「ジョナサン、シーザー、由花子……どいつもこいつもくたばった!」
ディオにとって、放送は吉報だった。
知る限り確実に敵視されている邪魔者があらかた死んだのは僥倖としか言いようがない。
個人的な恨みを晴らせなかったことを捨ておけるほどに、今のディオは平静である。
あまりに広大で、夢物語と捉えられかねない野望を見据え、掴むためにも。
「限りなく最高の条件だ。だが……だがしかしッ! 一手足りない!」
見据えたうえで、理解しているからこそ、乗り越え難い。
シーザーの件からしても、過去の汚名とはいえ何人かには間違いなく敵視されている。
悪評を伝聞した者がいることを考えると、終盤になればなるほどディオは不利だろう。悪意でないからたちが悪い。
確実に『乗っていない』という『示し』を付けなければ。
「予想は、ほぼ合っているはず。だが、俺の方から証明しなければ信用は……!?」
ディオが焦っている理由はそれだ。
殺し合いの最中でなら悪行を重ねることはなかったが、それが真であると誰が言える。
言わせるには、『ホワイトスネイク』による洗脳も選択肢に入るだろう。
だが、駒と言っても、ある程度は自分で動いてくれなければならない。流石に全員DISC頼みは骨が折れる。
それこそDIOに直面し、対立した者さえ納得させてしまえるような強い説得力を持った何かを見せる必要がある。
視界に入った瞬間殴りかかられる可能性も考えれば、言葉を交わすことさえなく、分からせなければならない。
この溝を埋めなければ、ディオにとっての勝利は永劫来ない。
やりきれなくなり、ディオはふと、窓越しに夜の闇に溶け込んだ外を見る。
今は無人の城、DIOの館を眺望する。未来の帝王に届くことなく、潰えるのかと苦悶しながら。
「フッ、フフ……」
途端、噴き出した。
「アハハハッハハハッハハッハハハッハハハ」
仰け反って、腹を抱えて、顎が外れるほどに口を開けて。喧しく、けたたましく、品なく。
息を切らしたところで、肺活量の限界まで吸い込み、叫んだ。
「舐めくさりやがってッ!」
★
「露伴たちが……くそッ!」
ディアボロにとって、放送は凶報だった。
地下鉄駅内で邂逅し、初めはその瞳に恐れをなしたものの、年端もいかない守るべき存在だった早人。
情報交換の間も、自分の要望を押し通そうとするあたり大人げないが、荒木に怒りを覚える正義の心は見て取れた露伴。
会話はなかったものの、露伴の皮肉交じりの紹介から実直な性格だろうと思われた億泰。
そして、先刻まで行動を共にしていたシーザーまでもが。
細かな砂を掴んだかのように、手にしたと思い込んだものは何もかも零れ落ちていく。
「時を飛ばせなくなった結果が、このザマか……!」
自ら望み、手放し始めた能力も。
あれば救えたかもしれない。零しても、掬える命があったかもしれない。
だが今更だ。取り戻せば外道に堕ちる。
ならば、背負っていくしかない。零さぬよう、努力していかなければならない。
「貴様ッ……!」
だからこそ、悠然と向かってくるディオを前にして、何もしないわけもなく。
なぜ、単独で現れたかなど気に留めない。相方が出てこれない状況なのは確かだ。
回収したボウガンをディオに向け、構える。
「撃つな」
「いまさら何を!」
スタンドも出さず、ゆったりと近づいてくるだけのディオに違和感を持つ余裕がディアボロにはなかった。
策の布石だとか、油断を誘う罠だとか、悪いようにならいくらでも考えられる。
ディアボロが前後左右、上空さえも警戒しようが、ディオが何かを仕掛けてくる様子はない。
「静かにしろ。俺を見て特に思うことがないのなら、その腐った脳みそはとっとと掻きだした方がいい」
そうこうしているうちに接近を許し、月明かりに照らされて、徐々に明らかになっていくディオの五体。
左手首は断ち切られたものの、とにかく五体だ。
そう、今のディアボロには見えている。
若干引きずりがちな左足も、かすり傷程度の銃創も、包帯で気休めとしか思えない処置を施された左腕も、僅かに乱れた金髪も。
そこまで視認出来ているのだから、『キング・クリムゾン』で鉄槌を下すには十二分な距離。
しかし、ディアボロは構えを解いた。
解かざるを得なかった。
「首輪が……!?」
どんな参加者だろうと等しく課せられた枷が、ディオの首からはまるきり姿を消していたのだから。
証明するかのように、右手の指で滑らかに喉元をいじるディオ。
催眠術、幻覚といったチャチなものではなく、存在がまるでなくなっている。
もはやディオは、誰もが望んだ殺し合いからのドロップアウトを一足早く果たした。
紛れもなく、殺し合いの規則から外れた規格外者の一人。
『声を出すなよ。盗聴されているかもしれないから話すのは俺からだけだ。理不尽かも知れんが』
スタンドによる会話を試みるディオ。
スタンドが話すことさえも盗聴されることはあるまい、超常現象に機械で対抗するのは流石に不可能だろう。
『俺はさっきの男が提案した殺しの同盟に、参加『させられていた』。だがお前が追い詰めたおかげで隙をつき、造反することができた。
その点に関しては感謝しなければならないな』
ディオにとって、これだけは外部勢力を持ってしかどうにもならないことだった。
感謝の意は、紛れもなく事実。
しかしながら、ディアボロの疑いの眼差しは晴れない。
『言い訳ととらえてもらって結構だが、俺からお前に直接攻撃するようなことはしなかったろう?
DISCの投擲はまず当たりはしないし、銃も吉良に言われたからというのもあるが全弾外した』
元々裏切る気でいたディオは、出来る限り敵を作らない立ち回りをしていた。戦闘中でさえも。
そこからディオは、息つく間もなく、たたみかける。
『しかも、先の戦闘で首輪の解除条件が分かったぞ』
そんなおいしい話があるだろうか、と返そうにも、現にディオの首には銀環がないし、言い訳も理には適っている。
『お前の首輪を外すことも出来る……と言うより、勝手に外させてもらう。殺し合いに付き合わされるのは御免なんでな。
お前とてそうだろう?』
ディオがこの先、殺し合いの果て、最後に立つ一人となったとしても。
首輪を外している以上、荒木の機嫌を損ねる可能性がある。参加者とみなされていないことも考えられる。
そもそもディオに攻撃を仕掛ける理由があるなら、長話をしていないでとっととけりをつければいい。
荒木に辿り着くための障害、首輪を根拠のない猜疑心で外さないという選択を採るはずもなく。
ディアボロが頷き、了承と見たディオは、『ホワイトスネイク』をディアボロの方へと向かわせる。
右手で頭部を鷲掴みにし、数秒たった後、呟いた。
「じゃあ……ここで死ね」
★
血の気の引いた、ピクリとも動かないディアボロの額を撫でつつ、ディオは語る。
「盲点だったぞ……装着者の死と首輪の機能停止が連動しているのではなく、装着者の力で首輪が稼働していたとは」
ディオの結論は、リゾットが命を賭して辿り着いたものと同一だった。
『死』を天秤に掛けたから見えた突破口、なぜディオがこうも簡単に。
いや、ディオとて己が身を賭けてこそ知り得たこと。
「お前のスタンドDISCを抜きかけた時、首輪の明かりが弱まった。何か関連性があるんじゃあないかと思ったのさ」
DISCが抜かれかけた時、ディオはちょうど、ディアボロの正面にいた。
射程距離の関係上ディアボロに対しほとんど抵抗できず、やられっぱなし、下手をすれば死傷は免れなかった。
うずくまってなお起き上がろうとして、かろうじて見えただけの、まさしく光明。
首輪の構造、その謎の核心に至る。
「スタンドは生命エネルギーのヴィジョンと聞いた。それが抜かれかけたら明かりが弱まった……だが、弱まった『だけ』だ。
命を削って初めて首輪が外せるならば、参加者は『死なない限り』決して首輪を外すことが出来ないんじゃあないか?」
ある種、荒木の悪趣味がまた一つ露見する形となった。
元々外す気がないのではないか、ともとれる仮説。
いや、現実だ。
ディアボロは死んだ。
死んで初めて、首輪を外すことに成功した。
「趣味が悪いぞ」
「荒木に悟られたらおしまいだからな。それにさっきも言ったが、命を賭けなければならないのは事実だ」
むくりと上半身を起き上がらせたディアボロが、呆れ顔でディオに物申す。
しれっと返してのけたディオは、何も殺人犯になったわけではない。だがディアボロは確かに死んでいた。
ディオにとって、死は不可逆ではなかっただけのこと。
ディアボロは『ホワイトススネイク』で記憶DISCとスタンドDISCの両方を抜き取られ、一時的に仮死状態になっただけのこと。
生命エネルギーを増幅させた場合、柱の男のように変圧器代わりの物が無ければ首輪が自壊してしまう。
また、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の電力吸収に対し、生命力の過剰吸収によって首輪を無理矢理維持させる機能も存在した。
一件、首輪の機能には弱点となる抜け道がないように思える。
では、生命エネルギーを『減らす』方面に関してはどうだろうか。
ダービーの『オシリス神』、プッチ神父の『ホワイトスネイク』のように、参加者の中には『魂やスタンドを取り除く』能力者がいた。
首輪の稼働と装着者の生存が連動するなら、仮死状態に導くこれらの能力に対し、対策がとれない。
能力を制限することは、実質スタンド能力の喪失に等しく、元々の能力発動の条件の厳しさもあり、手を加えられることもなかったのだ。
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の能力行使に対するカウンターも、エネルギーの減少に弱いからこその機能。
仮に解除の可能性に思い至り、そういった目的でスタンド能力を用いることがあったとしても、それを防ぐために首輪が存在する。
制限を課さずとも、盗聴なりGPSなりで、解除を未然に防ぐことや罰則を与えることは充分に可能だったわけだ。
「ところで、お前はどうやって首輪を外したんだ?」
「……既に壊れていた」
だが、ここでイレギュラーが重なった。
「殺し合いが始まってからちょうど一日だ。そこまでしか『持たない』作りだったんだろう。
なにせ『元・ただの人間』だ。スタンドの力で動く仕組みは入れるだけ無駄、放っておけば外す前に死んでいる、そう見なされたんじゃあないか?」
ただの人間である参加者には、短期間しか稼働しない首輪が付けられていたことである。
ディオが首輪の機構について理解した時、自身の首輪はエネルギー切れに等しかった。
闇夜のガラスは鏡となり、電球の明滅を示さないディオの首輪を映し出したのだから、そう理解するのも当然。
とは言え、引きちぎるのはいささか愚直だったろう。
首輪なんてどうでもいい、たかが人間だから、と侮辱されたと認識しての激昂。だからこそ『元・ただの人間』と、『元』の部分を強調してみせた。
それでも、そのプライドの高さがかえって功を奏したのも事実。
傍目には分からない、外部の衝撃を認識して自爆するための電力さえ、尽きていたのだから。
首輪を無効化しうる『ホワイトスネイク』が、『ただの人間』
ディオ・ブランドーに受け継がれたというイレギュラー。
受け継がれた悪意は、荒木を打倒せんとする参加者に味方する力となった。
「そんなことはどうでもいい」
効能だけを取り上げるなら、の話ではあるが。
荒木のスタンド能力は計り知れない。
ただ倒すだけならまだいいが、『スタンドをDISC化して奪う』となると難易度が途方もなく高くなる。
ディオは理解している。DISC生成のため、時間稼ぎのための『壁』が必要だと。
殺し合いを止めて荒木を倒して大団円、だけではディオの望むハッピーエンドには届かない。
『ホワイトスネイク』単体でも、ジョースター家の遺産を一人占めするのは容易だろう。だが、彼の飽くなき野望はそれだけでは満たせない。
生まれの悲運にあえいだ彼が、誰よりも上にのし上がるという夢を持つのは当然だ。
だが夢は、方向性がブレた途端に欲望になる。
「どうでもいい……だと? お前の話だと、確証がないまま突き進んだように思えるが」
「その通りだな。失敗してしまったところで、他の策を試せばいい」
「お前ッ……!」
他人を巻き込むことを前提にしてしまえば、それは夢に届かぬ欲望だ。
願うなら、周りを見失ってはいけない。人生における落とし穴を気にするあまり、下を見続けたディアボロがまさしくそうなのだから。
犠牲や諦めを断ち切らんとするディアボロには、ディオがひどく不安定に思えた。
精神が落ち着かない、という意味ではなく――人間と化け物の境界線を跨いでいる、そんな例えがふさわしいと。
「ごちゃごちゃやってる場合じゃあないぞ、早急に事を進めたい。『荒木に従う必要なんかない』と分かりさえすれば」
「……ああ。勝ちの目は、残されている」
しかし、持たざる者が神に祈る他ないように、ディアボロもまた、その不安定な可能性に委ねるしかなかった。
むしろ、実験台になるのが他の誰かでなくて良かったと思うことができる。
殺人狂でもない限り、首輪を外せるという誘いは参加者にとって魅力ばかり。禁止エリアに怯えることもなくなる。
勝手に人を実験台扱いしたことを考慮に入れても、ディオの功績は余りある。
「ディオ・ブランドー。俺はお前のことを良く知らない。だが、お前が荒木に仇為すつもりなら協力したい」
「もとより、そのつもりだ」
「
ジョルノ・ジョバァーナのこともある。仮に伝言が伝わってなければお前に橋渡しをしてもらうほか……」
「ジョルノを知っているのか!?」
「……時間がかかりそうだ。場所を変えよう」
ともあれ、情報交換は必要だ。
ディアボロは希望のために。ディオは欲望のために。
★
「やれやれ……誰もいないっていうのは流石にへこむわね」
無人の館を出る少女、
空条徐倫が溜息をもらす。
DIOの名が付くだけあって、立ち寄らないわけにいかず。
怨敵との再会か、頼りになる仲間との遭遇か――期待に胸膨らませたのが間違いだった。
だだっ広い施設はもぬけの殻。突貫工事としか思えない地下鉄駅があったものの、いまさらそれが何の役に立つのか。
収穫と言えるものは、武器となるハンマーぐらい。
大型で、取りまわしが利かず、デイパックにしまうのも難儀する。はっきり言って足を引っ張りかねない。
時間を浪費した、という事実を受け入れたくないがために、わざわざ担ぐこととなったのだが。
「禁止エリアになるのもまだ先だから、急ぐ必要もないけど」
必要はないが、だからと言って籠城は上策ではない。
放送でナチス研究所とDIOの館が封じ込められた、つまり、暗に「引き籠るな」と忠告しているのだ。
徐倫が制裁を疑うのも無理はなく、そうまでする必要もなさそうである。
殺し合いのペースがここにきて加速してきた。禁止エリアがさらに拍車をかける。
それでいい、ケリが早く着くというのなら好都合。
荒木が望むまでもなく、徐倫は突き進むつもりだ。
F・Fは死んだ。あの頃のアナスイはもういない。
失うものなんか何もない。
もう、何も怖くない。
ふと、前を見ると。
「……DIO!」
かつて父親を追い詰めた因縁の根源が。
蹴りだすように駆け、踏み込むと。
『禁止エリアに侵入。30秒後に首輪が――』
「えっ……!?」
憶えのある声での、警告。
「まずいッ!」
ディアボロのタックルで、元の位置へと突き飛ばされる徐倫。
宙を舞い、地を転がり、砂の味を噛みしめる。
「うげぇっ!」
『禁止エリアからの離脱を確認。起爆タイマー、解除』
無事の確認を有難く聞き入れた徐倫は、心境優れない。
今すぐにでもブチのめしたい奴がいるのに、拳を振るえないという苦悩。
手段ならある。石造りの海を乗り越えるためにその名を背負った、『ストーン・フリー』が。
武器もある。メリケンサックも、ハンマーも、鉄球も、もっと手軽なのが良いならサブマシンガンも。
なのに、なのに、なのに。
「近付くな。とりあえず俺たちはお前を襲いはしないし、そうする理由もない。お前が向かってくるつもりなら逃げる」
「あんたに無くても私にはあるのよ」
勇ましい言葉を浴びせるも、徐倫が再び攻勢に転じることはない。
『ストーン・フリー』でボコろうにも、禁止エリアと告げられた場所へもう一度入るのはリスキーだ。
動きを封じられでもしたら、一分と待たず首が千切れ飛ぶ。
奇襲しようにも、相手が二人となるとそうそう隙をつけるものではない。
サブマシンガンも、相手がパワー型のスタンド使いなら豆鉄砲に等しい。
禁止エリアにいるのに無事であるという怪奇、解明するためにも、待機という消極的な方法を取る他なくなる。
「ディオがどうのこうのと言うなら、誤解だ」
「俺の未来の悪評は知っている。だが、それがどうした。抵抗する気の無い奴ら相手に拳を向けるのが狂気でなくて何だ?」
なぜ徐倫が、ディオとディアボロの首輪が外れているという事実に気付けなかったのか。
隠しているからだ。
ディオが初対面で首輪がないと怪しまれるだろうと提案し、現在は首元に民家で調達した布をマフラー状に巻きつけ、カモフラージュしている。
首輪がない理由を問いただされてしまうと、荒木に悟られうるとしての処置だが、正解だった。
ただでさえ錯乱気味の徐倫に、ポンポンと新しい情報をよこせば混乱するだけ。
まずは戦意がないことをアピールし、平静を取り戻させる。
しかし、理屈で徐倫が立ち止まるだろうか。彼女の元で、理屈で人は救えてきたか。
「狂気に堕ちる気持ちは分からんでもないがな。荒木はお前の母親を殺した」
では、情だ。
ホール内で観察に徹していたディオだからこそわかる。
空条徐倫は、『見せしめ』の死にひときわ反応していたのだから。
「分かった様な事を!」
「分かった様な事……? 違う! 間違っているぞ!」
徐倫の激昂による反論を、ディオは抑え込みにかかる。
ディオは、徐倫に共感『してやれる』のだから。
「俺だって……目の前で、吉良と言う男に父親を殺された。義理だったが、それでも……父親だった! 俺を息子と呼んでくれた!」
それ相応の境遇は持ち合わせている。
多少の嘘は交えたが、徐倫をたきつけるには必要な物。
吉良の立ち上げた同盟のもとでジョージを殺害したのだから、あながち嘘とも言えないかもしれない。
流した涙は偽り以上の何物でもないが。
「信じる、信じないは勝手にしろ。だが、母殺しをした荒木が憎いなら! 俺の父を殺した諸悪の根源が荒木なら!
俺たちが取るべき行動は決まっているはずだ!」
ここで、ディオが喉元に巻かれた縛りをひも解く。ディアボロも同様に。
「首輪が……ない!?」
はらりと取れた布の中、荒木が課した拘束具が見当たらず。
タネも仕掛けもありゃしない。されど手品に勝る驚愕の事実を前に、徐倫は二の言葉を続けられずにいた。
だが、それが何を意味しているかぐらい、わかる。
殺し合いの破綻。
ルールに服従する必要性が皆無となったこと。
更には、屈服させるべき荒木に、より近付く機会が増えるだろうことも想像に難くない。
「俺の能力なら、それができる。全員の首輪を外して荒木を引きずりだすのも夢物語ではない!」
ディオは決断を迫る。
徐倫が下に付きさえすれば、自身の謀略のための人員がまた一人増えるのだから。
何より徐倫がディオ側に付けば、同情的な面からも支持を得られる。
母親を失った徐倫を気遣った、という事実は人員が増えた今後響いてくるはずだ。
ディアボロは英断を願う。
ディオがらみの誤解さえ解ければ、荒木を打倒するための戦力がまた一人増えるのだから。
雨降って地固まるように、不和を乗り越えた結束は強いものと信じている。
かつてジョセフに対して、ポルナレフに対してそうであったように。
徐倫は判断を迷う。
誘いに乗れば、わざわざ苦労して利用だのなんだのと策を巡らせる必要もなくなるし、第一に為すべきことは、荒木に対する復讐だ。
ただでさえボロボロの身、荒木を引きずりだすのに優勝を目指すとなれば、立ちはだかる障害はあまりにも多い。
だが、DIOを目の仇としてきた彼女がそう簡単に誘いに乗るだろうか。
誰彼構わず利用するなどと体の良い言い訳をして、利用されるのがオチではと警戒するだろうか。
彼女は憎むべき宿敵、ディオの軍門に下ることを良しとするか、悪しとするか。
「私は……」
【D-5 北西部/1日目 深夜】
【王s(オーズ)】
【ディオ・ブランドー】
[時間軸]:大学卒業を目前にしたラグビーの試合の終了後(1巻)
[状態]:首輪解除済み。内臓の痛み、右腕負傷、左腕欠損(波紋と、ジョナサンが持っていた包帯で処置済み)、軽度の銃創、左足負傷、
ジョルノ(と荒木)への憎しみ
[装備]:『ホワイトスネイク』のスタンドDISC
[道具]:首に巻く布、ヘリコの鍵、ウェザーの記憶DISC、アイアンボールボウガンの鉄球、剃刀&釘セット(約20個)、
基本支給品×2(水全て消費)、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:なんとしても生き残って、荒木のスタンドを手に入れる。
0.参加者の首輪を解除して、対主催軍団の頂点に。
1.ジョージ殺しの罪を吉良になすりつけることで集団に入りやすくする。
2.荒木のスタンドDISC生成の時間稼ぎのために、スタンド使いを『上に立って従わせる』。
3.ジョルノに借りを返す
4.ジョルノが……俺の息子だと!?
[備考]
※見せしめの際、周囲の人間の顔を見渡し、危険そうな人物と安全(利用でき)そうな人物の顔を覚えています
※ジョルノからスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教わりました。
ジョルノの仲間や敵のスタンド能力について聞いたかは不明です。(ジョルノの仲間の名前は聞きました)
※
ラバーソールと由花子の企みを知りました。
※『イエローテンパランス』、『キング・クリムゾン』の能力を把握しました。
※『ホワイトスネイク』の全能力使用可能。頭部を強打されればDISCが外れるかもしれません。
【ディアボロ】
[時間軸]:レクイエムジョルノに殺された後
[状態]:首輪解除済み。右つま先に爆発によるダメージ(応急処置済み)。頭部に軽い打撲。強い決意。恐怖。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水は全消費)、巨大なアイアンボールボーガン(弦は張ってある。鉄球は1個)、首に巻く布、
ポルナレフのデイパック(中身は確認済み):
空条承太郎の記憶DISC、携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフの遺志を継ぎ、恐怖を乗り越え荒木を倒す。
1.首輪さえ解除できれば、こっちのものだ!
2.だが、ディオ・ブランドー……信用できるのか?
3.無事ジョルノに『伝言』が伝わっていればいいが……
4.恐怖を自分のものとしたい。
5.『J・ガイルを殺す、花京院に謝る』。2つのポルナレフの遺志を継ぐ。
6.駅にあるデイパックを回収したい。
[備考]
※
音石明の本名とスタンドを知りました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました。
※『恐怖を自分のものとして乗り越える』ために生きるのが自分の生きる意味だと確信しました。
※
アレッシーとの戦闘により、『エピタフ』への信頼感が下がっています。
※精神状態の変化から時を飛ばせる時間が少なくなっています。
※
サンドマンのメッセージを聞きました。
※露伴たちと情報交換をしました。内容は『迷える奴隷』参照。
※DISCに描かれている絵が空条承太郎であることは把握しました。DISCの用途を知りましたが、記憶DISCか、スタンドDISCかの判別は付かなかったようです。
※ディオとの情報交換は禁止エリア内で行われました。そのため、道中シーザーとジョナサンの死体を目撃しています。
【C-4 北東/1日目 深夜】
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:身体ダメージ(大)、体中縫い傷有り、上半身が切り傷でボロボロ、火傷(小)
【装備】:エリナの指輪、大型スレッジ・ハンマー
【道具】:基本支給品一式 、サブマシンガン(残り弾数70%)、不明支給品1~5(確認済)、ジャイロの鉄球、メリケンサック、
エリナの首輪、ブラフォードの首輪、
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0.荒木を屈服させ、すべてを元通りにさせる。
1.そのためならばどんなゲスでも利用してみせる。アナスイももちろん利用する。だがディオの誘いに乗るべきか?
2.自分達を襲った敵を見つける。
3.インディアン(サンドマン)と情報交換。
[備考]
※
ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
加害者は問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。
※アナスイから『アナスイが持っていた情報』と『ポルナレフが持っていた情報』を聞きました。
※花京院から支給品一式を返してもらいました。
※居間で行われていた会話はすべて聞いていません。
※【C-5西部 民家】
吉良吉影の死体の近くに、ティッシュケースに入れた角砂糖(爆弾に変える用・残り4個)、携帯電話、折り畳み傘、
クリップ×2 、ディオの左手、 ハンカチに包んだ角砂糖(食用)×3、ティッシュに包んだ角砂糖(爆弾に変える用)×5、
ポケットサイズの手鏡×2、支給品一式×2、緑色のスリッパ、マグカップ、紅茶パック(1/4ダース)、ボールペン二本、
CCDカメラの小型モニター、ギャンブルチップ20枚、二分間睡眠薬×1 が放置されています。
※【D-4 北部】に支給品一式 ×5(内一食分食料と方位磁石消費)が放置されています。
※【C-5 西部】にサブマシンガン(残弾なし)が放置されています。
※ヨーロッパ・エクスプレスはDIOの館を離れました。どこに行ったのかは不明です。
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最終更新:2011年04月17日 18:15