- 12.縁は異なもの味なもの
「……待ってっ!」
私の声が辺りに響き、その声に前の人物が振り向く。
ようやく追いついたのは、大きな橋の上。
川面に移る月光が怪しく輝いていたのが、少し憎らしかった。
「はぁ……はぁ、な、何なんスか? 先輩」
息を切らしながらひよりもようやく私に追いつく。
「いいから、あんたはそこに居なさい」
「へっ? え、ええ……」
ひよりには、知る権利がある。
私が知ってしまったのは、あくまで偶然だ。
平成の私だからこそ、知ることが出来たこと。
まさか、変態外人に教わるとは思いもしなかったけど。
「……」
月夜に照らされたその顔は綺麗で、可憐だった。
その顔は私の知っている女性、そのまま。
そう……そのまま。
「一つだけ、聞きたい事があるの」
ああ、今私は馬鹿をやろうとしてる。
みなみちゃんとゆたかちゃん、そして……ひより。
この関係を崩そうとしてるんだ。
私の、我侭で。
「ゆたかちゃんの事……好き?」
「せ、先輩っ!」
ひよりが表情を曇らす。
当然だ、ひよりが聞いていて面白い話ではない。
「……」
月明かりだけが荘厳に照らす橋の上で、みなみちゃんがゆっくりと首を縦に振った。
それを見て、ひよりが顔を背ける。
……。
ひよりは何処か、みなみちゃんに引け目を感じている所があった。
それは『彼女』は彼女で……『彼女』が、彼だから。
「それなら」
私の言葉が口から紡がれていく。
世界が少し固まる。
いいの? 本当に言ってしまって。
だって、これは私には関係のない事なのに。
そう、あの三人の問題なのに。
……でも、我慢出来ない。
いつからだろう、こんなにお人よしになったのは。
私はもっと、独りよがりな人間だったはずなのに。
私はもっと、自己中心的な人間だったはずなのに。
変わった、のかな……この世界に来て。
いや違うか、変えてくれたんだ……『みんな』が。
「ゆたかちゃんに……いえ、ひよりに隠してることあるわよね?」
「……っ」
みなみちゃんの顔に、影が落ちる。
「じ、自分にッスか?」
ひよりはまだ、訳が分からないといったような感じ。
そう、普通は気がつかない。
外国人だった彼女だからこそ、先入観なく見れたのかもしれない。
特に私は……日下部の件で、過敏になりすぎていたしね。
「不思議に思わなかった? あんなに大事にしてくれてるのに、あんなに優しいのに……文の返事もくれないなんて」
そう、私がこの事件に巻き込まれた原因だ。
それのおかげでこなたが抜け出したんだからね。
「そりゃ……でも、都合とかありますし」
「そうね、確かに都合があったんでしょ」
……。
そう、みなみちゃんには都合があった。
どうしても『返事を書けない』都合が。
そして、『喋れない』都合が。
それが、全てを物語っていた。
「あなた……『白拍子』ね?」
私の言葉が、月夜の世界に溶けて広がっていった。
私の声が辺りに響き、その声に前の人物が振り向く。
ようやく追いついたのは、大きな橋の上。
川面に移る月光が怪しく輝いていたのが、少し憎らしかった。
「はぁ……はぁ、な、何なんスか? 先輩」
息を切らしながらひよりもようやく私に追いつく。
「いいから、あんたはそこに居なさい」
「へっ? え、ええ……」
ひよりには、知る権利がある。
私が知ってしまったのは、あくまで偶然だ。
平成の私だからこそ、知ることが出来たこと。
まさか、変態外人に教わるとは思いもしなかったけど。
「……」
月夜に照らされたその顔は綺麗で、可憐だった。
その顔は私の知っている女性、そのまま。
そう……そのまま。
「一つだけ、聞きたい事があるの」
ああ、今私は馬鹿をやろうとしてる。
みなみちゃんとゆたかちゃん、そして……ひより。
この関係を崩そうとしてるんだ。
私の、我侭で。
「ゆたかちゃんの事……好き?」
「せ、先輩っ!」
ひよりが表情を曇らす。
当然だ、ひよりが聞いていて面白い話ではない。
「……」
月明かりだけが荘厳に照らす橋の上で、みなみちゃんがゆっくりと首を縦に振った。
それを見て、ひよりが顔を背ける。
……。
ひよりは何処か、みなみちゃんに引け目を感じている所があった。
それは『彼女』は彼女で……『彼女』が、彼だから。
「それなら」
私の言葉が口から紡がれていく。
世界が少し固まる。
いいの? 本当に言ってしまって。
だって、これは私には関係のない事なのに。
そう、あの三人の問題なのに。
……でも、我慢出来ない。
いつからだろう、こんなにお人よしになったのは。
私はもっと、独りよがりな人間だったはずなのに。
私はもっと、自己中心的な人間だったはずなのに。
変わった、のかな……この世界に来て。
いや違うか、変えてくれたんだ……『みんな』が。
「ゆたかちゃんに……いえ、ひよりに隠してることあるわよね?」
「……っ」
みなみちゃんの顔に、影が落ちる。
「じ、自分にッスか?」
ひよりはまだ、訳が分からないといったような感じ。
そう、普通は気がつかない。
外国人だった彼女だからこそ、先入観なく見れたのかもしれない。
特に私は……日下部の件で、過敏になりすぎていたしね。
「不思議に思わなかった? あんなに大事にしてくれてるのに、あんなに優しいのに……文の返事もくれないなんて」
そう、私がこの事件に巻き込まれた原因だ。
それのおかげでこなたが抜け出したんだからね。
「そりゃ……でも、都合とかありますし」
「そうね、確かに都合があったんでしょ」
……。
そう、みなみちゃんには都合があった。
どうしても『返事を書けない』都合が。
そして、『喋れない』都合が。
それが、全てを物語っていた。
「あなた……『白拍子』ね?」
私の言葉が、月夜の世界に溶けて広がっていった。
「ほ、本気で言ってるんスか? 先輩……」
ひよりの表情が、青ざめていく。
みなみちゃんのそれも、同じだ。
……『白拍子』。
その言葉が出来たのは、最近だ。
ああ、これは平安時代における最近ね。
白拍子とは、歌舞の一種。
その名前の通り……白い拍子を奏でるもの。
男性なら女性を、女性なら男性を……『異性』を演じるもの。
つまり束帯姿のみなみちゃんは、女性なんだ。
WhiteRhythm……白拍子、まったく分かりにくい英語にしてくれたものよ。あの変態外人。
「……そう」
透き通るような声が、私の耳に届く。
誰か、なんてのは愚問だ……聞き覚えのある透明な声。
彼女の、みなみちゃんの声。
濁りのない澄んだ高い声は、荒々しい男性のそれとは違う。
「そんな、じゃあ……騙してたんスか! ゆたかを!」
その声が耳を劈いたのは私だけじゃない。
ひよりの声が辺りに響き、みなみちゃんの元に駆け寄る。
「ゆたかは、本気で……貴方のことをっ!」
「……」
ひよりの頬から、涙が落ちた。
そのまま悲しみと怒りのままに、みなみちゃんの頬を引っ叩いた。
「返事を書かなかったのも、そういうことなんスね……ははっ、そうッスよね。遊女風情に字なんか書けるわけないっ!」
涙の嗚咽と嘲りの混じったひよりの声が、辺りに響く。
白拍子にも身分の高いものはいる。
でもそんなのは少数……その他は遊女だ。
あくまで名誉のために言っておくが、遊女といっても江戸時代などの花魁のような仕事をするものではない。
この時代の遊女とは、白拍子などの芸を売る女性を称したもの。
そう……どんなに芸に秀でようともどんなに舞を踊ろうとも、彼女達は遊女。
この身分が絶対の世界においては……最下層の身分なんだ。
彼女は無筆(むひつ)。
返事を書かなかったんじゃない。
……書けなかったんだ。
「ごめんなさい」
みなみちゃんの声が響く。
ひよりに叩かれた頬は、少し赤い。
「ゆたかは……ゆたかはぁっ!」
「……やめなさい、ひより」
もう一度振りかざしたひよりの手を掴んで止める。
「でも、でも……」
「最初に私が聞いたでしょ? ゆたかちゃんの事……好きかって」
それをみなみちゃんは肯定した。
あの時の彼女の瞳に……嘘はなかったはず。
「本気で、言ってるんスか? 先輩……ゆたかは、女の子ッスよ!?」
「ええ知ってる……貴方も、でしょ?」
「……!」
貴方なら分かるはず。
貴方なら、一番分かっているはず。
伝えられない、届かない想いが……どれだけ苦しいのかを。
「そんな、の。そんなの……」
そのまま私の腕の中で泣き崩れるひより。
その小さい体を、少し抱きしめてあげる。
……こうしてくれたっけ、あいつ……日下部も。
「私も最初はね……気がつけなかった。気がつければ、簡単な事なのにね」
ひよりの頭を撫でてやる。
あいつがしてくれたみたいに。
……ってもう忘れたことよ、それは。
「でも、気が付かせてくれた。貴方達や、いろんな人が」
日下部は……みさおは教えてくれた。
ひよりは教えてくれた。
みなみちゃんは教えてくれた。
そうだ。
ようやく私も気がつけた。
誰かを好きになるのに、性別なんて……関係ないんだ。
男性だとか、女性だとか。そんなのただの区別に過ぎない。
本能に逆らってる? 何よそれ、それこそ決め付けじゃない。
そんなのは昔の偉い人が先入観に囚われて言ったただの妄言よ。
自分の道は、そんな誰かの作った道だけじゃない。
自分が決めた道、自分の作った道を選ぶことだって出来るんだ。
……。
私は何処か、この世界の自分を馬鹿にしていた。
こなたが好き? 馬鹿ね、相手は女の子じゃない……って。
自分の常識とは、違うから。
そんな先入観から……切り捨てていた。
でも、今なら分かる。
それでも……好きなんだ。
狂おしいほどに、ただ……好きなんだ。
私だって、一瞬とはいえ日下部に心奪われたじゃないか。
それと、同じ。
この世界の日下部と、私の世界の日下部だから違うって?
そんな事ない、どちらも……日下部だ。
男だとか女だとか、そんなの……関係なかったんだ。
「だからいいのよ、嘘をつく事なんてない……ひよりも、貴方もね」
「……」
立ち尽くすみなみちゃんにも、言葉を突きつける。
全ては彼女の嘘から始まったんだ。
その嘘が一番苦しめたのは……彼女自身。
知ってる? 嘘ってね、つかれた方よりついた方が苦しいの。
だって、嘘をつかれた方は気がつけない……それが嘘である事に。
だって、つく方は知っている……それが嘘である事を。
その背徳を背負い続けることが、嘘をつく事の罰。
嘘をついた事の、禊(みそぎ)。
「ゴメンね、こんな事……私が言う様な事じゃないんだけど」
私は部外者。
この三人とは無関係な存在。
この世界とは無関係な存在。
でも、辛かった。
見てられなかった。
嘘が重なりあい、傷ついていく二人の姿を。
……。
そうだ、思い出した。
何で忘れてたんだろう。
私は『知ってる』んだ。
嘘が紡ぐ先に、誤解が重なる先に……何があるのかを。
……あれは何時だっけ。
そうだ……あれは私の、平成の世界。
そこで私はこなたに……。
いや、今はいいか。今は思い出に浸ってる時じゃない。
でもきっと、それの所為だと思う。
私がひよりを連れ出したのは。
彼女に、みなみちゃんに引き合わせたのは。
……そして私は今、二人の嘘を露にした。
ひよりは自分に嘘をつき続けていた。ゆたかちゃんのために……自分のために。
ただ切に、ゆたかちゃんの幸せを願っていた。
そしてみなみちゃんはゆたかちゃんに。これもそう、ゆたかちゃんのために……自分のために。
違う自分を演じてまで、ただゆたかちゃんに触れていたかった。
二人の嘘は、何処か似ている。
どちらの嘘も……自分自身を苦しめ続ける、嘘なんだ。
ひよりの表情が、青ざめていく。
みなみちゃんのそれも、同じだ。
……『白拍子』。
その言葉が出来たのは、最近だ。
ああ、これは平安時代における最近ね。
白拍子とは、歌舞の一種。
その名前の通り……白い拍子を奏でるもの。
男性なら女性を、女性なら男性を……『異性』を演じるもの。
つまり束帯姿のみなみちゃんは、女性なんだ。
WhiteRhythm……白拍子、まったく分かりにくい英語にしてくれたものよ。あの変態外人。
「……そう」
透き通るような声が、私の耳に届く。
誰か、なんてのは愚問だ……聞き覚えのある透明な声。
彼女の、みなみちゃんの声。
濁りのない澄んだ高い声は、荒々しい男性のそれとは違う。
「そんな、じゃあ……騙してたんスか! ゆたかを!」
その声が耳を劈いたのは私だけじゃない。
ひよりの声が辺りに響き、みなみちゃんの元に駆け寄る。
「ゆたかは、本気で……貴方のことをっ!」
「……」
ひよりの頬から、涙が落ちた。
そのまま悲しみと怒りのままに、みなみちゃんの頬を引っ叩いた。
「返事を書かなかったのも、そういうことなんスね……ははっ、そうッスよね。遊女風情に字なんか書けるわけないっ!」
涙の嗚咽と嘲りの混じったひよりの声が、辺りに響く。
白拍子にも身分の高いものはいる。
でもそんなのは少数……その他は遊女だ。
あくまで名誉のために言っておくが、遊女といっても江戸時代などの花魁のような仕事をするものではない。
この時代の遊女とは、白拍子などの芸を売る女性を称したもの。
そう……どんなに芸に秀でようともどんなに舞を踊ろうとも、彼女達は遊女。
この身分が絶対の世界においては……最下層の身分なんだ。
彼女は無筆(むひつ)。
返事を書かなかったんじゃない。
……書けなかったんだ。
「ごめんなさい」
みなみちゃんの声が響く。
ひよりに叩かれた頬は、少し赤い。
「ゆたかは……ゆたかはぁっ!」
「……やめなさい、ひより」
もう一度振りかざしたひよりの手を掴んで止める。
「でも、でも……」
「最初に私が聞いたでしょ? ゆたかちゃんの事……好きかって」
それをみなみちゃんは肯定した。
あの時の彼女の瞳に……嘘はなかったはず。
「本気で、言ってるんスか? 先輩……ゆたかは、女の子ッスよ!?」
「ええ知ってる……貴方も、でしょ?」
「……!」
貴方なら分かるはず。
貴方なら、一番分かっているはず。
伝えられない、届かない想いが……どれだけ苦しいのかを。
「そんな、の。そんなの……」
そのまま私の腕の中で泣き崩れるひより。
その小さい体を、少し抱きしめてあげる。
……こうしてくれたっけ、あいつ……日下部も。
「私も最初はね……気がつけなかった。気がつければ、簡単な事なのにね」
ひよりの頭を撫でてやる。
あいつがしてくれたみたいに。
……ってもう忘れたことよ、それは。
「でも、気が付かせてくれた。貴方達や、いろんな人が」
日下部は……みさおは教えてくれた。
ひよりは教えてくれた。
みなみちゃんは教えてくれた。
そうだ。
ようやく私も気がつけた。
誰かを好きになるのに、性別なんて……関係ないんだ。
男性だとか、女性だとか。そんなのただの区別に過ぎない。
本能に逆らってる? 何よそれ、それこそ決め付けじゃない。
そんなのは昔の偉い人が先入観に囚われて言ったただの妄言よ。
自分の道は、そんな誰かの作った道だけじゃない。
自分が決めた道、自分の作った道を選ぶことだって出来るんだ。
……。
私は何処か、この世界の自分を馬鹿にしていた。
こなたが好き? 馬鹿ね、相手は女の子じゃない……って。
自分の常識とは、違うから。
そんな先入観から……切り捨てていた。
でも、今なら分かる。
それでも……好きなんだ。
狂おしいほどに、ただ……好きなんだ。
私だって、一瞬とはいえ日下部に心奪われたじゃないか。
それと、同じ。
この世界の日下部と、私の世界の日下部だから違うって?
そんな事ない、どちらも……日下部だ。
男だとか女だとか、そんなの……関係なかったんだ。
「だからいいのよ、嘘をつく事なんてない……ひよりも、貴方もね」
「……」
立ち尽くすみなみちゃんにも、言葉を突きつける。
全ては彼女の嘘から始まったんだ。
その嘘が一番苦しめたのは……彼女自身。
知ってる? 嘘ってね、つかれた方よりついた方が苦しいの。
だって、嘘をつかれた方は気がつけない……それが嘘である事に。
だって、つく方は知っている……それが嘘である事を。
その背徳を背負い続けることが、嘘をつく事の罰。
嘘をついた事の、禊(みそぎ)。
「ゴメンね、こんな事……私が言う様な事じゃないんだけど」
私は部外者。
この三人とは無関係な存在。
この世界とは無関係な存在。
でも、辛かった。
見てられなかった。
嘘が重なりあい、傷ついていく二人の姿を。
……。
そうだ、思い出した。
何で忘れてたんだろう。
私は『知ってる』んだ。
嘘が紡ぐ先に、誤解が重なる先に……何があるのかを。
……あれは何時だっけ。
そうだ……あれは私の、平成の世界。
そこで私はこなたに……。
いや、今はいいか。今は思い出に浸ってる時じゃない。
でもきっと、それの所為だと思う。
私がひよりを連れ出したのは。
彼女に、みなみちゃんに引き合わせたのは。
……そして私は今、二人の嘘を露にした。
ひよりは自分に嘘をつき続けていた。ゆたかちゃんのために……自分のために。
ただ切に、ゆたかちゃんの幸せを願っていた。
そしてみなみちゃんはゆたかちゃんに。これもそう、ゆたかちゃんのために……自分のために。
違う自分を演じてまで、ただゆたかちゃんに触れていたかった。
二人の嘘は、何処か似ている。
どちらの嘘も……自分自身を苦しめ続ける、嘘なんだ。
何時しか、ひよりの嗚咽は止んでいた。
みなみちゃんも、俯いたままただ私の言葉に耳を傾けてくれていた。
「自分は」
私の腕から離れ、一度涙を拭うひより。
「両親が死んでから、ゆたかの邸が引き取ってくれました……でもなかなか立ち直れなくて、ずっと泣いてました」
ひよりは続ける。
「その時ッスよ、ゆたかに出会ったのは……泣いてた自分を、慰めてくれた」
あの子ならそうするだろう。
私の世界のあの子も、優しい子だったから。
「でも自分は……突き放しました。一人にしてくれ、放っておいてくれって」
その傷の深さは、ひよりにしか分からない。
誰にも分からない、彼女だけの苦しみ。
「なのに、馬鹿ッスよね……毎日毎日自分の部屋まで来て、言うんスよ? 同じ事を、何度も……何度も」
少し、嘲るように笑うひより。
「体が弱いくせに、雨の日も……雪の日も。それでとうとう熱まで出して……」
その時寝込んだ彼女に付き添ったのも自分だと、ひよりは言う。
「それでも、繰り返してました……熱で朦朧としながらも、同じ事をずっと」
ひよりの口が、その言葉を口にする。
「『大丈夫、私が居るよ』って……ははっ、馬鹿は自分だったんスよ」
その言葉を聞いたときひよりは決めたんだろう。
彼女のために生きよう。
彼女のために尽くそう。
彼女のために死のう。
彼女のために……自分に嘘を付き続けよう、と。
これが、ひよりの『嘘』。
「……私は」
みなみちゃんが、重い口を開く。
彼女はどんな気持ちだったんだろう。
好きな人に、何も伝える事が出来くて。
ただ、嘘をつき続けて。
「小さな頃からずっと、舞の事だけを教えられてきた……父に、母に。それだけが、私たちの生きる糧だった」
みなみちゃんは言う。
それが好きでも嫌いでもなかった、と。
ただ必死に、踊り続けてきた、と。
機械のように踊り続けるのは、どんなに苦しかったんだろう。
それも私には……分かりようがない。
「それでも……良かった。父も母も、喜んでいたから」
彼女はただ、踊ったんだ。
生きるために、踊り……自分を殺し続けてきた。
「でもあの日……ゆたかに、会った」
「あの……雪の日ッスね」
ひよりが言葉を付け加える。
二人の出会った日。
多分その時にも、ひよりも居たのだろう。
それからずっと、二人を応援し続けてきたのだから。
「あの日は、珍しく雪が続いた日ッス……それで積もった雪を見たいって、ゆたかに頼まれて……」
それが多分、初めて抜け出した日なのだろう。
あまりに魅惑的な白い雪に連れられて抜け出して……そして、出会ったんだ。
その白い雪よりも真っ白な、少女に。
「……私も、同じだった。雪を見たくて、両親の目を盗んで抜け出した」
その日から始まったんだ。
二人の、秘密の逢瀬が。
いや……正確には三人か。
「ゆたかはただ、真っ直ぐに私を見てくれた……ただ生きるだけの、私を」
偶然だったと、みなみちゃんは嘆く。
あの道を通ったのも、肌寒いからと白拍子の衣装を纏っていたのも。
その一つでも欠けていれば、二人の出会いはなかったのかもしれない。
「すぐに、話そうと思ってた……でも、あの真っ直ぐな眼をずっと見ていたかった。ずっと見ていて欲しかった」
だから嘘をつき続けた。
ゆたかちゃんの傍に居るためだけに。
ゆたかちゃんの瞳に映るためだけに。
それがたとえ……彼女を傷つける結果になったとしても。
これが、みなみちゃんの『嘘』。
「……似てるッスね、自分ら」
「そう……かも」
不意に、ひよりから笑顔がこぼれた。
みなみちゃんからも、同じように。
似てる……そうね。
同じ女の子のために、ずっと嘘をつき続けてきたんだから。
その笑顔は誰を笑ってるんだろう。
自分?
相手?
それも、私には分からない。
……。
そっか。
そう、なんだ。
今、もう一つ『分かった』。
「……でもまぁ」
「?」
一通り、笑い終わった後のことだ。
「自分はそんな、男装趣味はないッスけど」
「っ」
みなみちゃんの眉がピクンと反応する。
ん?
「……私も」
今度はみなみちゃんが。
「そんな、へたれじゃない」
「んなっ!」
……ん?
あ、あれ?
なんか空気が悪いんですけど。
にらみ合ってるし。
「へ、へたれぇ? じ、自分がッスかぁ?」
「そう、あと泣き虫。それにこれは舞台衣装。男装じゃない」
「一緒じゃないッスか、いつも来てるんだから!」
「着てない。ゆたかに会うときだけ」
何故か空気が険悪に。
同属嫌悪ってヤツか? もしかして。
同属というよりは、同じ穴のムジナでしょ!
「じ、自分は毎朝ゆたかの髪を梳かしてるんスよっ!」
「私はゆたかに、好きって言われた」
……何時の間にか自慢大会になってるし。
つーかさっきの緊迫シリアス展開は何処にっ!
ちょ、ちょっと待って。
良い話でした、で終わるんじゃないの!?
「い、いくら好きって言われたからって、喋らないんじゃ一緒ッスよね。好きって言う事も出来ないんスから!」
「それは貴方。私は何時でも言える」
「じ、自分だって言えるッスよ! そっちこそ、女の子だって言えないんじゃ好きって言ったって一緒ッスよ!」
「……言える。貴方とは違う」
ああ、やばい。
収集がつきそうにない。
はぁ……これじゃまるで子供ね。
ええと、どうしよう。
とりあえず事態を収めよう。
ああそうだ、体の私の得意技じゃないか。
「んぎゃぁっ!」
「……!」
「いい加減に口喧嘩はやめなさい、みっともないっ」
二人の耳を思い切り摘み上げた。
鋭角に。
「せ、先輩っ! 取れるッス! 耳なしひよりになるッス!」
「……痛い」
「いいわよ。言えるって言うなら言ってもらおうじゃないっ、今からっ!」
「へっ? ええっ!?」
「……それ、は」
ああもう、グダグダ五月蝿いっ!
男に二言なし、女にも二言なし!
女は度胸、それだけよ!
みなみちゃんも、俯いたままただ私の言葉に耳を傾けてくれていた。
「自分は」
私の腕から離れ、一度涙を拭うひより。
「両親が死んでから、ゆたかの邸が引き取ってくれました……でもなかなか立ち直れなくて、ずっと泣いてました」
ひよりは続ける。
「その時ッスよ、ゆたかに出会ったのは……泣いてた自分を、慰めてくれた」
あの子ならそうするだろう。
私の世界のあの子も、優しい子だったから。
「でも自分は……突き放しました。一人にしてくれ、放っておいてくれって」
その傷の深さは、ひよりにしか分からない。
誰にも分からない、彼女だけの苦しみ。
「なのに、馬鹿ッスよね……毎日毎日自分の部屋まで来て、言うんスよ? 同じ事を、何度も……何度も」
少し、嘲るように笑うひより。
「体が弱いくせに、雨の日も……雪の日も。それでとうとう熱まで出して……」
その時寝込んだ彼女に付き添ったのも自分だと、ひよりは言う。
「それでも、繰り返してました……熱で朦朧としながらも、同じ事をずっと」
ひよりの口が、その言葉を口にする。
「『大丈夫、私が居るよ』って……ははっ、馬鹿は自分だったんスよ」
その言葉を聞いたときひよりは決めたんだろう。
彼女のために生きよう。
彼女のために尽くそう。
彼女のために死のう。
彼女のために……自分に嘘を付き続けよう、と。
これが、ひよりの『嘘』。
「……私は」
みなみちゃんが、重い口を開く。
彼女はどんな気持ちだったんだろう。
好きな人に、何も伝える事が出来くて。
ただ、嘘をつき続けて。
「小さな頃からずっと、舞の事だけを教えられてきた……父に、母に。それだけが、私たちの生きる糧だった」
みなみちゃんは言う。
それが好きでも嫌いでもなかった、と。
ただ必死に、踊り続けてきた、と。
機械のように踊り続けるのは、どんなに苦しかったんだろう。
それも私には……分かりようがない。
「それでも……良かった。父も母も、喜んでいたから」
彼女はただ、踊ったんだ。
生きるために、踊り……自分を殺し続けてきた。
「でもあの日……ゆたかに、会った」
「あの……雪の日ッスね」
ひよりが言葉を付け加える。
二人の出会った日。
多分その時にも、ひよりも居たのだろう。
それからずっと、二人を応援し続けてきたのだから。
「あの日は、珍しく雪が続いた日ッス……それで積もった雪を見たいって、ゆたかに頼まれて……」
それが多分、初めて抜け出した日なのだろう。
あまりに魅惑的な白い雪に連れられて抜け出して……そして、出会ったんだ。
その白い雪よりも真っ白な、少女に。
「……私も、同じだった。雪を見たくて、両親の目を盗んで抜け出した」
その日から始まったんだ。
二人の、秘密の逢瀬が。
いや……正確には三人か。
「ゆたかはただ、真っ直ぐに私を見てくれた……ただ生きるだけの、私を」
偶然だったと、みなみちゃんは嘆く。
あの道を通ったのも、肌寒いからと白拍子の衣装を纏っていたのも。
その一つでも欠けていれば、二人の出会いはなかったのかもしれない。
「すぐに、話そうと思ってた……でも、あの真っ直ぐな眼をずっと見ていたかった。ずっと見ていて欲しかった」
だから嘘をつき続けた。
ゆたかちゃんの傍に居るためだけに。
ゆたかちゃんの瞳に映るためだけに。
それがたとえ……彼女を傷つける結果になったとしても。
これが、みなみちゃんの『嘘』。
「……似てるッスね、自分ら」
「そう……かも」
不意に、ひよりから笑顔がこぼれた。
みなみちゃんからも、同じように。
似てる……そうね。
同じ女の子のために、ずっと嘘をつき続けてきたんだから。
その笑顔は誰を笑ってるんだろう。
自分?
相手?
それも、私には分からない。
……。
そっか。
そう、なんだ。
今、もう一つ『分かった』。
「……でもまぁ」
「?」
一通り、笑い終わった後のことだ。
「自分はそんな、男装趣味はないッスけど」
「っ」
みなみちゃんの眉がピクンと反応する。
ん?
「……私も」
今度はみなみちゃんが。
「そんな、へたれじゃない」
「んなっ!」
……ん?
あ、あれ?
なんか空気が悪いんですけど。
にらみ合ってるし。
「へ、へたれぇ? じ、自分がッスかぁ?」
「そう、あと泣き虫。それにこれは舞台衣装。男装じゃない」
「一緒じゃないッスか、いつも来てるんだから!」
「着てない。ゆたかに会うときだけ」
何故か空気が険悪に。
同属嫌悪ってヤツか? もしかして。
同属というよりは、同じ穴のムジナでしょ!
「じ、自分は毎朝ゆたかの髪を梳かしてるんスよっ!」
「私はゆたかに、好きって言われた」
……何時の間にか自慢大会になってるし。
つーかさっきの緊迫シリアス展開は何処にっ!
ちょ、ちょっと待って。
良い話でした、で終わるんじゃないの!?
「い、いくら好きって言われたからって、喋らないんじゃ一緒ッスよね。好きって言う事も出来ないんスから!」
「それは貴方。私は何時でも言える」
「じ、自分だって言えるッスよ! そっちこそ、女の子だって言えないんじゃ好きって言ったって一緒ッスよ!」
「……言える。貴方とは違う」
ああ、やばい。
収集がつきそうにない。
はぁ……これじゃまるで子供ね。
ええと、どうしよう。
とりあえず事態を収めよう。
ああそうだ、体の私の得意技じゃないか。
「んぎゃぁっ!」
「……!」
「いい加減に口喧嘩はやめなさい、みっともないっ」
二人の耳を思い切り摘み上げた。
鋭角に。
「せ、先輩っ! 取れるッス! 耳なしひよりになるッス!」
「……痛い」
「いいわよ。言えるって言うなら言ってもらおうじゃないっ、今からっ!」
「へっ? ええっ!?」
「……それ、は」
ああもう、グダグダ五月蝿いっ!
男に二言なし、女にも二言なし!
女は度胸、それだけよ!
「Oh、キューティネー。今汗を拭いてあげマスヨー」
「……だ、大丈夫ですから……汗、そんなにかいてないし」
「大丈夫デスヨー、ユタカ。痛いのは最初ダケ……」
「あどっこいしょー!」
「キャッサバー!」
みなみちゃんとひよりの蹴りが見事に同時に決まり、変態外人が爆裂四散……すればいいのに。
ゆたかちゃんもいつのまにか眼を覚ましたらしい。
……こなたはその横で寝息を立ててるけど。
「な、Nice boa……もといKickデス。お、お早いお帰りデスネー。Damn it!」
悔しがるなら隠れてやれ!
ああいいや、無視無視。
今はこっちよ!
「ほらっ!」
と、二人の背中を押してゆたかちゃんの前に。
「? どうしたの? 二人とも……」
「あ、えっと。いやぁ……」
「……」
ゆたかちゃんの前に二人を正座させる。
「Oh、何ですか? ストロベリってる匂いがしマース」
テメーは黙ってろっ!
「ゆ……ゆたかっ!」
私のネックハンギングツリーが変態外人を白目にしてる間にひよりがみなみちゃんを制して声を上げる。
「うんっ、何? ひより」
「ふぇっ! え、ええと……あの、その実は、自分……その」
返ってきた笑顔に硬直するひより。
語尾も下がって消えていく。
呂律が回らないどころの話じゃないないな。
過呼吸だ、やばいやばい。
「……へたれ」
「んがっ!」
みなみちゃんから声が漏れ、ひよりに直撃。
「あっ……声」
「……っ」
だが、漏れた声に一番反応したのはゆたかちゃん。
それにみなみちゃんも気がつき、慌てる。
一番最初に聞かせた言葉がへたれて。
ああ、出鼻を挫かれて悔しそうだ。
「ゆ……ゆたか」
一度咳払いをして、ゆたかちゃんに向き合うみなみちゃん。
「実は、私……」
よく見れば、彼女の顔も赤い気がする。
ホント似たもの同士だよ、こいつら……。
「名前っ!」
「……!」
その時だ。
ゆたかちゃんの声があがり、笑顔の花が咲く。
「初めて、呼んでくれたねっ」
「あ……えと」
「それに綺麗な声……女の人みたいっ、素敵っ!」
「っ」
その笑顔と褒められたので動揺したらしい。
後はもう駄目だ、ひよりの二の舞。
ゆたかちゃん……恐ろしい子。
声の事もそれほど気にしてないし!
「……根性なし」
「っ!」
今度はひよりの声が、みなみちゃんに直撃。
それでまた、にらみ合いが始まる。
まぁゆたかちゃんの前だから口喧嘩まではしないでしょ。
「Mum、トライアングルです……来てます、来てます。ゾワンギゾワンゴデス」
何も来ねーよ!
「折角だから私も入れてシカクカンケイにしまショー。シュラバドロドロー、イージャンスゲージャンっ!」
……いい加減何とかしろ、こいつ。
その後私も加えた三人のクリムゾンスマッシュが変態外人の心の臓を貫いたが、なんか無傷だったのでもう放っておいた。
いいや、私も帰ろう……こなたをつれて。
これで長い夜も、ようやく終わりよ。
あ……。
だった、一つ忘れてた。
覚えてる? 私がこの事件に巻き込まれた原因。
というか、要因。
それを終わらせて、今回の事件……ゆたかちゃん脱走事件の幕を引こう。
「……だ、大丈夫ですから……汗、そんなにかいてないし」
「大丈夫デスヨー、ユタカ。痛いのは最初ダケ……」
「あどっこいしょー!」
「キャッサバー!」
みなみちゃんとひよりの蹴りが見事に同時に決まり、変態外人が爆裂四散……すればいいのに。
ゆたかちゃんもいつのまにか眼を覚ましたらしい。
……こなたはその横で寝息を立ててるけど。
「な、Nice boa……もといKickデス。お、お早いお帰りデスネー。Damn it!」
悔しがるなら隠れてやれ!
ああいいや、無視無視。
今はこっちよ!
「ほらっ!」
と、二人の背中を押してゆたかちゃんの前に。
「? どうしたの? 二人とも……」
「あ、えっと。いやぁ……」
「……」
ゆたかちゃんの前に二人を正座させる。
「Oh、何ですか? ストロベリってる匂いがしマース」
テメーは黙ってろっ!
「ゆ……ゆたかっ!」
私のネックハンギングツリーが変態外人を白目にしてる間にひよりがみなみちゃんを制して声を上げる。
「うんっ、何? ひより」
「ふぇっ! え、ええと……あの、その実は、自分……その」
返ってきた笑顔に硬直するひより。
語尾も下がって消えていく。
呂律が回らないどころの話じゃないないな。
過呼吸だ、やばいやばい。
「……へたれ」
「んがっ!」
みなみちゃんから声が漏れ、ひよりに直撃。
「あっ……声」
「……っ」
だが、漏れた声に一番反応したのはゆたかちゃん。
それにみなみちゃんも気がつき、慌てる。
一番最初に聞かせた言葉がへたれて。
ああ、出鼻を挫かれて悔しそうだ。
「ゆ……ゆたか」
一度咳払いをして、ゆたかちゃんに向き合うみなみちゃん。
「実は、私……」
よく見れば、彼女の顔も赤い気がする。
ホント似たもの同士だよ、こいつら……。
「名前っ!」
「……!」
その時だ。
ゆたかちゃんの声があがり、笑顔の花が咲く。
「初めて、呼んでくれたねっ」
「あ……えと」
「それに綺麗な声……女の人みたいっ、素敵っ!」
「っ」
その笑顔と褒められたので動揺したらしい。
後はもう駄目だ、ひよりの二の舞。
ゆたかちゃん……恐ろしい子。
声の事もそれほど気にしてないし!
「……根性なし」
「っ!」
今度はひよりの声が、みなみちゃんに直撃。
それでまた、にらみ合いが始まる。
まぁゆたかちゃんの前だから口喧嘩まではしないでしょ。
「Mum、トライアングルです……来てます、来てます。ゾワンギゾワンゴデス」
何も来ねーよ!
「折角だから私も入れてシカクカンケイにしまショー。シュラバドロドロー、イージャンスゲージャンっ!」
……いい加減何とかしろ、こいつ。
その後私も加えた三人のクリムゾンスマッシュが変態外人の心の臓を貫いたが、なんか無傷だったのでもう放っておいた。
いいや、私も帰ろう……こなたをつれて。
これで長い夜も、ようやく終わりよ。
あ……。
だった、一つ忘れてた。
覚えてる? 私がこの事件に巻き込まれた原因。
というか、要因。
それを終わらせて、今回の事件……ゆたかちゃん脱走事件の幕を引こう。
「うぅ……眠いぃ」
「文句言わないの、元はあんたが抜け出したからでしょ」
眠っていたこなたを叩き起こし、暗闇の道を手を引きながら歩く。
パトリシアさんのくれた松明のおかげで明かりはあるが、もうそろそろ月が見えなくなってくる時間。
そう、私の時間が終わろうとしてる。
でもその前に、こいつを部屋に押し込めないと。
ああ、あとつかさも部屋から出してやらないと。
はぁ……時間はないのにやる事だけは一杯ね。
でもそこまで邸は遠くないから、何とか間に合うはず。
……こなたがぐずりださなければ、ね。
「むぅ……」
光は松明の炎だけ。
だからこなたの手は、私の手を掴んだまま離さない。
だけど表情はまだ、しかめっ面。
まだどうやら、気に入らないらしい。
あの、嘘をついたことが。
そう……これが私が巻き込まれた原因。
つまり私の、『嘘』。
私に相談もしないでつかさになんか相談するから、一人で抜け出すはめになった。
私にしておけば、首に紐でもつけて絶対逃がさなかったのに!
……まぁ私の自業自得か。
私の勝手の所為で、こうなったわけだしね。
「ねぇ、こなた」
「……何?」
つっけんどんな返事。
まったく、親の顔が見てみたいわ。
ああ、見れたっけ。
しかもお母さんのほうなんか写真だけじゃなくて、本物を。
……。
はて、ここでまたいつものあてにならない違和感が首を出し始めた。
何にだろ?
ああもう、だからいいって。
今日はもう、そういう気分じゃない。
また次よ、次。
今は、目の前の事に集中しよう。
「こなた、ごめんね」
「……」
返事はない。
でもいいわ、勝手に続けるから。
「色々あったけど……もう、大丈夫だから」
こなたを手を握り締める。
「本当に? ……かがみ」
そこで久しぶりに、彼女の口が私の名前を紡いだ。
何だか心地よい。
体の私が、反応してるのかな?
それとも私が? ……どっちでもいいか。
「ええ、本当……許してくれる?」
「……」
その時、握っていた手が離れる。
そして私の腕に、重み。
こなたがそこにしがみ付いたのだ。
「もう……嘘ついちゃ、嫌だからね」
「……うん、約束」
彼女の顔に、笑顔の花が咲く。
それに私は微笑を返そう。
出来る限りの笑顔で。
「絶対……だよ?」
「うん、絶対」
「文句言わないの、元はあんたが抜け出したからでしょ」
眠っていたこなたを叩き起こし、暗闇の道を手を引きながら歩く。
パトリシアさんのくれた松明のおかげで明かりはあるが、もうそろそろ月が見えなくなってくる時間。
そう、私の時間が終わろうとしてる。
でもその前に、こいつを部屋に押し込めないと。
ああ、あとつかさも部屋から出してやらないと。
はぁ……時間はないのにやる事だけは一杯ね。
でもそこまで邸は遠くないから、何とか間に合うはず。
……こなたがぐずりださなければ、ね。
「むぅ……」
光は松明の炎だけ。
だからこなたの手は、私の手を掴んだまま離さない。
だけど表情はまだ、しかめっ面。
まだどうやら、気に入らないらしい。
あの、嘘をついたことが。
そう……これが私が巻き込まれた原因。
つまり私の、『嘘』。
私に相談もしないでつかさになんか相談するから、一人で抜け出すはめになった。
私にしておけば、首に紐でもつけて絶対逃がさなかったのに!
……まぁ私の自業自得か。
私の勝手の所為で、こうなったわけだしね。
「ねぇ、こなた」
「……何?」
つっけんどんな返事。
まったく、親の顔が見てみたいわ。
ああ、見れたっけ。
しかもお母さんのほうなんか写真だけじゃなくて、本物を。
……。
はて、ここでまたいつものあてにならない違和感が首を出し始めた。
何にだろ?
ああもう、だからいいって。
今日はもう、そういう気分じゃない。
また次よ、次。
今は、目の前の事に集中しよう。
「こなた、ごめんね」
「……」
返事はない。
でもいいわ、勝手に続けるから。
「色々あったけど……もう、大丈夫だから」
こなたを手を握り締める。
「本当に? ……かがみ」
そこで久しぶりに、彼女の口が私の名前を紡いだ。
何だか心地よい。
体の私が、反応してるのかな?
それとも私が? ……どっちでもいいか。
「ええ、本当……許してくれる?」
「……」
その時、握っていた手が離れる。
そして私の腕に、重み。
こなたがそこにしがみ付いたのだ。
「もう……嘘ついちゃ、嫌だからね」
「……うん、約束」
彼女の顔に、笑顔の花が咲く。
それに私は微笑を返そう。
出来る限りの笑顔で。
「絶対……だよ?」
「うん、絶対」
嘆く事もあった。
泣いた夜もあった。
一人の世界に、あてもなく放り出された悲しみ。
それは私にしか分からない。
誰にも伝えられない。
誰も分かるはずがない。
そう……他人の悲しみは、分かることなんて出来ないんだ。
ひよりが教えてくれた。
みなみちゃんが教えてくれた。
彼女達の苦しみは、彼女自身にしか分からない……誰にも、共有できはしない。
だから、向き合うしかない。
自分の足で。
自分の眼で。
自分のその……体一つで。
ひよりにみなみちゃん……彼女達は今日、ようやくそれに向き合ったんだ。
結果はどうなると思う? ゆたかちゃんはどう答えると思う?
……事態は好転する? 暗転する?
それは私には分からない。
いいや誰にも分かりはしない。
それでも、世界だけは確実に変わるんだ。
逃げ続けていた世界から……運命に立ち向かう世界へ。
……きっと、生きるとはそういう事なんだと私は思う。
生きるとは、辛い運命に立ち向かう事。
戦う事。
抗い続ける事。
決して、与えられた時間を無駄に浪費する事じゃない。
決して、自らで無駄だと決め付けて諦めていいものじゃない。
それならば、私も向き合おう。
それを教えてくれた人のためにも。
私自身のためにも。
私の世界に待つ、私の大切な人にもう一度出会うためにも。
たとえどんなに苦しくても。
たとえどんなに悲しくても。
もう私は諦めない。
立ち向かって、戦って……抗い続けてみせる。
この平安という月夜の世界の、孤独な運命に。
泣いた夜もあった。
一人の世界に、あてもなく放り出された悲しみ。
それは私にしか分からない。
誰にも伝えられない。
誰も分かるはずがない。
そう……他人の悲しみは、分かることなんて出来ないんだ。
ひよりが教えてくれた。
みなみちゃんが教えてくれた。
彼女達の苦しみは、彼女自身にしか分からない……誰にも、共有できはしない。
だから、向き合うしかない。
自分の足で。
自分の眼で。
自分のその……体一つで。
ひよりにみなみちゃん……彼女達は今日、ようやくそれに向き合ったんだ。
結果はどうなると思う? ゆたかちゃんはどう答えると思う?
……事態は好転する? 暗転する?
それは私には分からない。
いいや誰にも分かりはしない。
それでも、世界だけは確実に変わるんだ。
逃げ続けていた世界から……運命に立ち向かう世界へ。
……きっと、生きるとはそういう事なんだと私は思う。
生きるとは、辛い運命に立ち向かう事。
戦う事。
抗い続ける事。
決して、与えられた時間を無駄に浪費する事じゃない。
決して、自らで無駄だと決め付けて諦めていいものじゃない。
それならば、私も向き合おう。
それを教えてくれた人のためにも。
私自身のためにも。
私の世界に待つ、私の大切な人にもう一度出会うためにも。
たとえどんなに苦しくても。
たとえどんなに悲しくても。
もう私は諦めない。
立ち向かって、戦って……抗い続けてみせる。
この平安という月夜の世界の、孤独な運命に。
(続)