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カケラ 8

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( 8 )

8.

「赤の7」
「はい、ドロー4」
「えーっ、また?」
「ささ、早く取る取る」
「ふぇええ、これで3回目だよぉ」

ガラガラで静かな特急列車の中、
私とあゆちゃんはボックスシートで向かい合わせになって「UNO」というカードゲームで遊んでいた。
列車の案内によると、私達が降りる小倉駅までは6時間ほど掛かるという。
聞くだけでもウンザリする時間だけど、私が背負っていたナップザックに丁度UNOが入っていたので、
それで時間潰しをしようと提案したのだ。
あゆちゃんもさっきから周り警戒をしている一方で、小さなバッグからトランプを取り出した。
UNOの方は初めて見るようで、興味津々だった。

慌てて乗った列車は特急「有明」号は、クリーム地に紺色の帯を纏った大柄な電車で、車内もそれに応じて広々としている。
客室は全部ボックスシートで、背もたれを倒したり、向きを変えることは出来ない。テーブルもオマケでちょこんと付いている程度。
どことなく、旅行番組で観た外国の列車に似ている。
完全な個室じゃないので一人では乗りづらいけど、こうやってグループで乗るにはちょうど良いかも知れない。
天井が高い割には窓は小さい。窓にはカーテンが無く、ブラインドが付いていた。
右上のハンドルをくるくると回すとアルミの薄板が何枚も下がってきた。
天井の両側は全体に渡って変な蓋が張り出している。中には何が入っているのだろう?
変な蓋が左右一列に並んでいるせいで、照明は中央に追いやられて、エアコンの吹き出し口と交互に並んでいる。
窓も照明も小さく、しかも照明の位置が高いので、車内はそれほど明るくない。
リゾートホテルの部屋みたいに、わざと暗くしてる訳ではなさそうだ。
車両の端の方はデッキとなっていて、片方はお客さんが乗り降りする扉、もう片方は洗面所だった。
洗面台は何故か3つ並んでおり、その間には何に使うのか良く分からない「穴」が開いている。
通路を挟んだ向かい側はトイレ。何故か2つもある。冷水器まである。

変な電車。

他にめぼしい所は見付からず、あるとすれば製造銘板とおぼしきプレートと、「3号車」「指定席」と書いてある案内板、
そして、「モハネ580-11」と書かれた謎のプレートが「適当に並べてある」だけだった。

変な電車。

封筒に入っていた切符は、4席分座席指定されてあった。
つまり、このボックスは私とあゆちゃんとの2人で占領出来る。
荷物棚は何処か頼りなさそうだったので、私とあゆちゃんの隣には、それぞれの荷物が座っている。



「はい、赤と青と黄色の3」
「ずるい! なんで3枚も出すのよ?」
「同じ数字の時は何枚も出せるんだよ」
「じゃあ、私も出すね。はい、コレとコレとコレ」
「えぇぇぇ!! 何でDraw Twoを3枚も持ってるの?!」

あゆちゃんが出したのは「+2」と書かれたカード。誰もが仕返しに使う、Draw Twoのカードだ。
泣く泣く窓側のミニテーブルに積んであるカードを6枚引く。
たちまち私の手札は20枚を越えてしまった。
あゆちゃんの方は残り3枚。

このカードゲーム、地域や学校によってルールが違うらしい。
また、それぞれが自分で決めたルールを作っていたりするので、場合によってはゲーム中にルールの事で揉めることも多い。
私の知っているルールはこんなカンジ。
  • 同じ数字や絵文字のカードは複数出せる。(WildとDraw 4は1枚だけ)
  • 手持ちの色や数字が無い場合は、その色または数字が出るまで延々と山札を引き続ける。
  • Draw Fourが出せるだけ出せる。
  • 前の人がDraw 2を出せば、次の人がDraw 4を出すことも出来る(但し1枚だけ)
  • 数字以外の札では「UNO!」を宣言出来ず、1枚余分にカードを引く。
運が悪い人は両手で持ちきれないほどカードだらけになてしまう。
簡単だけど、恐ろしいゲーム。それが「UNO」だ。
後は他の地域と同じだと思う。

「黄色のゼロ」
「黄色の5」
「………うーん、カードが無い。残念」
あゆちゃんは残念そうな顔をして、山札に手を延ばす。
電車の振動でたまに崩れるので、その時は一旦山札を集めてカードを切り直す。
1枚目で黄色の9が出たのでそれを山札の隣に積む。
あゆちゃん、残り2枚。

「あゆちゃん?」
「なに?」
「ごめんね♪」
わざとにこりと笑って、徐に裏にしたままカードを出して、意地悪く裏返す。
「えっ……………」
私が出したのは、ドロー2が5枚。
「……………」
あ、ちょっと意地悪が過ぎたかなぁ…。
ちょっとからかうつもりだったんだけど………。
しばらくの間。
電車がカタンカタンとジョイント音を打つ。2度目のジョイント音であゆちゃんがニヤリと笑う。

「残念でした」
わざと意地悪く言って、あゆちゃんが出したのは…。
「ま、またぁ??!!」
Draw 4だった。
「ついでに『うの!!』」
え…………。
「で、色は緑」
ニヤニヤしてる。

最後の1枚になった人は、『UNO!』と宣言する。これを言わなくてもいい地域もあるらしい。
言い忘れると余分にカードを引くことになる。



山札から14枚のカードを引く。ついに両手で持つのが大変になった。
あゆちゃんは残り1枚。Wild Draw 4で『緑』を選んだので、今持っているのは緑の札だろう。
カードだらけの私の手元には、0から9まで見事に数字が揃い、5は4色ある。
Wildも持ってるけど、Draw 4の次にWildは出せない(ことになっている)し、色を変えてまた色を変えるのも芸がない。

「ふっふっふー。これで私が勝てば、つかさは5連敗ね」
「う、運が悪かっただけだもん!!」
「ほぉら、早く出しなさいよ」
いくら年下とは言え、ここで負けるのは何だか悔しい。
ちょっとムキになってしまう私。
「緑と黄色と赤の3」
「ちょっと、出せないじゃないの!!
 ………………えっと、赤の4」
「赤と緑のスキップ」
「ぶー。」
「緑と赤と青の2」
「お、大人気ないぞー!! また増えた…黄色の2」

(30分経過…………)

「はぁ、はぁ、今回は手強いわね……。青の4と2、『うの』!!」
「あ、あゆちゃんこそ……はぁ、はぁ 黄色の2」
「いい加減負けなさいよ………って増やすなー!! 1・2・3……緑の2」
「はぁ、はぁ、ご、5連敗は嫌だもん!! ワイルドで赤!!」
「お、大人気ないぞー。ちぇー。赤の1」
「赤の9」
「緑の9」
「黄色の9 『UNO』!!」
29枚のカードが遂に1枚になった。
「黄色の4『うの』!!」
対するあゆちゃんも何度目かの『UNO』宣言。
「うー、出せない。1・2……青の4」
「つかさ、これで終わりよ」
あゆちゃんが5度目の勝利を宣言する。
や、やっぱり負けちゃうの? 私。
「青の7。あっがりー!! やったー!! 5連勝!! いえーい!!」
あゆちゃんは満面の笑顔で私にVサインを送る。
座席の上でぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる。
「うぅ、まさかの5連敗……」
「じゃあ、もう1回やる?」
「ちょ、ちょっと休憩………」
第5回戦は長時間にわたる攻防戦が続いたので、私はヘトヘトだった。
あゆちゃんも疲れていた筈だったのに、まだ余裕があるみたい。
そにしても本当に嬉しそう。
なんか、こう、可愛いな。
もし私に妹がいたら、こんな感じだったんだろうなぁ。



「何よ?」
「い、いや、べ、べべべべ別に………な、何でもないよ」
彼女をじーっと見ていたらしい。あゆちゃんの笑顔が焦りの顔に変わる。
無愛想だと思ってたけど、結構表情が豊かな子だなぁ。
「あ……そう」
「ただ………」
「ただ?」
あゆちゃんの丸い顔が迫る。
「妹みたいで………可愛いなって」
うわぁぁああ、言っちゃったよぉ。
「ちょ………ばっ……!! お、お、女の子にか、か、『可愛い』なんてい、い、言われても、う、う、嬉しくなんかないっ!!!!」
「ちょっとおマセさんだけどね」
「うるさいうるさいうるさい!! べ、別にいいもん!! べーっだ」
顔を真っ赤にしてアカンベーをされちゃった。
やっと子供っぽい所を見せてくれて私はちょっと安心した。

あ、言っておくけど、私はサディストじゃないよ?
あゆちゃんをちょっとからかっただけだよ?


UNOをやる前は2人で色々とお話をしようとした。
でも、私が話下手なせいか、あゆちゃんがあまり話したがらないせいか、思う様に進まず、沈黙が続いていた。
電車のモータとジョイント音のBGMを聞きつつ、頑張って話そうとしたんだけど、滑りに滑ってどんどん空気が重くなってしまった。

私はあゆちゃんの事が知りたくて、まず自分の住んでいる所や学校や家族、友達の話をした。
一番知りたかったのは、あゆちゃんがこの時代の人間なのかどうかだったんだけど、
あゆちゃんは自分が今12歳であること以外は話してくれなかった。
いや、話したがらなかった。
特に家族の話と学校の話は嫌だったみたい。
私が自分の事を話しても面白く無さそうだったし、私があゆちゃんに、
「あゆちゃんのお母さんやお父さんって、どんな感じなの?」
の様に訊くと、下を向いたまま黙ってしまった。
私は何か特別な事情があると察して、これ以上追求するのはやめにした。私の性に合わないしね。

もし、ナップザックの中にUNOが入っていなければ、6時間耐久の我慢大会が続いていたことだろう。
その後は、ある程度話が弾んだ。
でも、やっぱりあゆちゃんは、家族や学校の話になると下を向いてしまった。



「つかさっていいな」
「何が?」
「色んな事知っててるし、ゲームとかも一緒にやってくれるし、面白いし、料理も出来るみたいだし、それに………」
「そんなこと無いよ」
「え?」
「私、おバカだし、弱虫だし。話すのが下手だし、人見知り激しいから友達も少ないし………」
「一番凄いなって思うのはね」
「うん」
「『前向き』だなってトコ……かな?」
「前向き………かぁ」

『前向き』英語で言えば『ポジティブ』
1年生の頃、同じ事をこなちゃんにも言われたことがある。
こなちゃんと友達になって、初めて言われた言葉。
私はあまり自覚していない。
でも、途中で諦たりするのは嫌で、何とか最後までやり遂げたいとはよく思うし、何とかしようと考える。
パニックになるとそのまま泣き出しちゃうことも多いけど、ね。
あと、宿題だけは睡魔に負けて、終わる前に寝ちゃう事が多い……。

「ちょっと…………照れるカモ…」
「な…何照れてんのよ」
「ううん、別に。でも、そう言われると嬉しいな。『有り難う』」
「……………ありがとう、か」
鸚鵡返しのようにつぶやく。両手を前に広げて。
そして、顔を上げて、顔を真っ赤に染めて、ゆっくりと言うお礼の言葉。
「ど、どういたしまして」
「ふふふ、あゆちゃん、真っ赤だー!!」
「うるさいうるさいうるさい!!」

「ふふふふ、やっぱり可愛い」
「ぷーっ。つかさには敵わないや」
そして、2人で笑い合う。電車の中だけど。



電車に揺られること3時間。
曇り空の下、特急「有明」号は順調に八代海沿岸を走る。
カーブが多いのか、あまりスピードは出ていないみたい。
NHKでやっていたけど、現在の九州新幹線は鹿児島中央駅と新八代駅との間を40分足らずで走ってしまうという。
新幹線ってやっぱり速いんだなぁ。


「つかさ、起きて」
あゆちゃんが小声で私を起こす。
「ごめん、寝ちゃってた?」
「うん。ちょっとだけ」
あゆちゃんの顔には笑顔も恥じらいも無く、代わりにあるのは緊張をともなう警戒の色。
「それより、私の言うとおりにして」
「ふぇ?」
「しーっ」
左手人差し指を唇に当てて、それから周囲をぐるりと見回して、それから私の顔を睨み付ける。
何だか胸騒ぎがする。その、何というか、『とても嫌な予感』がする。
「私、今からトイレ行ってくる」
「トイレに?」
「そう。その間、荷物をまとめて何時でも降りられる様にして」
「………」
「大丈夫、つかさは死なせないし、一人にするつもりは無いから」
『つかさは死なせない』
つまり、私は命を狙われている事になる。
急に恐くなった。
「いい? とにかく、つかさはずっとここに居て。何かあったら次の駅でダッシュで降りて」
「で、でも……」
「だから大丈夫」
「『約束』だよ?」
「うん、『約束』する」
緊張が高まる中、お互いに笑顔を送る。
「じゃ、行ってくるからそこで大人しくしてて」
「う、うん。分かった。『絶対』帰ってきてね」

あゆちゃんは笑顔で返し、それからゆっくりと立ち上がって客室の外の洗面所へと向かった。
私は拡げていたUNOもトランプも全部回収し、2人分の荷物を一つに纏め、ゴミ袋もナップザックに詰める。
ゴミは後で捨てればいいや。

先ほどから周囲の目線が気になる。
私とあゆちゃんが座っていたボックスに、『嫌な』視線が槍の様にグサグサと突き刺さる。

間違いない。
これは、非常事態だ。

彼女の事が心配になってきた。
刹那、洗面所の方から「ドカン」という何かが壊れる音と共に悲鳴が聞こえた。
「!!!!!」
私は思わず立ち上がる。でも、洗面所へ向かう事は出来なかった。



「動くな」


複数の『銃口』が、『私』に向けられていた。






間.

車を適当な所に停めて貰い、2人で綾瀬川沿いの堤防を歩く。
サイクリングロードとして知られるこの堤防も、今はおれの様な野次馬や報道陣、遺族と思われる人々が、
史上最悪の鉄道事故の現場をただただ眺めていた。

事故現場は想像以上に悲惨だった。
団地の5階ほどある高さの高架橋が『そこ』だけ無惨に崩壊して、民家『だった』場所からは今も煙が出ている。
事故が起きたのは、昨日の18時頃。ちょうど夕食の支度をしていた頃だったのだろう。
高架橋で押し潰され、火事が起きて、そこに住んでいた人は逃げる事も出来ず、そして───────。
「…………………」
電車の方も酷かった。
8両編成の日比谷線直通列車と、反対側を走っていた10両編成の急行列車が折り重なる様に崩れ、
編成の半分が川に沈んでいた。
車体はどれも解体現場の様に原型を留めておらず、生存者が居る事に驚くほどだ。
今朝の報道で、376名と予想された犠牲者の数だが、今朝になって公式な数値が発表された。
実際の死者は284名、重体・重傷者はおよそ500~600名、その他は奇跡的に軽傷だったという。

おれは夕べ、該当列車の定員を調べていた。
先に結論を述べると、かがみちゃん達は『事故に遭った普通列車に乗っていた』。

ニュースでヘリから撮られた車両を元に、百科事典サイトや鉄道車両に詳しいサイトで形式を調べる。
すると、該当したのは普通列車が東武鉄道の「20050系」という電車で、急行列車が東急の「5000系」という電車だと判明した。
列車の定員は東武20050系が1,050名(1両あたり131.25名)、東急5000系が1,488名(同148.8名)。
定員通りに乗っていたとすると、車内には2,538人が乗っていたことになる。
ただし、時間の掛かる普通列車は、休日の東武線内はガラガラであり、たとえ夕方でも席が全部埋まる程度である。
ざっと計算して500名程度だろう。
一方の急行は上りも下りも混雑するので、定員通り約1,500名乗っていたとする。
よって、全体の被害者は2,000人くらいとなる。

該当した車両形式と事故発生時刻を元に、この2つの列車の時間を調べたところ、
普通列車は東京メトロ日比谷線の中目黒駅を17時4分に発車し、終点の東武動物公園駅には18時46分に到着する列車で、「B1731T」という便だった。
詳しい発生時刻は不明だが、おそらくこの列車で間違いない。
因みにこの列車、18時11分には新田駅を出ており、次の蒲生駅にはわずか1分で到達する。
同じく急行列車は南栗橋駅を17時31分に発車し、終点の東急田園都市線長津田駅には19時29分に到着する列車で、「C1716K」という便だった。
こちらは新田・蒲生の駅には停まらないので、新越谷駅の発車時刻と前後の列車を調べた上で判断した。
念のため東武好きの同僚に訊いてみたところ、「間違いない」とのこと。
奴は謎のグラフらしき運用表まで自作した奴だから、信用しても良いだろう。

余談だが、あやのとその姉が乗っていた「1本後の列車」とは、事故に遭ったB1731T列車の1本後である急行列車の事で、
草加駅でB1731T列車を追い越している。
そして、18時24分に無事春日部駅に到着したという訳だ。


昨日来た柊さん(かがみちゃんの母親)によると、かがみちゃんが「今から帰る」と連絡したのが17時30分。
彼女は妹のつかさちゃん、それに2人の友達である泉こなたちゃんと一緒に秋葉原に出掛けていたらしい。
そして、彼女らは『今も』家には帰っていない。
ニュースでは次々と怪我人や犠牲者が発見されたと報道しているが、あまりにも数が多いので誰が誰かは推測すら難しい。
いや、もしかしたらとっくに見付かって病院に運ばれているのかも知れないが、
今朝電話した時点で病院や警察からの連絡は一つも無いという。
逆に病院へ電話を掛けようとしたらしいが、訊いてもすぐに答えは出ないと説得され、泣く泣く断念したらしい。


ところで、おれ達が何故事故現場へ向かったかと言うと、彼女らを捜しに行ったという訳ではない。
電車が落ちたのは川の上だが、その前後の区間も崩壊しており、蒲生・新田両駅のホーム端を境にプッツリと切れている。
寝る前に観たニュースで気になったのだが、崩壊した橋の南寄り、つまり、新田駅寄りで不可解な『穴』らしきモノがテレビに映し出されていた。
上空からの映像とはいえ、その穴はやけに目立った。相当大きな穴である。
この『穴』に関する情報は今のところ皆無で、この手の話に敏感な大型掲示板の住民も、おれが発言して初めて反応したくらいだ。
ところが、そのスレッドは大して延びず、やがて消されてしまった。
それは、あまりにも不自然だった。
確定ではないが、『誰か』が『意図的』に消した様な感じだった。
今朝のニュースでも、その『穴』に関する報道は一切無かった。新聞にも載っていなかった。
『何か』が引っ掛かる。
『何か』が。
もしかしたら、この『謎の穴』が事故と関連しているのかも知れない。
だから、おれは行ってみることにしたのだ。


「……本当に行くのね」
「ああ。だが峰岸、お前は車に戻ってもいいぞ」
相変わらず姉だけは苗字で呼んでいる。
「大丈夫。アンタ1人だと色々首突っ込んで心配だから」
「それは親切にどうも。だが、おれが今向かっているのは事故現場だ。何があっても知らんぞ」
本当に何があるかは分からない。
「構わない。私は勝手にアンタの後をついているだけなんだから」
「……………………好きにしろ」
「そうする」
彼女はニコリと笑った。
「なに?」
「いや、みさおやあやのには迷惑掛けるなぁって」
「そうね。あやのはしっかりしているけれど、もし私達が居なくなったらやっぱり心配ね」
「………………ああ」

おれ達は住宅街の裏道を使って、こっそりと事故現場の立ち入り禁止区域へと侵入した。
何かが『引っ掛かる』からだ。














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