Golden Weather Rhapsody

「ハアァァァァッ!!!」


気を高めて、美鈴は腕を横に薙ぐ。
空を裂く美鈴の腕から、クナイのような虹色の弾幕が無数に発射される。
狙うは目の前にいる殺人者、ウェス・ブルーマリン。
しかし、ただ黙って弾幕を喰らうわけにはいかない。先ほどと同じく、スタンドの両腕で弾幕は防がれる。
ある個所の弾は右へ、またある個所の弾は左へと払われた。

だが、それは美鈴の誘導だった。
弾幕はただの目くらまし。ウェスは美鈴の接近を許してしまい、何時の間にか目の前に美鈴がいる。
それでも、あの距離を一瞬で詰められるのも、美鈴が妖怪であるからこそ。
素早く間合いを詰め、そのスピードを乗せた掌底が、ウェスの腹部めがけて叩きこまれる。
寸でのところで、ウェスはウェザー・リポートの能力で生み出された気流により
美鈴の腕を逸らせながら間一髪避けた。
だが、勢いをそのまま乗せられる掌底は、気流の上からでもウェスの腹付近の服に切り込みを入れた。

「くっ!」
(まずい。構えからして只者じゃないだろうと思っていたが、これは予想以上かもしれない……)
ウェスは後退する。
今のは避けれたとはいえ、理解できたのだ。
彼女の一撃が人間である自分に突き刺さればどうなるかを。



(何としても、コイツに一撃を与えて大人しくしないと)

美鈴の作戦はただ一つ、「接近戦で直接ウェスを叩く」事。
シンプルすぎるが、これが今美鈴の出来るベストだった。
その発想に至った理由は二つある。


一つは美鈴自身が接近戦が得意だという事。
彼女は幻想郷で定番の弾幕ごっこではそれほどの強者ではない。
その分野では同じ紅魔館に勤めるメイド長、
あるいはいつも異変を解決する白黒魔法使いや博麗の巫女の方が何枚も上手だ。
だが、武術に関しては彼女が門番がてら行う武術家との勝負では負けなしの達人だ。
人間相手には、妖怪の体力、身体能力も相まって強力なアドバンテージがある。

もう一つには、あの男の傍らに立つ人形―――スタンドにある。
先ほど、少女を守るために放たれた弾幕を、あの人形は全て防ぎ切った。
それだけならまだしも、人形には小さな損傷一つ見受けられない。
雲のようにも見えるアレには、攻撃は通じないのかもしれない。
ならば遠くから弾幕を無駄撃ちして霊力を消耗するより、最小限の気で接近戦により男を直接叩くべきだと判断したのだ。


彼女は知らぬ事だろうが、その判断で概ね間違いないだろう。
「スタンドはスタンドでしか傷つけられない」
―――この絶対法則により、スタンドはそれ以外の攻撃に対して無敵の盾となってしまう。
更にウェザーは、空気の壁によりある程度の飛び道具ならば完全に防いでしまうこともできる。
この男に、弾幕で挑むのは愚策と言えるのだ。
ある意味、美鈴は幸運だろう。



美鈴の攻撃を避ける事を選んだウェス。
だが、彼とてこのまま防御に徹するつもりは毛頭ない。
ウェスには皆殺しにする覚悟と、それを可能にする能力がある。

「ウェザー・リポート」―――天候を操るという、幻想郷では守矢の神が持ちうる力。
ウェスの意思に呼応し、周囲の水分が超小型の雲を形成する。
雲からは、ゴロゴロやバチバチという嫌な音が鳴り響く。

「『ウェザー・リポート』ッ!!」
明確な殺意が形となって、美鈴に襲い掛かる。周囲の天候は『雷』。
美鈴は腕に気を込め、ある稲光は軌道を見極めて避け、またある電光を防ぐ。
『雷』は『神鳴り』……妖怪とてまともに喰らえばただじゃ済まない。
これでは、美鈴のジリ貧は必至だった。

(あぁもう、もう少し気を温存するつもりだったけど仕方がない!)
決めるや否や稲光の隙を伺いながら、美鈴は気を練り上げる。
その腕は円弧を描き、自身とその周囲の気を循環させていく。
気は動きに合わせ収束していき、その輝きが増していくのがウェスにも見て取れた。
最大まで収束した時、気の塊がウェスに襲い掛かる!

『芳波』―――円弧の動きで気を循環させ前方への収束させて放つ気功波。
放たれた気は作り上げた暗雲を蹴散らし、ウェスへと迫っていた。
「こんなものッ!」
だが、ウェスの防御の方が速かった。
咄嗟にスタンドを前方に展開、クロスさせた腕で気功波を防ぎきる。

          瞬間、ウェスの体がバランスを崩した。



「グオッ!?」
突然の重心変化にウェスに驚愕した。
美鈴はウェスに気功波を防がれるのも予測していた。
何としてもウェスに一撃を与える。そのためにはスタンドを一瞬でも封じなければならない。
美鈴は土壇場で、腕だけでなく脚にも練り上げた気を蓄積させていた。
そこからの踏込で放たれる地面への衝撃。
「黄震脚」―――地の色は黄色。
自身と大地の気の呼応により放たれる衝撃波は、離れた相手も構えを崩す。

ウェスは倒れそうになる自身を、空気のクッションを生成して受け止める。
立ち上がろうとするウェスに、美鈴が高速接近してきた。
今度はスタンドの防御も間に合わない。
人間であるウェスの身体に、妖怪である美鈴の一撃が、鉄山靠がヒットした。

「グブッ!!」
美鈴の攻撃の勢いそのままに、ウェスは石壁へ叩きつけられた。
対して鍛えていない人間と、鍛練を積み重ねた妖怪。その肉体強度差は明白だ。
殺意のない、大人しくさせるための攻撃とは言え、その威力は大きい。
肋骨、内臓へ相当の損傷、さらには背中への打撲を受けた事を彼自身察した。
それでも、彼は壁に背を持たれながら立ち上がった。

「まだやるつもり?」
美鈴は構えを解かぬままウェスに問いかける。
尤も、彼の答えなんて最初から分かり切っていた。
「……当たり前だ」
彼は倒れない。ペルラを取り戻すと誓ったから。
そのためにこの手を血に染めようと決意したから。
何より……仕掛けておいた布石はまだ健在だから。

美鈴は気づかない。自身の最大の弱点―――「妖怪である」という点を突かれることを。
不自然にも「風が東から吹き続けている」事を。



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「これはなかなか、楽しめる戦いになっているわね」

ウェスと美鈴から少し離れた建物の屋根。
河童の光学迷彩スーツによって気づかれていない青娥は、二人の戦闘を鑑賞していた。
どちらも最初の見立て通り、彼女を楽しませてくれた。

幻想郷の中では、その実力はお世辞にも上位とは言えない紅美鈴
だが、それは幻想少女の間で流行しているのが弾幕ごっこだからだ。
彼女の技術は、いつもの華やかなごっこ遊びではなく、このように生死の狭間にある真剣勝負で光るのだ。
瞬時に気を練り上げ巧みに操るその技巧は称賛に値する。

対するウェスも、期待以上の存在だったと言えよう。
守矢の特権かと思われた天候操作を、詠唱もなしに成し遂げるその能力。
時に意識的に、時に無意識に雲を、風を、雷を操るそのさまはまさに風神雷神のごとく。
同じ人間でも、かの風祝を凌ぐかもしれないと彼女は見立てていた。


(んッ?)
そうして二人の実力に関心していた時に、彼女はあることに気が付いた。
先ほどから弱いながら、風が東から吹いている。
そう言えば、地図によれば東にあるのは……

(あの殿方の方が一枚上手だった、という所かしらね)
内心彼女は少し物寂しげだった。もうじきこの戦いは終わるだろうから……



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「諦める様子なし、か……」
なんて精神力してるんだ。美鈴は目の前にいる男をそう評価する他なかった。
確かにさっきの攻撃は命までとるつもりはなかった。
それでも人間が内臓傷つけられれば、普通は立っている事だって出来やしない。
それでも向かってくるならと、美鈴は再び気を練り上げる。
こうなればもう一度攻撃して、再起不能にするしかない。
今度こそ終わらせる。そう意気込んで美鈴は一歩踏み込み


―――踏み込んだ脚がぐらりと崩れ、美鈴はそのまま倒れこんだ。


(あっあれ? えっなんで!?)
なんとか腕をついているが、体がいう事を聞かない。
猛烈な眩暈と頭痛がする。これはまさか……
(中毒症状!? でもなんで? こいつが毒を使ってた様子はなかったはず……)
その時、美鈴は弱い風が吹いていることに気づいた。それも、先ほどから東風ばかりである。


そういえば、と美鈴はある事を思い出した。
かつて花が季節問わず咲き乱れる異変があった。
その際、紅魔館のメイド長は巫女らとともに異変解決に赴いたという。
そこで出会った妖怪の中に、人形の付喪神がいたそうだ。
その名をメディスン・メランコリー。確か生まれた場所の名は……

(『無名の丘』ッ! しまった、コイツに嵌められたんだッ!!)
『孫子』にもある通り、戦ではその地形を利用することも計略の一つである。
なんということはない。単純な話、ウェスは地形を利用した。
ポンペイ遺跡の隣にある無名の丘、そこに咲く鈴蘭の毒を利用したのだ。



鈴蘭の毒は精神に深く作用する。
肉体が主体である人間や妖獣は大した症状は出ないが(てゐは例外だった)、
精神が主体である妖怪などには様々な中毒症状を引き起こす。
更に、美鈴はウェスを攻撃する際に多くの気を体中に巡らせた。
その過程で『毒気』も通常より速く多く巡る結果となってしまったのだ。

また、ウェスが起こした風は真っ直ぐに吹いていただけではない。
この東西に大通りの伸びるポンペイの遺跡の中でその風は、
時に留まり、時に滞りながら空気中の鈴蘭毒の濃度を高めながら運んでいた。

ウェスが鈴蘭毒の存在を知ったのは、小傘に出会う前に行った気流探知による偶然だった。
能力操作は遠くへ行くほど大雑把になる。それでも構わない。ただ近くまで運べばいいのだから。
あとは細かい操作は近くに来てからすればいいだけだった。
そして、彼自身は気流操作により毒が届かないようにされている。


かの李氏八極拳の創始者たる拳法家、李書文には試合に負けた武術家の遺族に毒殺されたという説がある。
拳法家に接近戦を挑むバカはいない。
どこかの誰かが、「本気で殺したいなら毒を盛る」と言ったように、毒を持って殺せばいいだけだ。



「……。」
ウェスは立ち上がれない美鈴を見下ろしている。
彼女の顔色は見るからに悪かった。
もはや、先ほどのような俊敏な動作も、力強い気の攻撃も出来ないだろう。
傍らに、自らのスタンドを具現化させる。

ウェザー・リポートの風圧による打撃ならば、簡単に人体を貫ける。
人間よりも頑丈である妖怪の体だが、おそらく何とかなるはずだ。
スタンドの拳を握りしめ、思い切り振りかざす。
人型の暴風が、美鈴の頭を破壊せんと振り下ろされた。

その拳は、途中で止められた。何故か?
突如として飛んできた銀色の物体を払い落とすために、止めざるを得なかったのだ。
だが、ウェスはそれを見て驚愕した。自身が払ったもの。


―――それは一尾の「トビウオ」ッ!


「!?」

海のない場所にいるはずのない生物の飛来。
スタンドの一撃を受けた魚は、体も砕け息も絶え絶えだった。
が、驚くべきことに、トビウオの身体が少しずつ石くれと化していく。
いや違う。石に「戻っている」のだ! これは何らかの方法でトビウオに変えられた石だったのだ。

と、ウェスは何かの気配を感じ取った。
トビウオが飛んできたであろう方向から受けるこの感覚。
星形の痣を通じ、神父や徐倫のような同じ痣を持つものの「シグナル」だ。
ウェスはその方向に顔を向ける。



そこにいたのは、特徴的なコロネのような金髪の少年だった。



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―――時間は少し遡る。

B-2の一角、ポンペイ遺跡の入口付近に、二人の少年少女がいた。
一人は赤く軽いくせ毛の少女。もう一人は、金髪がまるで3つのコロネのようになっている少年。
少女の名はトリッシュ・ウナ。少年の名はジョルノ・ジョバァーナ

見た通り歳は15と若いが、その瞳に宿る輝きは並の大人も持てぬほど力強い。
なぜなら、彼らはこの場所に呼び出される前から、自らの命を賭けた戦いに巻き込まれていたからだ。
イタリアのマフィア『パッショーネ』の中で行動し、様々なスタンド使いとの戦闘を繰り広げた。
故に彼らの信頼は、この『殺し合い』の中でも崩れるものではないのだろう。
最初に出会えたのが互いで良かったと、二人は素直に喜んでいた。

今、彼らの前には、地図と名簿が置かれている。
ゲームの会場と、参加者を確認するために出されたそれらだったが、
それは彼らに幾つもの混乱と疑問をもたらした。

「一体どういう事!? なんでブチャラティたちの名前が載っているのかしら?」
「僕にも見当が付きません。どんなスタンド能力をもってしても不可能なはずだ」

彼らの疑問、その一つ目は「死んだはずの人間」が記載されていた事だ。

チャリオッツレクイエムを攻略し、天へと昇って行ったリーダー・ブチャラティ。
そのブチャラティがフィレンツェ行超特急において撃破した暗殺チームの一人・プロシュート
そして、仲間の死を越えて打倒したトリッシュの父・ディアボロ
何故彼らの名前が書かれているのか。荒木か太田のスタンド能力で蘇ったとでもいうのか?
そんなことは出来やしない。それは誰より、ジョルノ自身が一番よく分かっていることだ。


二つ目は地図に記載された物。地図にはポンペイにローマのコロッセオが描かれている。
それらは二人もよく知っている場所。ただし、何方もイタリアにあるはずの物。
肌に感じるのは温暖湿潤気候の空気であり、イタリアを初めとした地中海気候のそれとは明らかに違っていた。
それは奇妙なパッチワークかモザイクとしか思えない地形であることを示唆している。

「奴らは僕たちを混乱させるために死者を名簿に載せている……とは思えないですね」
「そうね。現に今も感じるもの。どこかでアイツが確かに生きているってシグナルを」

親子の血脈が成せる業か、トリッシュとディアボロは互いにその存在を感覚的に捉えることができる。
かつてディアボロはそれにより自身の正体が暴かれるのを避けるために、
自らの手で殺すためにブチャラティ達に連れてこさせたことがあった。

「何処にいるのかは詳しく分からないけれど、アイツが生きているのは間違いないわッ!」
「トリッシュ、そのことと関係するのか分からないのですが……」
「どうしたのジョルノ?」
「同じものなのかは分かりませんが、僕も何かシグナルを受け取っている感覚があるんです」
「シグナル? 貴方、この名簿に親類がいるっていう事?」
「どうなのか分からないんです。少なくとも複数のものを感じるんですが」
ジョルノが感じた三つ目の疑問、それは魂が感じるシグナルだった。
それはジョースター家のものが発する信号なのだが、自身の血統を詳しくは知らぬジョルノには未知なるものである。

「なんにしても、まずはミスタ達と合流しましょう。
 荒木、太田をどうにかするにしても、今の僕たちには人手も情報も足りない」
「かもしれないわ。アイツをもう一度なんとかするためにも。
 それにブチャラティにも会わなきゃならないもの。本当に生きているのかを」

そう言いながら二人は場所を離れる準備をしだした。
と、その時だった。



ポンペイの方から、カランコロンという音が響いてくる。
音は確実に二人に近づいて来ていた。
その音に気づいたジョルノとトリッシュは、月明かりに映し出された音の主に少しばかり驚いた。

それは水色の髪に、水色と赤のオッドアイの少女だった。
走るその足には下駄が履かれ、それがあのカランコロンという音を出している。
何より目立つのは、大きな一つ目とベロリと垂れた舌が特徴的な紫色の雨傘だ。
だが、そんなことより二人が驚いたのは、その少女の表情だった。
その瞳には涙が溜まり、本来なら笑顔が似合うだろうその可愛らしい顔は恐怖と苦痛で歪んでいた。
二人を見た少女は、息を荒く吐きながら走り寄ってきた。
走る勢いを殺しきれなかったのか、二人の元にたどり着いた少女は止まった拍子に倒れそうになる。
トリッシュは転ばぬよう、その少女の身を受け止めた。


「お、女の、人、が、私、を……」
「何があったの? ゆっくりと呼吸して落ち着いてから、何があったか話してみて」

息も絶え絶えに何か話そうとする少女に、トリッシュは落ち着くよう促す。
深呼吸を数回行い、落ち着き始めた少女は話し出した。
「女の人が、私を逃してくれた。危ない男の人から……」
覚めない恐怖で回らない頭を必死に動かして、少女はなんとか状況を説明しようとする。
それを聞いたジョルノは、ポンペイの方向を見ながらトリッシュに言った。

「トリッシュ、僕のわがままなのですが聞いてください。
 先程話した予定ですが変更します。僕はまずポンペイに向かおうと思っています」
「この子を助けてくれた女の人を、助けるために?」

トリッシュは少女を抱えたままジョルノに問いかける。
「それもあるのですが、実はさっき言っていたシグナルの一つが、このポンペイから感じるんです。
 何があるのか確かめる必要があります」
「シグナルの一つが? それって二人の内どっちなの?」
「分からない。それも含め確かめたいと思うのです」
「……いいわ。先ずは近くの事からなんとかすべきね」

トリッシュの承諾の言葉を皮切に、二人はポンペイの中へ入って行った。



―――そして時間は戻る。


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ウェスの振り向いたさきには、金髪の少年と赤毛の少女が立っていた。
面倒なことになった、と彼は真っ先に思った。
自分の受けたダメージは軽くない。その上、子供だというのにその雰囲気は只者ではない事が良くわかる。
この状態で、あの二人を相手に勝てるかは分からない。

ふとウェスは、少年の方が気になった。
先ほどから感じるシグナルもそうだが、それ以上に感じたことがあった。
見た目も何もかも違うのに、その眼の輝きは今までに確かに見た事のあるものだった。
そう、その輝きはかつて、刑務所で自分を含めた仲間の中心にいた彼女とそっくりだった。
(徐倫に似ている……なんなんだ、あのガキ?)



「ジョルノ、あの女性と男、どっちからシグナルを感じる?」
「男の方です。しかし、彼はあの女性を殺そうとしていた。彼には少し確認する必要がありそうです」
ウェスに聞こえないよう、トリッシュとジョルノは小声で会話をする。
視線の先、ウェスの影には長い赤毛の中国風の女性が蹲っている。
その顔色の悪さ、息の荒さは、ジョルノがかつて書物で見た様な症状だった。

「彼女の方は明らかな中毒症状を起こしている。治療する必要があるます」

ジョルノは女性に視線を向けながら、トリッシュに指示を出す。
「トリッシュ、僕は彼女の治療に当たります。終わり次第加勢しますので時間を稼いでください」
「わかったわ。でもなるべく早めにお願い」



二人の後方、建物の影に少女、小傘はいた。
先ほどのウェスの暴行による腹部の痛みもだいぶ和らいでいる。
小傘は壁に身を隠しながら、恐る恐る顔を出していた。

「二人とも、大丈夫かな……」
誰に言うでもなく、ぼそりと独り言を吐いた。
一方で何故かはわからないけれど、あの二人なら大丈夫だろうというよくわからない確信が心の底にあった。
このポンペイに入るときも、出たときには感じなかった気持ち悪さがこみ上げたとき、
ジョルノはどこからともなく取り出した(様に小傘には見えた)蛇の血を用いて治療してくれた。
彼はワクチンやら血清やら言っていたが、おかげで不快感はなくなった。
彼らならきっとやってくれる。そう思うには十分だった。

けれど、一方で否応なしに感じてしまうものもある。
それは己に対する無力感。あの男に出会った時もそうだ。
勝手に出来ると思い込んで、勇んで出て行ったのに、何もできずにただやられるしかなかった。
あの女性が助けてくれなければ自分は死んでいたかもしれない。

(結局、私なにも出来てない……)
人の役に立つ傘として生まれ、忘れられて妖怪に生まれ変わって、
それでも小傘は力になれていない自分が悲しくなってきた。

どうすればいいのか分からず、ただただジョルノとトリッシュを見続けるしかなかった。




【B-2 ポンペイ/深夜】
【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:健康、体力消費(極小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:まずは目の前にいる女性を治療する。終わり次第トリッシュに加勢する
2:ミスタ、ブチャラティに合流したい
3:ディアボロをもう一度倒す
4:あの男(ウェス)、何か信号を感じるが何者なんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前をまだ聞いていません。

【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:まずは目の前にいる男を何とかする(ただし殺すつもりはない)
2:ミスタ、ブチャラティに合流したい
3:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前をまだ聞いていません。

多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:腹部や胴体へのダメージ(中、回復中)、疲労(中、回復中)、恐慌はだいぶ和らいでいる
[装備]:化け傘@東方星蓮船
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗りたくない
1:ジョルノとトリッシュの戦いを見守る
2:……私、役立たずなのかな?
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※本体の一部である化け傘は支給品ではなく初期装備です。


【紅美鈴@東方紅魔郷】
[状態]:鈴蘭毒の中毒症状(猛烈な眩暈と頭痛)、霊力消費(中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止めたい。
1:目の前の男(ウェス)を止める。
2:主催者に抗う為に協力出来る仲間を捜したい。出来れば紅魔館の住民達を。
3:男(ウェス)を撃退したら、さっき逃がしたあの妖怪(小傘)も探したい。
4:けれど、今は体が上手く動かない……
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんに御任せします。
※小傘の声を聞きつけ、そちらの方へと向かった為に支給品の確認はしていないようです。

【ウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肋骨、内臓の損傷(大)、背中への打撲(中)、疲労(中)、服に少し切れ込み(腹部)
[装備]:なし
[道具]:手榴弾×5@現実、不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:皆殺しだ。
2:エンリコ・プッチは絶対にこの手で殺す。
3:目の前にいる二人をなんとかする。場合によっては逃げもありか?
4:できるなら、この女(美鈴)を殺しておきたい。
5:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。

※ウェスの攻撃により、B-2 ポンペイの特に東半分は鈴蘭毒に汚染されました。
  人間、妖獣は若干の眠気程度ですが、妖怪などは吐き気、頭痛などの症状が発生します。
  なお、ジョルノ、トリッシュ、小傘の3名はジョルノのワクチン(血清)により無毒化できています。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(この殺し合い、やっぱり最高かもしれないわぁ……)
青娥は建物の上から、戦闘の鑑賞を続けていた。

美鈴が倒れた時には、もう楽しめるものはないと思っていた。
地の利を生かした毒霧攻撃により、この勝負はウェスの勝利で終わるだろう、
それが当初の彼女の予想だった。
ところが実際はどうだ。突然の乱入者により、勝負はまだ決着がつかなくなった。
むしろ、あのダメージから言ってウェスは戦えば不利になると容易に予測できる。

だが、彼女が「最高」と賞したのは他の理由にある。そう、あの乱入者の一人、金髪の少年だ。
霍青娥は強い力を持った者に惹かれる女である。
かつての聖徳王しかり、先の異変を解決した巫女しかり、
どのような相手であれ強き力を秘めた者を好むのだ。
そんな彼女が少年、ジョルノを見たときに抱いた感情はただ一つ。

――――俗にいう「一目惚れ」である。

遠目から見てわかる。あの少年から発せられるのは「王者の風格」そのものだ。
その黄金色まで見えそうな雰囲気は、あの聖徳王――豊聡耳神子に勝るとも劣らぬもの。
ジョルノに向けるその顔には、愛しき人を遠くから眺める恋する乙女と、
欲望にまみれた邪仙の表情が入り混じっていた。

(とは言え、今会いに行くのはやめた方がいいわよね)
青娥は先ほどとは一転して、神妙な面持ちで一人考える。彼に取り入りたいのは山々だが、それは今ではない。
仮に今出れば、戦闘を端から見ていて何をしていたのかと不審がられる。
それは彼女の望むところではない。

(一旦出直しましょう。彼には後で会いに行こうかしら。何か「手土産」を持って、ね)
そう結論付けた青娥はすくと立ち上がり、音もなく屋根を降りていく。
その場にいる者全てに気づかれることなく、彼女はその場をあとにしたのだった。



【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:健康
[装備]:河童の光学迷彩スーツ@東方風神録、双眼鏡@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:今は彼らに接触すべきではない。早急に立ち去りましょう。
2:王者のような少年(ジョルノ)に「一目惚れ」。機会があれば後で会ってみたい。
3:面白そうなことには首を突っ込み、気になった相手には接触してみる。
  先程の殿方(ウェス)が使っていたような「まだ見ぬ力」にも興味。
4:時間があれば芳香も探してみる。
5:殺し合い?まぁ、程々に気をつけようかしら。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合い、これから彼女が何処に向かうのかは後の書き手さんにお任せします。

027:蟲毒の華 投下順 029:開演「運命の石仮面」
026:紫の式は妖しく輝く 時系列順 029:開演「運命の石仮面」
006:ナイトウォッチ 紅美鈴 049:”HAIL”2U!
006:ナイトウォッチ ウェザー・リポート 049:”HAIL”2U!
006:ナイトウォッチ 多々良小傘 049:”HAIL”2U!
006:ナイトウォッチ 霍青娥 047:名前のない怪物達
遊戯開始 ジョルノ・ジョバァーナ 049:”HAIL”2U!
遊戯開始 トリッシュ・ウナ 049:”HAIL”2U!
最終更新:2013年10月31日 22:15