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残し物-4

最終更新:

匿名ユーザー

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私はベッドに腰を掛け、膝に乗せたノートパソコンのキーを叩いている。
急ぎの仕事をやり残したまま休日を迎えてしまったため、こうして自宅に持ち帰ってこなしている最中だ。
断っておくが、決して仕事場での私の手際が悪かったわけではなく
ただこの一週間、残業という残業を尽く避けてきたが故の報いだった。

隣では、私が残業を避ける事となった唯一の原因が寄り添うようにして存在し
パソコンの画面をいかにも興味ありげに覗き込んでいる。
パソコンを初めて見る、という訳では勿論なかったのだが
最新の物はやはり珍しいらしく、一時間も前から私の側を離れない。
時たまに青い髪が揺れたり、肩が触れたりする度に
私の心持ちは何処かこそばゆくなり、タイプする指が調子を上げた。

こうして彼女自ら私の傍らに身を置いてくれる、その目的がノートパソコンである事が幾分悔しくもあるのだけれど。
半ば邪見にされていた当初と比べると、だいぶ私になついてくれたようでやはり嬉しい。
そんなつもりは更々無さげに振る舞う彼女だが、日々確実に距離は縮まっていると私は思う。

何度目かに私達の腕が擦れあった時、私はふと思い出した事があり、隣の少女に目を向けた。
詳しくはそれの着ている洋服で、見た目は彼女のリュックサック同様のボロではないものの若干の色褪せを見せている。
他に所持していた何着かも、確か似たような状態であったと思う。
知らずに、私はぱたりと指の動きを止めていた。

「……?」

彼女が私を見上げた事でそれに気付いたのだけれど、この際だから今日はパソコンを畳んでしまおうと思う。
何やら楽しみな用事を思い付いてしまったようだから。

「…こなた、服見に行こっか。」

来週こそ、残業は避けられなくなりそうだ




─────


「ホラ、コレなんて似合うんじゃない?」
「こっちはどう? アンタ、ラフな感じの好きでしょ」
「うわ、すごいミニ…。これはちょっと露出が多すぎね。」

「…………。」

少し遠出をして百貨店に足を運んだ私達。
さっそく洋服売り場に来てみると、当然だが多種多様な品々が陳列されているわけで。
取り敢えず目につく服を片っ端から手に取ってみるのだけど、どうにも私には決められない。
肝心のこなたは呆然としていて、買い物はまるで捗りを見せていなかった。

「ちょっとこなた、アンタも選ぶの手伝いなさいよ」

「い、いや…ね、選ぶ以前の問題が…。」

やっと口を開いたかと思うと、ちょいちょいと頭上を指差すこなた。
その先には『子供服』と書かれた吊し看板があるだけだ。
バカね、心配しなくてもそれは落ちて来ないわよ。

「や、何で子供服売り場に来てんのって事なんだけど…」

「アンタが子供だからじゃない」

セール品の下着を投げつけてくる。
こらこら、そんな物で遊ぶんじゃありません。



結局、一般のコーナーで店員に見繕ってもらった物を二三購入し、その百貨店を後にした。
取り立てて帰りを急ぐ用事も無いので、その後は駅周辺の店を見てまわる事となった。
正直な所、買い物を口実にこうしてブラつきたかっただけかも知れない。
すぐ隣を歩く少女を覗き見て、今更にそう思った。

商品を飾るウインドウは歩道に並ぶ店ごとに存在し
それをいちいち覗いてみるこなたは、私の視線に気付く暇もない。
家出者がこういった公の場を歩くなど、今までそんな気分にもならなかったのだろう。
まるで上京者が初めて都会を歩くような、そんな初々しさを振り撒いていた。

「欲しい物があったら言いなさいよ」

気前よくそう言ってはみても、いざそうなるとこなたはウインドウから目を背ける。
買うとなると気を使ってしまうのか、先程からあからさまに気に掛けていたディープなおもちゃ屋にもそっぽを向いている。
その子供染みた遠慮の仕方が、ぷいと余所を向いたこなたの表情がやけに可愛くて。
私はこいつに、余計何かを買い与えてやりたくなるのだった。




そんなこなたが、ふと足を止めた。
すぐに気付いた私が振り向くと、彼女は1つのグッズ店に足を止められていた。
金縛りにあったように見つめる、その先にはガラスを隔てて小さなストラップが飾られていた。
私はニヤリとせずには居られない。

「…それ、欲しいんだ?」

「ふわぁ!」

背後にまわり、そっと耳元で囁いてやると、まるで期待した通りに驚いてくれた。
慌てて否定するように首を振るのだけど、あれだけ凝視しておいて往生際が悪い。

「買ってきてあげるから、ちょっと待ってなさいよ」

「え…ちょっ…!」

私は躊躇いもせず、いかにもアレな品揃えの店に足を踏み入れた。


─────


「はいっ、買って来たわよ。」

彼女が見つめていたストラップには、饅頭のような猫が備え付いていた。
白い楕円に耳と尾が生え、可愛らしい猫の顔のイラストがプリントされている。
たった数百円のそれをプレゼントと言うには烏滸がましい気もするが、こなたが喜んでくれるならそれでいい。
そもそもプレゼントはそういう物だと、私は包みを手渡した。


「……………。」

受け取ったこなたは、やはり大喜びなんて大それた反応は示さなかったが
変わりに、それを見つめて何故か黙り込んでしまった。
小さな紙袋をしっかりと両手に、俯く姿が何処か儚げだ。

…おかしい、もしや買う物を間違えただろうか。
私は少し屈んで、恐る恐る様子を伺ってみた。

「……こなた?」




今思えば、彼女のだんまりはそんな容易い理由ではなかった。


「……えと、ありがとっ」

ただ、その時の私は知らなくて
不意に顔を上げてみせた彼女の仄かな笑みが、どうして哀しく映るのかが解らなかった。













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  •  この話の引っ込み思案な子供に接する、甲斐甲斐しい母親のような、
    かがみの思考・行動が好きです。
    特に子供服と書かれた看板に指差したこなたに対して、バカね、
    心配しなくてもそれは落ちて来ないわよ思う件が、私も小さい頃に
    直に言われたことがあるので、ついニヤケてしまいました。 -- 名無しさん (2008-10-12 21:07:49)

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