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Elope

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ガラスの壁 第10話に戻る
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 1. (こなた視点)


 多くの人が行き交う東京駅だけど、午後11時にもなると流石に
人が少なくなってくる。
 寒さに震えながらホームの座席に座っていると、小柄な少女が
駆け寄ってきた。
「こなた、おねえちゃん」
 ゆーちゃんは心底嬉しそうな顔をした。
 土壇場で、私に逃げられるかもしれないと心配していたのだろうか。
 小柄なトランクを引きずりながら荒い息をついている。

「お姉ちゃん。電車、どこかな? 」
「あそこだよ」
 私は、ゆーちゃんの物より一回り大きなトランクを持ち上げながら、
10番線に佇んでいる車両を指し示した。
「何とか、間に合ったね」
「そだね」
 私は、ほっとするゆーちゃんの顔を見た。
 電車に乗り込んだ後、指定席券を覗き込んで、自分たちの席を探す。
「あっ、あったよ」
 ゆーちゃんが嬉しそうな声をあげ、入り口から少し離れた座席を
指差した。

 荷台に置けない、大きなトランクを座席の横に置いてシートに座る。
「ゆーちゃん。身体、大丈夫? 」
 私の言葉にゆーちゃんは、笑顔でこたえた。
「お姉ちゃん。心配しないで。調子良いんだから」
「そっか」
 リクライニングシートを少し後ろにずらして、私は天井を見上げる。
左手を伸ばすと、ゆーちゃんが掌を握り返してくる。


「間もなく、10番線から列車が発車いたします」
 アナウンスの音とともに、ベルが鳴る。
 扉が閉まり、がたんっという音とともに夜行列車は
東京駅を滑り出した。
 少しずつ速度をあげていく列車ではアナウンスが始まっている。
『本日は、ムーンライトながらにご乗車いたしましてありがとう
ございます。…… 終点の大垣には6:55に到着いたします…… 』

 車掌のアナウンスをBGMにしながら、私は隣の少女に囁いた。
「ゆーちゃん。後悔してる? 」
 もし、『している』と彼女が答えたら、次の品川駅で有無を言わさず
降ろすつもりだ。
「ううん。こなたお姉ちゃんと一緒だから、絶対しないよ」
「そう…… 」
 私は、ゆーちゃんの決意が固いことを改めて確認してため息をつく。
「たぶん。つらいことばかりだと思うよ」
 私たちは未成年だから。
「うん。わかってる…… つもり」
『つもり』というのがゆーちゃんらしい、といえばいえる。


 高校三年生の冬、普通なら大学受験シーズンまっさかりの
はずだけど。
 私は、同学年の生徒達と同じ進路を選ぶことに躊躇いがあって
進路は白紙状態のままだった。大学に行って何を学べばいいのか
良く分からなかったから。
 それでも、私とゆーちゃんの性的な関係が知られることがなければ、
私は何もないまま卒業して、ゆーちゃんは相変わらず泉家から
陵桜に通っていただろう。

 どこで露見したのか、誰が暴いたのかは今時点では分からない。
 結局、私たちの関係が学校にも家にもばれて、ゆーちゃんは実家に
戻されることになってしまった。
 私とは面会禁止という『おまけ』までついて。

 だけど、ゆーちゃんは、ただの大人しい女の子という訳ではなかった。
「おねえちゃん。駆け落ちしようっ」
 携帯の電話口で話を聞いた時は、正直仰天した。
「お、落ちついて。ゆーちゃん」
 私は、必死で説得を試みた。しかし――
「お姉ちゃんと離れるなら死んだほうがマシだから」
 泣きそうな声で放った一言で、私は決心せざるを得なかった。

 冷然と突き放したほうが、ゆーちゃんは幸せになれると
思っていたけれど。
 あんなに必死なゆーちゃんを見捨た場合、最悪の選択肢、
つまり…… 自殺してしまう可能性すらあったから、結局、
私は断りきれなかった。


 終業式が終わった日の夜。
 私とゆーちゃんは携帯で連絡を取り合い、深夜に東京駅で
待ち合わせ、東京駅発の夜行列車に乗り込むことになった。

 行き先の候補は二つあったが、そのうち一つを選択した。
 未成年者の私のスキルが最大限に生かせる場所だ。

 私は、そのうちの一つを選択した。最大の聖地アキバを
離れることは無念の極みだったが、首都圏にいては追っ手を
撒くことはできないだろう。

 幸いなことに、バイトで貯めたお金もある。更に家をでる時に、
お父さんからそっとカードを渡されている。
 玄関を出るときのお父さんの、とても寂しそうな顔が脳裏に
浮かんでくる。
 ゆーちゃんに続いて、実の娘まで去られたお父さんの気持ちを考えると
胸がズキズキと痛む。
 だからこそ、当座はカードのお金でしのぐとしても、私は働く
つもりだった。

 悲壮な決意が伝わったのか、ゆーちゃんが私の顔を見上げて言った。
「私、がんばって働いて、お姉ちゃんに負担をかけないようにするから」
「ゆーちゃんは、そんなことしなくていいんだよ」
「でも…… 」

 ゆーちゃんは不安と不満が入り混じった顔をしている。
「心配しないで。お金はしばらくはなんとかなるし、住む場所も
『当て』はあるから」
 ネトゲ仲間のマンションを一時的に借りるところまでは
話をつけている。
 なんでも、クリスマスの前日からまるまる3週間、ヨーロッパに
旅行するという豪勢な話で、泥棒よけに明日から部屋を貸して
くれるそうだ。
 その間に新しい住居を探さなくてはいけないが、いきなり
ネカフェ難民になることはない。
 夜行列車は私が今後のことを考えている間にも進んでいく。
小田原を過ぎたあたりから街の明かりは消え、真の闇を突き抜ける。


「それにしても、とんだクリスマスになりそうだね」
「お姉ちゃんと一緒にいられるだけで嬉しい…… かな 」
 ゆーちゃんの声が鼓膜にとどく。
 彼女のご両親は激怒してしまい、私達を引き離した結果、
逃亡劇となった訳だけど。
 今回の件で、ゆーちゃんの行動力は正直言って驚きだった。
 どうやら、ゆい姉さんにも相談しなかったようで、てきぱきと
準備を整えて、あっという間に駆け落ちを敢行してしまった。

「あの、本当にごめんなさい」
 ゆーちゃんは、私の不安そうな顔を見て、申し訳なさそうに
謝ってくる。
「お姉ちゃんには、迷惑ばっかりかけてしまって…… 」
「ううん。いいんだ」
 私は、ゆーちゃんの頭を優しくなでた。世界で一番大好き
ゆーちゃんの頼みだからいい。
「ゆーちゃん。もう寝よう」
「うん」

 既に、列車は熱海駅を過ぎており、腕時計は午前1時を指している。
「おやすみなさい。お姉ちゃん」
「おやすみ。ゆーちゃん」
 ゆーちゃんの唇に軽く触れると瞼を閉じる。まもなく席の隣から
静かな寝息が聞こえ、私もゆっくりとまどろんでいった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Elope 第2話へ続く











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  • そうじろうが可哀想…格好よすぎ -- 名無しさん (2009-06-05 05:37:06)
  • 何があっても、二人なら大丈夫だ!!!頑張れ!こなた、ゆたか! -- 名無しさん (2008-05-08 21:12:15)
  • ここから逃走劇が始まるのかぁ -- 名無しさん (2008-05-06 14:52:04)

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