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星に願いを 第8話

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 8. (かがみ視点)


 こなたと別れた後、私は泉家へ戻った。既に空は暗くなっている。
 ちょうど、玄関先でゆたかちゃんがドアを開けている姿がみえる。
 彼女も寄り道していたのだろうか。
「おかえりなさい。かがみ先輩」
 ゆたかちゃんの言い方にくすりと笑った。
「本当なら『ただいま』というところなんだけどね」
 苦笑を浮かべたまま、ゆたかちゃんと一緒に家に入った。

 家に帰っても、『泉こなた』としての生活が続く。夕食を
ゆたかちゃんと、おじさんと食べて、お風呂に入り、宿題をして、
テレビを見てからベッドに入る。
 拍子抜けするほど、あっさりと時間が過ぎ去り、何事もなく一日が
終わったように見えた。
 就寝の直前にゆたかちゃんがホットココアを作ってくれたのは嬉しい。
 身体が火照って良い感じで眠れそうだ。

 私は夢を見た。
 こなたがいて、つかさがいて、みゆきがいて、教室でお弁当
ひろげている。こなたがチョココロネをくわえている。そんな平和な夢。
しかし、ふいにこなたたちの姿が掻き消える。
 場面が唐突に変わる。教室に取り残された私は慌てて皆を探したけど、
誰もいない。立ち上がろうとした時に、何故か椅子からロープが伸びてきて
私の自由を塞ぐ。身体が全く動かない。
 助けを求めて、懸命にもがくけれども、身体を揺らしてもほどけない――

 唐突に、泥の入ったスープのような睡眠から私は追い出された。


 瞼を何度も瞬かせると、まぶしい蛍光灯の光が飛び込んできた。
 起き上がろうとして、身体が本当に動かないことに気がつかされた。
金縛りではない。白い紐で両手首、両足首がベッドの柱にくくり
つけられている。

「んんっ…… 」
 声をあげようとすると、小さな手でさえぎられた。
「静かにしてください。あっ、でも、騒いでもいいですよ」
 声を出すことすらできない私を悠然と見下ろしながら、小早川ゆたか
ちゃんが微笑んでいた。
「なんで、そんなこと…… 」
 ゆたかちゃんが私を拘束する理由が全く見当たらない。
何か、悪い冗談としか思えない。
 混乱して、じたばたをあがいている私を、ゆたかちゃんは
いつもとかわらない笑顔を見せて見下ろしている。
 ただ、大きな瞳だけはどんよりと曇っていた。

「理由は、かがみ先輩になくても、私にはあります」
「どんな理由なのっ 」
 私は、天井を向いたまま、険しい表情を隠さず問い詰める。
 喉がからからに渇いて掠れた声しかでない。
「えっとですね」
 小柄な身体をかがめて、ゆたかちゃんは私の唇に触れた。
「なっ、なにするのよっ」
 私は顔を真っ赤にして首を振って抗った。

「かがみ先輩、純情なふりをしなくていいんですよ」
「えっ…… 」
 私は、ゆたかちゃんの言葉に身体が固まる。
「昨日、こなたお姉ちゃんの身体でオナニーしていましたよね」
「な、なんでそのことをっ」
 私は恥ずかしさで真っ赤になりながら叫んだ。
「あれだけ大きなよがり声を上げていれば、耳を塞いでも
聞こえてしまいます。とっても気持ちよかったのは分かりますけど、
おじさんの家は、コンサートホールみたいな防音施設はありませんよ」


 普段は絶対にみせない、嘲りの表情を隠さずに、
ゆたかちゃんは微笑んだ。
 素直で純粋なはずの、ゆたかちゃんがひたすら隠していた、
心の闇の深さに寒気がする。
 ゆたかちゃんは、いつから心にとんでもない悪魔をすまわせる
ようになったのか。

「どうして…… どうして、こんな事をするの? 」
 あえぐ様に呟いた私に対して、ゆたかちゃんは悲しそうな表情を
一瞬だけ見せてから、吐き出すように言い放つ。

「かがみ先輩が、こなたお姉ちゃんを奪ったからです」
「それは…… 逆恨みかしら? 」
 あまりにも単純な理由だ。私は、いつもの強気な自分を取り戻して
笑ってみせる。
「こなたは、わたしのことを『嫁』っていってるっていったわよね」
 目の前にいるゆたかちゃんの顔が露骨ゆがむ。

「おあいにく様ね。ゆたかちゃん。あなたが入り込む隙なんてない」
「かがみ先輩と、お姉ちゃんは両想いなんですね」
「そうよ。だから、『私』を物理的に縛ってもなんの意味がないわ」
「そんなことは、分かっていますっ」
 ゆたかちゃんが苛立ちを押さえ切れず、鋭く叫んだ。
「でも、どうしようもないんです」
 焦ったような口調でいうゆたかちゃんに、私は思いついた事を口に出した。
「もしかして…… 私とこなたを入れ替えたのはゆたかちゃん? 」

 あまりにも飛びぬけた推理だけど、どうやら正しかったらしい。
「いわゆる召還魔法の一種です。自分で言うのも何ですけど、トンデモ理論
です。それに、成功したわけじゃないんです。本当は、こなたお姉ちゃんの
ココロを、かがみ先輩から離すことが目的でしたから」

 ゆたかちゃんは一息ついてから続ける。
「想像以上に、お姉ちゃんとかがみ先輩の気持ちが強く
結びついていました。細かい部分は分かりませんが、結局、
お姉ちゃんとかがみ先輩の人格だけが入れ替わるという、中途半端な
結果になったんです」

 私は、ゆたかちゃんが犯人という救われない事実に、唖然と
せざるをえなかった。
 顔を赤らめて恥ずかしがったり、透き通るほどの微笑を周囲に
みせてくれる愛らしい天使と思っていた、ゆたかちゃんだから
なおさらだ。

 しかし、今のゆたかちゃんは熱に浮かされたようにゆがんでいる。
それに、いくらゆたかちゃんでも、こなたにつらい想いさせた事は
許せなかった。
 私は沸きあがった怒りを抑えることが出来ずに、目の前の少女に
とって一番痛い所を容赦なく突く。

「なんてことをするのよ。こなたが聞いたら怒るわよっ」
「お姉ちゃんに嫌われるのは嫌っ 」
 それまで笑っていたゆたかちゃんが、急にあどけない顔をゆがめて
叫んだ。

 ここに突破口があることを私は瞬時で悟る。
「だったら、私たちをさっさと戻しなさいよ。それとも金輪際、
そのままってわけ? 」
 私は鼻息を荒げて挑発した。ゆたかちゃんは即座に言い返す。
「戻し方はちゃんと知っていますよ。もっとも成功するかは
分かりませんが」
「それでもいいから教えなさいよ」
「条件があります」
 ゆたかちゃんは口の端をゆがめた。ゆたかちゃんが何をしたいのか、
瞬時に理解できた。
 何しろ、私は現在は『泉こなた』の姿をしているのだ。
 私は、皮肉めいた表情で頷いた。

「分かっているなら、話は早いです」
「『する』前に、紐を解いて」
「いいですよ。SM趣味はありませんから」
「それにしては、念入りに縛ってくれたけど」
 私のいやみにも、ゆたかちゃんは平然としていた。
「舞台演出だと思ってください」
 淡々とした口調で言うと、私の拘束をあっさりとほどいて、
布団にもぐりこんできた。
「いっておくけど、自己満足にすぎないわよ」
「でも…… 夢はかなうんです」
「『身体』だけわね」
 私の辛辣な言葉にもかかわらず、ゆたかちゃんは妖精のような微笑を
みせて、硬い表情を崩さない私の唇に再度、触れた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
星に願いを 第9話へ続く












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  • かが×ゆた… 新鮮な感じです! -- チャムチロ (2012-08-23 12:52:59)

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