「はるかのヤツ……覚えてろよ」
悪役の逃げ口上にしか使われない台詞で毒づいて、ギュッギュッとそうじろうは食器を拭き始めた。
一方はるかは、大事なことに気付いたようだった。
「あ、二人とも下着とか持ってきてないじゃん。私だけ先に入るのか……嫌だな……」
余計なことを考えているうちにお湯は溢れそうな程に張り詰め、慌ててはるかは蛇口をキュッと捻った。
はるかが居間に戻って、ばつが悪そうにさっき気付いた話をすると、途中でそうじろうは話を切り上げ、
「……で、俺たちの着替えがないことにも気付かないでお湯を張っていた、と」
呆れた目線をはるかに送った。
「まぁまぁ、急げばお湯は冷めないよ」
かなたは頑張ってフォローするが、そうじろうは話に流されていることに気付いた。
「いやいや、そのまま家に帰って自分の風呂に入れば良いんじゃないか?」
「そう君、さっきの話、忘れたの?」
肘でチョンチョンと脇腹を突かれ、そうじろうは確かに思い出す。しかし、
「だったらかなただけでも……」
淡い期待は、かなたの言葉で簡単に打ち破られたのだった。
「ダメ。二人いるなら、必ず三人。この先も、ずっと一緒」
かなたは未来の自分を想像せずに言い放った。そうじろうもそうじろうで、年相応の青い欲望を露にすることなく、
むしろ『幼馴染』が形作ってしまう独特の壁に阻まれていた。
「しかし、本当に三人で入るのか……?」
「入るの!」
弱気な発言ははるかにピシャリと畳まれ、どうしようもこうしようもなくなったそうじそうは渋々了承した。
「んじゃ、着替え取ってくるか。明日は日曜日だしな」
「そそ、そうだよ、そうこなくっちゃ!」
はるかはお泊り会が確定したのを受け、引きつった笑いを浮かべていた。
「それじゃ、行ってくるな、はるか」
「え、ま、待って!」
秋の夜長、少しずつ底冷えが厳しくなり、外に出るのを些か躊躇うような時間になって、はるかは二人にくっついて外に出た。
「お前は中にいていいんだ……ぞ。あ、いや、なんでもない」
ついさっき釘を刺されたことを思い出す。『はるかは一人ではいられないタイプ』なのだと。
「はぁ、ついて来い」
「うんっ!」
嬉々としてそうじろうの右腕に飛びつく。それを見たかなたも、はるかに倣って、
「それじゃ、私も……」
左腕にそっと寄り添った。これが空想なら文字通り両手に花、男なら是非一度体験してみたいのだが、これは現実、
「離してくれ、歩きにくい」
三人で手を繋ぐことに落ち着いた。
「手を繋いで家に帰るのって、小学校のちっちゃい頃以来だね」
「そうだな。幼稚園の頃はこうやって三人で手を繋いで通園バスに乗ってたりしたな」
「私たちはあの頃とおんなじ……ううん、ちょっとだけ変わったけど、色々おんなじ」
街灯は少なく、工事も今は止んで、静かな住宅地の静かで綺麗な夜空が、大パノラマとなって三人の頭上に花開く。
沢山の星が数え切れないほど輝いている様子は、環境問題が叫ばれている今、次の世代では見れないんだろうなと、
そうじろうはぼんやりと頭で考えていた。
「ねぇ、そう君、はるちゃん。私たち、ずっと一緒だよね?」
唐突にかなたは言い出した。多分、同じ事を考えていたのだろう、はるかは力強く同意した。が、
「けどねぇ……泉君、私は泉君とはいつまでも一緒にいられないかもね」
「突然どうしたの、はるちゃん?」
「いや、なんでもないんだけどさ……そうだ!」
はるかは何かを思いついて、そうじろうにまたもや指を突きつけた。
「もしあの星を、この空で一番明るい星を取ってきてくれたら、私、ずーっと一緒にいる!」
そんな無茶な、と嗤う二人に、はるかは必死に言う。
「絶対だからね! あの星を、取ってきて。ねぇ、泉君?」
そうじろうは、無理だ無茶だと思いつつ、何とかその思いを飲み込んで「ああ」とだけ言った。
それだけだというのに、はるかが飛び上がって喜んだ理由がそうじろうには分からなかった。
悪役の逃げ口上にしか使われない台詞で毒づいて、ギュッギュッとそうじろうは食器を拭き始めた。
一方はるかは、大事なことに気付いたようだった。
「あ、二人とも下着とか持ってきてないじゃん。私だけ先に入るのか……嫌だな……」
余計なことを考えているうちにお湯は溢れそうな程に張り詰め、慌ててはるかは蛇口をキュッと捻った。
はるかが居間に戻って、ばつが悪そうにさっき気付いた話をすると、途中でそうじろうは話を切り上げ、
「……で、俺たちの着替えがないことにも気付かないでお湯を張っていた、と」
呆れた目線をはるかに送った。
「まぁまぁ、急げばお湯は冷めないよ」
かなたは頑張ってフォローするが、そうじろうは話に流されていることに気付いた。
「いやいや、そのまま家に帰って自分の風呂に入れば良いんじゃないか?」
「そう君、さっきの話、忘れたの?」
肘でチョンチョンと脇腹を突かれ、そうじろうは確かに思い出す。しかし、
「だったらかなただけでも……」
淡い期待は、かなたの言葉で簡単に打ち破られたのだった。
「ダメ。二人いるなら、必ず三人。この先も、ずっと一緒」
かなたは未来の自分を想像せずに言い放った。そうじろうもそうじろうで、年相応の青い欲望を露にすることなく、
むしろ『幼馴染』が形作ってしまう独特の壁に阻まれていた。
「しかし、本当に三人で入るのか……?」
「入るの!」
弱気な発言ははるかにピシャリと畳まれ、どうしようもこうしようもなくなったそうじそうは渋々了承した。
「んじゃ、着替え取ってくるか。明日は日曜日だしな」
「そそ、そうだよ、そうこなくっちゃ!」
はるかはお泊り会が確定したのを受け、引きつった笑いを浮かべていた。
「それじゃ、行ってくるな、はるか」
「え、ま、待って!」
秋の夜長、少しずつ底冷えが厳しくなり、外に出るのを些か躊躇うような時間になって、はるかは二人にくっついて外に出た。
「お前は中にいていいんだ……ぞ。あ、いや、なんでもない」
ついさっき釘を刺されたことを思い出す。『はるかは一人ではいられないタイプ』なのだと。
「はぁ、ついて来い」
「うんっ!」
嬉々としてそうじろうの右腕に飛びつく。それを見たかなたも、はるかに倣って、
「それじゃ、私も……」
左腕にそっと寄り添った。これが空想なら文字通り両手に花、男なら是非一度体験してみたいのだが、これは現実、
「離してくれ、歩きにくい」
三人で手を繋ぐことに落ち着いた。
「手を繋いで家に帰るのって、小学校のちっちゃい頃以来だね」
「そうだな。幼稚園の頃はこうやって三人で手を繋いで通園バスに乗ってたりしたな」
「私たちはあの頃とおんなじ……ううん、ちょっとだけ変わったけど、色々おんなじ」
街灯は少なく、工事も今は止んで、静かな住宅地の静かで綺麗な夜空が、大パノラマとなって三人の頭上に花開く。
沢山の星が数え切れないほど輝いている様子は、環境問題が叫ばれている今、次の世代では見れないんだろうなと、
そうじろうはぼんやりと頭で考えていた。
「ねぇ、そう君、はるちゃん。私たち、ずっと一緒だよね?」
唐突にかなたは言い出した。多分、同じ事を考えていたのだろう、はるかは力強く同意した。が、
「けどねぇ……泉君、私は泉君とはいつまでも一緒にいられないかもね」
「突然どうしたの、はるちゃん?」
「いや、なんでもないんだけどさ……そうだ!」
はるかは何かを思いついて、そうじろうにまたもや指を突きつけた。
「もしあの星を、この空で一番明るい星を取ってきてくれたら、私、ずーっと一緒にいる!」
そんな無茶な、と嗤う二人に、はるかは必死に言う。
「絶対だからね! あの星を、取ってきて。ねぇ、泉君?」
そうじろうは、無理だ無茶だと思いつつ、何とかその思いを飲み込んで「ああ」とだけ言った。
それだけだというのに、はるかが飛び上がって喜んだ理由がそうじろうには分からなかった。
「ふぅ、ただいまー」
「あらおかえり。お風呂入る?」
泉家ではさほど困った顔もせず、そうじろうの母は淡々と聞いてくる。
「いや、それがはるかの家の風呂に入ることになって……」
「あ、そうなの。それじゃ今日は泊まり?」
「そういうこと」
「分かった。はるかちゃん家なら大丈夫でしょ。行ってらっしゃい。行儀悪いことするんじゃないよ」
「分かってる、分かってる」
そうじろうは鞄を机にひっかけると素早く着替え一式をバッグに入れ、玄関へと戻る。
そこでは、立っているばかりではガタガタと震える二人が座っていた。
「あ、ごめんね泉君。玄関借りちゃって」
「いや、別にいいけど……ごめん」
「どうしたの?」
突然謝るそうじろうに、かなたはキョトンとして聞き返す。
「この寒い時期に二人を置きっぱなしにしちゃってさ。ホント、ごめん」
「あぁ、そのことね。大丈夫、大丈夫。ほら、今はこんなにあったかいから」
手袋を嵌めた両手を広げて、そうじろうを抱かんとするかなただが、それをやるには如何せんかなたは小さすぎた。
それにそんなことをやっていると、
「かなた、急がないと風呂が冷めるんじゃなかったか?」
「あ!」
自分で言ったことを守れそうになくなってきたので、今度はかなたの家までは少し早歩きで、
帰る時にはそこそこの走りになっていた。足を庇うように動くかなたを見かねて、またも背負って走り出したのだが、
それによってかなたは『あったかい』から『熱くて仕方がない』に変っていった。
しかしお陰でそこそこに早く着くことができ、お湯も「ちょっとぬるいけど、まぁ入れる」くらいで収まっていた。
「ほらほら、さっさと入っちゃうわよ」
はるかは、かなたも『そうじろうも』急き立てて、さっさと全員を脱衣所に追い込んだ。しかしここは二人が精々で、
とにかく一人は風呂場まで行かないとちょっと狭かった。
「ま、うちのお風呂そんなに広くないから、ここにいてもそっちに行っても大して変らないんだけどね」
そう言ってそのまま服を脱ぎ出すはるかに、かなたは今更ながら真赤な顔で反駁する。
「そそそ、そう君と一緒にお風呂だなんて……む、無理だよ……」
最初の段階で言えばいいものを、かなたはこの事態を予見しきれていなかった。
『良く考えれば裸になって男の子とお風呂に入るなんて恥ずかしい』と、現状を目の当たりにしてようやく悟ったかなただった。
「何言ってんの。早くしないと冷めちゃうわよ? それとも、冷え切ったお風呂に入りたい?」
「そういうことじゃなくて……」
面倒くさいとばかりに『それじゃ、早く入ってきてね』と言い残し、素っ裸になったはるかは意気揚々と風呂場へ入っていった。
「そ、そう君……」
「な、なんだ?」
非常に気まずい沈黙が流れる。どうしようもない二人の心がどんどん高まっていって、そのまま心臓が破裂してしまいそう。
「そう君……出てって。良いって言うまで、入って来ないで」
「え、何で……どうせ裸になるんだから結局一緒……」
「出てって!!」
「は、はい!」
『女の子』の心を掴み切れなかった悲しい『男』は、さっさと追い出されてしまった。暫くして、「い、いいよ……」という声がして、
風呂場らしい引き戸がガラッと開いて、そしてまた閉じる音が聞こえた。
「一体なんだったんだ……?」
そうじろうは独りごちた後、どうしようもなく制服を脱いだ。一体何が恥ずかしいのか、そうじろうに理解できないことが、
これでまた一つ増えてしまった。
「うーん、分からん。……それにしても寒い。さっさと入って、って、ん?」
間違えて何かを蹴飛ばしてしまったようだった。ふと足元に目を下ろすと、かなたとはるかの制服が目に留まった。
普段なら見飽きているはずのものでも、こう無防備な姿を晒していると嫌が応にも男の欲望は高まる。
しかも、蹴飛ばされた足先に絡まっているスカートをどけると、
「……うわぁ」
純白の布地が露になる。あどけない少年にはまだ刺激が強すぎるのか、綿で出来た『女の子』の代物を見ただけで、
鼻からぬるりとした液体が溢れ出る。思わず指でゴシゴシとこすると、そこは暗赤色に染まっていた。
「こ……これは……」
左手で鼻を必死に押さえながら、右手をかなたのショーツへと伸ばす。ぴと、と指が触れた瞬間、下半身に血流がどっと行く。
「うぉ、お……」
未知なる現象のお陰で鼻血は辛うじて止まったが、腰が砕けそうになる不思議な高揚感に、
そうじろうは立つのもやっとだった。無論、それは足の話である。
温かい、そう温かいのだ。例えばデパートの下着売り場に売っているそれとは比較にならない、人肌の温かさ。
そうじろうは意を決して──明らかに決し方を間違えているが──むんずとかなたのショーツを掴んだ。
瞬間、体温が微上昇し、下半身にますます血液が集まっていく。
「なんなんだ……これは……立てない、足が、膝が……」
このまま動けない姿で現場を見られるのは不味いと、理性が警鐘を鳴らしていた。まだまだ幼い少年は、その言葉に従い、
かなたの下着や制服を元通りに直すと、ほうほうの体で股間を押さえ、前屈みになって風呂場のドアを開けた。
そしてそこには、凡そ少年にはありえない程のワンダーランドが待ち構えていた。
「あらおかえり。お風呂入る?」
泉家ではさほど困った顔もせず、そうじろうの母は淡々と聞いてくる。
「いや、それがはるかの家の風呂に入ることになって……」
「あ、そうなの。それじゃ今日は泊まり?」
「そういうこと」
「分かった。はるかちゃん家なら大丈夫でしょ。行ってらっしゃい。行儀悪いことするんじゃないよ」
「分かってる、分かってる」
そうじろうは鞄を机にひっかけると素早く着替え一式をバッグに入れ、玄関へと戻る。
そこでは、立っているばかりではガタガタと震える二人が座っていた。
「あ、ごめんね泉君。玄関借りちゃって」
「いや、別にいいけど……ごめん」
「どうしたの?」
突然謝るそうじろうに、かなたはキョトンとして聞き返す。
「この寒い時期に二人を置きっぱなしにしちゃってさ。ホント、ごめん」
「あぁ、そのことね。大丈夫、大丈夫。ほら、今はこんなにあったかいから」
手袋を嵌めた両手を広げて、そうじろうを抱かんとするかなただが、それをやるには如何せんかなたは小さすぎた。
それにそんなことをやっていると、
「かなた、急がないと風呂が冷めるんじゃなかったか?」
「あ!」
自分で言ったことを守れそうになくなってきたので、今度はかなたの家までは少し早歩きで、
帰る時にはそこそこの走りになっていた。足を庇うように動くかなたを見かねて、またも背負って走り出したのだが、
それによってかなたは『あったかい』から『熱くて仕方がない』に変っていった。
しかしお陰でそこそこに早く着くことができ、お湯も「ちょっとぬるいけど、まぁ入れる」くらいで収まっていた。
「ほらほら、さっさと入っちゃうわよ」
はるかは、かなたも『そうじろうも』急き立てて、さっさと全員を脱衣所に追い込んだ。しかしここは二人が精々で、
とにかく一人は風呂場まで行かないとちょっと狭かった。
「ま、うちのお風呂そんなに広くないから、ここにいてもそっちに行っても大して変らないんだけどね」
そう言ってそのまま服を脱ぎ出すはるかに、かなたは今更ながら真赤な顔で反駁する。
「そそそ、そう君と一緒にお風呂だなんて……む、無理だよ……」
最初の段階で言えばいいものを、かなたはこの事態を予見しきれていなかった。
『良く考えれば裸になって男の子とお風呂に入るなんて恥ずかしい』と、現状を目の当たりにしてようやく悟ったかなただった。
「何言ってんの。早くしないと冷めちゃうわよ? それとも、冷え切ったお風呂に入りたい?」
「そういうことじゃなくて……」
面倒くさいとばかりに『それじゃ、早く入ってきてね』と言い残し、素っ裸になったはるかは意気揚々と風呂場へ入っていった。
「そ、そう君……」
「な、なんだ?」
非常に気まずい沈黙が流れる。どうしようもない二人の心がどんどん高まっていって、そのまま心臓が破裂してしまいそう。
「そう君……出てって。良いって言うまで、入って来ないで」
「え、何で……どうせ裸になるんだから結局一緒……」
「出てって!!」
「は、はい!」
『女の子』の心を掴み切れなかった悲しい『男』は、さっさと追い出されてしまった。暫くして、「い、いいよ……」という声がして、
風呂場らしい引き戸がガラッと開いて、そしてまた閉じる音が聞こえた。
「一体なんだったんだ……?」
そうじろうは独りごちた後、どうしようもなく制服を脱いだ。一体何が恥ずかしいのか、そうじろうに理解できないことが、
これでまた一つ増えてしまった。
「うーん、分からん。……それにしても寒い。さっさと入って、って、ん?」
間違えて何かを蹴飛ばしてしまったようだった。ふと足元に目を下ろすと、かなたとはるかの制服が目に留まった。
普段なら見飽きているはずのものでも、こう無防備な姿を晒していると嫌が応にも男の欲望は高まる。
しかも、蹴飛ばされた足先に絡まっているスカートをどけると、
「……うわぁ」
純白の布地が露になる。あどけない少年にはまだ刺激が強すぎるのか、綿で出来た『女の子』の代物を見ただけで、
鼻からぬるりとした液体が溢れ出る。思わず指でゴシゴシとこすると、そこは暗赤色に染まっていた。
「こ……これは……」
左手で鼻を必死に押さえながら、右手をかなたのショーツへと伸ばす。ぴと、と指が触れた瞬間、下半身に血流がどっと行く。
「うぉ、お……」
未知なる現象のお陰で鼻血は辛うじて止まったが、腰が砕けそうになる不思議な高揚感に、
そうじろうは立つのもやっとだった。無論、それは足の話である。
温かい、そう温かいのだ。例えばデパートの下着売り場に売っているそれとは比較にならない、人肌の温かさ。
そうじろうは意を決して──明らかに決し方を間違えているが──むんずとかなたのショーツを掴んだ。
瞬間、体温が微上昇し、下半身にますます血液が集まっていく。
「なんなんだ……これは……立てない、足が、膝が……」
このまま動けない姿で現場を見られるのは不味いと、理性が警鐘を鳴らしていた。まだまだ幼い少年は、その言葉に従い、
かなたの下着や制服を元通りに直すと、ほうほうの体で股間を押さえ、前屈みになって風呂場のドアを開けた。
そしてそこには、凡そ少年にはありえない程のワンダーランドが待ち構えていた。
「はるちゃん、くすぐったいよ」
「ほらほらー、覚悟しなさ~い。あ、泉君来たの。シャワーだけでも浴びちゃって。私たち今髪洗ってるから」
『でもかなたちゃんにはシャワー浴びせないでね、包帯緩まっちゃうから』、と言うと、
はるかはまたかなたの髪を洗うことに没頭した。ボリュームのある艶やかな髪は、肩口を少し超えているだけのはるかには
大きな挑戦に映ったらしく、料理以上に気合を込めて何度もかなたの髪を梳いていた。
そうじろうは曖昧な声で返事をすると、なるべくかなたもはるかも見ないようにして、且つ自分のも見られないようにして、
シャワーを全身に掛けてボディソープをさっと手に乗せ、全力で身体を洗い出した。鏡の向こう側に何かが見えた気がするが、
気にせず自分の二の腕を見つめ続けた。
「シャワー借りるわよー」
横からシャワーホースを取っていってかなたに掛けている。その様子が目に浮かんだ時、
湯煙の向こうに桜色の何かが見えた。あれは、まさか……
「ふいーっ、これでオッケー。それじゃ、次はリンスね」
だが妄想は中途ではるかに遮られた。『それ、取って』と背中を突かれたら、覚めるものも覚めようというものだった。
リンスを取って背中に送ると、『サンキュ』と小さく言ったはるかがまた引っ込んでいく気配を見せると、
そうじろうは急速に冷静そのものになっていった。厳密には、色々と振り切れて感情が抜け落ちた。
しかし、世の中振り切れようがそれでも尚無理矢理引き出させる要因というのもがある。
一度沸騰しきったはずの感情が再燃し始めたのは、こともあろうにかなたの手がタオル越しに背中へと触れてからだった。
「な、何してるんだ、かなた!?」
「何って、そう君の背中を流してあげようと思って」
そうじろうは酸欠の魚がそうするように、口をパクパク開けて手を止めた。シャンプーの容器に伸びた手が、固まった。
「ん、どうしたの、そう君?」
「あ、ああ、いや、なんでもない、うん、なんでもないぞ」
もうちょっと手を伸ばしてシャンプーをだばだば手のひらにぶちまけると、そのまま頭に乗せてわしゃわしゃと泡立てた。
「変なそう君……」
『変なのはお前だ』と言いたい心と、言いたくない心が複雑に交錯する中で、かなたはそうじろうの背中を擦り始めた。
人の背中を流すのは初めてなのだろうぎこちない動きで、丁寧に丁寧に擦っていく。
「そう君の背中、大きいね」
改めてしみじみと言われると、そうじろうも悪い気はしない。つい、声を大きくしてしまう。
「ああ、気持ちいいぞ。かなた、ありがとな」
「そ、そう君、声が大きいよ……」
実際は誰かに聞かれるわけでもないが、何となく気恥ずかしいのもまた事実。その後は、はるかも含めて全員無言で、
最後にかなたのリンスが洗い落とされるまで、張り詰めた緊張の沈黙が重く立ち込めていた。
「ふぃーっ、洗い終ったー。さ、入ろ入ろ」
沈黙を最初に突き破ったのは、やはりというかはるかだった。真っ先に浴槽の蓋を開けて湯船に飛び込む。
「くはーっ、いい湯だねぇ」
「お前はオヤジか……」
「いいから、泉君もかなたちゃんも、入ってきなよ。気持ちいいわよ~」
「まずその前にどこうね、はるちゃん……」
一人で広々と浴槽を占有されているのに、更に後二人入るのは無理な相談というものだった。
はるかがどくと、かなたとそうじろうも寒いのなんのと我先に入っていく。
「はぁーっ、みんなでお風呂に入るのって修学旅行以来だね~」
「そうだね~。泉君もそれくらい~?」
「ああ、それくらいだ~」
三人が三人ともぐでんと湯船に浸かっているのを見たら、仲の良い兄妹か何かだと思うだろう。
だが実際は幼馴染三人である。簡単には済まない話も、ある。
一番困ったのがそうじろうの目のやり場。テーピングされた足は慎重に湯船から引き上げられているが、
一方でもう片方は湯船に沈んでいる。それはつまり足を広げている訳で、その付け根に見えるものがなんであれ、
そうじろうは目を向けることなどどうしても出来なかった。
かといってはるかは悟りすぎている。夕食前のことがあったからか、目の前にそうじろうがいても物怖じせず、
むしろからかうくらいの勢いでそうじろうにしなやかな肢体を見せ付ける。が、もちろん彼は見向きもせず目を泳がせていた。
「まったく、泉君は意気地なしだねぇ……」
『どういう意味だ』と言いかけたそうじろうを軽くかわして、ニマニマと笑い続けるはるか。
そうじろうは辟易しながらも一度だけチラリと見て、なんとも美しい丘陵がはるかにはしっかりあることを、目に焼き付けた。
ちなみにかなたのはといえば、まな板の方がまだましだった。
「ほらほらー、覚悟しなさ~い。あ、泉君来たの。シャワーだけでも浴びちゃって。私たち今髪洗ってるから」
『でもかなたちゃんにはシャワー浴びせないでね、包帯緩まっちゃうから』、と言うと、
はるかはまたかなたの髪を洗うことに没頭した。ボリュームのある艶やかな髪は、肩口を少し超えているだけのはるかには
大きな挑戦に映ったらしく、料理以上に気合を込めて何度もかなたの髪を梳いていた。
そうじろうは曖昧な声で返事をすると、なるべくかなたもはるかも見ないようにして、且つ自分のも見られないようにして、
シャワーを全身に掛けてボディソープをさっと手に乗せ、全力で身体を洗い出した。鏡の向こう側に何かが見えた気がするが、
気にせず自分の二の腕を見つめ続けた。
「シャワー借りるわよー」
横からシャワーホースを取っていってかなたに掛けている。その様子が目に浮かんだ時、
湯煙の向こうに桜色の何かが見えた。あれは、まさか……
「ふいーっ、これでオッケー。それじゃ、次はリンスね」
だが妄想は中途ではるかに遮られた。『それ、取って』と背中を突かれたら、覚めるものも覚めようというものだった。
リンスを取って背中に送ると、『サンキュ』と小さく言ったはるかがまた引っ込んでいく気配を見せると、
そうじろうは急速に冷静そのものになっていった。厳密には、色々と振り切れて感情が抜け落ちた。
しかし、世の中振り切れようがそれでも尚無理矢理引き出させる要因というのもがある。
一度沸騰しきったはずの感情が再燃し始めたのは、こともあろうにかなたの手がタオル越しに背中へと触れてからだった。
「な、何してるんだ、かなた!?」
「何って、そう君の背中を流してあげようと思って」
そうじろうは酸欠の魚がそうするように、口をパクパク開けて手を止めた。シャンプーの容器に伸びた手が、固まった。
「ん、どうしたの、そう君?」
「あ、ああ、いや、なんでもない、うん、なんでもないぞ」
もうちょっと手を伸ばしてシャンプーをだばだば手のひらにぶちまけると、そのまま頭に乗せてわしゃわしゃと泡立てた。
「変なそう君……」
『変なのはお前だ』と言いたい心と、言いたくない心が複雑に交錯する中で、かなたはそうじろうの背中を擦り始めた。
人の背中を流すのは初めてなのだろうぎこちない動きで、丁寧に丁寧に擦っていく。
「そう君の背中、大きいね」
改めてしみじみと言われると、そうじろうも悪い気はしない。つい、声を大きくしてしまう。
「ああ、気持ちいいぞ。かなた、ありがとな」
「そ、そう君、声が大きいよ……」
実際は誰かに聞かれるわけでもないが、何となく気恥ずかしいのもまた事実。その後は、はるかも含めて全員無言で、
最後にかなたのリンスが洗い落とされるまで、張り詰めた緊張の沈黙が重く立ち込めていた。
「ふぃーっ、洗い終ったー。さ、入ろ入ろ」
沈黙を最初に突き破ったのは、やはりというかはるかだった。真っ先に浴槽の蓋を開けて湯船に飛び込む。
「くはーっ、いい湯だねぇ」
「お前はオヤジか……」
「いいから、泉君もかなたちゃんも、入ってきなよ。気持ちいいわよ~」
「まずその前にどこうね、はるちゃん……」
一人で広々と浴槽を占有されているのに、更に後二人入るのは無理な相談というものだった。
はるかがどくと、かなたとそうじろうも寒いのなんのと我先に入っていく。
「はぁーっ、みんなでお風呂に入るのって修学旅行以来だね~」
「そうだね~。泉君もそれくらい~?」
「ああ、それくらいだ~」
三人が三人ともぐでんと湯船に浸かっているのを見たら、仲の良い兄妹か何かだと思うだろう。
だが実際は幼馴染三人である。簡単には済まない話も、ある。
一番困ったのがそうじろうの目のやり場。テーピングされた足は慎重に湯船から引き上げられているが、
一方でもう片方は湯船に沈んでいる。それはつまり足を広げている訳で、その付け根に見えるものがなんであれ、
そうじろうは目を向けることなどどうしても出来なかった。
かといってはるかは悟りすぎている。夕食前のことがあったからか、目の前にそうじろうがいても物怖じせず、
むしろからかうくらいの勢いでそうじろうにしなやかな肢体を見せ付ける。が、もちろん彼は見向きもせず目を泳がせていた。
「まったく、泉君は意気地なしだねぇ……」
『どういう意味だ』と言いかけたそうじろうを軽くかわして、ニマニマと笑い続けるはるか。
そうじろうは辟易しながらも一度だけチラリと見て、なんとも美しい丘陵がはるかにはしっかりあることを、目に焼き付けた。
ちなみにかなたのはといえば、まな板の方がまだましだった。
「へ、へ……へくちっ」
湯船で半ば微睡んでいたはるかがくしゃみをする頃、湯はそこそこに冷えてしまっていた。
「上がろうよ、はるちゃん。風邪引いちゃうよ」
「ん、そうだね……取り敢えず泉君はここに残るよーに」
「へいへい」
「はいは一回」
「へい」
まずははるかに手伝ってもらってかなたが、次いではるかが浴槽から出て行った。
暫く布擦れの音が聞こえたかと思うと、『もう上がってもいいわよー』とはるかの声。
そうじろうが脱衣所に戻ると、残念ながらかなたの服もはるかの服もどこかへ消え去った後だった。
「残念……」
「んー、何が、泉君?」
「い、いやなんでも!?」
どうやらドアのすぐ外で聞いていたらしいはるかが質問してきたが、そうじろうは答える訳にもいかず、
さっさとトランクスを穿いてジャージをその上に着た。
廊下に出ると、火照った身体を具合良く冷ましているはるかとかなたがいた。
かなたは水色のパジャマで、はるかは桃色のネグリジェ。なるほどそうじろうの簡素すぎる寝巻とは違って、
『女の子』は寝る時でもオシャレ心を発揮するものだと初めて知ったのだった。
「うっわー、泉君その格好で寝るの? お父さんのパジャマ貸すよ?」
「大きなお世話だ……」
「そう君はジャージの格好で寝るんだね~」
「まぁ、これは寝る時用で、他で着るのとはまた違うけどな」
寝巻談義は続くかと思いきや今度はかなたがくしゃみを連発したので、さっさと布団に入ることにした。が。
「ごめんねー、そういえば来客用の布団がどこにあるかわからないんだ……」
はるかの致命的ミスで、三人が同じベッドに押し込まれることになった。
「お父さん達の部屋を使ってもいいんだけど、あんまりオススメできないから、ごめんね、ホントにごめんね」
両親の部屋は中学に入るずっと前から一度も立ち入っておらず、下手すると模様替えしている可能性もあるとの事で、
「別にいいよ、はるちゃんと同じベッドでも。ね、そう君?」
「お、俺は床でいいよ……」
斯様な状況なのだが、『床で寝る』という発言は、はるかの『風邪引くから、ダメ』という家主命令により却下された。
「まぁまぁ、取って食われるのとは違うわよ? それに、三人寄り添えばあったかいんだから、早く入ってきなさい」
今度は添い寝命令まで下ってしまった。そうじろうはもう抗う術を思いつけず、期待七割、不承不承三割で、
はるかのベッドに入っていった。
「はぁ、あったかいねぇ。お風呂とはまた違うあったかさがあるわよ、ここ」
「そうだね~、はるちゃん」
女同士でパジャマパーティーに花を咲かせているのはいいが、如何せん男にはちょっと入り辛い雰囲気だった。
「はるちゃん、さっきの話だけど」
「どうしたの? さっきの話?」
「うん、私たちが一緒にいる、っていうお話」
「ああ、あれ」
「もし私たちが離れ離れになるとしたら」
「うん」
「その時は、誰かが天国に行った、ってことだよ」
「え……かなたちゃん?」
「つまり、私たち三人は、死ぬまでずーっと一緒、ってこと!」
「そういうこと! そうだね、私たちはずっと一緒だわよね」
「そう、ずっと一緒。ね、そう君? ……そう君?」
そうじろうは雰囲気に耐えかねて狸寝入りを敢行した。バレた瞬間から何が起きるか、はるかに何をされるかは、
この時絶対に考えないようにしていた。
「うーん、やっぱり面白くない話だったのかな?」
「私を背負って走ったりしてたから、疲れちゃったのかも」
「あー、それはあるわね。それじゃ、泉君はそーっとしといてあげましょ」
「そうだね」
ふふっと笑う二人の女の子。だがそれも束の間のことで、十分もしないうちに二人は会話も少なくなり、
段々とまぶたが重くなっていって、ついには全員が寝静まった。
湯船で半ば微睡んでいたはるかがくしゃみをする頃、湯はそこそこに冷えてしまっていた。
「上がろうよ、はるちゃん。風邪引いちゃうよ」
「ん、そうだね……取り敢えず泉君はここに残るよーに」
「へいへい」
「はいは一回」
「へい」
まずははるかに手伝ってもらってかなたが、次いではるかが浴槽から出て行った。
暫く布擦れの音が聞こえたかと思うと、『もう上がってもいいわよー』とはるかの声。
そうじろうが脱衣所に戻ると、残念ながらかなたの服もはるかの服もどこかへ消え去った後だった。
「残念……」
「んー、何が、泉君?」
「い、いやなんでも!?」
どうやらドアのすぐ外で聞いていたらしいはるかが質問してきたが、そうじろうは答える訳にもいかず、
さっさとトランクスを穿いてジャージをその上に着た。
廊下に出ると、火照った身体を具合良く冷ましているはるかとかなたがいた。
かなたは水色のパジャマで、はるかは桃色のネグリジェ。なるほどそうじろうの簡素すぎる寝巻とは違って、
『女の子』は寝る時でもオシャレ心を発揮するものだと初めて知ったのだった。
「うっわー、泉君その格好で寝るの? お父さんのパジャマ貸すよ?」
「大きなお世話だ……」
「そう君はジャージの格好で寝るんだね~」
「まぁ、これは寝る時用で、他で着るのとはまた違うけどな」
寝巻談義は続くかと思いきや今度はかなたがくしゃみを連発したので、さっさと布団に入ることにした。が。
「ごめんねー、そういえば来客用の布団がどこにあるかわからないんだ……」
はるかの致命的ミスで、三人が同じベッドに押し込まれることになった。
「お父さん達の部屋を使ってもいいんだけど、あんまりオススメできないから、ごめんね、ホントにごめんね」
両親の部屋は中学に入るずっと前から一度も立ち入っておらず、下手すると模様替えしている可能性もあるとの事で、
「別にいいよ、はるちゃんと同じベッドでも。ね、そう君?」
「お、俺は床でいいよ……」
斯様な状況なのだが、『床で寝る』という発言は、はるかの『風邪引くから、ダメ』という家主命令により却下された。
「まぁまぁ、取って食われるのとは違うわよ? それに、三人寄り添えばあったかいんだから、早く入ってきなさい」
今度は添い寝命令まで下ってしまった。そうじろうはもう抗う術を思いつけず、期待七割、不承不承三割で、
はるかのベッドに入っていった。
「はぁ、あったかいねぇ。お風呂とはまた違うあったかさがあるわよ、ここ」
「そうだね~、はるちゃん」
女同士でパジャマパーティーに花を咲かせているのはいいが、如何せん男にはちょっと入り辛い雰囲気だった。
「はるちゃん、さっきの話だけど」
「どうしたの? さっきの話?」
「うん、私たちが一緒にいる、っていうお話」
「ああ、あれ」
「もし私たちが離れ離れになるとしたら」
「うん」
「その時は、誰かが天国に行った、ってことだよ」
「え……かなたちゃん?」
「つまり、私たち三人は、死ぬまでずーっと一緒、ってこと!」
「そういうこと! そうだね、私たちはずっと一緒だわよね」
「そう、ずっと一緒。ね、そう君? ……そう君?」
そうじろうは雰囲気に耐えかねて狸寝入りを敢行した。バレた瞬間から何が起きるか、はるかに何をされるかは、
この時絶対に考えないようにしていた。
「うーん、やっぱり面白くない話だったのかな?」
「私を背負って走ったりしてたから、疲れちゃったのかも」
「あー、それはあるわね。それじゃ、泉君はそーっとしといてあげましょ」
「そうだね」
ふふっと笑う二人の女の子。だがそれも束の間のことで、十分もしないうちに二人は会話も少なくなり、
段々とまぶたが重くなっていって、ついには全員が寝静まった。
だが、二時間もすればはるかが目を覚まし、
『うー……トイレ、行きたい……どうしよう……このままじゃ、漏れちゃうかも……』
苦しみの時間が始まるのは、この時の誰もが予想できない領域の出来事なのだった。
『うー……トイレ、行きたい……どうしよう……このままじゃ、漏れちゃうかも……』
苦しみの時間が始まるのは、この時の誰もが予想できない領域の出来事なのだった。
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- これなんてギャルゲー? -- 名無しさん (2008-02-07 06:02:12)