アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

恋に落ちる音

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
毎年、近所で花火大会が開かれる。
 私には興味がなかった、今年までは。


「だ・け・ど☆㍍⊃!目も合わせられな~い♪」
 遠くから聞こえる祭囃子。それに上書きするように、特徴的な声が聞こえる。声は旋律に乗っていた。歌だ。
 自分の前を歩く小柄な後姿が声の主。
「こなちゃん、いい歌だね」
 小柄な背中の隣、リボンをつけた浴衣の後ろ姿が話しかける。柊つかさ―――私の通う高校の先輩。
「うん、メルト、って曲だよ。初音ミクの」
 小柄な背中―――泉先輩が答える。
 長い髪に眠たげな目と猫のような口。
 一見して年下にしか見えないけれど、この人もセンパイ。そして……
「最近、他にもいろいろ歌ってるよね、お姉ちゃん」
 そして小早川ゆたか―――私、岩崎みなみの大切な親友の従姉。


~恋に落ちる音~


「なんだ?またアニソンか何かか?」
 そう言うのは柊かがみ先輩。つかさ先輩の双子の姉。
 私の周りには他に人がいる。
 高校に入ってから出来た友達のパティさんに田村さん。それからご近所のみゆきさん。
 私も含めて合計八人。
「違うのだよ、かがみん。初音ミクっていうのは科学の限界を超えてやってきたVocaloidなのだよ!」
「何よそのボーカロイドってのは?」
「DTMのソフトっすよ!もう大ブレーク中っす!」
「ソーデース!ニコ厨皆、ネギでミックミクデース!」
「ネギ?DTM?みっくみく?」
「ますます分からん。っていうかそもそもDTMってなによ?」
「そ、そりゃ、えっと…」
「デスクトップミュージックのことですね。
 VocaloidとはYAMAHAが発売した、人の声を合成して歌わせることができるソフトのことです。
 初音ミクとはVocaloid2の音源「キャラクター・ボーカル・シリーズ」のイメージキャラクター、第一弾です」
「おおう!さすがみwikiさん!」
 途切れることなく、自然と回っていく会話。
 学校行事でもないのに、こんな大人数で歩くのは、これが初めかもしれない。
 楽しい。
「あの、みなみちゃん?」
 不意に、つかさ先輩上目づかいに声を掛けてきた。少しためらうように
「ひょっとして…うるさいの苦手だったかな?」
 え?
「さっきからずっと静かだし…だとしたらごめんね?なんか騒がしくなっちゃって」
「ぁ、そ、その…」
 違う。そう言おうとして、けれど私の舌は動かない。
 失礼にならないように、けれど畏まり過ぎないように…。
 言葉を探して焦れば焦るほど、言葉は逃げていく。
 ああ、センパイも気まずそうにしている。
 きっとこの無言を肯定と受け取られてしまう。
「いいえ、みなみちゃんは嬉しそうですよ」
 隣から、柔らかい声がした。
 ゆたかだった。つかさ先輩は首をかしげる。
「そう?けど私たちだけしか話してなくて…」
 心配そうなつかさ先輩に、ゆたかはいつものタンポポみたいな柔らかい頬笑みを返す。

「みなみちゃんはちょっと照れ屋さんでおしゃべりが苦手だから…。
 あ、けれど好きなんですよ、おしゃべりとか、みんなで一緒にいるのとか。
 さっきからずっと嬉しそうでしたし、ね?」
 水を向けられて私は、頷いた。
 ゆたかの言っていたことは、私の思っていたこと、言いたいと思っていたことそのままだったから。
 まるで、私の心を読んでいるみたいだ。
「そうなの?よかったぁ」
 つかさ先輩はほっとしたように笑うと、再び会話の輪の中に戻って行った。
「……ありがとう」
 少しして、私はゆたかに言った。けれど返ってきたのは不思議そうな表情。
「え?何が?」
「さっき……助けてくれて」
「そんなの!当然だよ」
 気負った風もなく言うゆたか。
 大したことがない、本当にそう思っているのだろう。
 けれど、私にとっては何よりも有り難く、嬉しいことだった。
 口下手で、感情を表すのが苦手な私を、誰よりも理解して、一緒にいてくれるゆたか。
 傍から見れば、ゆたかが私を頼り、わたしがゆたかを支えているように見えるかもしれない。
 けれど本当は逆。
 ゆたかがいなければ田村さんやパティさんと友達になれなかっただろうし、泉先輩達ともこうして一緒にいられなかっただろう。
 頼ってるのはむしろ私の…
「ねえ、みなみちゃん!」
「えっ、は、はい!」
 突然、泉先輩の顔が目の前に現れた。
 いや、私が単にぼーっとしていただけかもしれないけれど。
 目を白黒させる私に、泉先輩はさらに混乱させるようなことを聞いてきた。
「男のツンデレも萌えるよね!?」
「?」
 ツンデレ?萌える?
「あんたねえ!いきなりそんなこと聞いてもみなみちゃんが困るだけでしょ!」
 かがみ先輩が言うとおり、私は困っていた、心から。ただでさえ話を聞いてなかったのに、その上、萌えるかとか言われても…。
 一方の泉先輩は不服そうに、
「や、ほら、一般人の意見を聞きたくてさ」
「私の意見は一般人も意見じゃないのか!」
「ラノベ読むじゃん」
「だからってオタクとは限らんだろう!
 大体雨の時に女の子に対して『しょうがないから入ってやる』とかいう男のどこがいいってのよ?」
 話を聞いて、大体の内容が分かってきた。
 泉先輩が歌っていた『メルト』という歌の中に、雨の日に折り畳み傘を持って憂鬱にしている歌い手(女の子)の隣に立った男の子が
『しょうがないから一緒に入ってやる』という下りがあった。
 そう言うシーンから、そんな感じにいう男の子をどう思うか、というのを泉先輩は聞きたかったらしい。
「もう!かがみったら自分はツンデレのくせに男のツンデレの機微は読めないんだから」
「ツンデレ言うな!」
「私はちょっと憧れるかな、そういうの」
「つかさ、あんた悪い男に引っ掛かりそうね」
「あうっ」
「いや、そこは男子の反応によりますよ!
 耳まで真っ赤か自信満々かで好みが分かれるっすね」
 話題は既に私の手から移っていた。戻ってくる気配もない。
 ほっとしたけど、少し残念。

「みなみちゃん」
「?」
 ゆたかが声を掛けてきた。無言で問い返すとゆたかは
「みなみちゃんは、そういう男の子のこと、どう思う」
 …やっぱり、ゆたかは私の心が読めているんじゃないだろうか?
 私は、ゆたかの掛けてくれた話題に答えようとして…
「…ごめん、よくわからない」
 情けない。せっかくゆたかが話しかけてきてくれたのに…。
 けれど、そんな中途半端な面白味もない答えに、ゆたかは笑顔を見せてくれて
「よかった。私も男の子のことよくわからなくて…」
 はにかむような笑った。

 花火大会の会場は、もうすぐだった。



 30分後、私達は花火がよく見える河原から、少し離れた公園にいた。
「ごめんね、みなみちゃん」
「ううん」
 ベンチの上に座った私は、ゆたかに膝枕をしている。
 人ごみで、ゆたかが体調を悪くしてしまったのだ。
 この公園は立地の関係で花火が殆んど見えず、人がいない。
 私とゆたかはここで待つことにした。
 泉先輩達は自分たちも残ると言ったし、ゆたかは私も行けと言っていたが、私は残った。
 花火大会を楽しみにしていた泉先輩に申し訳ないし、ゆたかを一人にしておけないし、それに―――


 花火大会が、始まった。


 音だけが届く。
「あ…始まっちゃった…」
 ゆたかが、悲しそうな声を出す。
 私も残念に思う。ゆたかにも見せてあげたかった。
 そう思っている間にも、花火は次々と打ち上げられていく。
 どーん、どーんと。
 爆発音と言うには丸い響きの音。けれども小さくないそれは、震動として体に直接感じる。
 胎児が感じる母親の心音は、こんな感じなのだろうか?
「みなみちゃん…ごめん」
 しばらくしてからもう一度、ゆたかが言った。
 声が少し湿っていた。心配になる。
「ゆたか…?」
「私がこんな体だから……ごめんね、迷惑を掛けて…」
 ゆたかが、泣いている。
 違うのに。謝る必要なんてないのに。
 どうして、こんな時にゆたかは私の心を読んでくれないのだろう?
 いや、そんなことを思っていては駄目だ。
 いつも私を支えてくれるゆたかが泣いている。守ってくれるゆたかが悲しんでいる。
 だから、今は私の番。

「あのね…?」
 緊張でもつれそうになる舌を動かしながら、必死に言葉を探しながら、
「私…いつもはこの花火大会、見に来ないの」
 たどたどしく、私は想いを紡ぐ。
「今年来たのは……ゆたかが一緒に行くからだったから…」
「みなみちゃん?」
 少し驚いたように、ゆたかが私の顔を見てきた。
 恥ずかしいと思って、けれど目は逸らさない。
「ゆたかと一緒だから、花火を見たいと思った。一緒じゃなければ、全然意味がないから…。
 だから……私は、今、こうしている、幸せだよ?」
 言い切った。
 私の心は伝わっただろうか。
 考えている間に花火大会が終わったのか、花火の音は聞こえなくなっていた。
 私は不安になりながらゆたかの返事を待つ。
 ゆたかは、最初驚いたような表情をこちらに向けていたけれど、やがてその顔がゆるんだ。笑顔の形に。
 そして眼尻に浮かんでいた涙をそっとぬぐって、
「ありがとう、みなみちゃん…。大好きだよ」

 花火の音がした。

 聞こえたような気がした。けれど、それは気のせい。
 花火大会は終わって、聞こえてくるのは喧騒と虫の声だけ。
 けれども音は聞こえる。
 体を揺らす振動とともに、音が聞こえる。
 鼓動の音だ。
 そう気付いたのはしばらくしてからだった。
 気づけなかったのは、その鼓動の音があまりにも大きかったから。そして、あまりにも優しかったから。
 来る途中、出店で買ったラムネ。
 わずかな炭酸の淡い痺れと、優しい甘さ。
 この音も同じ。
 大きく響いて体を痺れさせるくせに、乱暴じゃない。
 ああ、そうか。この音に心当たりがあった。
 それは来る途中。泉先輩が歌っていた歌のワンフレーズ。



 恋に落ちる音



 ああ、きっと実らない恋なんだろうな。
 ああ、きっと叶わない恋なんだろうな。
 私の恋に落ちる音。初めて恋に落ちた音。それは花火の音だった。
 一瞬だけ咲いて、すぐに散る、実を結ばない儚い花。
 けれど、今は、せめてこの音がまだ体の中に残っている間だけは、そんな現実を忘れておこう。
「私も大好きだよ、ゆたか」
 すれ違うLikeとLove。けれど、今だけは伝わってると信じる。
 遠くから、泉先輩の声がする。
 ゆたかは慌てて膝枕をやめようとするけど、私はそっと押しとどめる。
 もう少しだけ…もう少しだけこの余韻を楽しませて。私が恋に落ちた音の…。

【完】












コメントフォーム

名前:
コメント:
  • 凄く良い作品!さわやかな気分! -- チャムチロ (2012-09-12 22:48:27)
  • このタイプの話、もっとほしい・・・。ぜひまたみなゆたをー! -- 名無しさん (2008-09-24 23:47:19)
  • 成就を〜〜二人の気持ちが結ばれるハッピーでラブラブな恋愛成就の続きをプリ〜〜〜〜ズ!!!! -- 名無しさん (2008-08-25 18:51:46)
  • みな→ゆたは切ない…。 -- アペックス (2007-12-29 20:20:41)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー