和を以て貴しとなせ

まだ月も沈みきらない早朝、ぼんやりとした月明かりの中、五人の男女が皆それぞれ違う面持ちで歩く。
一人は希望に満ち、一人は焦燥を押し殺し、一人は思案し、一人は苦悩し、一人は興奮していた。
そんな中、希望に満ちた女、上白沢慧音が口を開く。

「みんな、疲れていないか?特に仗助君と天子は、さっきまで戦っていたからな……もし疲れているなら少し休憩してもいいぞ?」

慧音の発言に皆それぞれの応答を返す。

「平気に決まっているじゃない!それにさっさとしないとマーダーとなった連中の跳梁を許すことになるわ、兵は神速を貴ぶってね!」

「俺も全然平気っスよぉ~、こういうのには案外慣れてるっすから。それより『一般人』の吉良さんと、女の子のぬえちゃんは大丈夫っすか?」

「あ、ああ……大丈夫だ東方君。私はこれでも少しは鍛えているからね……」

「バカにしてんじゃないわよっ!私はあんたの何十倍も生きてる大妖怪、封獣ぬえ様よ!敬意を払いなさい敬意を」

「あーすんません。なんつーか幻想郷って難しいとこっスね、見た目で判断できねーから誰が年上で誰が年下か全然判んねーっスよ」

「ふふっ、確かにそうだな。君と同年代なのはおそらく博麗の巫女や人間の魔法使い、
それと現人神の風祝ぐらいしかこの会場には居ないだろうからな。
まぁ全員大丈夫なようで良かった。では先を急ごうか」

他愛の無い会話はここで一旦途切れる。
今の一連の流れは、一見ただ穏やかな普通の会話に見えるが、一部張り詰めた空気が漂っていた。
何故、このような奇妙な状況になってしまったのか、時間は少し遡る。



E-1 妖怪の山 黎明

「ドラララララアッ!」

「くっ!」

一進一退の攻防。比那名居天子の無神経な発言によって起こった闘いは、プッツンした東方仗助の優勢で進んでいた。
上下左右から襲いかかる仗助のスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』による拳の弾幕のようなラッシュは、
弾幕ごっこで鍛えた天子の動体視力でも、避けるのはギリギリだ。
天子は仗助をただのアホそうな若年者と侮っていたので、スタンドの対処と理解が遅れ後手に回っていた。

「どうしたよぉォーッッ!!天子の先輩よおッッ!!俺の髪型が牛の糞みてぇとかぬかしたくせによぉぉぉ!!」

「そんなことっ!いって!ないわよ!ただあんたのヘアスタイルが、下衆で!間抜けで!みっともないって言っただけじゃない!この外道マーダー!」

天子は反撃に移るため一旦距離を取り、再度急接近し最上段に構えた木刀を一気に振り下ろす。当たれば昏倒は免れないだろう。
だが仗助は怯みもせず、般若も逃げ出す形相をしながらで拳で木刀に真っ向から打ち合う。

「ドラアッッ!」

「砕けなさい!って!何これ!?」

打ち合いの結果、お互いの得物が壊れるという事はなかった。
しかし、壊れてはいないが、天子の木刀は異常な形に変形し、山菜のゼンマイのような形に成り果てていた。
『クレイジー・ダイヤモンド』の治す能力の応用だ。

「なっ、何よこれぇぇ!あんたもしかして妖怪か何か!?」

「俺のヘアースタイルが妖怪みてぇだとぉぉぉ!」

「何をどう聞いたらそうなるのよおおお!」

最早仗助には何を言っても火に油を注ぐ行為にしかならない。
今の仗助は水をかけても消火器をかけても逆に燃え盛る、イカれた炎のような状態だった。

「こんなやつまともに相手してたらこっちの身が持たないわ……!あーもう緋想の剣さえあればこんなやつ~!」

確かに相手に応じてその弱点を付くことの出来る、天界の秘宝『緋想の剣』があれば、この状況を切り抜けられるだろう。
だが無いものねだりをしても無いものは無い。
故に、今あるもので仗助を何とかしなくてはならない。



「ドラアアッッ!!」

「キャアッッ!?」

そしていつの間にか迫って来ていた仗助の一撃で、変形していたとはいえ唯一の武器である木刀まで弾かれてしまった。

「えーとえーと、なんかなかったっけ!?」

あたりを見渡してみるが、妖怪の山の麓には木や岩石が少しある程度で、この状況を打開するものは見つからない。
そうこうしている間にも仗助の攻撃が迫りつつあった。

「とうとう追い詰めたぜぇ~自慢の髪型をけなしたツケ、きっちり払ってもらうぜぇぇ!」

「あーもうどうにでもなれー!」

仗助の攻撃が迫る瞬間、天子は偶然目についた自分のデイパックを咄嗟に防御に使った。
そしてその偶然が、思わぬ形で功を奏した。
何故か仗助の攻撃は全て受け流され、天子にはまるでダメージがいっていなかったのだ!。
攻撃の衝撃に備え目を瞑っていた天子も、いくら経っても痛みを感じないので、そーっと目を開けた。
すると、自分の眼前には、舞うエニグマの紙と、自身が気付けていなかった支給品『龍魚の羽衣』があった!。
攻撃の衝撃で紙が開いた事により、その効力を発揮したのだった。

「こ、これって確か衣玖の羽衣……?支給品って木刀だけじゃなかったの?」

実は支給品確認の際、天子は対主催に燃えテンションが上がりすぎていて、木刀の存在を確認した時点で満足してしまっていたのだ。
それ故龍魚の羽衣の存在に気づくことなく、今の今まで過ごしていたというわけだ。

「なんだか知らないけどラッキー!地獄に仏、渡りに船、これであんたの守護霊の攻撃なんて怖くないわ!
これでも喰らいなさい!」

龍魚の羽衣の力で攻撃を全て受け流した天子は、一転、攻勢に移り、召喚したミニ要石からレーザ弾幕を放つ。
仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』でガードをしたが、受けきれなかった数条のレーザーは仗助の体を焼いた。

「ぬう~~~っ!」

ダメージは大したことはなかったが、自分の攻撃が通らず、しかも反撃までされた事によって、仗助は怒りの唸り声を上げる。

「ふっふーん、ざまぁないわね。運は天にあり、即ち運は天である私のためにあるのよ、
あんた如き地上の民が、この私に一撃でも与えられるなんて夢のまた夢ってこと」

一方天子は情勢が自分の有利に傾いたと見るや、先程までの混乱はどこ吹く風、急に尊大な態度になり調子に乗り始めた。
そしてそれにより仗助の怒りは更に増大、今まで以上の速さと重さの乗ったラッシュを繰り出す。

「ドララララララララアアッ!!」

「無駄無駄無駄ぁー!」

しかし攻撃は通らない。雷雲の中の遊泳すら可能にする龍魚の羽衣は、ラッシュを平然と受け流す。
柔よく剛を制すの言葉通り、パワー任せの物理攻撃は柔らかな羽衣には通じなかった。


「無駄って言ってるでしょ!これでも喰らってさっさとくたばりなさい、この面白髪型マーダー!」

地符「不譲土壌の剣」

優勢を確信し、そろそろこの闘いに終止符を打たんと、天子はネジ曲がった木刀を地面に挿し小規模な地震を起こす。
そして仗助が怯んだところに幾つもの要石弾幕を放ち、押しつぶさんとした。
対する仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で弾幕の破壊を試みるが、数の多さと地面の不安定さからいくつか取りこぼし、ダメージを受けてしまった。

「どう?これで天と地程の差ってものが解った?」

長髪を手で後ろに払いながら、天子は仗助を見下し尋ねる。

「この自慢の髪型をけなされるとムカッ腹が立つぜ!何故頭にくるか自分でも分からねぇ!
きっと頭にくるってことには理由がねえーんだろーなッ!本能ってやつなんだろーなッ!」

だが仗助は質問に答えるどころか、自分の髪型を馬鹿にされたことを怒り続けている。
それも天子から攻撃を受けて、頭から血を流しているのにも関わらずにだ。

「こ……こいつ……まじにクレイジー過ぎるわよ……一体どんだけその髪型に拘るのよ……い、いい加減にしなさい!」

天子は仗助の異常さへの動揺を押し殺し、弾幕による追撃を行う。
だが仗助はそれを避けスタンドでガードしきり、近くに落ちていた要石を天子に投げつけ反撃をしてきた。

「飛び道具ならこの羽衣の防御を崩せるとでも思った?残念、そんな攻撃、羽衣を使うまでもなく避けれるわよ!」

「残念なのはよぉ~テメェの頭のほうだぜ、俺は端から弾当てごっこなんぞする気はねーぜ」

そう言い放つとともに、仗助は投げた要石にラッシュを叩き込み粉々にした。
その破片は天子に降り注ぐが、ダメージはない。

「ふっ、ふんっ!ただ埃っぽいだけじゃないの、負け惜しみなんてみっともないわよってきゃあ!」

確かにダメージはない、ダメージはないが、天子の体は要石と同化し、身動きがとれなくなっていた。
『クレイジー・ダイヤモンド』の能力で、砕いた要石をその場で復元し、その破片の中にいた天子を捕縛したのだ。
仗助は最初から攻撃のために要石を投げたのではなく、捕縛のために投げたのだった。
怒りに狂いつつも、仗助は勝つための冷静さを欠いていなかった。

「これでよぉ~テメェをぶちのめす準備が整ったってわけだ。負け惜しみを言う準備は出来たか?」

「こっこんなこと……!まだよ!この私が負けるはずがない!拘束なんて弾き飛ばして――」

「グレート……確かにみっともねぇな……!ド ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ドラアッ!!!!」

「ぶっぎゃーーーー!!」

ついに『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュが天子に炸裂。天子は叫びながらどこかにぶっ飛んでいった。
仗助の髪型から始まったこの寸劇のような闘争は、仗助の怒りと戦術が天子の慢心を打ち砕き、終了となった。

「しっかしまだ怒り足りねぇ……!どこ行きやがったコラァーッ!」

だがまだまだ怒り足りない仗助は、薄闇の中、天子が吹っ飛んでいった方へと向かってゆく。
その先に、新たな苦難が待ち受けているなど、知るはずもなく。



「おーいやがったなこらぁ、まだ終わっちゃいねーぞっ!」

天子を発見した仗助は、ずかずかと天子に歩み寄る。

「ぎゃ、ぎゃー!もう十分殴ったでしょ!この私に触れられたことをありがたく思ってさっさとどっか行きなさいよ!」

天子は軽傷をいくつか負っているものの、依然ピンピンしていた。
常食している仙果の力で天人である天子の体は非常に硬く、時としてナイフすら通さない。
多少の制限があるとはいえ、『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュを喰らっても再起不能にならない丈夫さがあった。
だが、仗助にとってはそのほうが好都合、逆にまだまだ殴っても大丈夫というゴーサインと受け取った。

「まだまだ元気そうじゃあねーかよ!この程度じゃ俺の怒りは収まらねぇ、行くぞコラアッ!」

「何なのよこいつ~、不意打ちしてきたかと思えば髪型の事ばっか言い出して、マーダーじゃなくてただの頭のおかしいやつじゃない!」

「俺のヘアースタイルがおかしいだとぉぉぉ!?」

「ほらやっぱり~」

天子はもう泣き出したい気分だった。
天人としてのプライドはズタズタで、折角乗り出した異変解決も二重の意味で頭がおかしい奴に邪魔されてしまった。(半分以上が自業自得だが)
その上まだ殴り足りないなどと言っているから仕方のないことかもしれない。
しかしその時、天子絶体絶命のピンチに際し、助け舟となる一声が突如響いた。

「お前たち、何をやっている!?」

声の主、上白沢慧音は、よく響く声で叫んだ。



見渡しの良い平原の向こうに、照明器具に照らされた三人ほどの人影が見える。
発言を聞くとどうやら対主催の一団のようだ。
天子は助かった!と歓喜し安堵する。
これでやっとこの異常者とサヨナラバイバイできると。
そして一方仗助は、一気に冷静さを取り戻していた。
それなりに距離があるというのに、何故かはっきりと見えたのだ、その一団の中にいる、一人の男の顔が。
その顔を見た瞬間、仗助はかつて感じたことのあるおぞましい気分が蘇った。
同時に、自分がこれから取らなければならない行動も浮かぶ。

「なあ……天子……さん」

「なっ、何よ?」

「俺のヘアースタイルバカにしたこと、謝ってくれねぇか……」

「はっ、はあっ!?なにわけのわからないこと言ってんのよ!なんで私がそんなこと!」

仗助の突然の要求に、天子は混乱する。

「俺、自慢の髪型をけなされると、我を失って暴れちまうんだ……だからあんたを殴った。だがちと他に大事なことが出来ちまった。急がなきゃならねぇ……。
でもけじめとして、謝ってもらわねぇとどうにも出来ねぇ……頼む」

「散々殴り飛ばしておいて、そんなこと信じろっていうの!?馬鹿じゃない!?」

「謝ってくれたら俺にできることはなんでもする。事情も後で説明するし、傷も治す、頼む……急いでくれ!」

よくみると、仗助は歯を食いしばりすぎて、血が出ていた。
流石にここまでされてここまで言われると、よほど逼迫した事情があることは察せられたし、ヘアースタイルのことに関しても身を以て思い知った。
しかし天子もボコボコにされた手前、どうしてもただでは謝りきれない。


「う~~~~……じゃ、じゃあ条件よ!これからあんたは一生私の下僕として、私の命令には必ず従い、命をかけて私に尽くしなさい!
もしそれが出来るんなら、謝ってやってもいいわ!」

とても謝る側とは思えない高慢な態度だが、天子にとっての最大限の譲歩が伺えた。

「下僕って要は舎弟ってことっスよね、いーっスよ!そんなんだったら、謝ってくれさえすりゃあいくらでもなってやりますよ!」

仗助は胸をドンと叩いて、今までとは打って変わって明るい表情で条件を快諾した。

「な、なーんか素直すぎて癪に障るわね……まあいいわ……じゃあ、コホン……えーあなたのその自慢の髪型をけなしてしまってごめんなさい。
今後一切、金輪際、絶対に、確実に、二度と、馬鹿にしません。だから私を許しなさいっと……よしっ!これでいいでしょ!」

よほど恐ろしい思いをしたのか、異常に強調して反省の言葉を天子は述べた。
態度のデカさは若干残るが、唯我独尊を地で行く天子が謝る姿は、非常に稀だった。

「よーしオッケーっスよ!これで貸し借りなしってことで!じゃあ向こうから人が来るんで、なんか言われたらテキトーに合わせましょう」

「はいはい、それと、契約は絶対だからね!この私がここまでしたんだから破ったら容赦しないわよ!」

「分かってますって、約束を守る男、東方仗助、粉骨砕身天子さんの舎弟として頑張ります!」

仗助がそこまで言ったところで、三人の男女が近づいてきた。



緑色のロングスカートをまとった有角の女性。手には拡声器のようなものを持っている。
サラリーマン風の風貌の男性。どこか落ち着かない様子だ。
黒のワンピースに左右それぞれ三枚非対称の羽のようなものの付いた少女。不審そうな眼で仗助と天子を見ている。
一見してなんの関連性も見えない上に、はっきり言って奇異な集団だ。
その中のリーダー格の、先程叫びかけてきたと思われる有角の女性、上白沢慧音が、今度は落ち着いた声で話しかけてきた。

「私は上白沢慧音という者だ。後ろの二人は彼が吉良吉影さん。彼女が封獣ぬえだ。先程からこの状況を打開するため、共に行動している。
まあ自己紹介はこれぐらいにして、もう一度聞こう、お前たち、何をやっている?私には、争っているように見えたが……」

慧音の質問に仗助と天子は顔を見合わせ、少し考えたあと仗助が話し始めた。

「い、いや~喧嘩っスよ喧嘩、ちょっとした口喧嘩がヒートアップしただけっスよ~でも今はこの通り、仲直りしてハッピーうれピー……なんちゃって」

引きつった笑顔を浮かべながら、仗助は天子と肩を組んでわざとらしい仲良しアピールをする。
慧音は怪訝そうな表情でジーっと二人を睨めつけた。

「本当か?私には君……あー君、名前は?」

「ぶどうヶ丘高校一年B組、東方仗助っス!」

「そう、仗助君か、良い名だ。で、話を続けるが、私には仗助君がそこの抵抗できなくなっていた天人様を一方的に殴っていたように見えた。
遠かったが私は目はいいし、月明かりが加減よく君たちを映し出していたから自信はある。
私が呼びかけた直後手を止めたようだが、どうなんだ?」

「え、えーと……いやそのあんまりにもムカついて……その弾みっすよ弾み……何も殺そうとかそんなんじゃ……それに治せますし……」

仗助はしどろもどろになりながら受け答える。
天子は「絶対殺す気だったでしょあれは……」と小さく呟いた。

「そうか、事実か、確かに男子たるもの喧嘩の一つもするだろう。
だが曲がりなりとも女性を、しかも抵抗できない相手を一方的に殴るなど紳士のすることではない!」

慧音は突然仗助の両肩を掴んだかと思うと、頭をぐわっと後ろに振りかぶり、一気に前に振り下ろす。
上白沢慧音必殺の頭突きだ。この技の前に敗れた悪ガキの数は数え切れない。
そして喰らった仗助は悶絶し転げまわる。

「これはお仕置きだ。出会って早々悪いが、これでも私は教師をやっているものでな、こういう不道徳は見逃す訳にはいかない。
それにどんな理由があろうと、こんな異常な状況で喧嘩などすれば、殺し合いに乗っていると疑われても何も言えないぞ、よく反省するように」

言われた仗助は痛みでそれどころではなく、小さくうめき返すだけだった。
それを見ていた天子は、「自業自得よ」と仗助を笑ったが、慧音が今度は自分に近づいてきた事によって、その笑顔は消えた。



「さて、次はあなただ。確かあなたは比那名居天子様だったな、仗助君を笑っているが、人ごとではないぞ」

じわりじわりと近づいてくる慧音に対して、天子は一歩、一歩と後ずさるが、背後にあった木に阻まれそれ以上後退できなくなってしまった。

「今話しをして解ったが、仗助君はあまり自分から争いを起こすタイプには見えない。口喧嘩と言っていたが、あなたは彼に何を言ったのだ?」

「え、いや、その、あいつの髪型に関してちょっと悪口言っただけよ……それ以上でも以下でもないわ……」

天子は目が泳ぎまくっている。

「本当か?」

「ほ、本当よ!確かにちょっと言い過ぎたけど、誰も髪型のことで怒り出すなんて思わないじゃない!」

天子がそう言うと、慧音は目を細めて何かを思い出すように短く思考し、そしてつらつらと語り始めた。

「比那名居天子、旧名比那名居地子。元々は人間だったが、親が功績を認められ、天界に住むようになった。
しかし修業によって天人になったわけではないので、天界では不良天人と蔑まれている」

「なっなんであんたがそのことを!そんなこと言って許されると思うの!?」

天子は突然自分が最も言われたくないことを言われたので、怒りと困惑で声を荒らげてしまった。

「すまない、朝が来れば戻ると思うが、今の私は幻想郷の全ての知識を持っているものでな……。
しかしこれで分かっただろう?誰にでも言われたくないことの一つや二つはある、私だってこの姿のことを揶揄されればムッとする。
不用意な発言は人を傷つけ、ひいては自分自身を傷つける。特にこのような状況では命に関わることだってあるかもしれない」

そう言いながら、慧音は天子への距離を少しづつ縮めていく。

「わ、分かったわよ……理解したってば……確かにあんたの言う通りよ……今の発言は許してあげるからだから近づくのをやめて、お願い、やだ、やだ!」

「問答無用!己の欲せざる所は人に施す勿れ!」

ガツーン!

抵抗むなしく、頭突き炸裂。天人の防御力をもってしても痛みに悶える天下無双の頭突きだった。
それにより天子も仗助と仲良くお揃いのたんこぶを作り、これにて本当の和解と、心からの反省となった。



二人の痛みが引き話ができるまでには少しの時間を要したが、ようやく本題としてしっかりとした自己紹介と情報交換をすることが出来た。
そして話題がこれからどうするかに移ろうとした時、仗助は天子との契約を思い出し、自分の能力の紹介ついでに『クレイジー・ダイヤモンド』で天子を治療した。

「こんなこと出来るんだったらもっと早くやりなさいよ!」

「いや、俺もさっきまで痛みに悶えてたもんで、すんません」

天子と仗助は相変わらずなやりとりをしていたが、慧音は真剣な眼差しで治療光景を見つめていた。
そして治療が終わると、慧音は喜色満面で勢い良く仗助に話しかけた。

「凄いじゃないか仗助君!!素晴らしい力だ!!」

また頭突きでもかますんじゃないかという距離まで慧音が近づいてきたので、仗助は若干距離を取った。

「その能力さえあれば一体どれだけの命が救えることか!ましてこの殺し合いという状況ならなおさらだ!」

慧音の勢いは止まらず矢継ぎ早に『クレイジー・ダイヤモンド』を賞賛する。
離れてみていたぬえも『クレイジー・ダイヤモンド』に興味が有るのか、チラチラと見ていた。
だが吉良は何かを考えているのか、ただ俯いていた。

仗助はそんな慧音を何とか落ち着かせ、『クレイジー・ダイヤモンド』について情報を補足した。

「慧音先生落ち着いて!確かに俺のスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』は色々治す事ができます。
でも死んだ人間を生きかえらせることも出来ないし、俺自身を治すことも出来ない。
それにおそらく荒木や太田のせいで能力を使うとなんか疲れやすくなってんスよ!」

仗助の言葉で慧音は少しだけ落ち着きを取り戻し、コホンと咳払いをして会話を続けた。

「すまない、少し興奮しすぎたようだ。しかしそれでも命を奪いあうこの狂った世界で、命を繋ぐ仗助君の能力は大きな意味を持つと思う。
……そこで話を戻して、これからどうするかだが、出来ることならこれから私達と共に行動してくれないだろうか?」

慧音がそういった瞬間、吉良がピクリと反応したが、慧音は気づかず話は続く。

「今私達がこうしている間にも、どこかで命が奪われているかもしれない。そして私はそんなことを許容することは出来ない。
しかし、敵は強大で私達だけの力では到底足りないだろう。だからこそ、志を同じくする者達で集まり、奪うものを挫き奪われるものを助けたいんだ。
悲しい歴史は紡がせたくない。
理想論だし綺麗事だということは理解している。だが己の命可愛さに誰かを傷つけ生き残ったところで、待っているのは孤独と破滅だ。
故にこの理想を貫ぬく事こそが、唯一の道だと私は信じている。頼めるだろうか……?」



慧音が言い終わるや否や、真っ先に答えたのは天子だった。

「あったりまえじゃない!私だってはなからそのつもりよ!こんな気に食わない催しなんてさっさとぶっ壊して異変解決、それが私の行動指針!
因みに仗助は私の下僕だから意見を聞くまでもないわ」

天子はそこまで言い切り腕を組んでふんぞり返る。

「ま、まあ俺からも一応言わせてもらいますが、勿論オッケーッスよ。この会場には俺だけじゃなく俺のダチや知り合いまでいます。
そいつらの命までヤバいって状況で俺だけ怯えて逃げ隠れるなんてのは男じゃねぇっスよ。
だから俺が守ります。守ってみせますよ」

仗助も覚悟を決めた表情で慧音の頼みに応じた。
その時、後ろで俯いていた吉良からバキッと音がした。
よく見ると爪から血が出ている。

「ああ、すまない……悪い癖で、落ち着かないと爪を噛んでしまうんだ。話の腰を折ってしまったね、続けてくれ……」

そう言うと吉良はまたうつむき、黙ってしまった。
慧音はそんな吉良を気遣ったが、大丈夫だというので話の続きに戻った。

「話の続きだが、こんな私の頼みに応じてくれてありがとう……二人が共に来てくれれば本当に心強いよ。
では話もまとまったし、早速行動しよう。急がなければ救える命も救えなくなるからな」

慧音は立ち上がり、歩き出す準備を始めた。

「ちょっと待ちなさいよ、どこか行くあてはあるの?それとリーダーは私!それがあんたたちと付き合う条件よ」

天子は慧音に確認をする。

「ふふっ、なら私は参謀ということで、忠臣として進言させて頂こう。とりあえずは他の参加者を見つけるために、
人が集まりそうな場所を目指しながら幅広く探索しようと思う。天子と仗助君を見つけられたのもそうしていたからだしな。
それでいいかな?ああ、それと天人様とか比那名居様だと呼びづらいから、天子と呼び捨てしてしまってもいいか?」

「なーんか偉そうで気に喰わないけど、まあいいわ、その案で行きましょう。それじゃ出発進行よ、者共付いてきなさい!」

そうしてその天子の声とともに、皆歩き始めた。



ここから冒頭の話へと続く。
こうしてここに集ったのは総勢五名、対主催の一団としては人数も多く、皆実力も申し分ない。
しかし、その結束は盤石さとは程遠い。
何故なら、このチームの中には、外からは見えない、水と油にも等しい決して交わることのない因縁と軋轢が秘められているからだ。

(まずい……東方仗助、私の正体に気づいているのか?どちらにせよ始末しなければならない……!
私の平穏な人生を妨げる可能性がある者は、誰であろうと始末する!
だが、他の奴らに気付かれず殺すにはどうすればいい!?考えろ吉良吉影!)

(さーてどうするっスかねぇ~救急車に轢かれておっ死んだはずのコイツが何故生きてるかは知らねぇが
今ここに生きて存在する以上、どうにかしなくちゃならねぇ……しかしいきなりコイツは殺人鬼だっ!て言ったところで誰も信じてくれねぇだろうしなあ……
でもどうにかしてコイツをぶっ飛ばさねぇと、慧音先生や天子さん、ぬえちゃんも危ねぇ、どうするよ東方仗助~!)

そう、町の守護者と殺人鬼、この二人はお互いの因縁に気づいていた。
この一部空気が張り詰めた奇妙な状況は、この二人の因縁によるものだった。
しかし、お互いに行動に出ることは出来ない。
出会ってはいけない二人が最悪のタイミングで居合わせてしまっていた。
一見して強固なこのチームは、その内側にいつ爆発するともしれない巨大な時限爆弾を抱えていたのだ。

だがそんなことなど知るはずもない残りの三人は、思い思いの感情で歩き続ける。
慧音はチームに仗助と天子が加わり、新たな希望に満ち溢れていたし、
天子は自分の思い通り仲間を手にし、異変の解決が現実味を帯びたことで興奮していた。
一方ぬえは未だに自分自身が取るべきスタンスを思案していたが、チームの補強と仗助の能力を目の当たりにしたことで、
このまま行けばなんとかなるのではないかと、思い始めていた。

藁の砦は、その危うさを増し、見てくれだけは立派になり突き進む。
その先に待つのは破滅か、それともあり得ぬはずの共存か、未だ分からない。
ただ薄暗い早朝の闇は、まるでその未来の不確かさを表しているかのようだった。



【E-1 平原/早朝】

【吉良吉影@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康、焦燥
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方 確認済み、少なくとも武器ではない)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助をどうにかして抹殺する。
2:面倒だが、一先ず彼女らと同行する。
3:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
4:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
5:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
6:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※幻想郷についてある程度知りましたが、さほど興味はないようです。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。

【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神不安定
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部、メス(スタンド能力で精製)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:今は慧音達と同行する。対主催もすこしは希望があるかもしれないと思い始める。
2:聖を守る為に他の参加者を殺す?皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
4:あの円盤で発現した能力(スタンド)については話さないでおく。
[備考]
※参戦時期は神霊廟で外の世界から二ッ岩マミゾウを呼び寄せてきた直後です。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※メスは支給品ではなくスタンドで生み出したものですが、慧音と吉良にはこれが支給品だと嘘をついています。
※スタンドについて理解。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。

【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:吉良、ぬえ、天子、仗助と共に行動する。
2:仲間を集め、脱出及び主催者を倒す為の手段を探す。弱者は保護する。
3:殺し合いに乗っている人物は止める。
4:出来れば早く妹紅と合流したい。
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※満月が出ている為ワーハクタク化しています。
※スタンドについて理解。
※能力の制限に関しては不明です。

【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:興奮
[装備]:木刀@現実(また拾って直した)、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:仲間たちとともに殺し合いをおじゃんにする。
2:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
3:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
4:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
5:仗助を下僕化、でも髪のことだけは絶対触れない。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※スタンドについて理解。



【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷、全身に軽い打撲
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:吉良をどうにかしてぶちのめす。
2:天子や慧音やぬえと協力し殺し合いを打破する。
3:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
4:天子さんの舎弟になったっス!。
[備考]
※参戦時期は4部終了直後です。
※幻想郷についての知識を得ました。

※5人がどこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。



○支給品説明

『龍魚の羽衣』
比那名居天子に支給。
竜宮の使いである永江衣玖の持ち物で、打撃や射撃を受け流す力がある。
羽衣で防げる範囲の攻撃には有効だが、それ以上の範囲の攻撃は真の使い手である永江衣玖でなければ防ぎ難いだろう。
ちなみにドリルにも出来ない。

『ハンドメガホン』
上白沢慧音に支給。
名前の通り声を拡大して伝える事ができる代物。
片手で持てる重さな上、電池式でショルダーベルトまで付いているので携帯するにも便利。
機能は単純だがバトルロワイヤルにおける危険性と有用性は無限大。

076:月の兎は眠らない 投下順 078:禁写「過去を写す携帯」
076:月の兎は眠らない 時系列順 078:禁写「過去を写す携帯」
013:藁の砦を築く者 上白沢慧音 081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた
013:藁の砦を築く者 封獣ぬえ 081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた
013:藁の砦を築く者 吉良吉影 081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた
055:世界を惑わす愚かなる髪型よ 東方仗助 081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた
055:世界を惑わす愚かなる髪型よ 比那名居天子 081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた

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最終更新:2014年11月05日 12:04