは空を切り、その拳の慣性によってアナスイに背を向ける体勢となる徐倫。
背後からの攻撃はいささか気が引けたが――今度は右膝に対して能力を。
この時、回転力を利用した裏拳が胴を揺さぶるも、下半身がまともに機能しない今の彼女ではアナスイを昏倒させるほどの力はなかった。



「絶える事無く―――」

彼女の事を想い続けていた。だからこそF・Fと共に懲罰房に向かって彼女を救ったのだし、大金はたいて指輪も買った。
それが彼女に届く事はないと知ってなお、アナスイという男は徐倫という女を愛し続けたのだ。

下半身が利かなくなったと判断した瞬間、徐倫は天井に向けて左手から糸を繰り出し、ターザンロープの要領でなおもアナスイに攻撃を繰り出す。
だがそれもアナスイには届かない。徐倫本人はこの瞬間に気付くのだが、アナスイが変えたのは徐倫の骨格ではなくあくまでもスタンドの骨格。
糸を繰り出せば繰り出すほど、お互いが絡み合い解く事は困難となる。そして、スタンドのダメージは本体に影響する、という訳である。
しかしそれでも、それでもなお、空条徐倫は攻撃を止めなかった。残された右手をブンブンと振りまわし必死にアナスイを狙う。
だがそれも今やハエを叩き落とせるかどうかの頼りないもの。ゆっくりと徐倫のもとへ歩み寄るアナスイ。原形をほとんどとどめなくなった彼女を抱き上げる。



「―――友達で、いよう」

愛している、とは言えなかった。共に歩み続けよう、とも言えなかった。結婚なんて単語はこれっぽっちも出てこなかった。
だが、お互いがお互いを信頼しあい、尊敬しあいっていた。だがきっと、それは恋や愛とは別の何かである。
そしてその正体は、何物にも代えがたい友情であると、アナスイはこの時に確信できた。アナスイの中に浮かんだひとつの答えであった。

徐倫をゆっくりと抱きしめる。決して長い時間ではないが、しっかりと。
その手は彼女を守るための手。そのためには能力の発動を忘れない。徐倫の最後の腕さえもバラバラにし――アナスイが徐倫の身体を引き離した時、彼女は傍目には糸の塊のようにしか映っていなかった。



「今日の日は―――さようなら」

恋人同士とか、親と子でもなく……友人同士でも、教師と生徒とも違う。そんな奇妙な信頼関係が生まれる事はあるのだろうか。
いや、いつの時代とは分らないが、きっとそういう関係も生まれるのだろう。それはどんなに素晴らしい事か。その関係には愛を超えた何かがあるはずである。
徐倫を愛し続けるだけであったこれまでのアナスイには見えなかった道がひとつ浮かび上がったのだ。晴れ晴れとしている訳ではないが、どことなくスッキリした、そんな気分だった。

言葉を発する事さえなくなった徐倫の肉体をそっと抱え、ベッドに向かう。
そして己の分身、ダイバー・ダウンを呼び出しベッドに向けて一発。ぽっかりと空いた穴の中にゆっくりと徐倫を降ろし、そして再度ベッドを……今度は触れた。
もはや肉眼では確認できないが、空条徐倫の身体はベッドの木々にすっぽりとはまり、布団の繊維とも絡み合っており、動く事は出来なくなっていた。



「―――また、会う日まで」



荷物を拾い上げて部屋を出る。徐倫の荷物は『徐倫の下』に隠しておいた。
寂しげな狭い廊下の果て、ドアノブを握ったアナスイは振り返る事無く家を出る。もちろん鍵はスタンドを利用してかけておく。


彼の決意。それはあくまでも『徐倫を守る』事である。
現在の彼女は再起不能だが……決して死ぬ事はない。誰に見つかる事もなく、この殺し合いを『無事に生き延びる』のだ。
彼女が負う傷はかわりに自分が負えば良いだけの話。自分が障害を取り除いていけば彼女が拳を振るう必要も無し。何事も無事に済むのである。
最後まで自分が生き延びて徐倫を救いだし、自決。それで彼女は荒木との決着に全力を注げるという訳だ。


ここで考えられる問題は大きく分けて二つ。この忌々しい首輪が爆発する要因、すなわち禁止エリアの問題。そして、彼女を守る己の死の可能性、である。

前者についてはアナスイ一人ではどうしようもない。首輪をはずす能力のある人間がひょいと目の前に現れるなんて事はまずない。現実は非常である。
さらに言うならば、彼が戦闘中、あるいは負傷又は死亡によって禁止エリアの情報を得られないという事も重々承知できる。
要するに何が必要か、考えるまでもないだろう。仲間、と言うほどの贅沢は出来ないがとにかく人手が欲しいという事である。

一方の後者についても同様。人手があればどうにか間に合わせは出来る。
本体が死んだ場合は同時にスタンドの能力も消滅するという事はスタンド使いなら誰でも知っている。徐倫とて動けずとも能力の消滅はその身体で感じ取れるだろう。
そうなれば、実際には関節が極まっている程度のあの状態から抜け出すのは容易いし、仮にストーン・フリーが糸を伸ばす事無く精密な動作で絡まった糸を解けるのならば一応の復活は可能。
ここまではその気になれば彼女一人でも可能であるものの、アナスイがこれまで治すことを前提に能力を発動した事がないため、どう転ぶかは分からない。
そのための保険に『解き役』の人員が居ればいい、という結論である。


いずれにしても『人間』が必要である。共闘までする気はない。空条徐倫はこれまで孤独にこの殺し合いを乗り越えてきたに違いないからだ。

デイパックから方位磁針を取りだして数秒。彼の足は南を指す。一瞬DIOの館に行くべきか否かと思ったが、第一は彼女の生存確率を上げる事である。

彼には『ここを対荒木飛呂彦戦のために使う拠点とする。何があってもここを『帰る場所』として守っておいてくれ』
……とでも言えば良いだろう。具体的な理由や行動の動機を聞かれた際にどう弁解するかはまだ考えていない。
だが彼とは約束をしてあるし、何より足の回収もある。
意見が対立した時に戦闘にでもなったら厄介だ、それが唯一の心配だったがここで行かない訳にもいかない。


たとえそこで何が起ころうと――向かうべきは、特別懲罰房。



【D-4 南部 民家の玄関先/1日目 夜】

【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:これまでの負傷は応急手当済、全身が絡まっている(肉体的には関節が極まっている程度)、気絶中
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、メローネのバイクはガレージに駐車してある
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0:気絶中
1:DIOの館に向かい、DIOと決着ゥ!つける
[備考]
ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
 加害者は(どんな事情があろうとも)問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。
※アナスイから『アナスイが持っていた情報』と『ポルナレフが持っていた情報』を聞きました。


【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:右足欠損(膝から下・ダイバーダウンの右足が義足になっている)、それ以外は健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、ラング・ラングラーの首輪、トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫を守り抜き、ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.以下の1~5を全うするためにも特別懲罰房へ行く
1.マウンテン・ティムに右足を返してもらい、D-4民家を『拠点』として守っておいてもらう。徐倫の事を言うかは未定
2.徐倫の敵は俺の敵。徐倫の障害となるものはすべて排除する
3.徐倫の目的、荒木のもとに彼女(と自分)が辿り着くためなら何でもする
4.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
5.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしておきたかったが出来なかった(大して後悔はしてない)

[備考]
※マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。
 ブチャラティ、フーゴ、ジョルノの姿とスタンド能力を把握しました。
 ベンジャミン・ブンブーンブラックモア、オエコモバ、ミスタ、アバッキオ、、チョコラータの姿と能力も把握しましたが彼等は死亡したため重要視はしていません。
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
 ※以上の事もティッツァーノが死亡し、誰かに伝えるといった目的があまりないため重要視はしていません。
ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません。
※ダイバーダウンが義足になっています。他の細かい制限は後の書き手さんにお任せします。
※F・Fが殺し合いに乗っていることを把握しました。

※以上の事を放送前後にポルナレフに情報として提供し、ポルナレフが得た情報について知りました。
 なお、ポルナレフと荷物の交換等は行っていません。
※以前の思考にあった、
 6.万が一アラキに勝てないと分かればその時は……?
 7.徐倫に会えたら特別懲罰房へ行く…のか?
 に関して、6に関しては完全に思考の外。7に関しては『向かう』と結論付けて思考から除外しました。


[備考]
※【C-4 DIOの館 門前】にヨーロッパ・エクスプレスが、
  【C-4 DIOの館】にラバーソールのデイパック(支給品一式 ×5(内一食分食料と方位磁石消費)、
  ギャンブルチップ20枚、ランダム支給品×1、サブマシンガン(消費 小)、
  巨大なアイアンボールボーガン(弦は張ってある。鉄球は2個)、二分間睡眠薬×1、剃刀&釘セット(約20個))が放置されています。

ホル・ホースのデイバッグ一式がD-4 中央に放置されてます。
 ※アナスイは拾っていないようです(発見していないようです)。

ダイアーの生首はE-5の繁華街の少し東の民家に放置されてます。





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173:For no one - 誰がために? 空条徐倫 190:夜の三者会談SOS
173:For no one - 誰がために? ナルシソ・アナスイ 190:夜の三者会談SOS

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最終更新:2010年11月07日 14:44