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危険な関係 第3話

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 3.


 午後のホームルームが終わると、既に西の空は茜色に変わっている。
 教室の喧騒を耳にしながら、かがみと一緒にゲマズに行こうかと思っていた時、
入り口に良く知っている下級生が立っていることに気がついた。
「みなみちゃん」
 声をかけると、彼女は静かに頭をさげた。
 岩崎みなみちゃんは、ゆーちゃんと同じクラスの女の子で、
思わず振り向いてしまうような美人さんだ。
 どこか人を寄せ付けないミステリアスな雰囲気を醸し出しているけれど、
ゆーちゃんにはとても慕われている。

「泉先輩。話をしたいことがありますので、少しお時間をいただけますか? 」
「いいけど。何の話? 」
「すみません。ここではちょっと…… 」
 みなみちゃんの様子に微かな違和感を覚えたけれど、ゲマズに寄る以外には、
これといった用事はないし、特に断る理由もない。
「じゃあ。食堂にする? 」
「お願いします」
 みなみちゃんの声は微かに震えていた。

 昼間は殺人的に混みあう食堂だけど、今は数名の生徒が雑談に興じているだけで閑散としている。
「どうぞ。みなみちゃん」
「ありがとうございます」
 みなみちゃんに、自販機で買ったホットコーヒーを渡して、隅の方にある椅子に座る。


「ところで話って何かな 」
 みなみちゃんは、いきなり本題を切り出した。
「失礼ですが…… 泉先輩は、ゆたかと付き合っているのですか? 」
「え? 」
 あまりにも直截的な言い様に、答えることを忘れて、まじまじと整った顔を見つめた。
「ゆたかが泉先輩に向ける目線が明らかに違うんです。話をしていても、すぐに泉先輩の
話題になってしまいますから」
 鷹のような鋭い瞳が、私をしっかり捉えて離さない。

「みなみちゃんは…… 」
 暫く考えた後―― 私は、大きく息を吸い込んで、最初の銃弾を送り込んだ。
「ゆーちゃんのことが好きなのかな? 」
「…… はい」
 みなみちゃんは顔を真っ赤にして頷く。
「それで…… 私は何をすればいいのかな? 」
 言葉に棘が含まれることに気がつき、みなみちゃんの表情はにわかに厳しくなる。

「ゆたかをこれ以上惑わせないでください」
「どういうことカナ? 」
「今のままでは、ゆたかが不安定なままです。先輩は分かっていないかもしれませんが、
ゆたかは繊細な硝子細工です。何かあったら壊れてしまいます」
 あきらかに焦燥の色を浮かべながら、普段の寡黙さを捨てて早口で捲くし立てる。

「ゆたかをしっかりと支えてくれる人なら、ゆたかの一番になっても仕方がないと思っていました」
 みなみちゃんは大きく息を吸い込んで続けた。
「でも、先輩はずっと曖昧なままじゃないですか」
 みなみちゃんが振るった言葉の刃に、私の肺腑は深くえぐられる。


 でもね。みなみちゃん――
 正論を言われて、ありがたがる人なんて余程の聖人君子か、自分の意見を持たない
葦のような人のどちらかなんだ。
 溢れ出しそうになる感情を抑えていた蓋が、完全に外れる音を聞きながら、
私ははっきりと言った。
「私とゆーちゃんのことを、みなみちゃんに言われる筋合いはないよ」

「なっ」
 私の返事が予想外だったようで、みなみちゃんの顔色が変わる。
「正直に言うとね。ゆーちゃんとの関係を、みなみちゃんにあれこれ言われるなんて
おせっかいもいいところなんだ」
 どす黒い感情と一緒に、酷い言葉がどんどん吐き出される。

「泉先輩っ 自分が何を言っているのか、分かっていますか? 」
 みなみちゃんは怒りで身体に震わせている。
「十分に理解しているつもりだよ。少なくともみなみちゃんよりはね」
 私の言葉と気持ちも、十分に冷え切っている。
 実りのない応酬が交わされる度に、みなみちゃんとの間に修復不可能な溝が広がっていく。
「泉先輩…… あなたなんかに、ゆたかを渡すわけにはいきません」
「それはゆーちゃんが決めることだよ」
「違います。ゆたかは先輩に騙されているんです。泉先輩と一緒にいると不幸になってしまいます」
 みなみちゃんの言葉は、どんどんエスカレートしていく。

「ゆーちゃんも可哀想に。こんな独占欲の強い子に囚われてしまって」
「どういう…… 事ですか」
「みなみちゃんはゆーちゃんしか見えていない。そんな視野の狭い子に捕まったゆーちゃんが気の毒だよ」
「うぐっ…… 」
 言葉を詰まらせたみなみちゃんに、容赦なく追い討ちをかける。
「散々、私に言ってくれたけどさ。みなみちゃんは自分の事しか考えていないよ。
それでよく私と一緒になると不幸になる、なんて言えたものだね」
「いい加減にしてくださいっ! 」
 激高して立ち上がった拍子に椅子が倒れ、不協和音を響かせながら床に転がる。
 みなみちゃんは私の頬を張ろうと腕を振り上げたけど、動作が大きいために難なく避けることができる。

「甘いよ。みなみちゃん」
 安い挑発にのったみなみちゃんが、真っ赤になりながら私の胸倉を掴む。
 しかし、既に周囲の生徒の視線が集中しており、みなみちゃんは手を離すしかなかった。
「絶対に許しませんから」
 みなみちゃんは擦れた声で言うと、背を向けて遠ざかる。
 彼女の姿が消えて暫くしてから、私もゆっくりと立ち上がった。
 先程までいた数名のギャラリーは、既に食堂から立ち去っていた。


 鞄を取りに教室に戻ると、かがみが私の席に座っていた。
「やあ、かがみん」
 軽く手をあげると、かがみは立ち上がって頬を膨らました。
「どこにいってたのよ…… 」
 文句を言いかけた、かがみの表情が驚愕を含んだものに変わる。
「あんた…… 顔が真っ青よ」
「え!? 」
 心配そうな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「そういえば、つかさがみなみちゃんと一緒に出ていったって話していたけど、彼女と何かあったの? 」
 異常なほどに鋭い。巫女って特殊能力があるのかな。

「まあ…… ちょっとした擦れ違いというか、衝突というかね」
「何があったの! 」
 血相を変えて顔を近づける。
「落ち着いてよ、かがみ。ちゃんと話すからさ」
 迫力に耐え切れなくなって、食堂での出来事を話す羽目になってしまった。

「こなた。あんた挑発しすぎよ」
 額を指で押さえながら、かがみは深いため息をついた。
「まあ、反省はしているけど、つい…… ね」
 私が努めて明るく振舞ったけど、かがみは真剣な口調のままだった。
「後ろから刺されても知らないわよ」


「まさか」
 一笑に付そうとしたけど、喉がからからに乾いていて、なかなか声がでない。
 大丈夫…… 私は大丈夫だから。
 必死で自分を抑え付けて、はりついた笑顔をみせる。
「みなみちゃんが…… そんな事をするなんて思えないよ」
 私は自分自身を騙すために敢えて嘘をついた。 

「そうかしら。最近の子ってキレやすいわよ」
「かがみさん。あなたお幾つですか? 」
「馬鹿、とにかく不用意に挑発するのはやめなさい」
 かがみは、指を伸ばして私の額を小突いた。
「分かったよ。それにしても…… 」
「なによ」

「本当はとても心配してくれるかがみ萌え」
「もうっ、いつも茶化すんだから」
 かがみは何度目かのため息をついて、スカートの裾を翻しながら言った。
「ほら、ゲーマーズに寄るんでしょ。早く行かないと真っ暗になっちゃうわよ」
 生き生きとした表情が眩しい。

 かがみと一緒にいると、泡立つ心が少し落ち着いたような気がした。
 辛い事なんか忘れられるような…… 気がした。


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危険な関係 第4話へ続く












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  • みなみちゃんこわい
    -- 九重龍太 (2008-03-14 22:38:02)

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