kairakunoza @ ウィキ

1レスSS:いい風呂の日

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「うう……さむさむ」
お風呂に入るとき、脱衣所から湯船につかるまでは地獄!
この世に生を受けて18年……私、永森やまとのなかでは、これはもはや世界の真理と化している。
脱衣所で手早く服を脱ぎ、扉を開けて風呂場に入る。
軽くかけ湯をして身体の汚れを落とす。
「ふぅ……」
いつもの手順でかけ湯を済ませ、ゆっくりと湯船に足をつける。
「んっ……」
つま先がお湯に触れ、じんわりとした熱さが足全体を包んでいく。
そろそろと足をお湯に入れ、もう片足も湯船に入れてしまう。
「んっ……く……」
かけ湯をしたとはいえ、冬の寒さで冷え切った身体には、お風呂のお湯は刺激が強かった。
だがすぐにお湯の温度に皮膚が慣れてきて刺激を感じなくなる。
私は湯につかった部分が熱さに慣れたことを確認し、ゆっくりと身体を湯船に沈めていく。
「んんっ…っ……ふ……」
ちりちりとした熱さが全身を刺激し、痛みにも似た快感が全身を包む。
私は肩がお湯に浸かるところまで身体を沈め、ゆっくりと身体から力を抜いた。
「くっ………はぁ~」
すっかり脱力して湯船に身体を預ける。
この脱力感が私は大好きだ。
細胞が開いて、一日の疲れがお湯に溶けていくような気がするからだ。
冬があまり好きではない私にとって、数少ない楽しみと言える。
このような言い方をすると、夜8時か9時くらいにお風呂に入っているように聞こえるが、実際はまだ昼過ぎで、窓の外には青空が広がっている。
なぜこのような時間にお風呂に入っているかというと……
がらっ
「や~ま~と~」
「ぶっ!」
突然扉が開き、素っ裸のこうが姿をあらわす。
「一緒に入ろ~」
「こう!またあんたはこんなことして……」
乱入するなと言っておいたはずだったが……記憶違いだろうか?
慌てて手で身体を隠す私をよそに、こうはかけ湯もせずに湯船に飛び込んだ。
「ふぃ~生き返るね~」
「もう……せめてゆっくり入りなさいよ」
「まぁまぁ、細かい事言いっこなしだよ」
このいい加減な友人のせいで、昨夜はお風呂に入れず、こんな時間に入ることになってしまったのだ。
なんでも冬コミとかいう、以前無理矢理手伝わされたイベントとは比べ物にならないほど大規模な催しがあるとのこと。
新作の本をたくさん出したいがために、私まで手伝いに駆り出されたというわけだ。
作業はほとんど徹夜作業となり、作業がひと段落したときには正午を過ぎてしまっていた。
酷い話だ。
「ん~?やまとぉ~いつまで隠してるのさ」
胸とか下とか、こうが入ってきたときからずっと手で隠していることを言っているのだろう。
「いいじゃない。恥ずかしいんだから……」
「女の子同士なのにー?」
「(こうだから恥ずかしいのよ……)」
「ん?なんか言った」
この鈍感朴念人。
「なんでもないわよ」
私はプイとそっぽをむいて窓の外を眺めた。
「ふ~ん」
こうも私につられてか外の景色に目をやった。
「ん~」
こうは腕を上に伸ばして大きく深呼吸をすると、
「ぷはっ!冬の晴れた日って好きだー!」
「……どうして?」
冬が苦手な私にとっては興味深い一言だ。
「だってさ、神様も私達を見捨てたわけじゃない。って気がしない?」
意味が分からない。
日本語をしゃべれ。
ここは埼玉県だ。
だがまぁ、
「そうね…」
言いたいことはわかる。
冬の晴れた空は、他の季節とはどこか違うものがあるように思える。
風はすっきりとさわやかで、日差しも春とはまた違った優しさを含んでいて、とても清清しい。
実際、私は空色が好きだが、四季の空の色では冬のものが一番好きだ。
……いや、好きなんだ。
今気付いた。
もともと私は冬はあまり好きではない。
寒いのが嫌いだからという単純な理由だが、これからますます寒くなっていくことを思うと憂鬱だった。
だが一つ、楽しみを見つけた。
この空の蒼さに、一つの楽しみを見出せた。
「…ありがと」
「ん?」
「冬の楽しみが一つできた」
「?……なんのことかわからないけど、喜んでもらえたなら嬉しいかな。
誕生日だってのにお仕事手伝わせちゃったし」
「……覚えてたの?今日が私の誕生日だってこと」
「当たり前だよ。11月26日。いい風呂の日だね」
「………は?」
「語呂合わせだよ。いい(11)ふろ(26)」
「……くだらない」
「なんだよー日本記念日協会が認めた記念日なんだよー?」
「はぁ……」
「ってなわけで……」
どんなわけだ。
私の疑念を放置してこうは湯船から立ち上がり、お風呂場の外に置いてあったクーラーボックスを差し出した。
「どうぞ」
恐る恐るあけてみると。
「雪見大福」
「好きでしょ?」
熱いお風呂に浸かりながら冬の青空を眺めて好きな人と一緒に雪見大福を食べる。
こんな誕生日もいいかもしれない。
「うん。すき」
その一言は、なんだかとても素直に言えた気がした。
「でしょ!飽きない味だよねー」
本人にはまったく伝わっていない。
でもそれでいい。
今この瞬間が幸せなら、とりあえずはいい。
究極の贅沢とも言えるこのひと時を、私達は存分に満喫するのだった。



















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  • 有り得ない -- 永森やまと (2012-05-16 06:48:35)
  • すごく……GJです
    -- 名無しさん (2009-11-26 12:39:23)
  • なんでだろ
    風呂に入るシーン、別に変なことしてるわけじゃないのに
    すごく……エロいです -- 名無しさん (2009-11-26 08:02:14)

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