緊張し過ぎて気付かないで服の中側から握り締めてた袖を離して、やっぱり無意識の内に詰めていた息をはあっ、って吐く。
白石も変に入ってた力が抜けたせいで、かくんって頭をちょっと下げるのと同時にげんこつが解けてた。
本当はせーので一緒に言うんじゃなくて、やっぱり私から白石に言いたかったんだけど、こっちの方が対等な感じで良かったのかも。
そうだね、好きって言う時ぐらいはアイドルとそのアシスタントって立ち位置じゃなくてもいいよね。
普通の、どこにでもいる女の子との男の子でいてもいいよね。
でもあれだよ、これからはたまにアイドルとアシスタントじゃない時間だってあるだろうけど、
その時以外でもあんまり調子に乗ったらこれまで通りに痛い目見て貰うから。
……っていつも通りに強気に言えればいいんだけど、なんかね、
さっきの好きって言ったのがすっごくすっごく恥ずかしくて、軽口すら叩けなくなってる。
でも、言った言葉が同じで良かった。好きって一緒に言えて良かった。
それは良かったんだけど、さっきからどっちも動けなくて固まったままっていうのは良くない。
何か言わないと、動かないと。
ええと、漫画の中の人達は告白した後何してたっけ。
部屋に置いてある少女漫画の雑誌や単行本を頭の中で思い浮かべてページを捲る。
大体のお話はハプニングの連続で、普通は告白した後にするようなことを告白する前にやっちゃったり
……とにかくなんかこう、うにゃうにゃだったりするからあんまり参考にならないなあ。
告白した後にすること…………デート? ちゅー?
どうなんだろう、ちゅーなら今できるけど。
そろそろと目線を上げて、手持ち無沙汰な白石と目を合わせる。
そうしたら、私を見て一回瞬きをして、それからまた顔が赤くなった。
わ、わ、なんでまた赤くなるの!
こっちまで顔が熱くなるのが解る。あくびじゃないんだから私にまで感染させるな、こら!
白石のくせにさっきから私の調子引っ掻き回して、ほんといい度胸してる。
懲らしめるために、目の前にあった白石の学ランの胸の辺りに手を置く。
そのまま胸倉を鷲掴み、するんじゃなくて、軽く摘んで顔だけを上に向ける。
むう、当たり前だけどこれだけじゃ白石のとこまで届かない。
盛大におろおろしてる白石は放っといて、ぎりぎりまで背伸びする。
白石も変に入ってた力が抜けたせいで、かくんって頭をちょっと下げるのと同時にげんこつが解けてた。
本当はせーので一緒に言うんじゃなくて、やっぱり私から白石に言いたかったんだけど、こっちの方が対等な感じで良かったのかも。
そうだね、好きって言う時ぐらいはアイドルとそのアシスタントって立ち位置じゃなくてもいいよね。
普通の、どこにでもいる女の子との男の子でいてもいいよね。
でもあれだよ、これからはたまにアイドルとアシスタントじゃない時間だってあるだろうけど、
その時以外でもあんまり調子に乗ったらこれまで通りに痛い目見て貰うから。
……っていつも通りに強気に言えればいいんだけど、なんかね、
さっきの好きって言ったのがすっごくすっごく恥ずかしくて、軽口すら叩けなくなってる。
でも、言った言葉が同じで良かった。好きって一緒に言えて良かった。
それは良かったんだけど、さっきからどっちも動けなくて固まったままっていうのは良くない。
何か言わないと、動かないと。
ええと、漫画の中の人達は告白した後何してたっけ。
部屋に置いてある少女漫画の雑誌や単行本を頭の中で思い浮かべてページを捲る。
大体のお話はハプニングの連続で、普通は告白した後にするようなことを告白する前にやっちゃったり
……とにかくなんかこう、うにゃうにゃだったりするからあんまり参考にならないなあ。
告白した後にすること…………デート? ちゅー?
どうなんだろう、ちゅーなら今できるけど。
そろそろと目線を上げて、手持ち無沙汰な白石と目を合わせる。
そうしたら、私を見て一回瞬きをして、それからまた顔が赤くなった。
わ、わ、なんでまた赤くなるの!
こっちまで顔が熱くなるのが解る。あくびじゃないんだから私にまで感染させるな、こら!
白石のくせにさっきから私の調子引っ掻き回して、ほんといい度胸してる。
懲らしめるために、目の前にあった白石の学ランの胸の辺りに手を置く。
そのまま胸倉を鷲掴み、するんじゃなくて、軽く摘んで顔だけを上に向ける。
むう、当たり前だけどこれだけじゃ白石のとこまで届かない。
盛大におろおろしてる白石は放っといて、ぎりぎりまで背伸びする。
大分近付けたけど、それでもまだちょっと足りないかな。
ていうか白石、おたおたしてないで動け。
「ちょっと、あたしだけに背伸びさせるんじゃなくてあんたも屈みなさいよ。あと目ぇ瞑って」
「えっ、な、あ、あの、あきら様……」
「さっさとする!」
「は、はい……」
もう、どっちが男でどっちが年上なんだか。こういうのは男からって言ってたのあんたでしょ。
別に痛いことする訳じゃないのに、ぎゅうっ、って白石はまるでお母さんに叩かれる直前のちっちゃい子みたいに固く目を瞑った。
何、そのいかにも初めてですみたいな反応は。いや私も初めてだけど。
それからちょこっとだけ、本当にちょこっとだけ頭を下げる。もう、そこはむしろあんたからしなさいよ。
仕方ないから頑張って爪先立ちして背伸びする。
あと少し、もうちょっと。
ぎりぎりのとこまで来て、私も目を閉じる。
視界は真っ暗になったけど、目の前の人の肌が触れそうなくらい近くにあるのを感じる。
もう殆どゼロ距離…………
ぴんぽんぱんぽーん
『文化祭実行委員長、白石。反省会を行います、至急生徒会室に来なさい。繰り返します』
ばちっ、って音がするくらい勢い良く、超至近距離で白石も私も目を見開いた。
校舎内だけじゃなくて校庭にも響く校内放送。私達のいるこの屋上にもばっちり聞こえる。
放送している人は関西弁ではなかったけど、発音は標準のものじゃない。
その人はもう一回さっきと同じことを言って、それから口調をがらっと変えた。
『白石、あんたええ度胸しとるなぁ……』
あ、やっぱりあの関西弁の先生だ。
白石も私も目線が合ったまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
『クラスの片付けにはおらんし、反省会には遅れるし。実行委員長やらして下さいゆーて頭下げてこれかいな。
他の委員は全員集まっとるさかい、はよ来いやー』
ぴんぽんぱんぽーん
関西弁の先生は怒ってるっていうより、どっちかっていうとちょっと笑ってるような声色を私の耳に残して放送を終わらせた。
「ふふ」
ぽかんとしている真ん前の白石の顔がおかしくて、つい足から力が抜けちゃう。
爪先立ちと背伸びができなくなって、足の裏が床に着いた。
「あはははは! だっさーい!!」
学ランを掴んでいた手を解いて、白石のまぬけ面を指差して思いっ切り笑ってやった。
ていうか白石、おたおたしてないで動け。
「ちょっと、あたしだけに背伸びさせるんじゃなくてあんたも屈みなさいよ。あと目ぇ瞑って」
「えっ、な、あ、あの、あきら様……」
「さっさとする!」
「は、はい……」
もう、どっちが男でどっちが年上なんだか。こういうのは男からって言ってたのあんたでしょ。
別に痛いことする訳じゃないのに、ぎゅうっ、って白石はまるでお母さんに叩かれる直前のちっちゃい子みたいに固く目を瞑った。
何、そのいかにも初めてですみたいな反応は。いや私も初めてだけど。
それからちょこっとだけ、本当にちょこっとだけ頭を下げる。もう、そこはむしろあんたからしなさいよ。
仕方ないから頑張って爪先立ちして背伸びする。
あと少し、もうちょっと。
ぎりぎりのとこまで来て、私も目を閉じる。
視界は真っ暗になったけど、目の前の人の肌が触れそうなくらい近くにあるのを感じる。
もう殆どゼロ距離…………
ぴんぽんぱんぽーん
『文化祭実行委員長、白石。反省会を行います、至急生徒会室に来なさい。繰り返します』
ばちっ、って音がするくらい勢い良く、超至近距離で白石も私も目を見開いた。
校舎内だけじゃなくて校庭にも響く校内放送。私達のいるこの屋上にもばっちり聞こえる。
放送している人は関西弁ではなかったけど、発音は標準のものじゃない。
その人はもう一回さっきと同じことを言って、それから口調をがらっと変えた。
『白石、あんたええ度胸しとるなぁ……』
あ、やっぱりあの関西弁の先生だ。
白石も私も目線が合ったまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
『クラスの片付けにはおらんし、反省会には遅れるし。実行委員長やらして下さいゆーて頭下げてこれかいな。
他の委員は全員集まっとるさかい、はよ来いやー』
ぴんぽんぱんぽーん
関西弁の先生は怒ってるっていうより、どっちかっていうとちょっと笑ってるような声色を私の耳に残して放送を終わらせた。
「ふふ」
ぽかんとしている真ん前の白石の顔がおかしくて、つい足から力が抜けちゃう。
爪先立ちと背伸びができなくなって、足の裏が床に着いた。
「あはははは! だっさーい!!」
学ランを掴んでいた手を解いて、白石のまぬけ面を指差して思いっ切り笑ってやった。
すごいタイミング。まるで狙ったみたい。
実はちょっとがっかりしてるんだけど、でもそれよりも笑っちゃう。
好きって言おうとしてる時じゃなくて良かった。
途中で邪魔が入っちゃってまた後で、ってなったら恥ずかしくてうやむやにしちゃいそうだけど、好きって言うのはもう終わったし。
両想いって解ったんだから、その後にすること……ちゅーとかデートだけど、時間を見つけてできると思うし。
「あきら様、すみません。そういう訳でちょっと行かないと……」
「うん、行ってらっしゃい。あたし、もう遅いから帰る」
もう暗くなりかけてるしね。
紫色の朝顔の花を潰して、それを薄めた水みたいな色をしている空を見上げる。
太陽はちょっと前から山の向こうに隠れていた。
「一人で大丈夫ですか?」
「へーきへーき。もう子どもじゃないし」
「暗いので気をつけて下さいね。後、最近冷えるので暖かくして……」
『しーらーいーしー!!』
「はいぃ! 只今!!」
今度は呼び出し音なしだ。ちょっと先生がいらいらしているのが声に良く出ている。
白石は慌てて後ろの扉を開けて、でもそのまま廊下に続く階段を降りようとしないで、
扉が閉じないように手で押さえて私を振り返った。
「あきら様」
さっきまでかちこちに緊張してたのが嘘みたいに、いつもよりちょっと嬉しそうに白石が笑うから、
私もいつもよりちょっとでも可愛く笑えてるといいなあ、なんて思いながら白石が押さえてくれてる扉から校舎内に入った。
早く行かないと先生に怒られるよ、って言って白石には先に階段を降りて貰った。
「じゃ、またね」
白石が一番下まで降りて、廊下から私のいる階段を振り返ったから私は袖と手を振った。
「はい、さようなら」
素早くお辞儀して、白石は廊下を走って行った。
廊下は走っちゃいけません、なんだけど急がなきゃいけないし、しょうがないよね。
「今日は本当に、ありがとうございました!」
曲がり角の向こう側に消える前に振り返って立ち止まった白石は、やっと廊下に出た私に向けて深いお辞儀をした。
「どーいたしまして。でもあきらの方も、ありがとー!」
ぴょんぴょん跳ねて、ぱたぱた袖を振り回す。
実はちょっとがっかりしてるんだけど、でもそれよりも笑っちゃう。
好きって言おうとしてる時じゃなくて良かった。
途中で邪魔が入っちゃってまた後で、ってなったら恥ずかしくてうやむやにしちゃいそうだけど、好きって言うのはもう終わったし。
両想いって解ったんだから、その後にすること……ちゅーとかデートだけど、時間を見つけてできると思うし。
「あきら様、すみません。そういう訳でちょっと行かないと……」
「うん、行ってらっしゃい。あたし、もう遅いから帰る」
もう暗くなりかけてるしね。
紫色の朝顔の花を潰して、それを薄めた水みたいな色をしている空を見上げる。
太陽はちょっと前から山の向こうに隠れていた。
「一人で大丈夫ですか?」
「へーきへーき。もう子どもじゃないし」
「暗いので気をつけて下さいね。後、最近冷えるので暖かくして……」
『しーらーいーしー!!』
「はいぃ! 只今!!」
今度は呼び出し音なしだ。ちょっと先生がいらいらしているのが声に良く出ている。
白石は慌てて後ろの扉を開けて、でもそのまま廊下に続く階段を降りようとしないで、
扉が閉じないように手で押さえて私を振り返った。
「あきら様」
さっきまでかちこちに緊張してたのが嘘みたいに、いつもよりちょっと嬉しそうに白石が笑うから、
私もいつもよりちょっとでも可愛く笑えてるといいなあ、なんて思いながら白石が押さえてくれてる扉から校舎内に入った。
早く行かないと先生に怒られるよ、って言って白石には先に階段を降りて貰った。
「じゃ、またね」
白石が一番下まで降りて、廊下から私のいる階段を振り返ったから私は袖と手を振った。
「はい、さようなら」
素早くお辞儀して、白石は廊下を走って行った。
廊下は走っちゃいけません、なんだけど急がなきゃいけないし、しょうがないよね。
「今日は本当に、ありがとうございました!」
曲がり角の向こう側に消える前に振り返って立ち止まった白石は、やっと廊下に出た私に向けて深いお辞儀をした。
「どーいたしまして。でもあきらの方も、ありがとー!」
ぴょんぴょん跳ねて、ぱたぱた袖を振り回す。
この学校に呼んでくれて、暗くて怖かったところに来てくれて、
ごめんなさいって聞いてくれて、あきらが好きって言ってくれて。
いっぱいいっぱい、本当にありがとう。
ごめんなさいって聞いてくれて、あきらが好きって言ってくれて。
いっぱいいっぱい、本当にありがとう。
「僕達の勝手な行動でお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい」
翌日、彼女と並んでこの一件で散々迷惑を掛けてしまった事務所の方々に頭を下げた。
桃色の頭が深く下げられ、数秒置いてから元気良く跳ね上がるのを同じく頭を下げたままで横目で見ていた。
「えと、ご覧の通り仲直りしました! あきらとみのるお兄さんの仲良しコンビ復活でーす!」
頭を上げて彼女を見ると、いえーい、と両手を掲げて手の平を僕の方に向けていたので、それに合わせて軽くハイタッチする。
仲良しアピールなのだろうか。
事務所の方々はそんな僕達に少しだけお説教をした後、やれやれといった様な笑顔を浮かべて許してくれた。
また二人で仕事が出来るように取り計らってくれるらしい。
暫くしてその計らいは上手く行き、それぞれに個別の仕事があった所に二人での仕事が増えたので、
僕もあきら様も前より少し忙しくなった。
彼女はプロなので勿論、僕だって曲がりなりにも芸能界の人間なので、
カメラの前では以前のままアイドルとそのアシスタントとして振る舞った。
と言うより、カメラの前で無くとも以前のままでいる時間が殆どだった。
大体彼女はそうしてストイックでいるのだが、ある日を境に僕に妙なちょっかいを掛けてくるようになった。
ちょっかいと呼べるのか否かすら判断の難しい物だけれど。
「あたし今からちょっと寝ちゃうけど、絶対学ランとか掛けちゃだめよ」
収録と収録の間、何もせずにいるには長く、かと言って何かをするには足りない中途半端に空いた時間を控え室で過ごしていると、
突然彼女が机に突っ伏して顔だけを腕の中から持ち上げた状態で僕にそう告げた。
「あ、はい」
この季節、外はそろそろ肌寒くなりかけているが、冷暖房が完備された室内は十分に暖かい。
冷えることは先ず無さそうだが、空気が乾燥し勝ちなので風邪よりも喉の方を心配しなくてはならないのでは無いのだろうか。
気の利かないことに、今まで一度も寝ている彼女に制服を掛けたことは無いので何故唐突に彼女がそう言ったのか疑問だが。
「ごめんなさい」
翌日、彼女と並んでこの一件で散々迷惑を掛けてしまった事務所の方々に頭を下げた。
桃色の頭が深く下げられ、数秒置いてから元気良く跳ね上がるのを同じく頭を下げたままで横目で見ていた。
「えと、ご覧の通り仲直りしました! あきらとみのるお兄さんの仲良しコンビ復活でーす!」
頭を上げて彼女を見ると、いえーい、と両手を掲げて手の平を僕の方に向けていたので、それに合わせて軽くハイタッチする。
仲良しアピールなのだろうか。
事務所の方々はそんな僕達に少しだけお説教をした後、やれやれといった様な笑顔を浮かべて許してくれた。
また二人で仕事が出来るように取り計らってくれるらしい。
暫くしてその計らいは上手く行き、それぞれに個別の仕事があった所に二人での仕事が増えたので、
僕もあきら様も前より少し忙しくなった。
彼女はプロなので勿論、僕だって曲がりなりにも芸能界の人間なので、
カメラの前では以前のままアイドルとそのアシスタントとして振る舞った。
と言うより、カメラの前で無くとも以前のままでいる時間が殆どだった。
大体彼女はそうしてストイックでいるのだが、ある日を境に僕に妙なちょっかいを掛けてくるようになった。
ちょっかいと呼べるのか否かすら判断の難しい物だけれど。
「あたし今からちょっと寝ちゃうけど、絶対学ランとか掛けちゃだめよ」
収録と収録の間、何もせずにいるには長く、かと言って何かをするには足りない中途半端に空いた時間を控え室で過ごしていると、
突然彼女が机に突っ伏して顔だけを腕の中から持ち上げた状態で僕にそう告げた。
「あ、はい」
この季節、外はそろそろ肌寒くなりかけているが、冷暖房が完備された室内は十分に暖かい。
冷えることは先ず無さそうだが、空気が乾燥し勝ちなので風邪よりも喉の方を心配しなくてはならないのでは無いのだろうか。
気の利かないことに、今まで一度も寝ている彼女に制服を掛けたことは無いので何故唐突に彼女がそう言ったのか疑問だが。
「あと、寝顔が可愛いからってちゅーなんてしちゃ絶対だめだから。ぜったい、ぜぇったいだめだから!」
「はい。……はい?」
つい先程と同じように返事をしてしまったが、彼女は僕が聞き返しても繰り返さずにそれだけを言い捨てて顔を腕に埋めた。
心なしか白い衣装と桃色の髪の間から覗く耳が赤く染まっている。
「あきら様?」
問い掛けてみるが返事は無い。そこまで早く寝付ける筈が無いのに、代わりに少し大袈裟な息遣いが聞こえた。
狸寝入りだとしたら彼女ならもっと上手く演技をする筈なのに、変に態とらしい。
するなと言う先程の台詞は彼女なりの牽制なのだろうか。
そんな心配をしなくても、幾らそういう仲……と呼べるようなことは未だに何一つしていないが、
とりあえず想いが通ずる仲になったとは言え、相手が寝ている隙にしようとは思わない。
彼女に不意打ちを出来る程の度胸の持ち合わせも僕には無い。
寝ているのかその振りをしているだけなのか、腕に頭を預けたままの彼女を離れた席で暫く眺めていたが、
余り長く見つめるのも失礼なのでその辺に置いてあった適当な雑誌を手に取る。
表紙を良く見なかったせいで、十代の女子向けの内容だと気付いたのは頁を捲ってからだった。
あきら様に合わせた物を置いてあるから当たり前と言えば当たり前だ。
そこに書かれている記事に別段興味を持てなかったので一通り捲るだけ捲って元に戻す。
並べられた雑誌を暫くぼんやりと眺めていると、なかなか寝付けないのか、
彼女の爪先が薄い絨毯の上でいらいらとリズムを刻み始めた。
霜を踏むような音がする。
子守歌でも歌えばいいのだろうか。いや逆効果か、等と考えていると、あきら様が急にがばりと起き上がった。
近くにあったティッシュケースを鷲掴みにして椅子から勢い良く立ち上がる。
そして、
「なんで何もしないのよ、ばかー!!」
「えー!?」
ティッシュケースが中身のティッシュを撒き散らしながら顔面目掛けて飛んで来た。
「でっ!……んな、するなって言ったのあきら様じゃないですか!」
避けられずにまともに顔面で受け止めてしまったティッシュケースが机の上に落ちる。
「はい。……はい?」
つい先程と同じように返事をしてしまったが、彼女は僕が聞き返しても繰り返さずにそれだけを言い捨てて顔を腕に埋めた。
心なしか白い衣装と桃色の髪の間から覗く耳が赤く染まっている。
「あきら様?」
問い掛けてみるが返事は無い。そこまで早く寝付ける筈が無いのに、代わりに少し大袈裟な息遣いが聞こえた。
狸寝入りだとしたら彼女ならもっと上手く演技をする筈なのに、変に態とらしい。
するなと言う先程の台詞は彼女なりの牽制なのだろうか。
そんな心配をしなくても、幾らそういう仲……と呼べるようなことは未だに何一つしていないが、
とりあえず想いが通ずる仲になったとは言え、相手が寝ている隙にしようとは思わない。
彼女に不意打ちを出来る程の度胸の持ち合わせも僕には無い。
寝ているのかその振りをしているだけなのか、腕に頭を預けたままの彼女を離れた席で暫く眺めていたが、
余り長く見つめるのも失礼なのでその辺に置いてあった適当な雑誌を手に取る。
表紙を良く見なかったせいで、十代の女子向けの内容だと気付いたのは頁を捲ってからだった。
あきら様に合わせた物を置いてあるから当たり前と言えば当たり前だ。
そこに書かれている記事に別段興味を持てなかったので一通り捲るだけ捲って元に戻す。
並べられた雑誌を暫くぼんやりと眺めていると、なかなか寝付けないのか、
彼女の爪先が薄い絨毯の上でいらいらとリズムを刻み始めた。
霜を踏むような音がする。
子守歌でも歌えばいいのだろうか。いや逆効果か、等と考えていると、あきら様が急にがばりと起き上がった。
近くにあったティッシュケースを鷲掴みにして椅子から勢い良く立ち上がる。
そして、
「なんで何もしないのよ、ばかー!!」
「えー!?」
ティッシュケースが中身のティッシュを撒き散らしながら顔面目掛けて飛んで来た。
「でっ!……んな、するなって言ったのあきら様じゃないですか!」
避けられずにまともに顔面で受け止めてしまったティッシュケースが机の上に落ちる。
「熱湯風呂の前で押すなと言われれば押す、補助輪なしの自転車に乗っている園児に荷台から手を放すなと言われれば放す、
学ランを掛けるなと言われれば掛ける、ちゅーするなと言われればする!
お笑い芸人ならそんなの常識でしょーが!」
片手で机を強く叩き、もう片方の手は空気を掻き回す怒った素振りの彼女の顔はどこか赤い。
前の二つはまだ解るが、後の二つは聞いたことが無い。
恐らく彼女が今付け足したのだろう。
しかし、常識だと言われても僕はやっていることはお笑いみたいな物だが、決してお笑い芸人では無いのだ。
それに補助輪の件はお笑い芸人の常識ではなく、その園児の家族の物だろう。
「カット、NG、やり直し! ちょっと時間開けてからもっかい来なさい」
彼女は扉を開いてから、僕の後ろに回って背中を押し廊下へと追いやる。
「え、あの、いやその、ちょっと」
相変わらず誰にも有無を言わせない強い力だ。その小さな体のどこにそんな力を隠しているのだろう。
廊下に押し出された瞬間に扉を閉められてしまい、振り返ったものの鼻先には堅い板があるだけだった。
ノックをするが応答は得られない。
仕方がない、どれくらい時間を置けばいいのだろうと考えて、
とりあえずこの一つ下の階にある自動販売機で飲み物を買って帰る程度でいいかと歩き出す。
階段を降りて踊り場に差し掛かる時、彼女は機嫌が良い日は鼻歌と共に最後の二、三段を一息に跳び降りる。
跳ねる髪と翻るセーラーに、最初の頃は着地に失敗しないだろうかと随分とはらはらさせられた。
エレベーターを使うまでも無いので階段を降りている今、下の段にも隣にも上の段にも彼女の姿は無い。
その彼女曰く、僕は部屋に戻ったら寝ているその人に制服を掛けて、それから……まあ、あれだ、あれ。
あれってどれだ、全く何も知らない子どもじゃないんだから。とにかく口付けなくてはいけない、らしい。
脳内イメージを起こし掛けて、寸での所で頭を左右に振って散らす。
顔が熱い。
今時小学生だってイメージするだけでここまで恥ずかしくて仕方がないなんてことは無いのでは、
と思うのだがそうなってしまうのだからどうしようもない。
気が付くと目当ての自動販売機の前を数歩程通り過ぎてしまっていた。
学ランを掛けるなと言われれば掛ける、ちゅーするなと言われればする!
お笑い芸人ならそんなの常識でしょーが!」
片手で机を強く叩き、もう片方の手は空気を掻き回す怒った素振りの彼女の顔はどこか赤い。
前の二つはまだ解るが、後の二つは聞いたことが無い。
恐らく彼女が今付け足したのだろう。
しかし、常識だと言われても僕はやっていることはお笑いみたいな物だが、決してお笑い芸人では無いのだ。
それに補助輪の件はお笑い芸人の常識ではなく、その園児の家族の物だろう。
「カット、NG、やり直し! ちょっと時間開けてからもっかい来なさい」
彼女は扉を開いてから、僕の後ろに回って背中を押し廊下へと追いやる。
「え、あの、いやその、ちょっと」
相変わらず誰にも有無を言わせない強い力だ。その小さな体のどこにそんな力を隠しているのだろう。
廊下に押し出された瞬間に扉を閉められてしまい、振り返ったものの鼻先には堅い板があるだけだった。
ノックをするが応答は得られない。
仕方がない、どれくらい時間を置けばいいのだろうと考えて、
とりあえずこの一つ下の階にある自動販売機で飲み物を買って帰る程度でいいかと歩き出す。
階段を降りて踊り場に差し掛かる時、彼女は機嫌が良い日は鼻歌と共に最後の二、三段を一息に跳び降りる。
跳ねる髪と翻るセーラーに、最初の頃は着地に失敗しないだろうかと随分とはらはらさせられた。
エレベーターを使うまでも無いので階段を降りている今、下の段にも隣にも上の段にも彼女の姿は無い。
その彼女曰く、僕は部屋に戻ったら寝ているその人に制服を掛けて、それから……まあ、あれだ、あれ。
あれってどれだ、全く何も知らない子どもじゃないんだから。とにかく口付けなくてはいけない、らしい。
脳内イメージを起こし掛けて、寸での所で頭を左右に振って散らす。
顔が熱い。
今時小学生だってイメージするだけでここまで恥ずかしくて仕方がないなんてことは無いのでは、
と思うのだがそうなってしまうのだからどうしようもない。
気が付くと目当ての自動販売機の前を数歩程通り過ぎてしまっていた。
しっかりしろ。
小銭を入れて、点灯したランプを目で追う。売り切れ無し。
陳列された沢山の飲み物の中でも、特にバナナオレと苺みるくとフルーツミックスが彼女のお気に入りだった。
けれど甘党かと思えばなかなか渋い、僕でも舌に合わないような物を好んだりもする。
何となく苺みるくを飲むあきら様が見たかったので、それとコーヒー牛乳を買って部屋に戻る。
演技であろうと彼女は寝ている訳だから、なるべく音を立てないように扉を開いた。
こちらに向けられた背中は規則的に上下し、足音を殺して近寄るとすやすやと寝息まで立てているのが聞こえる。
どうやら振りのつもりが本当に眠ってしまったらしい。
最近は忙しいので疲れが溜っているのだろう。
起こすのも忍びないので彼女の腕の直ぐ側に苺みるくを置いて、とりあえず言われた通りに制服の上着を揺れる小さな肩に掛ける。
真横に座るのは気恥ずかしいので椅子一つ分のスペースを空けて、そこの椅子に腰掛けた。
おいお前それだけかよこのへたれ、と自分で思わない訳でもない。
一息ついてストローを紙パックに刺して口に含んだ。
寝顔だけは天使、とはやんちゃな子どもを持った親の弁だが、
こうして天使と呼べなくも無いあどけない寝顔……恥ずかしいなおい、
まあとにかくそれを見ると、やはりアイドルである彼女も本質は普通の中学生なんだな、と当たり前のことを改めて思い知らされる。
アイドル。中学生。
その二つが僕に能動な行動を取らせずにいるのではないのか、と自分のへたれは棚に上げてそう思う。
彼女はきっと年齢の違いも、彼女が売れっ子アイドルであって僕が駆け出しの新人であるこもさして気にしていないのだろうから、
もう少し僕も気楽に振る舞ってもいいのだろう、けれど。
眠ったままの彼女を見つめる。人差し指でつついたら弾力で直ぐに押し戻されそうな頬だ。
それでも、この前のハイタッチの時に触れ合わせた彼女の手の平の小ささが僕をこの離れた席に搦めてしまう。
幼い子どもの手だな、と思ってしまうのだ。
こうして手の平の大きさ一つ取ってみても差をまざまざと見せ付けられるのだから、
彼女の二つ目の残った願い事は叶えられそうもない。
少なくとも今は。
手を繋げと言われれば勿論するし、彼女が甘えて来たのならそれなりに応えるつもりでいる。実際に制服はちゃんと掛けた。
小銭を入れて、点灯したランプを目で追う。売り切れ無し。
陳列された沢山の飲み物の中でも、特にバナナオレと苺みるくとフルーツミックスが彼女のお気に入りだった。
けれど甘党かと思えばなかなか渋い、僕でも舌に合わないような物を好んだりもする。
何となく苺みるくを飲むあきら様が見たかったので、それとコーヒー牛乳を買って部屋に戻る。
演技であろうと彼女は寝ている訳だから、なるべく音を立てないように扉を開いた。
こちらに向けられた背中は規則的に上下し、足音を殺して近寄るとすやすやと寝息まで立てているのが聞こえる。
どうやら振りのつもりが本当に眠ってしまったらしい。
最近は忙しいので疲れが溜っているのだろう。
起こすのも忍びないので彼女の腕の直ぐ側に苺みるくを置いて、とりあえず言われた通りに制服の上着を揺れる小さな肩に掛ける。
真横に座るのは気恥ずかしいので椅子一つ分のスペースを空けて、そこの椅子に腰掛けた。
おいお前それだけかよこのへたれ、と自分で思わない訳でもない。
一息ついてストローを紙パックに刺して口に含んだ。
寝顔だけは天使、とはやんちゃな子どもを持った親の弁だが、
こうして天使と呼べなくも無いあどけない寝顔……恥ずかしいなおい、
まあとにかくそれを見ると、やはりアイドルである彼女も本質は普通の中学生なんだな、と当たり前のことを改めて思い知らされる。
アイドル。中学生。
その二つが僕に能動な行動を取らせずにいるのではないのか、と自分のへたれは棚に上げてそう思う。
彼女はきっと年齢の違いも、彼女が売れっ子アイドルであって僕が駆け出しの新人であるこもさして気にしていないのだろうから、
もう少し僕も気楽に振る舞ってもいいのだろう、けれど。
眠ったままの彼女を見つめる。人差し指でつついたら弾力で直ぐに押し戻されそうな頬だ。
それでも、この前のハイタッチの時に触れ合わせた彼女の手の平の小ささが僕をこの離れた席に搦めてしまう。
幼い子どもの手だな、と思ってしまうのだ。
こうして手の平の大きさ一つ取ってみても差をまざまざと見せ付けられるのだから、
彼女の二つ目の残った願い事は叶えられそうもない。
少なくとも今は。
手を繋げと言われれば勿論するし、彼女が甘えて来たのならそれなりに応えるつもりでいる。実際に制服はちゃんと掛けた。
が、好きだと伝えるのと口付けるという二つの行為は、繋がっているとは思うけれど僕の中では全く違うのだ。
したくないと言えば嘘になる。
けれど、それを僕の方から彼女にするのには、どうにも踏み切れない。
文化祭の後で彼女の方から目を瞑るように言われて従ったのは、今思えば気圧されたのではなくて、既にそんな考えを持っていたからかもしれない。
あの時と違ってこちらからするように彼女が言ったのは、心変わりしたのか、
それともこういうのは男からとの僕の台詞が引っ掛かったからなのか。
この差を気にしていて動けないのなら、彼女がアイドルでもなく中学生でもない、
平凡な同い年の女の子だったら躊躇無くするのかと自問してみたが、
それは仮定の域を越えないので答えを出そうにも無理な話だし、結局はもしもの話なので役に立たない。
だって僕が好きな彼女はもう暫くの間中学生だし、多分ずっとアイドルだから。
………まあ、あきら様を好きだと気付いた時から否応無しに突き付けられていたけど、こうして考えるとやっぱりロリコンだよなあ。
余り世間体の良くないその略語を甘ったるいコーヒー牛乳に混ぜて飲み込み、空になった紙パックをごみ箱に捨てる。
それから数分も置かずに扉が軽くノックされ、顔を覗かせたスタッフにスタジオに入るように言われた。
準備のためか直ぐさま持ち場に戻るその人に返事をして、熟睡している彼女の肩を軽く揺すって起こす。
「あきら様、起きて下さい」
「んー……?」
「もう時間ですよ」
「ふぇーい……」
夢の世界から引き戻されたばかりの彼女は何事かむにゃむにゃ言っていたけれど、眠たげな目差しが苺みるくを捕らえ、
次に掛けられた制服を捕らえた途端に眠気が吹っ飛んだようにどんぐり眼が瞬いた。
「あ……」
片手で制服の肩辺りを押さえ、上着を数秒見詰めた後に弾かれるように立ち上がる。
彼女はこちらをちらりとも見ないで、開けたままになっていた扉から慌てた様子で廊下に出た。
起き抜けだと喉が渇いて喋り難いのでは、と思って置き去りにされた苺みるくを持ち、何処と無く早足気味な彼女の横に並ぶ。
「あきら様、喉渇いてませんか?」
紙パックを差し出すと、彼女は無言でそれを奪い取る。相変わらずこちらを見てくれない。
中の物を飲んで咥えていたストローを離し、彼女が一呼吸つくとやっと目が合った。
「………ど、どこにした?」
したくないと言えば嘘になる。
けれど、それを僕の方から彼女にするのには、どうにも踏み切れない。
文化祭の後で彼女の方から目を瞑るように言われて従ったのは、今思えば気圧されたのではなくて、既にそんな考えを持っていたからかもしれない。
あの時と違ってこちらからするように彼女が言ったのは、心変わりしたのか、
それともこういうのは男からとの僕の台詞が引っ掛かったからなのか。
この差を気にしていて動けないのなら、彼女がアイドルでもなく中学生でもない、
平凡な同い年の女の子だったら躊躇無くするのかと自問してみたが、
それは仮定の域を越えないので答えを出そうにも無理な話だし、結局はもしもの話なので役に立たない。
だって僕が好きな彼女はもう暫くの間中学生だし、多分ずっとアイドルだから。
………まあ、あきら様を好きだと気付いた時から否応無しに突き付けられていたけど、こうして考えるとやっぱりロリコンだよなあ。
余り世間体の良くないその略語を甘ったるいコーヒー牛乳に混ぜて飲み込み、空になった紙パックをごみ箱に捨てる。
それから数分も置かずに扉が軽くノックされ、顔を覗かせたスタッフにスタジオに入るように言われた。
準備のためか直ぐさま持ち場に戻るその人に返事をして、熟睡している彼女の肩を軽く揺すって起こす。
「あきら様、起きて下さい」
「んー……?」
「もう時間ですよ」
「ふぇーい……」
夢の世界から引き戻されたばかりの彼女は何事かむにゃむにゃ言っていたけれど、眠たげな目差しが苺みるくを捕らえ、
次に掛けられた制服を捕らえた途端に眠気が吹っ飛んだようにどんぐり眼が瞬いた。
「あ……」
片手で制服の肩辺りを押さえ、上着を数秒見詰めた後に弾かれるように立ち上がる。
彼女はこちらをちらりとも見ないで、開けたままになっていた扉から慌てた様子で廊下に出た。
起き抜けだと喉が渇いて喋り難いのでは、と思って置き去りにされた苺みるくを持ち、何処と無く早足気味な彼女の横に並ぶ。
「あきら様、喉渇いてませんか?」
紙パックを差し出すと、彼女は無言でそれを奪い取る。相変わらずこちらを見てくれない。
中の物を飲んで咥えていたストローを離し、彼女が一呼吸つくとやっと目が合った。
「………ど、どこにした?」
かあ、等と効果音を付けたくなる程見事に首から額へと顔を淡い桃色に染めて、
彼女は苺みるくを持っていない方の袖で頬と額、最後に唇を押さえた。
何もしていないのに、釣られて赤くなりそうになるのを必死に押さえ付ける。
「いえ、どこにもしてません」
「ふ、ふーん。あっそ、おでこにね………え?」
首を左右に振る僕に彼女はきょとんとしたが、それも少しの間だけで見る見る内に不機嫌になって眉間に皺を寄せた。
「あ、ちょっとあきら様!」
苺みるくの紙パックが宙を飛んだ。
中身は殆ど余っていなかったのか、幸いにも数メートル先に落ちても床には何も零れなかった。
「ポイ捨てはいけませ、ぶっ!」
紙パックから隣の彼女に目線を移動させたが、彼女を目に入れる前に投げ付けられた制服に視界を覆われた。
スタジオに入るまでなら貸したままでいいかなと呑気に思っていたのでこれは不意打ちだった。
ていうか顔に当って地味に痛い。
「ばーかばーか、白石のばーか!!」
制服を引き剥がすのに手間取っている僕にそう言い捨て、彼女の足音が遠ざかる。
視界が開けた頃には、ついさっきまで隣にいたあきら様の背中は手の届かない所にあった。
肩を怒らせながら、ずかずかと歩く背中の側面に下ろされた片手には苺みるくの紙パックが握られていて、
投げ捨てておきながら通り過ぎることはせずに、床に転がったそれを屈んで拾ったのは可愛らしいなと思った。
彼女は苺みるくを持っていない方の袖で頬と額、最後に唇を押さえた。
何もしていないのに、釣られて赤くなりそうになるのを必死に押さえ付ける。
「いえ、どこにもしてません」
「ふ、ふーん。あっそ、おでこにね………え?」
首を左右に振る僕に彼女はきょとんとしたが、それも少しの間だけで見る見る内に不機嫌になって眉間に皺を寄せた。
「あ、ちょっとあきら様!」
苺みるくの紙パックが宙を飛んだ。
中身は殆ど余っていなかったのか、幸いにも数メートル先に落ちても床には何も零れなかった。
「ポイ捨てはいけませ、ぶっ!」
紙パックから隣の彼女に目線を移動させたが、彼女を目に入れる前に投げ付けられた制服に視界を覆われた。
スタジオに入るまでなら貸したままでいいかなと呑気に思っていたのでこれは不意打ちだった。
ていうか顔に当って地味に痛い。
「ばーかばーか、白石のばーか!!」
制服を引き剥がすのに手間取っている僕にそう言い捨て、彼女の足音が遠ざかる。
視界が開けた頃には、ついさっきまで隣にいたあきら様の背中は手の届かない所にあった。
肩を怒らせながら、ずかずかと歩く背中の側面に下ろされた片手には苺みるくの紙パックが握られていて、
投げ捨てておきながら通り過ぎることはせずに、床に転がったそれを屈んで拾ったのは可愛らしいなと思った。
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- 素直になったあきら様も良いですね。 -- 名無しさん (2008-04-19 21:53:47)