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危険な関係 第5話

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 5.


 連休初日の朝、私とゆーちゃんは、かがみ達と待ち合わせの場所になっている、
東京駅の、東海道新幹線の改札口に到着した。

「おっす、こなた」
「おはよう、こなちゃん。ゆたかちゃん」
 既に待ち合わせ場所で待っている、二人が同時に声をかけてくる。
「おはよー。かがみ、つかさ
「おはようございます。柊先輩」
 ゆーちゃんがぺこりと頭を下げた。

「やっぱり、ゆたかちゃんがいると時間通りにくるわね」
 かがみは腕を組みながら、少しだけイジワルそうな表情をみせる。
「信用ないなー 」
「あんた、遅刻の常連じゃない」
 まったくもってその通りなのだけど、遅刻をしていない日に言われるのは不本意だよ。

「そろそろ行かないと…… 」
 つかさが困ったような顔をして時計を指した。見上げるとちょうど10時を指し示している。
「では、いきますか」
「そうね」
 改札口を通り抜けてホームに入る。私達が乗る列車は16番線に停まっていた。
 電光掲示板には、10時13分発、のぞみ19号、博多行き、と表示されている。

「こなちゃん。カモノハシみたいだねえ」
 つかさが列車の先端を指差しながら素直な感想を述べる。
 確かにそう見えるけど、やっぱり空気抵抗を考えているのかな。
「こなた、11号車だったわよね」
「そうだよ」
 長い新幹線のホームを歩いて11号車に乗り込み、予約した指定席を見つけて、
座席の向きを対面に変える。
 二人分の荷物をかがみに置いてもらった時、ベルが鳴って扉が閉まり、滑るように車輌は動き出した。


 品川、新横浜と短い区間で停車してから、本格的に加速していく。
「ねえ、こなた」
 熱海駅を通過した頃、かがみが、缶コーヒーを片手に持ちながら尋ねてきた。
「今日は、何処を回るつもりなの? 」

「そうだねえ。一応プランはあるんだ」
 私は、京都のガイドブックを広げながら答える。
「こなちゃん。もう決めてあるの? 」
「あんたにしては計画的ね」

「そうだよ。つかさやかがみがOKといったら、私の計画通りになるのだよ」
「ふうん。で、どこに行きたいの? 」
「まずはスタンダードに鹿苑寺へ行こうと思うんだ 」
「ろくおんじ? 」
 つかさの頭に、大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
「つかさ。金閣寺のことよ」
「うん。金閣寺は通称で、正式名は鹿苑寺だよ」
 私の言葉につかさは肩を落とす。
「こなちゃんに負けた…… 」
 つかさ、そんなに落ち込まないでよ。流石に傷つくよ。
「まあ、こなたが知っていたというのは驚きだけどね」
「う…… かがみまでひどい」
 私がほっぺたを膨らますと、かがみは、からからと笑った。

「で、その後はどうするの? 」
「ひとつ寄りたいところがあるんだけど」
 私が、同人誌の即売会のパンフレットを見せた。
「こなた。やっぱりあんたらしいわね」
 やれやれと肩を竦めながら、それでも頷いてくれた。
「つかさはOKかな」
「そんなに…… 人、多くないよね」
 不安そうな顔色に変わる。冬コミのトラウマが未だに残っているらしい。
「大丈夫だよ。有明のコミケは特別だからね」
「それならいいよ。こなちゃん」

「さてと、ご承認をいただいたことだし、少し遊びますか…… 」
 私はおもむろに鞄からトランプを取り出した。
 小刻みに揺れる、列車の振動に閉口しながらも、『大富豪』というゲームで時間を潰した。


 正午近くに名古屋に停車した時、やや疲れたこともあって、私はトランプをバッグに仕舞ったが、
名古屋を発車してすぐに、つかさは眠りに落ちてしまっていた。

「つかさ、夜更かしでもしていたかな? 」
「ううん。9時には寝ていたはずよ」
「よく寝る子だねえ」
 私とかがみは顔を見合わせて苦笑した。

 名古屋を出てからは、しばらくは田園地帯を走る。
 岐阜羽島駅の前後にある、大きな河川を何度か越えると単調だった景色が急に変わる。

「ここが関ヶ原なんだね。お姉ちゃん」
 ゆーちゃんが窓の外を眺めながら口を開いた。
「ずいぶん、狭いのね」
 かがみも、林と段差の多い耕作地をみながら感想を漏らす。
 確かに、東西合わせて16万という大軍が、合戦を繰り広げたとは思えない狭さであり、
山あいの細長い窪地という感じだ。
「まあ、交通の要衝だからね」
 私は、関ヶ原と、その奥にそびえ立つ伊吹山を眺めながら呟いた。

「ところで、ゆたかちゃん」
「えっ」
 ゆーちゃんが、びくんと震える。
「身体の方は大丈夫かしら」
「はい。おかげさまで、今日は調子がいいみたいです」
 ゆーちゃんは両手をわざわざ前に持ってきて、握りこぶしをつくってみせた。
 こんな何気ない仕草も、萌え要素の一つになってしまう。なんて恐ろしい子。
「そう…… でも、気分が悪くなったら遠慮なく言いなさいよ」
「ありがとうございます。かがみ先輩」
 二人のやり取りをみて、私はほっと息を吐き出した。
 先日のような冷たい空気は、今のところは流れておらず、私はほっとする。

 米原を通過するあたりから、再び田園風景がひろがってくる。
 湖西の山並みを遠くに望みながら、列車は高速で駆け抜けて、12時35分、定刻通りに
京都駅に滑り込んだ。


 車輌から降りると、どこか空気の味が違っていた。
「ふわあ…… 」
 京都に到着する直前まですやすやと眠っていたつかさは、大きく伸びをする。

「よく眠れましたか? 」
 ゆーちゃんが声をかけると、つかさは眠そうな瞼を擦りながら、
「もうちょっと寝たいよお」
と、大きなあくびをみせた。

 新幹線のホームから階段を降りて、中央改札口を抜けて右に曲がって再び昇ると、
周囲が黒っぽく変わる。京都の駅ビルの色調が、黒で統一されている為だ。
「うわあ。人がいっぱい」
 つかさが物珍しそうに周囲を見渡すと、かがみは呆れたように言った。
「いや。東京の方が確実に人多いから」
「でも、鷺宮よりは多いよ? 」
「当たり前だ」

 巫女姉妹のコントを聞きながら、京都駅の上を横断して、バスターミナルの手前に降りる。
 私はガイドブックを広げて確認してから、3人に向かって伝えた。
「金閣寺は、B3乗り場だって」
 B3と書かれた場所で待つと、間もなく金閣寺方面に行くバスがやってくる。
「ゆーちゃん。酔い止めの薬は飲んだかな? 」
「う、うん。飲んだけど。でも、大丈夫だよ」
 ゆーちゃんは、心配性の私に向けて微笑んだ。

 車内は予想通り、金閣寺に向かう観光客で混雑していた。
 なんとか空いている席にゆーちゃんに座らせたけれど、残る3人は立ちっぱなしだ。
「こなた…… 金閣寺までどのくらいかかるのよ」
 ジト目で睨みつけてくるかがみから、視線を逸らす。
「40分くらいだよ。うん、すぐについちゃうよ」
 かがみは、がくっと肩を落としながらぼやいた。
「そうね…… 40分なんてすぐね。確か、名古屋から京都の間もそのくらいかかったわよね」
 新幹線と、市バスを比べる方がどうかと思うけど、不必要に刺激することもないから反論はしない。

 バスは西大路通りをひたすら上り、(ちなみに京都では北に行くことを上る、
南に行くことを下るというらしい)金閣寺道という名の停留所でとまる。
「ゆーちゃん。平気? 」
「う、うん。大丈夫だよ。お姉ちゃん」
 ゆーちゃんは健気に笑顔をみせてくれる。やっぱりかわいいな。


 バスを降りてから周囲を見渡すと、観光客でごった返している。
 外国人の姿もかなり多い。さすが国際的な観光名所だ。
 人の流れに沿って歩くと、すぐに入り口が見つかり、拝観料を支払って中に入る。そして……

「金閣寺だね」
「ちょっと、こなた」
 何故か、かがみはむくれている。みさきちが言うとおり、最近ちょっとヒスチックな気がする。
「なにかな。かがみん」
「どうして入った途端、最終目的地があるのよ。ナジミの塔で、いきなりゾーマじゃない」
「昔のRPGの事、言われてもね」
「でも世界遺産なんだよ。お姉ちゃん」
「いや、それって関係ないし」

 金閣寺を選んだ訳は、京都駅からは距離はあるものの、あまり歩かなくても済み、
ゆーちゃんの負担が軽いというのが大きな理由だった。
 もっとも、清水寺は修学旅行で既に行ったということもあるけれど。

「とりあえず、みんなの写真をとろうよ」
 つかさの一言で立ち止まり、通りすがりのカップルにデジカメを渡して撮ってもらう。

 Say Cheese ―― パシャ!

 3層の金閣寺を後にして、順路に従って歩いていくと、右手にお茶屋さんが見えてくる。
「ちょっと休憩しよっか」
 茶店特有の赤い敷物の上に座ると、なんだか気分が落ち着いてくる。
 間もなく、桜色の着物を着た店員さんが抹茶と和菓子を運んでくれる。

「いただきま~す」
 中にあんが入った小さな和菓子を口に含むと、ほんわかとした甘さがひろがる。
次に抹茶を飲むと、渋さと甘さがほどよく混じりあう。
「こなたお姉ちゃん。お抹茶、美味しいね」
「うん。そうだね」
 ゆるゆると歩く人の流れを眺めながら、私達4人は落ち着いた時間を過ごした。


 金閣寺を出てから、四条河原町方面のバスに乗り、四条河原町からはタクシーを使う。
「こなた、こんなところで即売会なんてやっているの? 」
「うん。そうだよ」
「あたりには、平安神宮と、美術館しかないわけだけど…… 」
 きょろきょろと、かがみは周囲を見渡しながら聞いてくる。
「美術館の隣の建物だよ。かがみん」
「『京都会館』って書いてあるところよね」
 かがみは、ガイドブックと周囲を交互にみながら言葉を続ける。
「そだよ」
 みんなを案内して、少しだけ歩くと、どっしりとした構えを見せている、
灰色系統の建物が迫ってくる。
 私達は、2階にある会議場の扉を開き、会場に入った。
 今回は40ほどのサークルが参加している、ごくありふれた規模の即売会であり、
建物の中にいる限りは、つかさが迷うことはない。

「先輩。ここっスよ」
 会場に到着すると、早速、良く知っている女の子が声をかけてくる。
 田村ひよりちゃんだ。
 丸いめがねと、流れるような長い黒髪が特徴的な一年生で、ゆーちゃんのクラスメイトだ。

「ひよりん、お疲れ様だねえ」
「わざわざ来てくれてありがとうございます。今日は関西のサークルと合同で
販売させてもらっているっス」
 ひよりんの隣には、セミロングの女性が売り子さんをしている。
「わざわざ埼玉から来てくれたん? ありがとうなー 」
 私の顔をみると、穏やかな微笑を浮かべて、サークルの新刊を渡してくれた。


「田村さんと、こんな遠いところで会えるなんて」
 つかさはとても嬉しそうに駆け寄ってくる。
 彼女は、同人誌のことをほとんど知らないのに、何故かひよりんの同人活動を熱心に応援している。
 みかんのネタが日の目を浴びることが果たしてあるのだろうか?

「柊先輩。こんにちはっス」
「一冊、500円なんだね 」
 いきなりお財布をとりだすつかさに、ひよりんは慌てて言った。
「つかさ先輩、お代はいらないっス。関係者には差し上げていますから」
「えっ、あっ、ありがとう。ひよりちゃん」
 つかさは初夏の木漏れ日のような、思わずどきりとしてしまうくらいに無垢な笑顔を浮かべた。

「えへへ。田村さん、覗きにきちゃった」
 つかさの脇から、ゆーちゃんも顔をのぞかせる。
「えっ、小早川さん!? 」
 小柄なゆーちゃんが、ひよりんの目の前にあらわれた直後――

「自分、そっくりさんやなあ」
 隣の売り子さんが、ゆーちゃんの顔をみて驚いている。
「えっ? えっ? 」
 目を白黒させているゆーちゃんに、売り子さんは後ろの箱から、別の同人誌を取り出して渡した。
「なあ、なあ、この本のモデルさんやろ」
「ちょ、まずいっす。それはダメっす」
 ひよりんは黒髪を振り乱して、ひどく慌てている。
「え、ほんでも、モデルさんやし…… 」
 ゆーちゃんと、ひよりんを交互に眺めながら、売り子さんは戸惑っている。

「あ、あの、拝見してもいいですか? 」
 自分の姿が書かれた表紙を見て、顔を赤らめたゆーちゃんが口を開いた。
「あ、それあげるで。もちろんお代はいらへんよ」
「ありがとうございます」
「だめっ、本当にダメっす」
 本気で泣き叫びながらひよりんは、ゆーちゃんの手から同人誌を奪おうとするけど、
残念ながら長机が邪魔をして届かない。


「あきらめよう…… ひよりん」
 私は、絶望に打ちひしがれる少女の肩をぽんと叩いた。
 気持ちは痛いほど分かるけど、ゆーちゃんの承諾はやっぱり要るよ。
 許可がおりるとはとても思わないけどね。

「あ、あの…… 」
 裸エプロンを着たゆーちゃんが、狼さんと化したみなみちゃんに陵辱されるという、
18禁ガチ百合本を読み終えて、当然ながらゆーちゃんは顔を真っ赤にしている。

「小早川さん、嫌っていいよ。友達を汚した私は地獄の業火に焼かれて死ぬべきっス。
豆腐の角に頭をぶつけて逝ってしまうべきっス。もう十字架に貼り付けになっても、
釜茹でになってもイイッス。ああ、カムバック、どきどき百合観賞らいふはもうゼロっス」

 ゆーちゃんは、涙を流してうずくまっている、迷えるふじょしの頭にゆっくりと掌を置いた。
「ごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」
 すっかりと脅えて泣き叫ぶひよりんが、あまりにも哀れでたまらない。
「田村さん、あのね…… 」
「もう、一思いに殺してくださいっス」
「私、嬉しかったんだ」
「へ? 」
 涙で濡れた顔をあげたひよりんは、呆然としている。
 彼女の予想とは異なり、ゆーちゃんは微笑んでいた。

「恥ずかしかったけど、とても綺麗に描いてくれて嬉しかったよ」
「小早川さん…… 」
 天使を見つめるような眼差しを、ゆーちゃんに向けている。
「本当に許してくれるんスか…… 」
「許すも、許さないもないよ。田村さんの絵、温かくて好きだから」
 ゆーちゃんの慈愛にみちた言葉に、田村さんは感極まっている。
「小早川さん。一生ついていくっス。小早川さんの道を邪魔する者は
僭越ながら排除させていただくっスよ」

 おーい。ひよりん。方向性が間違っているよ。
「ありがとう。田村さん」
 そこは否定しないのか。ゆーちゃん。
 どこかゆーちゃんの微笑みに打算じみたものを感じてしまうのは、本当に気のせいだろうか。
 最近いろいろな事があって素直になれない自分が恨めしい。
 でもね、ひよりん。決して深入りしてはいけないよ。
 私は、ゆーちゃんの笑顔の虜になってしまった一人だから、とても良く分かるんだ。


 暫く雑談とサークル巡りを楽しんだ後、BL本に夢中になっていたかがみを回収して会場を後にする。
「かがみん。全部立ち読みするのはマナーとしてどうかな」
「わ、悪かったわよ」
 顔を赤らめてそっぽを向くかがみの仕草が、ツンデレの様式美なのだろうな、なんて思いながら、
予約をしたホテルに向かって歩く。
 鴨川の上に架けられている橋を渡っている時に、西の空が茜色に染まっていることに気がついた。

 ホテルに荷物を置いて、寺町通と呼ばれるアーケード街まで繰り出して夕食をとり、
再び部屋に戻ると、既に9時を回っている。
「ふー 食べた」
 私は、苦しそうにおなかを押さえているかがみに向かって言った。
「かがみん。限定リミット解除しすぎだよ」
「う、うるさいわね」
 数日後に体重計に乗って真っ青になっている少女の姿を想像してニヤニヤしてから、一同を見渡した。
「さて、そろそろ部屋の割り振りを決めないといけない訳だけど」

 私の一言によって、ゆるゆるとした空気は消え去り、にわかに黒い雷雲がわき上がる。
「普通に考えると、私とゆーちゃん、かがみとつかさだけどね」
「そんなありきたりな事は許さないわ」
 かがみは、躊躇いなく言い切った。
「少なくとも、機会は平等に与えられるべきよ」
 かがみさん。もしかして酔っていませんか?
 一方、ゆーちゃんは危機感をあらわにしており、森の中で天敵に出くわした
小動物のような瞳で、かがみを睨みつける。
「えへへ。私も参加したいなあ」
 一方、つかさはのんびりと微笑を浮かべている。緊張感がないのは毎度のことだけど、とても楽しそうだ。

「トランプで決めようか? 」
 私は、新幹線で遊んだトランプを取り出し、シャッフルをする。
「いいけど、何をするのよ」
「そだね。ここは単純にババ抜きでいいんじゃない? 」
「でも、どういう風に部屋を分けるの? 」
 つかさが唇に人差し指をあてながら、質問をしてくる。
「うーん。1位と4位、2位と3位が同じ部屋でどうかな」
 私の提案に、3人はあっさりと頷いた。
「いいわよ。こなた」
「いいよ。こなちゃん」
「分かったよ。こなたお姉ちゃん」

 ゆーちゃんとかがみの間に激しい火花が散る。
 どちらと一緒でも眠れそうにないな、なんて思いながら、私はカードを配り始めた。


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危険な関係 第6話へ続く










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  • 修正しようと思いましたが、適切な単語が見当たらないので、とりあえずこのままにしました。 -- 23-251 (2008-03-29 10:08:19)
  • 「閉口」の使い方に疑問符 -- 名無しさん (2008-03-29 03:37:41)
  • いよいよかがみんとゆーちゃんの前面衝突(ry
    -- 九重龍太 (2008-03-14 23:08:31)

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