【0】
閉じていた目を開くと、眼前に人がる空一面の星々。控えめに輝く星々に紛れ、我が物顔で夜空を横切る大きな月。
湿った風が俺の顔を優しくなで、後方へと駆け抜けていく。俺は暫くの間空を見上げていたが、やがて手元へと視線を落とす。
「アステカの祭壇、か……」
自分がいるであろう場所の名をポツリとつぶやくと、俺は改めて地図をまじまじと見つめる。
2000年の眠りから覚めると、人間は変わっていた。文化が変わった、考えが変わった、生き方が変わった。そして町並みも変わっていた。
ローマという街が地図のモデルであることはこの俺ですらわかる。そして本来そのローマにはあるべきはずでないものがこの地図にはあちこち記されていることもわかった。
カイロ、ヴァチカン、フィラデルフィア、モリオウチョウ……。ジョースター、という見知った名前すらこの地図には地名として記録されている。
不可解な地図だ。本来ならあるべきものがなく、ないべきものがある。寄集めのごった煮の街。
自然の中で生きてきた俺だからこそわかるのだろうか、とにかくこの街には作り物の匂いが充満していた。
もう一度目をつむると俺は全身で風を感じる。俺の流法は『風』。大気の流れを読み、空気中に舞った匂いを感じ、体中であたりの気配を探っていく。
やはり先ほど感じたものは確かであったようだ。舞い散る砂粒、乾いた空気。現在位置は間違いない、地図で言うところのA-9のアステカの祭壇だ。
確認が終わった今、俺は地図をカバンにしまい込む。
さて、そうなってくると次に考えるべきことは、目的地だな……。
俺の目的、それはこの俺とJOJOを侮辱したあのメガネの老人から誇りを取り戻すこと。
今すぐにでもヤツの元へいきたいところだが、それができないのであれば順にやるべきことをしていくほかない。
知らなければならないこと。まずはなによりヤツがどこに居るか、だ。
あの老人はこの地図のどこかにいるのだろうか。顔を出す大胆さがあるのであれば、もしかするとどこかに潜んでいるかもしれない。首輪を全員に巻きつけるような卑怯さがあるのであれば、或いはいないのかもしれない。
奴の居場所がわからなければ誇りを取り戻すことも屈辱を晴らすこともかなわない。
故にまずは知らなければならない。あの老人のことを。あの老人の居場所を。
次に考えるべきことはその首輪だ。どうもさっきから身体に違和感を覚えて仕方ない。最初は身体を取り戻した後遺症かと思っていたが、時間の経過と共にズレの認識は大きくなるばかり。
自分の体だからこそわかる気持ちの悪さ。全力をだそうとする最後の一瞬、ブレーキを無理やり踏まされる心地悪さ。
ひどく、不快だ。
この首輪を外す方法、それもぜひとも知らなければ。結果的にはこの首輪を外すことでヤツをこの地に引きずりだすことに繋がるかもしれないしな。
そうなってくると大切になってくるのは『情報』。
俺はあの老人のことを知らぬ。首輪の構造にも興味はない。
カーズ様のような頭脳があれば解析は可能なのかもしれない。老人を知るものであれば奴の性格から、どこにいるか推測を出せるものもいるであろう。
「合わねばなるまいな、人間どもと……」
誇りを安売りするつもりはない。安々と人間どもに助けを乞うことも容易にはしない。
ぐっと拳を握ると俺はうっすらと笑みを浮かべる。そうだ、だからこそ俺が求めるのは『情報』であり『闘争』である。
敬意を評すべき人間どもがいるのであれば、俺は厳粛にそれを受け止めよう。しかし、そうでないのであれば。情報を出し渋るような輩がいるのであれば―――
「軽くウォーミングアップといこうか」
突如吹き抜けて行った風が火照った筋肉を冷やしていった。
まだ見ぬ強者、手に入れるべき情報を求め俺は祭壇を駆け下り、走り始めた。砂粒を足裏に感じながら、俺はぐっと全身に力を込める。
目指すは一番近い施設 ――― サンモリッツ廃ホテル。
【1】
暗く、古い厨房に緊張感が走った。見るとトニオくんの顔に恐怖と戸惑いが走り、続いて説明を求めるかのように口が半開きになった。
ワシはそれを押しとどめるよう、おどけた表情で口の前に指を立てる。少しでも彼の精神を緩めるため、茶目っ気たっぷりにウインクをひとつ、飛ばしてやった。
緊張感は持ちつつも、ひとつ冷静になった表情が浮かんだのを見て、わしは手元のカップに目を戻す。
今、説明している暇はない。誰とも知らぬ来訪者に対応し、安全が確保できたからトニオくんと話しても遅くはないだろう。
波は静まらず、ゆっくりと水面は揺れ続けている。どうやらホテルに入ってきた誰かさんはなかなかの度胸を持っているようだのう。
アイコンタクトと身振り手振りを交え、トニオくんを厨房の奥まで下がらせた。廃ホテルとはいえ、その様式は立派。広々としたキッチンは窓ひとつ、扉二つの構造。
ど真ん中に置かれたテーブルを回りこむように、まずは隣の部屋へと続く扉を確かめる。鍵はかかってない様子。コップの中の波が動かないことから、侵入者は廊下側から接近しておるようだのう。
素早く身をかわし、今度は廊下側の扉へと近づく。自分が入ってきた時、開けっ放しにしていた扉。その先に広がる闇に目を細める。暗闇に紛れ動く影は見当たらず、ワシは再びカップに目を落とす。
その時ふと気配を感じて振り返ってみると無言のまま、なんとか必死でわしの気を引こうとしているト二オ君。
その様子があまりにも必死だったので失礼ながらも、わしは笑みをこぼしてしまう。笑顔と手で了解の合図を伝えると、注意力を高め、眼を凝らしていく。
トニオ君が伝えてくれた事、それは埃の存在だった。廃ホテルとして長いこと放置されていたのだろう、絨毯に降り積もった埃はほんの少しの力で宙に舞う。
足元にぐっと力を込めると、灰色の結晶がゆっくりと舞いあがった。まさに自然が作り上げた防犯装置。波紋&埃のダブル探知機。なかなか上々じゃないの。
廊下に漂う埃は入り口から入りこむ気流に煽られ、とめどなく流れて行く。カップにうつる波は収まることを知らず、揺れ続ける。
接近は一定。だが足音は聞こえず、物音をたてるようなへまはしない。それでいて、波紋で感知できる気配であり、埃に気付くようなレベルでもない。
「注意深く、警戒心は高い。場馴れもしておるが、いかんせん技量が追いついていない、か……?」
誰にともなく、わしは結論を呟く。
血肉に飢えた吸血鬼、大騒ぎを繰り返す馬鹿者が一瞬だけ脳裏をかすめるがしばらくは置いておく。そのまま廊下側に無音のまま近づくとわしは大きく息を吸った。
吸血鬼だろうが、犯罪者であろうが、わしは最終的にはこうする気でおった。結局最終的にはわしは誰であろうと信頼したいし、誰構わず戦いたいという戦闘狂でもないしのう。
「聞こえるかね……? わしの名前はウィル・A・ツェペリ。廊下にいる君に話しかけておる。
わしはこの殺し合いに一切加担する気はない。君がどんな人物かは知らんが、君が危害を加えないならわしもそうしないと約束しよう。
どうかね? 姿を現してはくれないか?」
答えはない。だがカップにうつる波が止まった。宙を舞う埃もその場をフワフワと漂うのみ。
相手が何を考えているかはわからないが、話は聞いているようじゃな。それとも虚をつかれて、呆然としておるのか?
「ほれ、わしのデイパックじゃよ。これでわしは無防備も同然、丸腰じゃ」
デイパックを放り投げるとわしの中で緊張感が高まっていく。昂る戦いの合図。ピリッとした空気に髭の先が震えた。
さぁ、どうなる? 戦わないならそれに越したことはない。トニオ君と廊下の誰かと三人で、ひと足早いモーニングと洒落こみたいとこだがのう。
鬼が出るか、蛇が出るか。それとも……?
わしは待つ。手の中にもったカップが震え、呼吸法ではない波紋が一つ、広がっていった。
【2】
「聞こえるかね……? わしの名前はウィル・A・ツェペリ。廊下にいる君に話しかけておる。
わしはこの殺し合いに一切加担する気はない。君がどんな人物かは知らんが、君が危害を加えないならわしもそうしないと約束しよう。
どうかね? 姿を現してはくれないか? ほれ、わしのデイパックじゃよ。これでわしは無防備も同然、丸腰じゃ」
どうしてこんな目に。ひたすら頭に浮かぶのはそんな言葉ばかり。なんで俺がこんなことに巻き込まれないといけねェんだ。そう思っても答えは返ってきやしない。
破裂しそうな勢いで鼓動する心臓を収めようと必死で呼吸をする。その呼吸すら誰かに聞かれちゃまずいと押し殺す。ぜぇぜぇ乱れた息は自分にしか聞こえない。
恐怖のあまり足が言うことを聞かない。がくがくと震える膝を支えるために、俺は壁に背をつけ、何度も何度も落ち着け、冷静になれと言い聞かせる。やがてはっきりし出した意識で俺は脳をフル回転させる。
廊下にいる君、その言葉を聞いた時、俺は飛びあがらんばかりに驚いた。心臓をわしづかみされ、喉から引きずり出されるんじゃねェかと思った。
とにかく、この部屋の中のウィル・A・ツェペリというおっさんは……声からしておっさんとわかるが、“とりあえず”は戦う気がないらしい。少なくとも本人はそう言っている。
デイパックを投げ捨てたような音も聞こえたし、扉の後ろに誰か隠れているような気配もない。入った途端、後頭部を殴打、そのまま
スティーリー・ダン、ぽっくり死亡、は避けれそうである。
だけどこれももし相手が銃をもってなかったら、って前提だ。姿を現した途端、銃口は俺を向いていて、はい、お終い。そんな可能性もあり得るんだ。
もしかしたら、もしかしたら。そんなありもしない可能性は無限に広がり、いつしか俺が部屋に入らないための言い訳じみたものへと変わっていく。
そうだ、冷静に考えればスタンド能力なんてものがある以上、どんだけ気を張ろうが、どれだけ注意していようが、今この瞬間にも俺はぽっくり逝く可能性がある。
ぐるぐる、結論は元通りだ。入るべきなのか、入らないべきなのか。
つまるところこれだけ。俺に勇気があるかないかだ。
そして答えは決まってる。俺には入る勇気はない。だが入らなければならない理由がある。
打算と計算、最弱を自認してるからこそ、ここで俺は部屋に踏み入れなければその瞬間俺の生存確率は一気に下がる。
「オーケー、わかりましたよ、ミスター・ツェペリ。ただ私はあなたがまだ信用できていない。可能な限り部屋の奥まで下がって頂けないか?」
「もちろん、いいとも」
部屋の構造は先行させたラバ―ズで把握済み。キッチンに窓ひとつ、扉二つの構造。いざとなれば窓を割って逃げるなり、単純に廊下から逃げ出すなり方法はいくらでもある。
俺は部屋にゆっくりと入っていく。思った通り、右手には流し台やら調理場やらが大きく広がっている。真中には皿を置くべき大きな机。左手には別の部屋へと続いて行く扉。
そして二人の人物が大きな窓を背にこちらを見つめていた。どちらも人の良さそうな顔をしている。実に利用しがいがありそうな、典型的なアホ面をぶら下げてやがる。
「私はダン、スティーリー・ダンと言います」
この時点で殺されない、そのことが俺を自信づける。緊張は薄れ、恐怖は和らいだ。少なくとも笑顔を浮かべ善人ぶるぐらいはできるまでに、俺の精神は回復していた。
二人は自己紹介を進めてきた。シルクハットをかぶった老人のほうがウィル・A・ツェペリ、コック姿が
トニオ・トラサルディーというらしい。
流れの主導権は完全に俺。三人そろって席に着くと俺は話を切り出した。極めて自然な流れで自己紹介へもっていく。
ここまでは計算通り、ここからが勝負だ。支給品の確認、そして譲渡、なんとかここまでもっていきたい。
俺のスタンド、『ラバ―ズ』は史上最弱のスタンド。最弱こそが最も恐ろしい、なんてジョースター一行の前では虚勢を張っていたが実際は強いほうがイイに決まってる。
そんな俺が是が非でも手に入れなければならないもの、それが武器だ。それも銃のように技術がなくても、簡単に人を殺せるものがベター。
殺し合いに巻き込まれ、このホテルに入って来るまでに考えた、生き残る方法。最弱のスタンド使いである俺には多分これしか方法がない。
すなわち、正義のヒーローたちに匿ってもらい、最後の最後で生き残りをかっさらう。これしかない。
だからこそ、この時点で勝負だ。ツェペリ、トニオ、どちらだろうか銃を持っていれば譲ってもらう。刃物でも最悪交渉の価値はある。
最高の形は二人の信頼を失うことなく、武器を手に入れ、そのまま集団に紛れこむ事だ。
だがそうも簡単にいくとはさすがの俺も思っていない。最悪、先行させ、ツェペリの体内に潜むラバ―ズを脅し文句に奪い取る。
はやる気持ちを抑え、俺はゆっくりと言葉を重ねていく。簡単な自己紹介を終え、脅えながらもこのホテルに入ってきた、そこまで一気に話しきる。
だがそこまで話し、まさに支給品の披露と思ったその瞬間、ツェペリが遮るように手を掲げた。
思わず怪訝な表情を浮かべた俺に対し、トニオはツェペリの手元を覗きこみ、息をのんでいた。
そして次の瞬間、ツェペリの言葉に俺は度肝を抜かれることになる。
「どうやら、隣の部屋にも誰かいる様じゃ。扉越しの君、どうだね、出てきてくれないか?」
【3】
「どうやら、隣の部屋にも誰かいる様じゃ。扉越しの君、どうだね、出てきてくれないか?」
なぜ ――― 真っ白になった頭に浮かんだ二文字が、ぐるぐるひたすら周る。不自然に震えだした身体を抑えるために、僕はギュッと自分の体を抱きしめた。
眼を閉じ、耳をふさぎ、奥歯が壊れるんじゃないかって勢いで噛みしめる。何も聞きたくない、何も見たくない。
聞かなきゃならない、見なきゃならない。そうわかっていても、そんなことができるほど僕には勇気がない。だって僕はただの、一般人だ。ただの少年じゃないか。
膝を抱え、吹雪の中にいるかのように震える僕。僕がどうしてこんな目に会わなきゃいけないんだ。なぜ僕なんだ。なんでこうなったんだ。
これが僕の身に付けた能力の結果だとしたらなんて滑稽なんだろう。恐怖を観察するのが大好きな僕が、今まさに死の恐怖に震えている。皮肉じゃないか。
そうだ、僕はただちょっと変な趣味を持ってるにすぎないフツ―の人間だ。確かに度が過ぎてるし、人に堂々と言えるような趣味じゃないとは自覚してる。
けど性癖とか、趣味とかってそんなもんだろ。僕以上にヤバくて、ぶっ飛んでる趣味のやつだっているだろ。
なんで僕がこんな殺し合いなんかに巻き込まれなきゃいけないんだよ。こんなの、それこそ殺しが好きな奴だけでやればいいだろ。
「なんで僕なんだよ……」
耳をふさぎたくなるような会話声が隣から聞こえてきた。あれはいったい何の会話だろう。僕を捕えてふんじばって、殺そうとする算段でも唱えているんだろうか。
聞きたくない、聞きたくない。忍び足の音だって、聞こえない、聞いちゃいない。僕は、なんも聞いていない。
そりゃ僕だって悪かったさ。仗助にちょっかいだしたり、母親にも手を出したりしたのは謝るよ。康一を脅したり、噴上まで脅えさせようとしたのはやりすぎだったよ。
でも言い訳させて貰うけど、あの時だって僕は誰一人傷つけちゃいないじゃないか。殺すつもりなんて微塵もなかったし、なにより殺すことなんてできるわけがないだろ。
ただ突然舞い降りた幸運で浮かれてただけなんだ。そりゃ自分の趣味を叶えるようなとびっきりの魔法の力が宿ったんだ。有頂天にもなるってもんだろ。そうだろ?
だから僕は悪くない。僕は誰かをびっくりさせたかっただけなんだ。僕はただ少し皆を怯えさせて、その顔を見て満足したかっただけなんだ。
キィ……っと扉が開いた音が部屋に響く。力の限り閉じた瞼を突き抜け、微かに差し込む光を確かに感じた。
だけど僕は立ち上がれない。僕はうずくまり、なにもせず、ただひたすら恐怖に震える。
……悪かったよ。もうしない、そんな悪戯もう二度としない。もう誰も脅かしやしないし、恐怖におびえる顔だって見ないッて誓う。
僕が悪かったんだろ? 因果応報と言うならもう充分じゃないか。こんなにも今の僕は脅えてる。恐怖のあまり白目をむいて倒れるんじゃないか、それぐらい脅えている。
だからお願いだ。もう勘弁してくれ。殺し合いだとか、命の取りあいだとか、そんなの僕にできるわけがないじゃないか。
誰よりも脅え、恐怖してるのは、ほかでもない、僕じゃないか。だから……
「助けて下さい……死にたくないんだよ……」
「はて、ダン君。いまなんか言ったかね?」
「いいや、何も言ってませんよ。それにしてもツェペリさん、誰もいないじゃないですか。脅かさないでくださいよ」
「ううむ、確かに誰かいいたはずなんじゃがなァ」
「デモ、デイパックは置いてありマシタシ、さっきマデだれかいたんじゃないデスカ?」
「いいや、でも今は波紋が反応しとらんのよ。おかしいの…………」
「ところでツェペリさん、その波紋とやらは何ですか?」
「おお、そうだの、説明しようか。波紋っていうのはな、――――」
僕は怖いんだ。僕は立ち向かえやしない。
紙の中で、押し殺した悲鳴を上げる。デイパックの中、紙にしまわれた偽りの平和の中で僕はいつか訪れるであろう、恐怖に苛まれていた。
そう、すぐに訪れるであろう、誰かが僕の紙をひらいてしまう、その瞬間を。
デイバッグの布越しに、バチっと電燈がはじける音が響き、やがて僕を持った誰かが隣の部屋へと移っていくのを感じた。
【4】
「危ねェ、危ねェ……」
最後、髭のおっさんに感づかれたんじゃねーかと冷や汗かいちまったぜ。
電灯を通して呼び戻したレッド・ホット・チリペッパーの状態をしばらく眺めるが、変わりないと判断してとりあえずは引っ込めておく。
さてさて、スタートとしては上々か。問題はこっからどうするかだ。
現在、俺のほかに少なくとも4人がこの廃ホテルにいることはわかっている。そう、さっきの四人組だ。
髭の爺さん、謎の能力で人の位置を知覚する。ハモンって言うらしい。口ぶりからティーカップ占いみたいなスタンドか? よくわからん。
中年のコックらしき人物。トニオ、っていうらしい。今のところスタンド能力があるかどうかすら不明。見知らぬ人物でもすぐに信用しちまうぐらいお人好しであることは確かだな。
スティーリー・ダン。こいつはどうもうさんクセェ。レッド・ホット・チリペッパーを目立出せるわけにもいかなかったから表情までじっくり眺めることは出来なかったが、どうも裏があるように感じる。まぁ、俺の勘なんだがな。
そして最後の少年。とりあえずビビって泣き散らかししてるだけのガキンチョだ。スタンド能力には注意が必要だが、まぁ、そこまでビビる必要はねぇだろ。
まぁ、当面は様子見だ。なんせこの殺し合い、多く殺せば得かといったらそうならないのが肝なんだよな、これ。
だって考えてみろよ? そりゃ一人で戦うよりは二人で戦ったほうがいいに決まってる。相手は注意をひとつに絞り切れないんだもんなァ。
ただやっかいになるのは味方に背中を撃たれるかもしれない、って危険性だ。こっちのほうが致命的。
なんせ俺のスタンドは一対一じゃある程度は戦える。仗助や承太郎レベルになるとさすがに無理だが、ただのナイフを持った殺人鬼とかなら何とか出来るだろう。
つまり何が言いてェかってっと……今、俺があの四人と手を組むメリットはあんまりないってことだ。
かと言って殺すメリットは、と考えるとこちらもあんまりなさそうだ。
無理に殺しにいって、殺しきれずに逃した奴らにスタンド能力がバレたりする方が痛ェ。無駄な恨みも買って、後々逆恨みなんてされたら目も当てられねェ。
「なぁに、焦ることはねぇよ。まだまだゲームは始まったばかりだぜ?」
その通り、ゲームは始まったばかりだ。とりあえずの保留も選択肢としては悪くねェだろ。
だがな、もし殺す必要があるとしたなら……もし手を組むメリットが見えてきたら……。
俺はタイミングを逃さねぇ。なんせ俺は―――
「ギタリストだからなッ」
脇に転がるベットに寝そべり、俺は自分のスタンドを目的の部屋へと向かわせる。
電灯を通して屋敷中に広げられた俺の電線は縄張り。そう、ここは……このホテルは―――
「もはや俺のステージだぜ……!」
【5】
気づかれ……なかったみてぇだな。よし、危ねェ、危ねェ。
だが今バレなかったとしても……ソフトマシーンを使ってデイパックに潜んだのは悪手だったかもしれねぇな。
最初はいい手だと思ったんだが、どうやら俺も冷静じゃいられなかったみてェだな。まぁ、それも仕方ねぇ話。今大事なのはこれからどうするかだ。
さて、頭を整理しよう。俺が直前まで覚えていることはラグーン号に忍び込み、ブチャラティを始末するまさにその直前まで。
見せしめでぶっ飛ばされたのがあのジョルノ、とか言った輩だったのは驚きだが、とにもかくにもこれは大チャンスだ。
だってよォ、あの親父が言ってたことが確かなら金をいくら望んでもイイんだろ? ボスの立場を要求してもイイんだろ?
こりゃやる気がムンムン湧いてくるじゃね――かッ! 100人いようが全員殺す必要はない、最期まで生き残ればいいってならこの俺の土壇場じゃね―――かッ
とは言ったものの、やはりここらであいつのゴキゲンを取っておきたいというのも本音。やはり一人も殺さないで金くれ、じゃ虫がよすぎるってもんだろ?
というわけでだ、俺のスタンドでデイパックに忍び込んだはいいものの、こりゃ参ったな。今にもデイパックの中を開けかねない様子だぞ。
最初は良い感じで相手の情報だけ聞きとったら退散する腹づもりだったし、一人ならデイパック越しにズブリ、で始末できるからこりゃGOOD! って思ったんだがなかなか上手くいかないもんだぜ。
さて、それはともかく、こうなると選択肢は3つだな。
①バレる前に何とか抜け出す。
②今ここにいる奴らを皆殺しにする。
③素直に飛び出てジャンジャジャーン。
まぁ、これのうちのどれかか。
俺としては自分のスタンド能力がバレるのだけは避けたい。だがここまで言ってそんな贅沢言ってられねぇな。
さてさて、考えろ。状況は極めて悪い。だが最悪じゃねェ。最悪になるかは俺次第だ。
どうする、
マリオ・ズッケェロ? 俺がBETするのは 勝負? 保留? チャレンジ? 懐柔? それとも……―――
【6】
さすがに夜にバイクに乗ると寒さが身にしみる。剥き出しの右腕をさすると俺は目的地へと急ぎ、バイクの速度をあげた。
やがて闇に浮かんでいただけのビル群がゆっくりと鮮明になり、その姿を露わにしだす。目的地に定めてたサンモリッツ廃ホテルはもう眼と鼻の距離にあった。
さっさと身体をあっためたいとはわかっちゃいるが、だからと言って馬鹿正直にホテルの横にバイクをつけるほど俺は命知らずじゃねェ。
ゆっくりとブレーキを踏むと、俺は何本か離れた路地でまたいでいたバイクから降りもう一度地図をひらいた。
中学校があって、砂漠地帯の近くで……間違いねェ、ありゃサンモリッツ廃ホテルだ。
ちょいと辺りを警戒しながら走ったせいでか、そんなに距離もないのにえらく時間がかかっちまったなァ。まぁ、結果オーライだ。
「さて……」
問題はこっからだ。なにせあれだけでかくてしっかりとした建物だ。誰かもう中にいる可能性もあるだろう。
というよりそう考えたほうがいい。そう考えんなきゃ危ねェってもんだ。なにせ俺のスタンドは射程距離の長さから暗殺には向いちゃいるが、面と向かってのスタンド勝負はからっきし。
ホテルに入ったはいいが、近距離パワー型のやつと鉢合わせしたらひどく面倒間違いなし。もちろん殺しはやってもやっても、ヤりきれないってもんだが、さっきの余韻に浸りたいってのが今の俺の本音だ。
その一方で身体を休めるってだけなら別にホテルにこだわる必要性が全くないこともわかっている。それこそ地図に載ってる学校だろうが構わねェし、路地裏だろうがそこらの民家だろうが休もうと思えば休みはとれる。
「だけど、な」
剃り上げた頭を撫でると俺は考える。これが昼なら簡単な話なんだがなァ。
『吊るされた男』を先行させ、偵察する。安全を確認してからゆっくりとチェック・イン、そんなこともできるんだ。
ただし夜にこれをやるわけにもいかないだろうな。自分から光を出して自らここにいますよォ、って自己主張はいただけない。それで獲物を釣り上げるってのもあるが、ちょっとなァ……。
はてさて、困った。リスク覚悟でホテルに突っ込むか、そこらの民家で不貞寝を決め込むか。なんとか目立たないよう『吊るされた男』を忍ばせるか。
しばらく考えた後、俺はもたれかかっていたバイクからケツをあげた。うだうだ考えるのは性にあわねェ。スパッと決めちまおう。
「ヤるんだったら思いっきりヤれ、ってか……? ククク……」
【7】
パーティーだ、パーティーだ! パーティーだ、パーティーだ!
ケーキにチキン、メロンにハム、サラダにデザート、メインディッシュはローストビーフ!
チキンもあるんだ、ポークもあるぜ、いやいや、ビーフも用意してますぞ!
さぁさぁ、始まるパーティーだ! お客も続々やってきた! 会場準備もバッチリだ!
今夜の主演はだーれだ? 真っ白コック? ダンディー紳士? まさかまさかの紙少年? その時が来るのが待ち切れない!
いやいや、助演もこりゃ豪勢! 愛語る最弱! 荷物に潜む暗殺者! ホテルを貸切、ワンマンライヴのギタリスト!
おやおや、どうやらゲストも駆けつける模様! 強靭・無敵・柱の男! 狂人・残虐・吊された男!
七人の思惑は絡みあう。七人の気持ちはすれ違う。七人は互いに互いを、騙し合う。七人は互いに互いを、信じあう。
七人は困惑を胸に抱え、それでも生き続ける。七人は痛みに悲鳴を上げ、地に伏せる。七人は喜びに身を悶え、歓喜の叫びを上げる。
―――おや? 七人が……八人に?
一体全体どうなるんだ! それは私自身もわかりません! 踊り飲み、狂い騒ぐ! しかし我ら道化は笑うのみ!
開幕を鳴らすのはそこのアナタ! アナタの指揮で彼らは踊る! 或いは互いに殺し合う! 狂宴の始まりは、そう、あなた次第!
お取りなさい、その指揮棒を! 鳴らしなさい、開幕のファンファーレを!
寄ってらっしゃい、みてらっしゃい! 一世一代のパーティーだ!
前置きはここまでに! そろそろ始めと致しましょう! プロローグはおしまいだ! さぁ、始めよう!
―――『虚言者の宴』! どうぞお楽しみください!
【A-9南西・1日目深夜】
【
ワムウ】
[スタンド]:なし
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品、ランダム支給品×1~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOの誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
1.とりあえずはホテルに向かう。情報収集だッ
2.情報を得るためなら手段を選ばない
【B-8 サンモリッツ廃ホテル一室・1日目深夜】
【
ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前。
[状態]:体内にラバ―ズ
[装備]:ウェストウッドのティーカップ(水が少量入っている)
[道具]:基本支給品(水微量消費)、不明支給品×0~1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.とりあえず三人で情報交換がしたい。
2.吸血鬼や屍生人が相手なら倒す。
3.協力者を探し、主催者を打倒する。
【トニオ・トラサルディー】
[能力]:『パール・ジャム』
[時間軸]:杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出したい。
1.とりあえず三人で情報交換がしたい。
2.ツェペリサンを信頼、いずれ彼に料理をふるまいたい。
【スティーリー・ダン】
[能力]:『ラバーズ』
[時間軸]:承太郎にボコされる直前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.とりあえず三人で情報交換がしたい。
1.うまく立ち回り、目の前の二人を利用出来るだけ利用する。
【B-8 サンモリッツ廃ホテル一室 誰かが持つデイパック内・1日目黎明】
【
宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前。
[状態]:恐怖、紙になってデイパックの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0:助けてくれ……
【B-8 サンモリッツ廃ホテル 某一室・1日目黎明】
【
音石明】
[能力]:『レッド・ホット・チリペッパー』
[時間軸]:億泰のバイクに潜んでいた時。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.殺すなら殺す、味方になるなら味方になる。とりあえず様子見。
【B-8 サンモリッツ廃ホテル 誰かのデイパック内・1日目黎明】
【マリオ・ズッケェロ】
[能力]:『ソフトマシーン』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して金と地位を得る。
1.姿を表すべきか、皆殺しか、様子見か、立ち去るべきか。それが問題だ。
【C-7北東・1日目 深夜】
【
J・ガイル】
[能力]:『吊るされた男(ハングドマン)』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:バイク、トニオの肉切り包丁
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2 (確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:思う存分“やる”。
1:民家で休むか、ホテルに突っ込むか、ハングドマンを信じるか。さて、どうしたもんか。
2:みせしめでみた
空条承太郎はずいぶん老けてたが……二人いんのか?
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最終更新:2012年07月19日 22:09