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ちぐはぐランチ

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だれでも歓迎! 編集
 夏休みが明けて二週間ばかりたった、ある日の昼休み。
 私は灰色をした人の群に囲まれていた。
 立木文彦とくじらの声が四方八方に飛び交っている。
「焼きそばパン三つ!」
「カツサンドください」
「はいお釣り、130円ね」
「ああっ、もうない! ……すんません、じゃあコレとコレ」
 場所は、今のでわかったよね?
 陵桜学園高等部の学生食堂の片すみに置かれた、パン売り場の前。
「あ、こら返せ!」
「これは私のお稲荷さんだ!」
 はいそこ、変な想像しないの。
 パン売り場って言ってもおにぎりや助六ぐらいなら置いてるんだから。
 それにしても……九月になったばかりでまだまだ暑いってのに、こう人に囲まれちゃたまんない。
 チョココロネ、残ってるかなあ……

 あ、っと。
 どーも。泉こなたです。
 本日は昼ごはんのチョココロネを買いに学食まで来ているところです。
 いつもなら学食じゃなくて、登校中とか前の日の帰りとかにコンビニやスーパーで買っておくんだけどね。
 昨日も今朝もうっかりしちゃってさー。
 たまにやっちゃうんだよねー。
 中学から合わせるともう五年以上も続けてることだってのにサ。いやマイッタマイッタ。
 あーあ、早く順番来ないかなー。
 ってゆーかコレ、列も順もへったくれもないよ。みんな我先にと群がってるし。ちょっとしたカオス。
 こーゆーのってマンガやエロゲだけじゃなかったんだねぇ。
 それともアレかな。そういうの書いてる人って、学食でパンを買ってたような人が多いってことかな。
 いや、どんな人って訊かれても困るんですけどネ?
 ――むっ! とかなんとか言ってるうちに包囲網に綻びを発見! 突入する!

 ふう、やれやれ。無事目標確保、っと。
 さすがにいつも買ってるのと同じのは置いてなかったけど、まあ贅沢は言うまい。
 次は飲み物を買わなくちゃー……って! 自販機もめちゃ並んでるよ!
 こっちはちゃんとした行列だけど、それって逆にショートカット不可ってことだよね。
 もーぉ、ツイてないなー。
 今日はかがみが来る日だってのにっ!

 うん、そーなんだ。
 私のヨメこと柊かがみがさ、前はほとんど毎日ウチのクラスまで来て一緒に食べてくれてたのに、
 最近……二学期が始まってからだね。二日に一回ぐらいの割合でしか来なくなっちゃったんだよ。
 理由を訊いても、

『別に。なんとなくよ、なんとなく。てゆーか、よそのクラスに顔出しすぎかなって、前から思ってたしさ。
いや、そりゃ今さらなんだけど……いいじゃない。女の子には色々あるのよ』

 とかなんとか、ハッキリしない。
 もちろん納得なんかしてないよ。だった顔がツンモードだったもん。つまり本心は別にあるってことさ。
 でも、「女の子」を理由に出されちゃった以上、私には反論できない。
 いや、私も女だけどさ。なんてゆーか、キャラ的にね?

 最初は、男でもできたのか! と思ったんだけど、普通に自分のクラスで食べてるだけだったし。
 つかさやみゆきさんとケンカでもしたのなら、全く来なくなるはずだし。
 あと登下校のときもね。
 朝、駅前につかさしか来てなかったり、帰りにゲマズに誘っても前より断られることが多くなったり。
 そのくせ、居るときは普通に居るんだ。変な様子とか一切なし。
 わけわかんないよ。

 ふん。いーんだ、かがみなんか。
 ソッチがそういう態度に出るんだったら、コッチにも考えがあるもんね。
 というわけで今日は焦らしプレイだ。
 ふっふっふ、私のことを待ちわびてソワソワしてるかがみんの姿が目に浮かぶ浮かぶ。
 ははは! 見ろ! 夫の帰りを待つ新妻のようだ!
 ――っと、私の番だ。早く買わなきゃ。

「……ん?」

 あれ? 今なにか……灰色のモブの群の中に、一つだけ目立つのが混じってたような?
 視線を逆スクロールさせると――いた。
 一人だけ、私と同じように通常の着色を施された人物が。……いや、比喩表現だけどね?
 さておき。
 私ほどじゃないにしろ、長く伸ばした栗色の髪をカチューシャでまとめたオデコな女生徒が、
 今まさに何かの丼を受け取ってカウンターを離れるところだった。
 知ってる顔だ。
 あ、向こうも気付いた。
 柔らかい印象の糸目を少しだけ見開いて、ぺこりと頭を下げてくる。慌てて私も会釈を返した。
 えっと……どうしよう。
 あ、先にジュース買わなきゃ。
 ゴソゴソ、チャリン、ピッ、バコン。よし。あ、すんませんすんません。すぐどきます。
 さて、と。
 どうしよう。素通りするわけにも――って向こうから来たよ。
「こんにちは、泉ちゃん」
「あ、ども。えっと、峰岸さん」
 峰岸、あやのさん。
 隣のクラスの、かがみの友だち。
 世に言う“3-Cトリオ”の一角をなす、私たち“3-Bカルテット”とは被りメンバーのかがみを巡って
 日夜仁義なき争いを繰り広げている相手。又の名を“アヤノ・ザ・オデコック”。
 なわけないよ。なにその厨設定。
 ああもう、消し消し。バックスペースバックスペース、っと。
 ……って、そういえば。
「あれ、一人? みさきちは一緒じゃないの?」
「みさ、きち?」
 そう、みさきち。日下部みさお。又の名を“ミサオ・ザ・ヤエヴァー”。
 違うって。
 八重歯と独特な喋り方が印象的な元気っ娘。
 峰岸さんとは100%の確率で四六時中行動を共にしている……わけないか、さすがに。
 でもそんなイメージがあるんだよね。
「――ああ、みさちゃんね。今日はクラブの方に顔を出すんだって」
「あー。えっと、陸上部だっけ」
「ええ。もうすぐ引退だから、色々あるみたいよ?」
 なるほど。
 そっか。クラブに入ってると、この時期も一つの区切りになるんだ。その発想はなかった。
 ……かがみの変化とも関係あるのかな? クラブはないけど委員会やってるし。

「泉ちゃんこそ、どうしたの? 今日は柊ちゃん、そっちで食べてるはずなんだけど」
「え? あ、うん。これ。朝買い忘れちゃってね」
 パンが入った紙袋とジュースのパックを軽く持ち上げて、超簡単な説明。
 でも、それを言うなら、
「峰岸さんも――あ、座れば?」
「そう? じゃ、失礼して」
 相手にトレイを持たせて立たせたままだということに気付いて、近くの空席を示す。
 人出は多いけど、広く作られた食堂はそれほど混雑していない。峰岸さんは素直に腰を下ろし、
 私を見上げると言葉の続きを待つ体勢に入った。
 ほんのちょっと思っただけなのに、そんなキチンとされても、その、なんだ。困る。
 てゆーかタヌキそばですか。渋いっすね。
「えっと……峰岸さん、弁当派じゃなかったのかなって」
「そうでもないわよ? まぁ、基本はお弁当だけど、学食もけっこう好きなの。
今日はみさちゃんも柊ちゃんもいないって分かってたし、ね?」
「ふぅん……」
 むう、ソツのない答えだ。
 かがみみたいな強がりも、つかさみたいな天然も、みゆきさんみたいな高級感もない。
 しかしツッコミどころがないわけじゃ、ない。
 今の言い方、そして表情……
「どうしたの、泉ちゃん? 早く戻らないと、柊ちゃん、きっと待ちくたびれてるわよ?」
「あ――う、うん」
 やっぱりだ。
 何かある。コヤツは何かを知っている。
 女の勘――いやオタクの勘――いやいや、かがみのヨメとしての私の勘がそう告げている。
 ならば、よし。
 予定を変更。
 焦らしプレイから放置プレイへ。
「ちょっとゴメンね」
 紙袋とパックを峰岸さんの向かいの席に置き、スカートのポケットから携帯電話を取り出す。
 アドレス帳から目当ての番号を呼び出して発信。
 コール一つ半で繋がった。早いね。
「もしもーし、かがみー?」
『おー、こなたー。どうしたの? パン買えた?』
「うん、買えた買えた」
『だったら電話なんかしてないで早く帰ってきなさいよ。待ってるんだから。食べられないじゃない』
「え? 食べないで待ってくれてるの?」
『つっ――つかさが言ったのよ! 待とうって! わ、私は早く食べたいんだからねっ!』
 ほっほぅ。
 そしてそれに素直に従ったというわけですか。やっぱ優しいねーかがみは。
 かなり気持ちが動きそうになったけど、だめだめ。ガマンガマン。
「そっかそっかー。でも悪いけど食べちゃっていいよー。私こっちで食べるし」
『そうする――……はァ? なんだって?』
「だから、このまま食堂で食べていくから。オナカすいちゃってもう一歩も動けないんだよねー」
『元気そうな声で何言ってんだ。さっさと戻ってこい』
「そーゆーコトなんで。つかさとみゆきさんにも謝っといて? じゃにー」
『え? ちょっとなに本気なの? 待ちなさいよこな――』
 ピ、っと。ミッションコンプリー。
 電話をポケットに戻しながら、不思議そうな顔で箸を止めている峰岸さんに向き直る。
 向かいの椅子の背もたれに手を置いて。
「というわけで――聞いてたよね? ご一緒させてもらっていいかな?」
「え……?」
 あ、引いてる。
 ちょっと強引すぎたかな。でも私も今さら戻るわけにはいかないし。
「……あ、ごめん。迷惑だった?」
「ううん、私はいいんだけど……」
 よしっ。やっぱりこの手の優しそうなタイプには押しよりも引きだね。
 ……ちょっと悪い気もするけど。
「でもいいの? 柊ちゃんが」
「いーのいーの。かがみはつかさに会いに来てるんだし」
 本人が言っていたことだ。
 峰岸さんにも、聞かれていたとしたら、同じ答えをしているだろう。かがみの性格なら。
「うーん……でも、どうして急に?」
「ん、ちょっとね。なんか珍しい機会だし、セッカクかなって思ってさ」
 嘘ではない。
 夏休みに、従妹のゆーちゃんが例のみさきちと仲良くなったって話を聞いて
 レアな組み合わせっていうのも面白いなと思ったのは確かだ。
 まあ完全な本心でもないけどさ。
「今まで二人きりで話すことってなかったし、これからもなんとなく無さそうじゃない?
このチャンスを逃すわけにはいかないよ」
「そんなことないと思うけど……」
 うーん、と、お箸の先っちょを唇に当てる峰岸さん。
 自然な仕草が良い感じに萌えるね。
「ま、いっか。それじゃあ泉ちゃん、座って?」
「やたっ。おじゃましまーす♪」
 喜び勇んで椅子を引く。峰岸さんは「あらあら」とアリシアさんみたいに笑った。
 ふっふっふ、切り込まれたとも気付かず、呑気なものよ。
 さあて、それじゃあ聞かせてもらいましょうか、かがみに起こった変化の理由(ワケ)を……




 ……とは思ったものの。
「えっと……臭いよね?」
「うん……たぶん……」
 会話が弾まない。
 共通する話題がないんだよ。
 私と峰岸さんの両方が確実に知っているものといえば、この陵桜学園とその周辺ぐらいだ。
 授業の内容だとか先生に対する愚痴だとかで細々と繋いできたけれど、それもそろそろ限界。
 もう話すことがなくなりかけている。
 切り札というか本題というか、かがみの話がまだ残ってるんだけど、
 もう少し打ち解けてからと思って先延ばしにしているうちに、完全にタイミングを逃してしまった。
 やっぱり最初から素直に訊けばよかったかなー?

 てゆーか慣れない相手と話すのがこんなに大変だとは……知ってたけどね。忘れてたよ。
 ゆーちゃんはみさきちとどうやったんだろう?
 ……向こうが勝手に喋ってくれたんだろうな。
 てことは、この場合は、私の方が頑張らなきゃだめってことか。ちゅるちゅる。
「ねえ、泉ちゃん」
「ぷぇっ!?」
 ……変な声が出た。
 ジュースを飲んでいるときに急に話しかけないで頂きたい。噴き出さなかったからよかったけどさ。
「……だいじょうぶ?」
「う、うん。平気。――なに?」
「その……お昼、それだけなの?」
「へ?」
 本日のメニュー。
 チョココロネ一つ。りんごジュース一本。以上。
 確かに少ないね。でも、
「そだよ」
「そんなので足りるの?」
「うん。身体ちっちゃいからねー。燃費がいいんだ」
「ん~~……というか、食べないから大きくならないんじゃない?」
「あはは、そうかもね」
 いや、てゆーかなんで今さら? 普通最初に訊かない?
 あ、そうか。
 紙袋にゴミを入れて丸めだしたからか。もう一つや二つ、何か出てくると思ったんだろな。
 思慮深いというか、奥ゆかしいというか。
 お姉さま的というか。
 あるいはやはり、
「アリシアさんって感じだよね」
「え?」
「あ」
 何を言っているんだ……!
「ありしあ、さん?」
「……ごめん、なんでもない。忘れて」
 ううう。久々に食らったよ、“何の話ですかバリヤー”。そんな無垢な目で私を見ないでっ!
 まったくもう、なんだって口に出すかな。
 理解のある人間が最近で急に増えたから、ブレーキが甘くなってるのかも。
 なんて意味もなく自己分析していると、アリシア――もとい峰岸さんが「ああ」と声を上げた。
「えっと、『ARIA』のアリシアさん?」
「へっ?」
 なんて言いました? ありあ?
「あ……ごめんなさい。違ったかな……」
「え? あ、違う違う。――じゃなくて、合ってる合ってる」
 恥ずかしそうに縮こまる峰岸さんに、慌てて訂正を入れる。
「そうなの? よかった」
「そぉそぉ。『ARIA』のアリシアさん……だけど……」
 なんで知ってるの?
 そんな意味を込めた視線を投げると、どうやら察してくれたようで、納得顔。
「私だってマンガぐらい読むわよ。『ARIA』は、けっこうお気に入りかな?」
「そ、そうなんだ……」
 意外だ。
 悪いけど、意外だ。想定の範囲外だ。その発想はなかった。コペルニクス的転換だ。ちょっと違うか。
 どっちかって言えばマイナーな部類に入ると思ってたんだけど。アニメ化もしたとは言え、深夜だし。
 でも、
 言われてみれば、マッチしている気もする。
 峰岸さんと、『ARIA』。両者の持つ、空気というか、そんな感じのものが、どこか共通している。かも。

「綺麗なお話だよね? 水の都、ネオベネチア。ウィンデーネと呼ばれる水先案内人。
地下に鉄球を走らせて重力を作ってる、なんて設定も面白いと思わない?」
「はあ……」
 むう。
 しかしやはり、私らとは視点というか、感性が違いますね。大幅に。
 私なんかにゃそんな綺麗な感想なんてとてもじゃないけど持てまっせん!
「あ、ごめんなさい。泉ちゃんには分かりきってることだったよね? それで、アリシアさんがどうしたの?」
「えっ! あ、うん。いやその……峰岸さんが、似てるかなって」
「私が? ……そんな、私はあんなに素敵じゃないわよ」
 照れたようにクスクス笑う峰岸さん。
 本気で否定しているようには見えないけど、それがイヤミにもなっていない。
 ズルいなぁ。みゆきさんとは別の意味でズルいよ。

「じゃあ、泉ちゃんは……アリア社長かな?」
「ぶっ、ぶいにゅっスか!?」
 噴いた!
 何も口にしてなかったけど、あえて言うなら全米を噴いた!
 なんという不意打ちっ……!
 予想外ってレベルじゃねえぞ!
「あっ、ごめんなさい。でも泉ちゃん、猫ってイメージだから」
「むう、自分じゃキツネだと思ってるんだけどね……」
 いやちょっとなんていうか、今の一言で峰岸さんのイメージがかなり急角度に折れ曲がりましたよ。
「じゃあ、せめてヒメ社長になりませんか」
「あら、ダメよ。ヒメ社長は柊ちゃんなんだから」
「ええ~? かがみは藍華でしょー。ツンデレツインテだよ?」
「……? 髪型はあんまり関係ないと思うんだけど……」
「そうかなあ? じゃあ――」
「うん――」
「――」
「――」




 そのあとも色々と、マンガやアニメ、あるいはそれらを原作とする映画やドラマの話題で盛り上がった。
 峰岸さんは、ライトかと思えば変なところで妙にマニアックだったりもして、
 何より自分とは微妙に、あるいは大きく異なる見解が新鮮で、退屈はまったくしなかった。
 というか盛り上がりすぎた。
 もう昼休み終わっちゃうよ。

「いやー、意外だったねそれにしても。峰岸さんがこんなに詳しいなんて」
「うふふ、どういたしまして。でもほとんどは彼の受け売りなんだけどね?」
 彼? って誰?
 ……ああ、代名詞じゃなく、いわゆる“カレシ”のことですか。
 そーいや貴女にはいるんでしたねそういう人が。
「えっと、みさきちのお兄さんなんだっけ?」
「えっ!? どうして知って……そっか、柊ちゃんね?」
 え、あれ? マズかったかな?
「もうっ。泉ちゃんにはなんでも話しちゃうんだから」
「そんなこと……」
 ――あ。
 これは、チャンスかも?

「そんなこと、ないよ」
「え? ……泉ちゃん?」
 そうだよ。
 かがみだって、私に話してくれないことはあるんだから。
「かがみさ、最近……新学期になってから、そっちでお昼食べること増えたでしょ」
「そうだけど……え? ということは、聞いてないの?」
「……ということは、知ってるんだね?」
 よぉし、引っ掛かった。
 運び出しは上々。
 ここから上手く緩急を使い分けて……
「ええ。もちろん」
 って、あれ?
 ちょ、ま……そんなアッサリ……
「でも、柊ちゃんが言ってないなら、私が話すわけにはいかないわ。部外者だし」
「ま、待ってよ……部外者ってことはないでしょ」
 思わず情けない声をあげる私に、峰岸さんは底の知れない笑顔で答える。
「部外者よ? まあ、完全に無関係でもないけど」
「だったら――」
「だぁめ。だって部外者というよりは傍観者……そうね、物語の登場人物と、読者ってところかな?
いくら裏側を知っていても、本の中に入ってそれを教えることはできないの」
 いやそりゃ二次元世界への突入の不可能性は私も十分に理解していますけれどもっ!
「そんなの、現にこうして話してるじゃんっ」
「そうね」
 いや「そうね(笑)」じゃなくて。
 くそう、なんなんだこのガードの固さは! C組の栗色は化け物か!
「知りたい?」
「や、そんな、別に……ううん。知りたい」
「そうよね。うちのクラスまで覗きに来るぐらいだもんね」
「え――」
 気付かれてた!?
 そんな……かがみにも気付かれなかったのに。
 アホ毛も隠してたのに――つかさにリボンまで借りたのにっ!
 てゆーかモノローグでも明言を避けたことをそんなアッサリばらさないでよっ!

「じゃあ――ヒント」

 人差し指を、ぴっ、と立てて、峰岸さん。
 笑顔の上にさらに笑顔が浮かんでいる。ちょっと怖いんですけど。
「な、なに……?」
「私が読者で、泉ちゃんは物語の登場人物――いい?」
 ひとまず、うなずく。
 納得はしてないけど。
「でも泉ちゃんは主人公じゃないの。少なくとも、私が“読んでる”ぶんにはね。
――それでは、主人公は誰でしょう?」
 ……?
 いやごめん全然意味が――いや待て。
 物語とかは置いとこう。状況を見るんだ。
 今私が置かれている状況。
 主人公とは、つまりその中心人物か。私ではないとするなら、それは――

「……かがみ?」
「正解」
 さらに、さらに、笑顔。
 ねえ、それ威嚇? 威嚇なの? 怖すぎるんだけど。
「そしてもう一人」
「え?」
「そのもう一人に、読者としての私は感情移入をしているの。だから、こうして会話ができたとしても、
私が手助けをするのはそのもう一人のほう。泉ちゃんじゃないの。だから、教えてあげない」
「はい?」
「はい、ヒント終わり。あとは自分で考えてね?」
「え……って、ちょっと待って――」
「残念。時間切れ」

 予鈴。

「あ……」
「さて、と」
 峰岸さんが席を立つ。トレイを食器返却口へと返しに行って、そしてまた戻ってくる。
 私はそれを茫然と眺めているしかなかった。
「それじゃ、戻りましょ」
「……」
 言われるがままに席を立つ。そのまま並んで校舎へと。
 思考がまとまらない。脳がフリーズしてる。再起動ってどうやるんだっけ。

 ちらり、見上げる。
 隣を歩くその笑顔は、いつの間にか普通のものに戻っていた。
 優しげに細められた糸目がどこを見ているのか分からない。
「……ねえ」
「なぁに?」
 何もかもがさっぱりだけど、判明したことも無いではない。
「せめてさ、そのもう一人ってのが誰だか教えてよ」
「う~ん……だぁめ」
 一つはこの、目立たなくて優しそうな人が、思わぬ強敵らしいってこと。
「社長命令です。アリシア、答えなさい」
「あらあら、社長は人間の言葉は喋らないわよ?」
 そして、どうやら、
「ぶ、ぶいーにゅ?」
「うふふ、ごめんなさい。猫の言葉は分からないの」
「ぬおぉぉ……」
 新しい友達ができたらしいってこと。
「いーじゃん教えてよぉー!」
「だ~め♪」
 今日のところは、それでよしとしようと思う。



























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  • 冒頭の変〇仮面の迷台詞で噴いたwww
    懐かしい
    それを抜きにしても面白かったです -- FOAF (2012-08-16 15:59:20)
  • これは良い。ARIAは知らないけれど十分楽しめた。 -- 名無しさん (2009-12-06 10:50:46)
  • 変わった組み合わせだね。
    でもそれがイイww -- 名無しさん (2009-12-06 05:14:17)
  • >その、なんだ、困る

    少佐乙w -- 名無しさん (2008-11-14 23:11:27)
  • 意外な組み合わせがすごくうまい。 -- 名無しさん (2008-11-13 01:58:16)
  • すごく、おもしろいです。 -- 名無しさん (2008-07-31 18:44:34)
  • 良い -- 名無しさん (2008-07-31 18:13:52)

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