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星に願いを 第7話

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 7. (つかさ視点)


 私、どうしちゃったんだろう。
 お昼の時にみんなに酷い態度とっちゃった。あんな事を言うつもりなんて
全然なかったのに。
 夕方のホームルームが終わると、ゆきちゃん、こなちゃん、お姉ちゃん
と顔を合わせることが恥ずかしくて、早々に教室を飛び出した。

 昨日、こなちゃんに強引に迫って、無理やり押し倒したあげくに、
自分が惨めになって、泣いちゃったことを引きずった挙句に、
みんなに当り散らすなんて……
「どうして、こうなっちゃうのかな」
 私は俯きながら呟いてみるけど答えはでない。足取りがとっても重い。
 こなちゃんはお姉ちゃんが好きだし、お姉ちゃんはこなちゃんが好き。
 両想いの二人を応援できない、ゆがんだ心が嫌になってしまう。

 ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理できないまま、私は全てから
逃げるように玄関を出たところで、よく知っている下級生に声を
かけられた。
「つかさ先輩? 」
 少し舌足らずな声に振り向くと、こなちゃんの従姉妹、小早川ゆたか
ちゃんが立っていた。
「先輩。どうしたんですか? 」
 ゆたかちゃんは、私に近づきながら言葉を続ける。
「どうして…… 泣いているんです? 」
「私が、泣いてる? 」
 人差し指を頬に当てると、確かに濡れていた。

「何があったんですか? 」
「なんでもないよ…… ゆたかちゃん」
「でも」
 ゆたかちゃんは、心配そうに見上げてから、スカートから出した白い
ハンカチを渡してくれる。
「あっ、ありがと」
 私は、瞼から頬に零れた涙の跡をぬぐった。下級生から心配されるなんて
恥ずかしかったけど、ゆたかちゃんの好意はありがたかった。
「あのっ」
 ゆたかちゃんはしばらく迷っていたけど、意を決したように口を開いた。
「ご迷惑でなければ、ご事情を教えていただけませんか。でも、出すぎた
ことだったらごめんなさいっ」

 私は、ゆたかちゃんの顔を、まじまじと見てしまった。
 みんなで一緒にチアをやった文化祭以外では、こなちゃんの家で宿題をしたり、
遊んだりしている時くらいしか、ゆたかちゃんとは顔を合わせていないから、
さほど親しいというわけではないけれど。
 どちらかというと、引っ込み思案な子かなと思っていたから、ちょっと
いや、かなり意外だった。

 でも、誰かに話を聞いてもらうとしたら…… 『入れ替わり』という
事情を知っている、ゆたかちゃんしかいない。

 私とゆたかちゃんは再び校庭に戻り、学校の食堂まで歩いていく。
 暮色が増すこの時間は、流石に人気は少なくて、食堂でも数人の生徒が
かなり離れた場所で談笑しているだけだ。
 私は、自販機からホットココアを取り出して、ゆたかちゃんに渡す。
「ありがとうございます」
 ゆたかちゃんが微笑んだ。
 背中に白い羽根をくっつけたら、本当の天使みたいで、ささくれ立った
心がちょっとだけ癒される。
 私は、カフェオーレのボタンを押してから、椅子に座った。

「ゆたかちゃんと二人きりになるって初めてかな? 」
「たぶん。そうだと思います」
 ふーふーいいながら、ゆたかちゃんは紙コップに口をつけて、
「熱っ」と小さく叫んで舌を引っ込める。

 私がずっと、ゆたかちゃんの顔を眺めていることに気がついて、
彼女は頬を少し赤らめた。
 ホットココアを飲んでいるゆたかちゃんに癒されるけど、せっかく
時間を作ってくれたのだから、話をしないといけないな。

「ゆたかちゃんって、誰かを好きになったことあるかな? 」
「えっと。それは親友とかいう意味ではないですよね」
「うん」
 ゆたかちゃんは、ココアの入った紙コップを机の上に置いた。
「私ね。ずっと前から、好きな人がいたの。傍にいるだけで
幸せになれる人が」
 一息ついてから言葉を続ける。
「でもね。その人は、別のひとが好きだった。その別のひとは、
私のもっとも距離が近いひとだったの。例え話、わかりにくい? 」

 ゆたかちゃんは何も言わず、続きを待っている。
「私は好きなひとに、ちゃんと『好き』と言えればよかったんだ。
でもね。彼女の気持ちを無視したことをしちゃったの」

「つかさ、せんぱい…… 」
「それでもね。そのひとは何も文句をいわなかったの。私の好きに
していいってことまで言ってくれた。でもね。自分自身がすごく
情けなくなってしまって…… 居たたまれなくなって
泣いちゃったんだ」

 私は、一気に話してから、紙コップを置いた。

「つかさ先輩、ごめんなさい。誰の話なのかが分かっちゃいました」
「そっか。普通分かるよね。まわりくどい言い方はやめるよ」
「ごめんなさい」
「ううん。気にしなくていいの。私の好きなひとは、こなちゃんで、
一番近い人はお姉ちゃん。昨日から、ずっと引きずって悩んで、まともに
こなちゃんとも、お姉ちゃんとも話ができないんだ」

 ゆたかちゃんに打ち明けてみると、ずいぶん気持ちが落ち着いてくる。
「差し出がましいかもしれませんが」
 ゆたかちゃんは、ゆっくりと切り出す。
「こなたお姉ちゃんも、かがみ先輩も、つかさ先輩を嫌いになんか
なったりしないと思います」

「そうかな」
「つかさ先輩は、自分の気持ちを抑えすぎて、疲れてしまっているのでは
ないでしょうか」
 ゆたかちゃんは、何故か自嘲めいた口調で話した。
「ゆたかちゃん…… 」
「もっとわがままになってもいいと思いますよ」
 華奢なはずの、ゆたかちゃんの言葉は、私の迷いを吹き飛ばす
力強さがあった。
「あっ、生意気なこといってしまってごめんなさい」
「ううん。ありがとう」
 私は、恐縮するゆたかちゃんに礼を言った。

 ゆたかちゃんは、臆病な私の背中を押してくれたんだと思う。
 でもね。可愛らしい天使の後ろに、尖った黒い尻尾があることには
気がつかなかったんだ。


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星に願いを 第8話へ続く
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  • ヤバいくらい面白いです! -- チャムチロ (2012-08-23 12:46:54)
  • 楽しく読ませていただいてます。
    其々の胸に秘めた想いが絡み合うのは読んでてドキドキします。
    今後の展開も楽しみにしています。 -- 名無しさん (2007-11-27 15:44:35)

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