これより第三回放送を開始する。調子はいかがだろうか、諸君。
ただいまより、禁止エリアと脱落者の発表を行う。
それではまずは禁止エリアから……。メモの準備はよろしいか? それでは……―――
第三回放送の禁止エリアは
19時より B-2
21時より E-7
23時より G-6
19時より B-2。21時より E-7。23時より G-6。以上三ヶ所だ。
続いてこの六時間での脱落者の発表を行う。脱落者は全部で26名……―――
以上の26名だ。
さて、賢い君たちは気づいたことだろうが……ついに残りは30名となった。
ゲーム開始当初の五分の一、20%だ。
段々と傷も増え、心は疲弊し、絶望に足が絡め取られてきている参加者もいるのではないかね?
しかし、怯えることはない、参加者諸君。今の時点では、チャンスはまだ、誰にでもある。
闇夜は襲撃を覆ってくれる最大の味方となるだろう。賢く戦うのだ。
そうさなァ……あえて観戦者として助言を与えるとしたならば……カバンをチェックしたまえ。名簿を見よ、地図を見よ!
さすれば与えられんだろう……おおいなる、勝利の約束がね!
今まさに、このバトル・ロワイアルは大きく動こうとしている。
もはや誰も止めることができないい大きなうねりに飲み込まれ、激しく生まれ変わろうとしている。
君たちとまた、こうやって6時間後に無事会えることを願っている。
それでは、また会おう。スティーブン・スティールが放送を担当した。
―――――― ブツリ
◆
放送を切ると、スティールは顎の下で手を組み直した。目線の先には壁一面に広がる無数のディスプレイ。
埋め込まれた画面にはリアルタイムで参加者たちの動きが中継されている。
青く、妖しい光がスティールを照らす。スティールは熱心に光を見つめている。まるでその青い光をこの手にしようとしているかのように。
「しゃべりすぎだ、スティール」
彼の後頭部に冷たい金属が押し付けられるまでは。
「…………」
「『うねり』『観戦者』『カバンをチェックしろ』『ヒントは名簿と地図』『スティーブン・スティールが放送を担当した』
どれも自分が部外者であることを示唆した言葉だ。“我々”の計画を大きく狂わせかねない、重大で意図的な過失だ」
「…………」
「慎重な君にしては……、いや、臆病者の君にしてはあまりに投げやりすぎる態度だ。
一流のプロモーターが聴いて呆れる……。計画をこんな中途半端な形で放り投げるつもりか?」
「…………―――白々しい」
「……なに?」
後頭部に銃を突きつけられたこの状況で……いや、突きつけられたこその、開き直りだろうか。
スティールのなかで芽生えたのは自棄に近いものだった。
怒りのまま振り向こうとしたが、頭に押し付けられた銃を思いだし、冷静さが戻る。
死への恐怖を思い出したのではない。自分の言いたいことも言えずに死ぬ。それだけは嫌だ!
スティールは自らの『納得』のためにほんの一時だけ呼吸を整えた。
「……お前は、いや―――『お前たち』は一体何をしようとしているんだ?」
「…………」
沈黙はたっぷり一分間は続いただろうか。
不意に後頭部に当てられていた感触が消えた。かわりに労いを込めた、柔らかな手が肩に置かれる。
「……少し疲れているのだろう。ここは冷える。部屋に戻って休息をとり給え」
そう言ってヴァレンタインは肩にかけていた上着をスティールの上に『被せた』。
「永遠の休息をね」
そして再びヴァレンタインが上着を持ち上げたとき、そこには埃一つ残っていなかった。
「『D4C(いともたやすく行われるえげつない行為)』……」
ハンカチを取り出すと、座席を払う。ヴァレンタインは空になった椅子に座り、脚を組んだ。消えさった男のことなんぞ、もはや雨粒一つ興味がなかった。
今の彼に興味があるとすれば……ヴァレンタインはディスプレイに映る参加者たちに熱い視線を注いだ。
「
空条承太郎、
吉良吉影、ジョルノ・ジョバーナ、ジョニィ・ジョースター。そしてわずかながらディエゴ・ブランドー……」
名を挙げながら手元の名簿をなぞっていく。その手つきには愛情といっていいほどの優しさが込められている。
「『適正者』はこれぐらいだろうが……君の意見を聞こうか」
しばらく黙り込んだ後、突然後ろを振り向くとそう呟いた。視界の先には永遠に続くような闇が広がっている。
ヴァレンタインの呟きは反響し、底なしの彼方へと消えていく。
だがヴァレンタインは知っている。
彼がこちらを見ていることを。彼がこちらに耳を澄ませていることを。
「ミスター・ヒロヒコ・アラキ?」
暗闇から姿を表した東洋人の顔には、モナリザのような美しい笑顔が張り付いていた。
【スティーブン・スティール 死亡】
最終更新:2015年08月17日 23:08