「「コオオオオオオオオ!」」

二つの呼気が入り混じり、鋭い蹴りや打撃が交差する。
一進一退。シーザーとジョナサンのバトルは、いつしかとある広場にて繰り広げられていた。
住民が集まるその憩いのオアシスは、中央に位置する大木を囲むような丸いベンチに、洒落たデザインの外灯、
水飲み場やモニュメントまで設置されている。散歩しながらちょっと休憩する時にでも、と各所に趣向が
凝らされたその場所で、いやはや喧嘩どころか殺し合いが勃発するとは、きっと設計者も予想だにしなかっただろう。

「ズームパンチ!」
「!」

ジョナサンの得意技、関節を外しリーチを伸ばしたパンチが、シーザーに襲いかかる。
だがシーザーは、シャボンランチャーの応用で両手の間に膜を作り、これを防ぐ。
弾け飛んだジョナサンは辛くも着地し、すかさずサブマシンガンの銃撃を放つ。
ぱらららららら。と迫りくる弾幕を、彼は動物を模した像に隠れやり過ごす。
御影石が粉々に砕かれ、土煙が上がる。駄目押しにと像の裏手に回るジョナサンだが、そこに彼の姿はない。
がさっ。という音に頭上を仰ぐも既に遅し。街路樹によじ登り、そして飛び降りる勢いが上乗せされた
シーザーの仙道波蹴は、傷付いたジョナサンの右肩にクリーンヒットし、彼を地面に叩きつける。
サブマシンガンが手からこぼれ、彼らの何mか先に飛んでいった。

シーザーとジョナサン、実際の波紋の強さ自体は同じぐらいであった。
しかしこの戦い、シーザー側に軍配が上がっている。
いくらラグビーの名選手とはいえ、実際のところジョナサンは、温室育ちのお坊ちゃんである。
その点、荒れた青春を過ごし、ローマの貧民街で大人のチンピラヤクザにさえ恐れられる程の
ワルだったシーザーには、そこで培われた喧嘩のセンスがあった。
相手の思考を読み、的確にダメージを与える攻撃を見極める、そんな洞察力に長けていた。

「そういや、まだ俺の名前を教えてなかったな。俺はシーザー。ツェペリ一族の末裔さ。
あんたも知ってるだろう?誇り高き祖父ウィル・A・ツェペリの名を。」
「ふぅん。その波紋、その帽子…道理でね。」

敬愛する師、ウィル・A・ツェペリの子孫だという事実を告げられても、ジョナサンは何の反応も見せない。
その闘い方、正義感溢れる性格。そう、ジョナサンは彼に言われずとも薄々と気付いていた。
だがそれがどうした?ジョナサンの頑なな心に、代々続くジョースターとツェペリの絆など、付け入る隙はない。
優勝の為なら、きっと彼は血縁者だろうが恩人だろうが、戸惑う事なく殺害するだろう。

それがシーザーには許せない。
この殺し合いで、ジョナサンがどんな辛い経験をしたのかは分からない。
シーザーとて同様だ。共に連れて来られた仲間達は、自分一人を残して早々と死んでしまった。
ゲームに優勝すれば、確かに死んだ者達を帰してくれるかも知れない。それは甘い甘い誘惑だ。
だが何十もの命を踏み台にして与えられた、二度目の人生にJOJOは、リサリサは誇りを持つだろうか?
大切な事は、消えていった魂を取り戻すのではない。彼らの遺した意志を受け継ぐ事だ。

だからこそ、全ての原因を作った荒木に、制裁を加えねばならないのだ。
どちらが正義で、どちらが悪かは重要でない。
荒木に与し、殺し合いを加速させる歪んだ思想は、彼が打ち砕かねばならない。
その相手が、かつて誇り高き戦士だった親友の祖先だとしても。

「今の蹴りは効いたよ。でも君はもう勝った気でいるんじゃあないかい?違うんだなァ、それが。」

圧倒的不利に立たされたジョナサン。だのに血の滲んだ唇は、不遜な笑みに歪んでいた。
ハッタリじゃない。奴にはこの戦況をひっくり返せるような『凄み』がある…!
だがシーザーは退かない。どんな隠し玉を持っているかは知らないが、要はそれを出させなければいい。
ダメージが抜け切らず、地に這いつくばるジョナサンに、止めの波紋疾走を喰らわせてやる!
そして、そのシーザーのプライドの高さと気の強さが、彼らの命運を分ける形となった。

「――――ぐはぁぁぁっ!!」

「『プラネット・ウェイブス』…成程。勝つ事への執念と、怒りのエネルギーがスタンドを
発動させるキッカケになった。とディオは言ったけど、ようやく意味が分かりかけてきたよ。」


―――それは、ジョナサン達が民家に身を潜めていた時の事。

「君も頑固な奴だな、ジョジョ。いい加減支給品を確認したらどうなんだ?」
「必要ない、と言ってるだろ。別にそんな物無くたって、困りやしないし。」
「それじゃあ俺達が困るんだ。どれ、俺がやる、貸してみろ…ヌゥ、これは!?」
「ああ、それかい?ちょっと前に殺した参加者から手に入れたんだよ。そんな大げさな。」
「全く君って奴は。こいつの価値を分かっていないのか?…そうだ、こいつを額に差してみろ、ジョジョ!」
「……正気かい?ディオ。」
「良く聞け、これは素質ある者に『スタンド』を与えるDISCだ。俺はこれで今の能力を手に入れた。」
「『スタンド』…。君達の持つ不思議な能力の事か。確かにそれは興味あるね。ちょっと怖いけど是非試させてくれ!」

「はじかれない、か。おめでとうジョジョ、これで君は新たな力に目覚めた。」
「特に何も変わらない気がするんだけど、本当に大丈夫かい?」
「流石の俺も、そいつにどんな能力が秘められているかは分かりかねる。
ただ今は実感出来ずとも、しかるべき時が来れば、きっと君の才能は花開くさ。」
「有難うディオ、でもいいのか?こんな重大な事簡単に教えて貰って?」
「なぁに、気にするな。腕を治療してくれたお礼さ。
(フン、いくら波紋とやらが使えても、所詮非スタンド使いのお前は、俺達より一段低い存在だ。
弱いお前を見て、吉良の気がいつ変わるかも分からない。バランスを保つ必要があった。
それにお前は知らないだろうが、スタンドも記憶も自由に取り出せる俺の方が、有利な事に変わりはない…。)」


「ハァ、ハァ…。ぐぅっ!?」

隕石をもろに背中に受けたショックで立ちつくすシーザーに、今度はジョナサンの蹴りが炸裂する。
まだスタンド使いになりたてで、うまくコントロール出来なかった隕石は、シーザーへ命中する前に
砕けてしまい、彼を襲ったのはごくごく小さな破片群。風穴を空けられた訳でもない。
だがそのダメージは、後ろから機関銃を喰らったも同然。頭部を外れたのは不幸中の幸いである。

「これで形勢は逆転だね、シーザー君。」

隕石に抉られた傷と、火傷にのたうち回るシーザーの喉を、ジョナサンは容赦なく踏みにじった。
波紋使いの弱点である喉を押さえられ、彼は波紋を流して抵抗する術を封じられてしまった。
そして再び飛来する隕石。一つ目は大きく外し、左方の外灯をベキッ!とへし折る。
二つ目の隕石は、ジョナサンの真上に降り注ぎ、能力により当たる寸前で燃え尽きる。
三つ目。シーザーの左腕と肩に掛けられたディパックの間辺りに落下し、その衝撃で腕とディパックを破壊する。

「うわああああああああああッ!!」

中々コントロールが難しい。だが次は絶対に外さない。
人間にとって最も大事な器官、心臓に缶詰でも入りそうな大穴を空けてやろう。
息を吐いて気合いを入れる彼の目が何気なく捉えたのは、先程の衝撃で焼き焦げ首だけになった、女の子用の人形。

「(これは、エリナの人形…?どうして、何故ここに!?)」

刹那、ボロボロになった人形にエリナの顔が重なる。
―――ジョナサン。また私を殺したの?一度目はグチャグチャに破裂して、
   今度は首から下を吹っ飛ばしたのね。嗚呼痛い、痛いわどうしてくれるの、この人殺し…!

「(違う、違うんだエリナ。僕はこの男を始末したかっただけ。
そうすれば、殺し合いに優勝すれば、君は生き返る。全部君の為なんだ!!)」

これはただの幻だ、惑わされてはいけない。分かっていながらも、震えは止まらなかった。
スタンドとは即ち精神の力。あと一発、シーザーの急所に隕石を叩き込めば勝ちなのに、
プラネット・ウェイブスは動こうとしない、どうしても動かない…。

銃声と共に、ジョナサンの足に突如激痛が走る。
蹴り飛ばされた時、シーザーは彼のサブマシンガンを、抜け目なく拾っていた。
そしてジョナサンの隙を突いて、後ろ手に隠した銃をブッ放してやったのだ。
足の拘束が緩み、シーザーはよろよろと立ち上がる。

銃はもう必要ない。この男を倒すのは、先祖代々受け継がれてきたツェペリ魂の結晶、波紋でなければならない。
無意識の内に、シーザーの手にはジャイロの鉄球が握られていた。
彼には知る由もないが、その鉄球を得物としていたのは、彼と同じく『シーザー』の名を持つ男である。
時代を越え結び付いた二人のツェペリ。きっとそれは、偶然ではない何かによってもたらされたに違いない。

「行くぜ!ブッ壊すほど………シュートッ!!!」

コオオッ!と深い呼吸で最大級の波紋を練り上げ、体勢を崩したジョナサンに渾身の一撃を叩き込む!
シーザーの体から流れ出した血液は、鉄球にも波紋を伝導させていた。
ドォーーーーーーーーン!!という凄まじい衝撃音と共に、ジョナサンの巨躯は宙を舞う。
勢いのままに数十m先の大木に激突し、地震の如く地を揺らした。
すぐさま追い討ちをかけるべく、駆け寄ったシーザーが見たもの、それは。

「ウッ……ガハッ、ゲホッ!!」

喉を押さえて悶え苦しむジョナサン。両手の隙間から、みるみる血が溢れ出す。
巨木から突き出た太く長い枝は、彼の喉と腹部を貫通し、彼の体を磔にしていた。
ジョナサンのタフな根性はそれでも、シーザーと決着を付けるべく、枝を引き抜こうとする。
喉の枝が半分ほど抜けるのを見たシーザーは、再び戦いの構えを取った。
だがそれも杞憂に終わり、あと少しで喉の枝が外れる所で、彼の力が急に弱弱しくなり、
やがてびくびくと痙攣を始め、ついにガクっと頭を垂れ動かなくなった。


こうして、ジョースターとツェペリの皮肉な巡り合わせによる殺し合いは、終焉を迎えたのである。


◇   ◆   ◇


「あんたの無念は晴らしたぜ、スピードワゴンさん………。」

ぜえぜえと荒い息を吐きながら、シーザーは誰にともなく言い放った。
俺としてはちょいと残酷趣味だが、これが当然の報いだと、血混じりの唾を吐きかける。
実力は五分五分。勝利の女神が味方しなければ、再起不能はシーザーの方だった。
アドレナリンの分泌が収まったか、忘れかけていた痛みと疲労が一気に押し寄せ、強烈な立ち眩みが起こる。

こんなにボロボロになりながら、よくもまぁあんな力が出せたモンだ。
自身が負ったダメージを見遣り、俺は他人事のように驚いた。
左腕はあらぬ方向にネジ曲がっているし、銃で空けられた穴があちこちにある。
最もひどいのは背中だ。あの隕石のおかげで一体何ポンドの肉を失っただろう。燃えるように痛む。

それでもこうして立っていられるのは、波紋エネルギーの恩恵と、自らの鍛え抜いた肉体があってこそか。
なんてったってリサリサ先生や師範代に、散々しごかれたからな。この位でへこたれやしないさ。
ま、怪我は波紋の呼吸で治療するとして、連戦続きは流石に体に堪えたな。
背中の負傷を庇いながら、俺は地面にうつ伏せになって寝転んだ。

10分、いや5分でいい。体を休めてからディアボロを助けに行こう。
本当はひと眠りしたい所なんだが、宿敵ディオをまだ仕留めちゃあいない。
それにいくらディアボロといえど、二対一で闘うのはキツイだろう。
本来なら、すぐにでも駆け付けてやるべきだろうが、大目に見てくれ。ヒーローは遅れてやって来るものさ。
なぁに、じきに行くよ。これが片付いたら、露伴達の所にも行ってやらねーと。
それに、エシディシの野郎もまだ生きてる。奴を倒せるのは、俺みたいな波紋使いだけだ。

不意に、口内に溜まっていた血液が気管に入り、俺はたまらず咽込んだ。
なかなか収まらぬ咳。やがて迫り上がってきた血反吐が、大量に地面に吐き散らされる。
やべえ、波紋の呼吸が乱れちまう。早く怪我を治さなきゃなんねーのに。
しかも瞼が重くなってきた、不味い。こんな所でノンキこいてオネンネか。と呆れ顔のディアボロが目に浮かぶ。

ディア、ボロ…。すぐそっち、に向かうぜ…。死、ぬなよ。
それ、と首洗って待って、やがれ、ディオ。俺のじいさんの仇、と、らせて…もらう、から…な……。

………………………………。




◇   ◆   ◇


どれくらいの時間が経っただろうか。僕は奇跡的に、意識を少しだけ覚醒させた。
ここはどこだろう?なんだかとても気分が悪い。
体中がズキズキ痛むし、頭の中が朦朧とする。
おまけにもの凄く寒い。まるで、ひどい風邪でもこじらせてしまったかのように。

僕は今まで何をしていたんだっけ?
―――思い出せない。

何かにもたれかかり、座っている体勢が段々苦しくなってきて、僕は身じろぎをした。
すると、下腹の辺りに耐え難い痛みを感じる。

痛い!僕は叫ぼうとした。だが声が出ない。こんなに痛いのに、呻き声すら出せない。
どうなってしまったんだ、僕は?満足に動かせぬ体に鞭打ち、僕は目線を精一杯下方に向けた。
―――なんだ、こいつは。

身動きが取れない訳だ。僕の首の後ろと腹部には、血に塗れた杭が突き刺さっていた。
その瞬間、ジグソーパズルのピースが次々嵌まっていくかの如く、あやふやだった記憶が舞い戻った。

少し離れた所に、人が倒れていた。そうだ、彼の名は確かシーザー……ツェペリ。
ツェペリさんの孫にあたる波紋使いの青年で、僕は彼の一撃をもろに喰らって吹き飛んだ。
そして僕の体を受け止めたこの木には、太い枝が何本も突き出ていて…。
ああ、思い出した。それでこんなモズの餌のような間抜けな格好になったんだった。

「(く………はははっ…。)」

そうさ、僕は何て間抜けな男なんだ。誰一人大切な人を守れず、とうとう参加者を皆殺しにして
全て無かった事にしようなどと血迷った決断をして、落ちに落ちて最期はこのざまだ。
何て無様な、滑稽な。そして、哀れな。
そう思うと、むしょうに笑いがこみ上げてくる。潰れた喉からは笑い声なんて出ないけど。

この世界に来る前に、僕はディオという吸血鬼を倒した。
だがこの姿を見ろ、僕はまるで、胸に杭を打たれて殺される吸血鬼そのものじゃあないか。
どうか笑ってくれ、父さん、ブラフォード、スピードワゴン…。

かちん。

僕のポケットから何かが落ちて、金属特有の音を立てた。
目の前をころころと転がって行くそれは、よく見るとエリナの指輪だった。
ふらふらと蛇行し動きを止めたその指輪を、誰かの白い手が拾い上げた。

―――そんな、そんな馬鹿な。だって君は…ッ!
僕は思わず目を見開いた。

エリナだった。
誰よりも逢いたいと願った愛しい人は、息を飲む程に美しく、そしてどこか悲しげな表情を浮かべていた。

―――おお、待ってくれエリナ。僕を置いていかないでくれ。

僕は最後の力を振り絞り、自身の体に食い込む太い枝から、逃れようともがいた。
この世のものとは思えない苦痛に、頭が真っ白になりかけるが、なりふり構っていられなかった。

エリナ、聞いてくれ。僕はどうしても、君に生き返って欲しかった。
もがく。
ドス黒い悪に染まった僕を見て、君がどんなに悲しもうと、拒まれようと
もがく。
二度とこの手に抱き締められなくとも、全世界の人間を敵に回そうとも、
もがく。
―――大切な君が生きてくれさえいれば、それでよかった。

首と腹の傷を一層深くしながらも、僕はついに拘束から抜け出した。
あとほんの少し腕を伸ばせば、彼女に手が届く。
しかし現実は残酷で、全てを使い果たした僕の体は、急速に力を失ってゆく。
前のめりに倒れて、嫌と言うほど顔面をぶつけたが、もはや痛みすら感じない。

ここで終わるのか…。死を覚悟した僕の目に映ったのは

―――ああエリナ。僕を赦してくれるのかい。こんな僕を、君はまだ信じてくれるんだね。

僕を献身的に看病してくれた、あの時の様に優しい笑顔で、差し伸べられた手を

―――愛しているよ、エリナ。

僕はしっかりと握った。


◇   ◆   ◇


「間に合わなかった、か…。」

サンドマンとの情報交換を一旦放棄し、自分達を襲った敵を捜索していた空条徐倫
その過程で見た、闇を引き裂く灼熱の隕石。その光と燻ぶる煙を頼りに、
どうにか現場に辿り着いた彼女が発見したものは、二人の男の無残な亡骸。

金髪の男の背中は酷く焼け爛れ、大部分が抉られていた。
黒髪の男は血だらけで、首と腹部に大怪我を負っていた。
大方、何らかの理由で二人は戦いましたが、結局相討ちになってしまいました。といった所だろう。

簡単な考察を終えると、あたしは放置された支給品達を確認し、必要な物だけを
自分のディパックに移して、さっさとここから離れることにした。

ここで何があったかなんて、あたしには関係ない。
あの隕石はきっと、元はウエストウッド看守のスタンド能力で、どうやったのか黒髪の男がDISCを奪い、
それが金髪の男に致命傷を与えたんだろうなんて事は、心底どうでもよかった。

ここにあるのは、二人の男が死んだという『結末』だけ。
名前や立場など関係ない。人は死ねばただの肉の塊になるだけだ。
あたしは立ち止まってなんかいられない。成し遂げなければならない事があるのだ。

「…?何かしら。」

ふと、黒髪の男の手元に目が止まる。
丸められた掌の中に、何かが握り締められていた。
ところが、既に死後硬直の始まったその拳は岩のように固まり、
パワーに自信のあるストーンフリーですら、こじ開けるのは不可能だった。

「やれやれだわ。こんな手、本当は使いたくないけれど。」

呟きながら、あたしは手頃な石を拾い集める。
必要な物は、ちょうど旧石器時代の原人が使うような、鋭利に尖った石だ。
以前のあたしは、こんなグロテスクな真似をするくらいなら、いっそ中身なんて諦めていたでしょうね。

徐倫は自嘲気味に笑い、人差し指と中指の辺りに狙いを定め、一気に石を振り下ろした。
至って冷静に、看護婦が静脈に注射針を刺し込むような気持ちでゆっくりと、ジョナサンの指を切断する。
一度、二度、三度……。そしてようやく露わになった手の中から現れたのは…

「指輪?」

まぁ恐らく誰かのボタンか、コインだろうと予想していたが、まさか指輪だったとは。
血糊にまみれ、てらてらと光るそれを右手の薬指にそっとはめると、驚くほどしっくりと指に馴染んだ。
満足げな表情を浮かべると、徐倫はおもむろに立ち上がった。
最期にジョナサンの瞼を閉ざし、ディパックを肩に担ぐ。

―――別に指輪なんて欲しいわけじゃあないわ。この行動に、特に意味なんかない。
   あえて言うなら、貴方の顔が、どことなくあたしの父さんに似ていた。ただそれだけよ。

我ながらクレイジーな事をやってると思う。
だけど、こんな殺戮ゲームに放り込まれて、正常であろうとする方が変じゃない?
キリストじゃあるまいし、未だに倫理とか、正しい人の在り方なんて気にする奴の方がよっぽどクレイジーよ。
二つの遺体を交互に見比べ、踵を返すと足早にこの場を後にする。

―――サヨウナラ。


【C-5南部 /1日目 /真夜中 】
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:身体ダメージ(大)、体中縫い傷有り、上半身が切り傷でボロボロ、火傷(小)
【装備】:エリナの指輪
【道具】:基本支給品一式 、サブマシンガン(残り弾数70%)、不明支給品1~5(確認済)、ジャイロの鉄球、メリケンサック、エリナの首輪、ブラフォードの首輪、
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0. 荒木を屈服させ、すべてを元通りにさせる。
1.そのためならばどんなゲスでも利用してみせる。アナスイももちろん利用する。
2.自分達を襲った敵を見つける。
3.インディアン(サンドマン)と情報交換。
[備考]
ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
 加害者は問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。
※アナスイから『アナスイが持っていた情報』と『ポルナレフが持っていた情報』を聞きました。
※花京院から支給品一式を返してもらいました。
※居間で行われていた会話はすべて聞いていません。


※『プラネット・ウェイブス』のスタンドDISCはジョナサンの死亡と共に消滅しました。
※C-5南部にはディパック、“DARBY'S TICKET”、ダニーについて書かれていた説明書(未開封)、ウィル・A・ツェペリのシルクハット、エリナの人形、中性洗剤、スピードワゴンの帽子が放置されています。


【ジョナサン・ジョースター 死亡】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ 死亡】

【残り 18名】



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時系列順で読む


キャラを追って読む

191:いともたやすく行われる―― ジョナサン・ジョースター GAMEOVER
191:いともたやすく行われる―― ディオ・ブランドー 207:天の光は全て星
192:迷える奴隷 その① シーザー・アントニオ・ツェペリ GAMEOVER
191:いともたやすく行われる―― 吉良吉影 207:天の光は全て星
192:迷える奴隷 その① ディアボロ 207:天の光は全て星
201:ニュクスの娘達 空条徐倫 210:ただの人間だ。人間でたくさんだ。

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最終更新:2011年03月15日 22:37