「せっかくの二人きりだって言うのに、つれないねェ」

その声に振り向きかけた少女だったが、途中で思いなおし、彼女はそのまま水面を見つめ続けた。
足音はゆっくりと近づいてくると、少女の隣で止まった。男は気だるそうな感じで、川辺に腰を下ろす。
彼は煙草に火をつけると、うまそうに煙を吐いた。煙は真っすぐ上に立ち上り、太陽の光を浴びきらきらと輝く。二人は無言のままそれを眺めた。
煙がすっかり消えてしまった後は口を開くこともなく、二人はただ当てもなく視線を泳がしていた。
しばらくの後、男は煙草を持っていないほうの手でこめかみのあたりをこすり、そして口を開いた。

ストレイツォ……あの二枚目カタブツに無理言ったのは俺なんだぜ?
 君が一人にしてほしそうだったから気を使ったつもりだったんだけどねェ、俺は」
「ほっときなさいよ」

ホル・ホースは無言のまま唇を曲げ、肩をすくめた。つっけどんな少女の言葉を最後に二人の間に沈黙が漂う。
少女は何も言わず、男はただ咥えた煙草の火先を眺めていた。辺りは不思議と音一つしなかった。
とても殺し合いの舞台とは思えないほどに、奇妙な静寂があたりを漂っていた。

「私のこと何も知らないくせに……ってか?」

そう言うとホル・ホースはもう一度唇を曲げて見せた。
皮肉っぽい捻り方に加え、彼の目の脇の皺は笑いをこらえる様にプルプルと震えていた。
少女の頬にさっと赤みがさす。

「それがわかる程度にはわかってるつもりだよ、『徐倫』。
 それとも……『フ―・ファイターズ』、そう呼んだほうがよかったかな?」

彼女は何も言わなかった。拳をぎゅっと握り、口を真一文字に閉じたまま男のほうを見ようともしない。

まるでお手本のような図星の反応に、ホル・ホースは肩を揺らし笑った。笑い声は控え目だった。さすがに彼女の機嫌を試すような度胸はない。
じゃじゃ馬娘で癇癪持ちの若い女の子の扱い方は決まってそうだ。超えない程度に茶化すに限る。簡単なもんだ。それで相手が顔真っ赤にすればなお良し、だ。
少女の照れ隠しの顔は、美人の泣き顔の次ぐらいによい。それが男の意見だった。

徐倫はやがて、ゆっくりと拳をほどくと、つかつかと男に向かって歩いて行った。
数メートルほどあった距離を無言のまま詰めると、徐倫は男の脇にただ立ちつくす。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで彼女の手が動いた。男が反応できないぐらいの速さで彼女は咥えていたタバコを掻っ攫い、そして言った。

「煙草、やめてくれる?」
「できればぶん捕る前に言ってほしかった」
「父親のことを思い出すのよ」

私がじゃなくて、記憶が、だけど。一寸の空白を置いてつけくわえられたその言葉は妙に宙ぶらりんに、辺りに響いた。
ホル・ホースはしゃがんだまま少女を見上げた。少女もまた、無言のまま男を見下ろした。
沈黙のまま睨み合うように、二人は視線を逸らさなかった。『徐倫』の眼はどこか気弱で、強がってるように、ホル・ホースには見えた。
何よ、と彼女は言った。男は何も、と言い返すべきか悩んで、結局何も言わなかった。

随分と雰囲気が変わった、とホル・ホースは目の前の少女見つめ、思う。
彼女が変わったと言えるのは放送を境にだ。きっと知人が放送で呼ばれたのがきっかけだったのだろう。名簿を見たのもあるかもしれない。
なにせよイイ女であることに変わりはない。それが最も最も最も大事で、大切で、重要なことだ。


ほんの少し前のことだ。
リキエル、そう名乗った青年の叫びがきっかけに、場は荒れに荒れ、そして混乱した。
時代、DIOとディオ、空条承太郎とその娘、ジョースター一族、波紋とスタンド。
互いの自己紹介代わりの簡易な情報交換ではなく、全員がそろい、膝と膝を突き合わせるような濃密な情報交換が行われた。
そしてその中で浮かび上がった微かな共通点と、特異点。だが話はそこで煮詰まった。あまりに物語は自分たちの領域を超えていた。
殺し合いというものを抱えるだけでも精一杯だったのに、その上時代と因縁と来たものだ。
どうしたって頭を冷やす必要があった。冷静に自分の考えや気持ちを落ち着かせ、その上でこの後どうするか決める必要があった。
今二人がこうやって川辺でたそがれてるのはそういうわけだった。流れる川のように、穏やかで、落ち着いて、ゆったりとした思考を取り戻す必要がある。
だがそれはなかなか難しかった。ホル・ホースにとってではなく、『徐倫』と呼ばれた少女にとっては。

沈黙が二人の間を漂う。気まぐれに少女が投げた石がドボン、と砕けた音をたて水の中に消えていく。
彼女が口を開くまで長いこと二人はそれぞれに黙り込んでいた。動いているのは川の水面に浮かんだ波紋だけだった。


「私にはなにもないの」


彼女がそう言った。ホル・ホースは微かに浮かべていた笑顔をひっこめると、難しそうに顎を触り、言う。
何もない。少女が言った言葉を確認するように、そう繰り返す。
自分の言葉を繰り返されたのが嫌だったのか、少女が顔をしかめたのを見てホル・ホースは黙った。
まずは話を聞くべきなのだろうと彼は肩をすぼめ、続きを待った。

「ホル・ホースが言った通り、私は『フ―・ファイターズ』であり『空条徐倫』でもある。
 でも違うのよ。私は私、アタシはアタシ……確かにここにいるはずなのに、違うの。
 自分は自分以外の誰でもないはずなのに……それを確信できない気持ちってわかる?
 自分は間違いなく自分のはずなのに、それを納得できない、違和感を感じる、誤魔化せない。
 それがすっごく辛いの、空っぽなの…………。私の言ってる事、わかる?」
「部分的には」

徐倫は何も言わず頷いた。そして言った。だからわたしにはなにもない。なにもないことがすごく悲しい。
予想に反して、男の返事は素早かった。


「いいじゃあないか、『なにもない』。結構だ。これ以上何もなくさずに済む。素敵だ」


俺は羨ましいよ、と付け加えるべきかどうか悩んだが、いちゃもんをつけられそうな気がしたのでやめておいた。
返事がないままポケットから煙草を取り出して咥える。火をつけて一服しても、今度はぶんどられるようなことはおきなかった。
さっきまでとはまた違った沈黙が流れていた。その沈黙は決して悪くない沈黙だった。
かびついた、陰気臭い沈黙というよりは、どことなく春の爽やかさを感じさせる静かな時間だ。
長い沈黙の後、徐倫は呆れた様に大きく息を吐いた。ホル・ホースを見るその視線には冷ややかさが含まれている。
コイツに相談するんじゃなかったという気持ちが、ありありと浮かんでいた。それを見て、彼は満足そうに笑った。


「あなたって悩みとかあるの?」
「どうやったら川辺でセンチになっている女の子を慰められるか、今悩んでる」


馬鹿らしい、と少女がいうとそれを待ちかまえていたように、男はそろそろ戻ろうかと言った。
馬鹿らしい、結構なことだ。少なくとも無駄に落ち込んで、うじうじしているよりは何十倍もいい。
憂鬱な美人よりも呆れる美人のほうが数百倍綺麗だ。例えそれで自分が呆れられるようなものであってもホル・ホースという男にとってはそれは些細な問題だった。

二人は並んで川を後にすると、すぐ後ろに立つ教会へと向かっていった。
さり気なく肩を抱こうと男が伸ばした手は、無言のうちに少女にはたかれる。乾いた音と男の控え目な呻きが辺りに響いた。
ホル・ホースと『空条徐倫』は教会へと戻っていった。





「茶でも飲むか?」

私はその声に顔をあげた。反射的に物音に反応しただけのことだった。
吉良吉影の言葉をもう一度頭の中で繰り返し、ようやくその言葉がなにを指し示しているのか理解する。
私はゆっくりと首を振った。吉良は顔色変えずそうか、とだけいうと、再び読書に戻った。
どうやら彼なりに気を使ってくれたようだ。だとしたらさぞかし自分は難しい顔で考え事していたのだろう。
実際、ひどく混乱している。

ホル・ホースは戸惑うのも無理はない、と言った。
時代の越境、未来の技術、過去の存在、スタンドという概念、喋るプランクトン、ディオ・ブランドーとDIO……。
考えすぎるとひどく頭が痛くなりそうだった。知るべきことと考えるべきことが多すぎて流石の私もこれには参っていた。

その混乱を少しでも解消するために、ホル・ホースはわざわざ時間を取ったはずだった。
私も時間は必要だったし、動揺していたの事実だった。だが時間をもらえど気持ちを切り替えることはなかなかどうして難しい。
自分の置かれている立場がよく理解できない。掴みどころがないのだ。
まるで水の上に浮いた地面を歩いている様な気分だ。私は額を抑え、思わずため息をこぼした。
情けないものだ。戦いであるならばそれこそ幾千、何万もの機会を積んできた。己を鍛える辛く長い修行にも耐え努力を積んだ。

だが誰が予想できようか。時空を超え、次元を超えたものとの邂逅がこれほどまでに難解だったとは。


「……あの二人みたいに散歩でもしてきたらどうだ」

パタン、と本を閉じる音に続いて、平坦な男の声が思考を破る。吉良吉影はスーツの裾をなおしながら、顔もあげずにそう言った。

「随分と難しい顔で考え事していたのでね、お節介だとわかっているが、ついつい口出ししてしまった」
「いや、ありがたいよ、吉良。そうだな、確かにそうしたほうがいいかもしれない」
「あまり動きたくないというのならば私が席を外すが」
「大丈夫だ。リキエル、と言ったあの青年の様子も気になる。大人しくはしているようだが気分転換がてら、すこし見てくるよ」

そうして守るべき一般人からも心配される始末。私は立ち上がると青年のいる部屋に向かいながら、もう一度深い溜息を吐いた。
頭を振って思考をすっきりさせる。わからないことは素直にわからない。私はやるべきことだけをこなそう。
立ち止まるようなことがあれば、その時は彼らと共に考え協力すればいい。
とりあえず決めるべき事は……ディオの根城に乗り込むべきか、どうか。まずはこれだけを考えよう。

リキエルを寝かしつけた講堂の扉をあける。吹き抜けの高い天井に扉の軋んだ音がこだまし、靴が地面を叩く音が聞こえる。
ステンドグラスが美しく輝き、優しい光が室内を満たしていた。少し暗いが気になるほどではない。先ほどまで灯していた蝋燭の燃えかすの臭いが鼻先をかすめた。
講堂内はとても静かで落ち着いていた。人一人いないように静かで、奇妙だった。
私は扉を後ろ手でゆっくり閉め……そして戦いの構えを取った。部屋に入ってすぐおかしなことに気がついた。リキエルの姿が見えないのだ。


嫌な気配が辺りを煙のように充満している。
リキエルは入ってすぐの長椅子に転がしておいたはずだった。話を聞き終えた後で猿ぐつわをかませ、椅子ごと固定するように縛り上げたのだ。
ならば彼の姿が見えないのは何故だ。その上ロープもなくなっている。ただ抜け出しただけではないということだろうか。
吉良と共にホル・ホースたちの散歩を見送って、目を離していたのは僅か数分のことだというのに……。

そっと手に持つペットボトルに目を落とす。波紋は乱れていない。渦巻く波紋は乱れず、床伝いに何かの生命エネルギーを感じることもない。
スタンド能力だろうか。だがホル・ホースの言ったリキエルの能力にはこんな芸当ができるとは思えない。
仮にリキエルがスタンド能力とやらで自由になったとしても我々に悟られず、且つ跡一つ残さず、こうも姿を消す事なぞ可能なのだろうか……?

吉良を呼ぶべきかどうか、私は一瞬迷った。
だが危険が潜んでいる以上迂闊に動くと更に状況が混乱する可能性もある。そのまま室内を進んでいく。
カツン、カツンと革靴が音をたてる。その響きかたから考えても辺りを動くような何者かがいるとは思えなかった。

慎重に一歩。そしてまた一歩。辺りは影一つ動かない。まるで室内ごと、椅子も窓も、全てが凍りづけられかのようだった。
吸い込む息はどこか湿っていて、ネバついている様な気がする。神経を徐々に張り巡らしていくと、波紋の呼吸も落ち着いてきた。
室内の状況が段々と明らかになってゆく。やはり室内には誰もいないようだ。見渡しても長椅子がうずくまった獣のようにじっとしているだけのことだった。

「……逃げられたか?」

だとするならば考えるべきはどうやって、だ。スタンド能力か。はたまた協力者がいるのか。
もう一つ。逃げたのか、それとも潜んでいるのか。個別に行動するのは賢明とは言えないな。後ろから襲われる可能性がないとは言い切れないのだから。
私は講堂を入口から端まで歩ききり、急いで吉良の元へ戻ろうと振り返った。彼が心配だった。ホル・ホースとあの少女のことも気にかかる。
そうして振り返った時だった。


「なっ!?」


波紋が乱れないわけだ。既にそれは呼吸をしていないのだから。
床伝いに生命エネルギーを感じられるわけがなかった。それはもうとっくに死んでいて、その上壁にくくりつけられていたのだから。


「こ、これはッ!?」


 ドギャァ――――――z__ンッ!!


入口の真上、数メートル頭上の位置でリキエルは壁にめり込むようにして事切れていた。
彼が死んでいたという事実。それに気づかなかった自分のうかつさ。幾つもの情報が急速にわき上がったが、私はなによりもリキエルの表情に、ぞっとした。
見開かれた目、苦痛にゆがんだ頬。そして一部分がなくなっている。暗闇に目を凝らし、その部分を見た私の背中がさぁ……と泡立つ。
歯形だ。しかも人間の歯型。

リキエルは殺された……! それもただの殺しではない……!
この殺しは彼を辱め、屈辱に塗れ、そしてなによりも! 残忍性、異常性においてずば抜けているッ!
あちこちを食いちぎり、飾り立て、オブジェのように展示しているのだッ!
彼を殺害した人物は異常すぎるッ! 吸血鬼、屍生人、人間! それを超えた禁忌に触れた、そう、まさに狂人のものの行為だッ!

無意識に後ずさっていた私は長椅子に足をぶつけ、その音で正気に戻る。
痛みと音が私を現実に引き戻した。慌てて手元のペットボトルへ目を落とす。波紋は乱れていない。少なくとも、まだ。
殺害者はもうこの部屋にはいないのか。一人目じゃ飽き足らず、二つ目の獲物を狙っているとでも言うのだろうか。
だとするならばここにいるのは尚更危険……! そしてなによりこの事実を知らない吉良が、そしてホル・ホースが……!


そう、私は焦っていた。狼狽していた。もしかしたら、恐怖、していたのかもしれない。


だから即座に気付けなかったのだ。そのちょっとした波紋の変化に。
いつもならすぐに気づけたであろう、その微かな、しかし致命的とも言える見落としに。

もう一度手元に目をやり、私は眉を寄せた。この透明な容器は使いなれてないせいか、変化に気づきにくい。
波紋は乱れていない。だがそこに変化はあった。渦巻く波紋はさきほどより深くなっているのだ。下に伸びているのだ。
そのうねりは横に乱れるでもなく、脇にずれるでもなく、まるで誰かに引っ張られるように下へ回転を増し……。


「まさかッ!?」


そう私が零したのと同時に、床板から伸びた太い腕が私の胴体を貫いた。






「ストレイツォ、ここにいるのか?」

やれやれ、いったいどこに消えたというのだろう。
あちこち見回ったが影一つ見当たらない。一度入口から覗いたこの講堂だが、ほかの場所にいない以上、この奥で何やかんやしているのかもしれない。
カタブツで融通がきかない以外はなかなか役に立つ男なんだが……まぁ贅沢は言わんがね。これくらいだったら私の平穏のために妥協はするさ。

入口の扉を開き中に入っていく。少し暗いため奥まで一目で見ることができない講堂だ。
確かに雰囲気は悪くない。考え事、読書に集中するにはうってつけの場所だな。
ストレイツォもきっとここで難しい顔をしながら考えているのだろう。

「ストレイツォ、いるのか。いたら返事をしてくれ」

さて、私がいくら平穏を愛していると言っても限度があるというものだ。
今の状況に不満があるわけじゃないがいつまでも首元に爆弾をぶら下げてるというのもわずらわしい。
辺りを殺人鬼や危険人物がうろうろしてるかもしれないというのにリラックスして過ごすというのも無理なもんだ。
私の理想としてはストレイツォがさっきの二人をひきつれて悪者退治に出かけてくれれば万々歳なんだが、さて……。

それにしてもさっきの話し合いは流石の私も度肝を抜かれた。
スタンド、というらしい特殊能力。明らかに私が持つキラ―クイーンと同種のものじゃあないか。
勿論私はキラ―クイーンの事なんぞ一言ももらさなかった。能力を誇示すれば戦いに巻き込まれることは明白だ。そして戦いは平穏とかけ離れた場所に位置しているものだ。
戦いなんていうものストレイツォの様な正義のヒーローに任せておけばいい。私にはどうでもいいことだ。
まぁ戦ったところで負ける気はしないのだがね。

「ストレイツォ、いないのか?」

にしてもディオ、と言ったかな。リキエル、ホル・ホース、そしてストレイツォが口にした男のこと。
まったくこの二十世紀になっても世界征服をもくろむ男がこの世に存在するだなんて思ってもみなかった。
頭がおかしいとしか思えないな。世界征服? 頂点を目指す? フン、笑わせるね……滑稽だ。

「…………ふぅ」

考え事をしながら辺りを見渡すがあのカタブツ正義漢の影は見当たらなかった。
長椅子の隅から隅まで視線を撫ぜるがそこに誰かが座っていた形跡すら残されていない。
一体どこに消えたというのだ? そろそろあの二人も帰ってくるころだろうし、ここでストレイツォがいなくなると色々面倒なことになるんだが。
これでまたストレイツォ捜索に駆り出されたとしたら非常にめんどうだ。できることならもっとこの教会に留まっていたい。
来るべき労働に顔をしかめ、あの正義漢はどこにいったのだろうと私はため息を漏らす。その時だった。


「―――!」


揺れる風、感じる気配。キラ―クイーンを出現させたのはほとんど反射的と言ってよかった。

「キラ―クイーン!」

背後から伸びた一撃は重く、強烈だった。両腕で固く守ったキラークイーンのガードが痺れるほど。
驚愕に目を見開きながらソイツを睨み、そしてさらに驚いた。

奇妙な格好をしている男だった。
毛糸を編み込んだような全身スーツ、あちこちからケーブルプラグのようなものが伸びている。これほど趣味の悪い恰好は見たことがない。
落ち窪んだ眼光、真っ赤でてかてか輝いている口元がこれ以上ないほど気味悪い。
私は驚愕と同時に、それ以上の嫌悪感を抱いた。なんなんだ、コイツ。一体何者なんだ。

「おっ、おっ、おっ…………!」
「くッ……!」

考える暇も与えない、ということか。その男は立て続けに拳を振り回し私に襲いかかる。
右に左に素早い身のこなし。鉛のように固い拳。なんてやつだ。コイツ、素早いぞ……! それに、重いッ!
私のキラ―クイーンをもってしてもさばききれないほどに……コイツの一撃は、強烈……ッ!

間違いない、こいつ……『スタンド使い』だ。私と同じ能力を持っているということだ……ッ!

隙をついて繰り出した右の一撃。私の反撃を相手はガードすることなく、その場で沈みこみ回避する。鼠のようにすばしっこいヤツだ。
長椅子をガタガタと揺らしながら男は暗闇に紛れ、そして姿が見えなくなる。恩わず私は舌打ちした。この状況、圧倒的に不利なようだ。
だが不利であっても不運ではない。ヤツは完全に去ったわけではない。気配は感じられる。どうやらコイツ、戦る気のようだ。
あのスーツをまとった謎の男はこの吉良吉影と戦う気らしい……!

(いいだろう……ならば、かかってくるがいい! 私とて君をここで逃すわけにはいかないのだからな)

腕時計に目を落とす。ホル・ホースたちが帰って来るまでどれぐらいかかるだろうか。もうすぐにでも帰って来るのではないだろうか。
やれやれ、とんだ災難だ。だがこんなピンチであろうと私には切り抜けられる。切り抜けるだけの能力があると、自負している……!

速攻でカタをつけさせてもらおうか。
ああ、そうだ。君は既に見てしまったのだからな……このキラ―クイーンを。私のスタンドを!
私は誰かに勝利することに喜びを感じない。だが、だからといって誰かに敗北することは決してない。
平穏は勝利でもなく敗北でもなく、その先にあるのだ。私の平穏のためにも……

「君にはここで死んでもらう……!」





【リキエル 死亡】
【ストレイツォ 死亡】

【残り 64人】




【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会脇/1日目 午前】

【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:タバコ、ライター
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.教会に戻ってストレイツォ達と合流。
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。
※ストレイツォから基本支給品、それとホル・ホースのものだったランダム支給品を返してもらいました。
 ランダム支給品は『面会室の煙草&ライター』(六部出典)でした。

F・F
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2~4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.教会に戻ってストレイツォたちと合流。
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。





【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内講堂/1日目 午前】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
0.スタンドを見られた以上セッコを逃さない。
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ、リキエル、ストレイツォ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.邪魔されたので吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  


[備考]
※リキエルとストレイツォの死体は講堂内に放置されています。一部がセッコによってデコレーションされてます。
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
 ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
 リキエル:基本支給品×2


投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

前話 登場キャラクター 次話
105:トータル・リコール(模造記憶)(上) ストレイツォ GAME OVER
105:トータル・リコール(模造記憶)(上) ホル・ホース 145:GANTZ
105:トータル・リコール(模造記憶)(上) 吉良吉影 145:GANTZ
115:死亡遊戯(Game of Death)1 セッコ 145:GANTZ
105:トータル・リコール(模造記憶)(上) F・F 145:GANTZ
105:トータル・リコール(模造記憶)(上) リキエル GAME OVER

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最終更新:2014年06月09日 22:35