和邇の橋

どんよりと曇った空から雪がしんしんと降り積もる。昼だというのに、日差しはどこにもなく、ただ淡々と景色を白に染め上げていく。
それはまるで世界から希望を取り払うかのように、退廃的で、無情で、冷たい光景の表れだ。そしてそれはまさしく殺し合いの会場に相応しい。
だけど、そんな陰鬱な場所で、一人の男が何とも軽い調子で、自らの境遇を茶化していった。

「うっおおー、さっみぃぃー!! 何で支給品にコートが入ってねえんだよ!! これじゃあ戦うどころじゃねえだろ、太田ちゃんよぉ!!」

ジョセフ・ジョースターである。彼は薄っすらと積もった雪の上で寒さを紛らわすように地団駄を踏む。
雪が降る寒空の下に立っているのに、その姿は馬鹿丸出しのタンクトップだというのだから、さもありなん。
身体を動かしていないと、彼の体温はどんどん下がっていく一方だ。

「うるさいなぁ。私はウサギだよ。寒さに弱い生き物だよ。それなのにこうして頑張っているんだからさ、少しは見習って欲しいね」

てゐは自らの震える身体を抱きしめながら、ジョセフに向かってつっけんどんに口を開いた。
寒いのはもう知っているのに、わざわざそれを口で知らせてくるジョセフが鬱陶しくて仕方がない。
てゐも苛立ちをぶつけるように、雪を勢いよく踏みつけた。と、その瞬間、彼女の身体はジョセフによって持ち上げられた。

「ちょっと!? な、何をするのさ、いきなり!?」

てゐの疑問に、ジョセフは鼻をすすりながら暢気に答える。

「いや、ウサギの毛皮って温かいんだよな?」

ドンと衝突音が響いたかと思うと、ジョセフは後方へと吹っ飛んでいった。
身の危険を感じたてゐが、ジョセフの顔面に向けて弾幕を放ったのである。
とはいえ、それでジョセフを仕留めるには至らなかったらしく、彼は鼻血を振りまきながら、すぐに立ち上がってきた。

「痛ってえ!! ちょっとした冗談だろ、てゐ!!」

「私の毛皮をむしるっていうのは冗談にならないからね!!」

てゐの妙な返答に、ジョセフは怒ることも忘れて疑問符を浮かべた。西洋人には、どうやらピンと来ない話のようだ。
しかし、その謂れを一々説明してやるのは、いかにも面倒くさい。なので、てゐは代わって当面の目的を訊ねてみることにした。

「それで、どこへ行くのか決めた?」

急な話題変換にジョセフは一瞬ほど目を丸くするが、まぁいいか、と彼もその話に乗っかる。

「その前に、てゐのお勧めはあったりするのか?」

「まぁ、一応あるね」

「お、どこだよ?」

「霊夢と魔理沙のところかな」

「理由は?」

「ん、あの二人は幻想郷では結構な有名人でね。異変を色々と解決したりしてるんだ。
それにあいつらなら殺し合いにも反対の立場だろうし、安心して会うことができる。
一緒にいる空条の二人が何者かは知らないけれど、霊夢たちが揃って負けるとは思わないし、
他の参加者たちよりかは、やっぱり狙い目かな」

「なるほど、強いのね、そいつらは。ま、確かに仲間を集めるのも、重要だよなあ」

ムッ、とてゐは仏頂面を浮かべた。何だか今のジョセフの言い方には、こちらを馬鹿にするようなトーンが感じられたのだ。
頭に来た彼女はぺっ、と唾を吐き捨てると、早速ジョセフに食って掛かった。

「随分と含んだ言い方をするね、ジョジョ。何? 何か文句でもあるの?」

「文句っつうか、てゐは頭の中の爆弾をどうにかする手段とか思いついたか? 
あるいは、どうにかできそうな人物に心当たりがあるとか、そういうのないわけ?」

「正直、そこらへんは、お師匠様任せだね。私がどう頭を捻ったところで妙案が飛び出るってわけでもないしね。
そういうジョジョは、どうなのさ? 何か心当たりでもあるの?」

そこでジョセフは腕を組み、頭を伏せた。その様子は何かを言いあぐねているようでもある。
てゐはその腹の中にあるものを吐き出させてやろうと軽くジョセフにボティブローを加えながら、
何も心配はいらないと揚々と声を掛けた。

「そういうのはいいから、さっさと言っちゃいなよ。そうじゃないと、話が前に進まないでしょ」

カーズのところに行こうかなって考えていたのよね」

ジョセフはすまし顔で、きっぱりと言い切ってみせた。その内容に、てゐの身体は思わず固まってしまう。
カーズという名前は、確か危険人物として、以前にジョセフの口から出てきたはずのものだ。
それが何故この段になって会いに行こうという話になるのだろうか。

「何!? 意味が分からない!! ジョジョはこれから一緒に死にに行こうって話をしているわけ!?
私はそんな目的で、あんたを選んだわけじゃないよ!! そこんとこ分かっているの!? ねえ!?」

てゐはジョセフの胸倉を掴みながら、一生懸命になって彼の顔面に唾を飛ばしていった。
その勢いと汚さにジョセフは「うおお!!」と悲鳴を上げ、堪らずてゐとの距離をあける。
そしてたっぷりの時間を取って、てゐが十二分に落ち着いたの確認してから、ジョセフはようやっと先の答えの説明を開始した。

「いや、おれの知っている奴で、頭の中の爆弾を解除できそうなのって、あいつしかいないのよね」

「いやいや、だからって危険な奴にそれを頼るのってどうよ。賭けにもならないでしょ、それは」

人伝でしかない情報だが、カーズが人徳やら友愛やらを大切にしている面など、てゐには一切感じられなかった。
そしてそんな無慈悲な輩に自分たちの命を預けてみようなどというのは、最早気狂いの発想である。
幸運を頼りにするにしても限度があるというものだ。てゐは何の遠慮もなく、ジョセフに侮蔑と嘲笑の視線を送った。
しかし、そんなジョセフはというと、馬鹿な発言をした自らを恥じ入るわけでもなく、冷静に言葉を選んで、淡々と先の話を続けていく。

「実を言うと、さっきの願いはこれにしようかと思っっていたのよ。カーズと連絡を取ってくれってな。
ま、その直前になって、もう少し賭けに出てもいいかなって思ってやめたけど」

「わざわざ願いごとで、それを言おうと思ったってことはさ、何か勝算があったってわけ? そのカーズを説得するための勝算がさ~?」

「カーズをはじめとした柱の男たちの最終目的は、この殺し合いで優勝することじゃなくて、エイジャの赤石を手に入れて究極生物になることだ。
そして素直に荒木と太田の言いなりになるほど、あいつらのプライドは低くはない。そこらへんを上手く突っついてやれば、
仲間になるのは無理でも、共同戦線を張ることはできるんじゃねえかと思ったわけよ。
それにエシディシワムウが生きているっつうなら、このおれを殺してやりたいほどの恨み辛みがあるわけでもねえだろうしな」

「ふ~~ん。で、そのカーズって、お師匠様並に頭が良いの? 危ない橋を渡る価値はあるの?
いざ、会ってみて、爆弾はどうにもできませんでしたーだったら、本当に時間の無駄になるよ?」

「……あいつは石仮面を作った奴なんだよ」

「何それ?」

「人間を吸血鬼にする仮面」

静寂が支配した。あまりに突拍子もない答えに、てゐは言葉を見失ってしまったのである。
しかし、一度理解が追いつくと、てゐの口からは恐怖と驚愕が絶叫となって飛び出していった。
当たり前だ。吸血鬼といえば、てゐに思いつくのはレミリア・スカーレットである。
強者ひしめく幻想郷で尚、揺るがぬ地位を築ける実力者――吸血鬼。

そんなのを簡単に生み出せる仮面を作れるとあっては、その知能への感心を通り越して、最早畏怖が支配する。
何と言っても、そのカーズとやらは、吸血鬼を量産できるようなものを平気で作って、今も尚、生きているのである。
まさか吸血鬼生産の傍ら、強者たる彼らが群れとなって襲ってくることを想像していなかったということはないのだろう。
それはつまり、多数の吸血鬼と対峙しても問題ない戦闘力をカーズが保持していることに繋がるのだ。

「……私、会いに行くの嫌なんだけど」

てゐは顔面を蒼白にして、たどたどしく告げた。ジョセフも「おれだって、嫌だぜえ」と一応をそれに頷きはするが、
保険の意味合いも兼ねて、爆弾解除の手段を色々と講じなければならない必要性を何度も重ねて説く。
爆弾をどうにかしない限り、結局のところ、迫る死を免れることはできないのだから、と。
そうして二人が行く、行かないを、やんやと言い合っていると、いつの間にか彼らは目的地に到着していた。

「あ~、気が重いよ~」

てゐは項垂れながら、文句を言う。そんな彼女の背中を叩きながら、ジョセフは朗らかに口を開いた。

「さ、カーズとご対面~!!」

「いや、そういう冗談はいいから!!」

「分かった、分かった。んじゃ、さっさと目的を済まして、次に行こうぜ」

ジョセフはガコンと真実の口の奥にあるレバーを引っ張った。
出発前に地図を見ていたてゐが「コロッセオの近くには誰もいないなあ」と何気なく呟いたところを、ジョセフが聞きつけたというわけだ。
そしてこの世界の真実の口の奥に何があるかに興味を引かれたジョセフは、てゐを連れたって早速コロッセオにやってきた。

ゴゴゴ、とコロッセオを揺らすような音が立てられ、真実の口がある石の彫刻は横にずれていく。
現れた入り口に二人が顔を突っ込んで中を見渡してみると、コンクリートで舗装された幅広な道が、なだらかな傾斜で下へと続いていた。
人がよく通るのか、天井にはライトがついており、このまま入っていっても問題はなさそうである。

「なんつうか、綺麗な分、却って不気味だよな」

カツンカツン、と小気味よく靴の音を響かせながら、前を行くジョセフは冷や汗と共に独りごちた。
そんなジョセフに相槌を打つ代わりに、てゐはぴょんと彼の背中に飛びつき、肩に乗っかかる。
てゐも、おそらくジョセフと同じ気持ちを抱いたのであろう。人気がない場所なのに、妙に人の存在を感じさせるコロッセオの地下道。
空気は前へ進むごとに、重く、暗く、冷たくなっていく。この先に荒木たちが待ち構えていても不思議ではない。
そんな威圧感すら感じ取れた矢先、二人はゴールへと辿り着いた。

そこは一辺が十メートルほどの四角形の部屋で、何の飾り気もなく、ガレージといった雰囲気を醸し出している。
そしてその中央には、荒木と太田ではなく、モスグリーンのバギーカーが静かに鎮座していた。
車のサイズは大きく、バギーカーのくせして、結構な人数が乗れそうだ。
こういったプレゼントが置いてあるのは、ジョセフたちにとって嬉しい限りだが、素直に喜ぶのはやっぱり癪である。
だからジョセフは「ケッ」などと悪態をつきながら、面倒くさそうに車に乗り込んだ。

「お、服があったよ」

ジョセフが運転席に座って車のキーを探していると、後ろからてゐの声が届いた。
どうやら彼女は、車のトランクから色々な物資を見つけたらしい。
手もみしながら暖を取っていたジョセフは喜色満面で後ろに振り返る。

「マジか!? さっさとこっちに寄こしやがれ、てゐ!!」

「まあ、服っていっても、マントみたいなもんだけどね」

てゐが手渡してきたものは、確かに薄手の羽織りものだった。
見たところ、砂漠の日よけに人が身に纏うようなものだ。これでは寒さを十分にしのげない。
しかし、それでも真冬のような気温の中、タンクトップ一つで過ごすよりかは全然マシだろう。
ジョセフは更にもう何枚かマント受け取ると、それを身体中にぐるぐると巻いた。

「で、そっちは何か発見があった?」

ジョセフと同様にマントを巻いたてゐが助手席に移動しながら、訊ねてきた。
ジョセフは「まあな」と答えて、見つけたキーを車に差し込み、エンジンをかける。
そしてキーと一緒にあった一枚の紙切れを指で弾いて、てゐの膝元へ飛ばした。

「何これ?」てゐは胡散臭そうに、それを拾い上げた。

「そこに書いてあるのを読んでみな」

「この車は禁止エリアを走ることができます」

「そういうことらしいぜ」

「何かすごく曖昧な表現だなぁ。色々と解釈できるんだけど」

「まあな。でも、それを今ここで論じていてもしょうがねえし、それについてはまた後にしようぜ」

「了解。それで行き先だけど、やっぱりカーズのところなわけ?」

てゐは顔一杯に嫌悪の情を浮かべて、自らの意思を告げた。
ジョセフはその様子に口元を綻ばせ、安心しろよ、とこんなことを言ってくる。

「いや、その前に霊夢ってやつのとこに行こうと思う」

「おや、意外。その心変わりの理由は何?」

「カーズの所に柱の男たち全員が揃っている。そこは言わば、鋼の要塞だ。ちっとやそっとじゃ門戸を開けてくれないだろう。
だから、まずはそれを開かせるための戦力を整えようと思う。つまり、数だ!! こっちに結構な人数がいる知ったなら、
カーズの方も力押しの出方を控えてくれるだろうし、そこに会話をできる余地が無事に生まれるだろうって寸法よ。
二人だけで行ったら、イーブンな状態で、あいつが話に臨んでくれるとは思えねえしな」

「ふ~ん。まぁ、霊夢や魔理沙が一緒なら、私もカーズって奴のところに行ってもいいかな」

「あとは空条って奴らもいるな。何となくだけど、そいつらは頼りになりそうな気がするんだよなあ」

「皆が、仲間になってくれるといいね」

「おう! それじゃあ、出発するとしますか!」

ジョセフは掛け声を上げると、自らの意気込みを表すかのようにアクセルを思いっきり踏み込んだ。


【E-4 コロッセオ/午後】

【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:精神消耗(小)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、てゐの幸運
[装備]:アリスの魔法人形×3、金属バット、焼夷手榴弾×1、マント
[道具]:基本支給品×3(ジョセフ、橙、シュトロハイム)、毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフ(人形に装備)、小麦粉、香霖堂の銭×12、スタンドDISC「サバイバー」、賽子×3、青チケット
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:霊夢たちのいる命蓮寺に行く。
2:カーズから爆弾解除の手段を探る。
3:こいしもチルノも救えなかった・・・・・・俺に出来るのは、DIOとプッチもブッ飛ばすしかねぇッ!
4:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ!
[備考]
※参戦時期はカーズを溶岩に突っ込んだ所です。
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
因幡てゐから最大限の祝福を受けました。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。


【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:黄金の精神、精神消耗(小)
[装備]:閃光手榴弾×1、焼夷手榴弾×1、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」、マント
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品×2(てゐ、霖之助)、コンビニで手に入る物品少量、マジックペン、トランプセット、赤チケット
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:霊夢たちのいる命蓮寺に行く。
2:柱の男は素直にジョジョに任せよう、私には無理だ。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船終了以降です(バイクの件はあくまで噂)
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※蓬莱の薬には永琳がつけた目盛りがあります。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました


<支給品>
バギーカー@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース
ジョースター一行がエジプトに着いた際に砂漠を渡るために用意した車。
軽量で、悪路の走破性抜群の全地形対応車である。また後部に水、食料、簡単な着替えが入っている。
そして主催者曰く、禁止エリアを走ることができる。



180:Quiets Quartet Quest 投下順 182:泣いて永琳を斬れ
187:災はばらまかれた 時系列順 182:泣いて永琳を斬れ
179:あやかしウサギは何見て跳ねる ジョセフ・ジョースター 186:Ёngagemənt
179:あやかしウサギは何見て跳ねる 因幡てゐ 186:Ёngagemənt

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最終更新:2018年08月03日 23:29