時刻は12時、正午の時間だ。これより第二回放送を始める。
放送は前回に引き続きこのスティーブン・スティールが、担当させてもらう……。
さて、早速だが本題に入ろう。この六時間での死亡者と新たな禁止エリアの発表を行う。
前回は少し与太話が過ぎたようで不評を買ってしまってね。簡潔に、端的に放送を進めさせてもらおう。
それではまずは禁止エリアから。今回の禁止エリアは……
13時から A-7
15時から A-2
17時から D-8
13時A-7、15時A-2、17時D-8、この三箇所だ。よろしいかな。
次に6時から12時までの間に脱落した者たちを発表する。
今回脱落したものは……
以上 18名だ。
なかなかのハイペースだ。
参加者の半分以上が脱落した前回と比べればペースは落ちているものの、進行には問題がなさそうだな。
私としても一安心だよ。
だからここから先は一プロモーターとしていうより、一観戦者としての戯言を述べさせてもらいたいのだが―――。
少しばかり面白みにかけてきた、というのが私の意見なんだ。
隙を伺い、期を待ち続け……まさにその刹那! 一瞬の殺陣! と、いうのも確かにスリル満ち溢れ、心躍る時ではある。
しかし私はもっと見たいッ!
超人たちが血肉争う、壮絶な戦いがッ!
強者と強者がぶつかり合う、ここでしか見れないドリームマッチがッ!
地に足つけて生き残るのも大いに結構!
しかし”地の底を這い蹲るよう”に生き残ったところでそれは果たして真の勝利と言えるのかね?
殺戮者たちよ! ”陽のあたる舞台”に出る度胸をもち給え! 君たちの力はその程度じゃないはずだ!
……今述べさせてもらったことは私個人の願望であり、強制力は一切ない。
今後ともゲーム進行は君たちの手に委ねようと思う。
一箇所にとどまっていようが、建物にこもってやり過ごそうが、戦いを徹底的に避けようが大いに結構だ。
だが再確認させていただこう。『最後に生き残る』のは『たったひとり』だけ。願いを叶えることができるのも一人だけだ。
それでもいいというのなら、私からはもうなにも言うまい……。
ともあれ放送は以上だ。君たちに会うのはまた六時間後、第三回放送の時だろう。
それではまたその時に! 諸君らの健闘を祈って! グッドラック!
■
手袋をつけた、スラリとした指先がマイクのスイッチを切る。
目の前を横切るヴァレンタインの指先を、スティールはただいたずらに眺めることしかできなかった。
全て目の前の男の手のひらの上だ。
壁際に取り付けられた数十もの電子画面が、ぼんやりとヴァレンタインの横顔を照らす。
凛としたその横顔。そこからは自分を信じている気高さというものが感じられた。
これが日常であるならばスティールも手放しで彼を褒め称えただろう。
その横顔に、一人の市民として頼もしさを感じただろう。
だが今は違う。
ヴァレンタインが100名以上に殺し合いを強制し、スティールをそのスケープゴートにしている、今は。
「少し席を外させてもらおう。しばらく待っていてくれたまえ」
挨拶もそこそこにそう言うと、ファニー・ヴァレンタインは扉の向こうへ消えていった。
扉が閉まる音が聞こえ、それが消えると辺りを静寂が覆った。
マイクを前にしてスティールは動けない。罪悪感と無力感が彼を蝕む。
ジジジ……という虫の鳴くような声が聞こえた。
西部時代に生きるスティールには聞きなれない音。
電化製品が発するかすかな音に顔を上げると、スティールはあることに気がついた。
あたりを見渡す。監視役はいない。彼以外にその部屋には誰もいない。
何十ものディスプレイが壁いっぱいに取り付けられ、いくつかのノートパソコンが長机の上に置かれている。
画面に写っているのは会場内に取り付けられたカメラの映像だ。
そしてついさきまでヴァレンタインが見ていたディスプレイには……そうでない映像が、写っていた。
椅子から立ち上がり、離れたノートパソコンの前に立ち尽くす。
ためらいがちに、不器用なりに、ヴァレンタインが眺めていた画面を思い出す。
不慣れながらもマウスを操り、画面を戻していく。
進めど、進めど出てくるのはどこかのカメラの映像だった。だが、ヴァレンタインが見ていたものはそれじゃない。
スティールは探る。背後の気配に神経を研ぎ澄ましながら、それでも彼の手は止まらない。
数分間の苦戦を終え、スティールの手がようやく止まった。
スティールの目がディスプレイ上の文字を追っていく。
彼は文字の脇に表示されたひとりの男の写真を、食い入るように見つめた。
―――リンゴォ・ロードアゲイン:スタンド『マンダム』
震える手で次のページをクリックする。そこには彼のスタンド能力が記されていた。
―――スタンド能力は『六秒だけ時を巻き戻す』
ブゥゥゥン……と音を立てて、室内の機械が動き出した。
しかしその音すら今のスティールには聞こえない。
彼は何かにとりつかれたように目の前のディスプレイを見つめ続けていた。
その目は先程のような絶望に染まったものではなくなっていた。
ひとりのプロモーターとして、ひとりの男として。
妖しげな輝きがスティールの目には戻っていた……。
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最終更新:2015年03月22日 20:37