C-3南東魔法の森。
光も届かぬような木々の陰に、何か蠢くものがいた。
それは翼竜であった。保護色を用いて巧みに隠れ潜んでいる。
ディエゴ・ブランドーがスタンド能力で生み出し、情報収集のために放った僕たちである。
よほど目がいいか、勘がよくなければ、その存在に気づくことは難しいだろう。
恐竜集団のうちの一団が魔法の森を探索していた。
他の参加者を見つけ、その情報を本体に知らせるためである。
そしてそのうちの一匹が、匂いを嗅ぎつけ、ほかの恐竜に知らせた。
匂いを辿っていくと、遠くに一人の男が見えた。
バンダナをつけた金髪の青年である。
全身血まみれで、ふらつきながら歩いている。
もっと詳しく様子を知ろうと恐竜たちが歩み寄ろうとし…止まった。
恐竜たちは恐怖した。
やばい。こいつはやばすぎるッ!
あと一歩、ほんの一歩でも奴に近づいた瞬間、自分たちの首は仲良くお陀仏だ!
思考するより先に本能で、奴の恐ろしさを理解した!
奴の爆発するかのような殺気を、全身の皮膚で感じ取っていた!
太古の昔、地球を支配した種である自分たちなど、奴からすれば雑魚同然だ!
その恐怖が恐竜たちを奴へ近づけさせなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふん、鬱陶しい羽虫どもが。」
金髪の男がつぶやいた。
その男の名は波紋戦士、シーザー・A・ツェペリ…だった。
忌むべき敵を打ち倒せず、誇りと共に魂が砕けちっていた。
その死体に入り込み操るものこそ、シーザー最大の仇である
カーズであった。
影から覗きこむ存在に気づき、殺気を放ちけん制した。
どうやら、さきほど戦ったスタンド使いの男が操る恐竜が監視していたようだ。
恐竜を遠目にし、紅魔館での戦いを思い出しぐつぐつと煮えたぎったシチューよりも凄まじい怒りがカーズの胸のなかで燃えていた。
あの時、カーズはディエゴに勝っていたはずだった。
輝彩滑刀でディエゴの首をかっ切り、生意気なその面をゆっくりおがめられたはずだった。
「『世界“ザ・ワールド”』」
あの男の介入さえなければ。
存在に気づいた時には遅く、吹き飛ばされて紅魔館の外へ投げ出された。
拠点も奪われ、さらにシーザーとの戦いも強いられることになり余計な手傷をも負ってしまった。
JOJOからさえも味わったことのない屈辱的逃走体験を思い出すと、カーズの怒りにさらに油を注いだ。
「全くもって忌々しいッ!忌々しいが…」
カーズは考える。
先ほど自分を殴り飛ばした男、そいつはきっとスタンド使いだ。
スタンドについて自分はパチュリーと夢美の会話、恐竜のスタンド使いとの戦い。
まだスタンドという存在に数歩踏み入れただけに過ぎない。
加えて奴の能力の一端もつかめていない。
怒りを抑え、体制を整える方が先決だ。
「それにもうすぐ放送が始まる…奴を始末する算段はそれからだな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―――話しが長くなったようだが、これで
第一回放送を終了する。
次の放送は昼の12時だ。それまで諸君の健闘を祈る。」
カーズは放送を聞き終えて思案する。
(ふぅむ、
エシディシ、
ワムウは無事か。まあ、奴らの実力を考慮すれば当然のことだがな。
それに、奴―
サンタナとか人間どもに呼ばれていたか―も生きていたか。
スピードワゴンの名も呼ばれていたが奴は老人。寧ろ呼ばれていないほうがおかしいくらいだ。)
同族の無事を知り、当然という気持ちで笑みを浮べる。
同時に早期のエシディシやワムウ(サンタナもいるが)との合流を計画する。
(それに荒木の言うことでは一つ興味深いことがあったからな。)
地下の存在。その言葉がカーズの関心を引いた。
究極生物と言えども、カーズたちは太陽の光を弱点とする。
太陽の出ている日中はどこか拠点に立てこもるしかないと思っていたが、本当に地下があるのならとれる道も増えるものだ。
加えてエシディシやワムウも、この放送を聞き地下に潜っている可能性が高い。
地下を見つければ合流できる確率も上がるものだ。
(荒木はヒントを見た者なら分かるかもしれないがと言っていたな。
地下を見つけるためのヒントが会場のどこかに隠されているということか。
もしくは支給品などで渡されているという可能性もあるか?
なんにせよ、地下の入り口の発見は必須だがな)
地下と仲間との合流を考えながら、カーズはもう一つ重要なことを思い浮かべていた。
つまり金色の像のスタンド使いについてである。
あの男は実に不本意だが自分を一時撤退させる程度の力を持っている。
荒木と太田を打倒する道中、奴の存在は大きな障害になりうる。
奴の能力の正体は暴かなくてはならない。
(あの男…おれが恐竜のスタンド使いとの戦いに集中していたとはいえ、近距離まで近づくことが出来るか?
いや、このカーズはそんな間抜けな思考などしていない!あそこまで近づくまでに奴の存在には気づいているはず…
つまり!つまりだ!おれに気づかれずに近づけたことに奴のスタンドのからくりが存在している!)
カーズはスタンドの一端に気づき、さらに思考を進める。
スタンドの知識を得て先ほど初めて闘ったというスタンド戦の入門したてであるが、カーズは柔軟に考える。
知らないものからすれば、スタンドなんて代物は常識はずれに感じ対応するだけで精いっぱいだが、カーズは普通とは違う。
彼の一族のものたちは光に弱いという弱点を【当たり前】のものとして受け取っていたが、
カーズはその【当たり前】を破壊しようとした。石仮面を使って!
カーズにとって常識を超えるなど、太陽が東から昇って西に沈むということぐらい当然なのだ!
(奴は突如として身を現した。気づかれずに近づいたということは、奴はワムウのようなステルス能力の持ち主ということか?
いや、奴が現れる前には物音も体温も感じなかった。もっとそれ以上の能力…このカーズが想像だにしていなかった力を持っているということか?)
自分に気づかれず近づける能力をカーズは考えた。
スタンドは生物にはできもしない力を持ち得る。
カーズはそのことを念頭に入れ、発想のスケールをさらに広げた。
例えば瞬間移動。
例えば異次元からの移動。
例えば思考へのジャグミング。
例えば…時間停止。
いくつか可能性を考えて一旦思考を切り上げた。
(まだ奴の力はさわりしか見ていない。
情報が足りん段階でどれか一つの仮説に固持すれば逆に追い詰められるだけだ。
何かしら正体を暴くための情報収集手段を講じる必要があるな。
それに…スタンドへの対抗策を考える必要もあるか。)
カーズはサンモリッツホテルでのパチュリーと夢美の会話を思い出す。
奴らの会話から得た情報によると、スタンドはこちらから触れず、しかしスタンドから触る分には問題ない。
そのことを考え、カーズは自身の不利を悟った。
あらゆるものを切断する輝彩滑刀も、人間を容易くミンチにできるほどの蹴りも、1分間に600発の弾丸を放てる機関銃も、
スタンドを盾にすれば決して通ることはないのだ。
そのディスアドバンテージはカーズを歯噛みさせた。
金色のスタンド使いは荒木たちのもとにたどり着くまでに必ず排除せねばならない存在だ。
しかし、スタンド相手には自身の力は通じない。
(恐竜のスタンド使いは例外の様だが)
再戦するにせよ、その溝を埋めねば大きな痛手を負うことになるだろう。
(恐らくスタンドを攻撃できるのはスタンドのみ…
ならばスタンドを得る必要があるな。
スタンドDISCを入れればスタンドを手にすることは確認済みだ。
そしてスタンドDISCの持ち主で知っているものと言えば…)
盗み聞きした情報によると、能力は鉱物への変身。
手にすれば、宇宙服のようなスーツを作り紫外線を遮断することも可能かもしれぬ。
「しかし、奴らの考察にはまだ利用価値がある。いま彼奴らを襲撃すればその旨みも失われるか…」
パチュリーと夢美にはカーズのない知識による考察が期待できる。
スタンドDISCを得る代わりに敵対関係になれば差し引きゼロ…いやむしろマイナスか。
「スタンドを得るだけならば、他にもスタンドDISCを持つ者もいるだろうな。今あの二人から奪うことに固執することもあるまい。」
カーズはそう結論付け、歩みを進めた。
潜んでいるシーザーの肉体の摩耗も激しい。
早く近くの施設に身を寄せ太陽光から逃れる必要がある。
頭の中で地図を広げ、近くの施設がどこで会ったかを考える。
「ここから近いのはD-3の廃洋館だったな」
目的地を定め、カーズの思考にゆとりができたせいか、一つのアイディアが新たに生まれた。
あの金色のスタンド使いの情報を得る方法だ。
「そうだ、あの男にだれかほかの参加者をぶつけて観察するのだ。科学者が試薬を効果を試すときに用いる使い捨てのリトマス紙のようにな」
あの時は自分が対峙したためどうなっているのか理解できなかった。
ならば話は単純だ。誰かと戦わせてその結果を影から見ればいい。
その誰かがいくら傷つこうがどうでもいい。
くたばれば余分な参加者が減って結構だ。
相打ちになればもうけものだ。
何もできずに殺されようがデータぐらいは得られるか。
傍から見れば卑怯な手だと揶揄されるかもしれぬ。
しかしカーズにとってそんな評価なぞ、道端でくたばっている浮浪者の死因を考えるよりもどうでもいい。
最終的に勝てばいいだけなのだから。
【C-3 南東魔法の森/朝】
【カーズ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:怒り、疲労(中)、体力消耗(大)、右腕欠損、胴体・両足に波紋傷複数(中)、全身打撲(大)、シーザーの死体に侵入
[装備]:シーザーの死体(心臓欠損、胴体に大きな裂傷二つ、出血中)、狙撃銃の予備弾薬(5発)
[道具]:基本支給品×3
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。最終的に荒木と太田を始末。
1:廃洋館に移動。体勢を立て直す。
2:どんな手を使ってでも勝ち残る。
3:地下への入り口を探す
4:金色のスタンド使い(DIO)は自分が手を下すにせよ他人を差し向けるにせよ、必ず始末する。
5:上記のためにも情報を得る。他の参加者と戦わせてデータを得ようか。
6:スタンドDISCを手に入れる。パチュリーと夢美から奪うのは『今は』止した方がいいか。
7:この空間及び主催者に関しての情報を集める。そのために、夢美とパチュリーはしばらく泳がせておく。
時期が来たら、パチュリーの持っているであろうメモを『回収』する。
[備考]
※参戦時期はワムウが風になった直後です。
※
ナズーリンと
タルカスのデイパックはカーズに回収されました。
※死んだ筈のシーザーを目の当たりにした為、ワムウとエシディシの生存を確信しています。
※シーザーの死体の体内に侵入し肉体を乗っ取っています。
日中でも行動出来ますが損傷と失血が激しく、長時間の使用は不可能でしょう。
※ディエゴの恐竜の監視に気づきました
最終更新:2016年06月21日 02:00