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危険な関係 第6話

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 6.


 最初に、ジャンケンで座る位置と、トランプのカードを引く順番を決めることにする。
 ゆーちゃん、つかさ、かがみ、私の順で、右回りにカードを引くことがきまる。
 私が全てのカードを配り終え、全員が対になったカードを捨てていき、
つかさが7~8枚、残りの3人が10枚前後になった。
 ジャンケンの勝者である私のカードを、隣にいるゆーちゃんが引いて静かにゲームは始まり、
途中までは順調にカードが捨てられていく。
 しかし、残りのカードが片手で数えられる程度になってからは、急にペースが遅くなった。

 ゲームは終盤に突入しており、ジョーカーは私の手元にある。
 まわりを見渡すと、かがみはしかめっ面をしてトランプとにらめっこをしており、
ゆーちゃんは真剣にカードを見つめ、つかさはのんびりとした表情で手札を眺めている。

 つかさが、ゆーちゃんのカードを引いて、ハートのクイーンが場に捨てられて、残り1枚となる。
 ぐるっと回って、ゆーちゃんが私のジョーカーを引いてしまい、あからさまに肩を落とす。
 そして再び、ゆーちゃんのカードを引いたつかさが、笑顔をみせて最後の一組を床に置いた。
「えへへ。勝っちゃった」
 向日葵のような微笑をみせながら、大きく伸びをする。

 しかし、ゆーちゃんとかがみは自分のカードのことで夢中となっており、
張り詰めた雰囲気のまま、ゲームは続いていく。

 更に3周程回る。一旦離れていったジョーカーは、私の手元に舞い戻っている。
 私は何食わぬ顔を装い、かがみの手元にあるカードを1枚抜き取る。

 私は、2枚組になったスペードの8を中央に置いた。ジョーカーを含めて残り2枚となる。
 続いてかがみも、ゆーちゃんのカードを引き抜き、クローバーの3を場に置いてラスト1枚となる。
きりきりと胃のあたりが痛むような展開が続く。

 そして、ゆーちゃんが、私の手元からカードを引き抜き――
「あっ、揃った」
 ゆーちゃんは私にカードを見せながら微笑んで、かがみは悔しそうに顔を歪めた。

 現時点で1位つかさと、2位ゆーちゃんまでが確定する。
 今日のルールでは、1位と4位は同じ部屋だから、私とかがみが同じ部屋になる
可能性はこの時点でゼロになってしまう。
 しかし、かがみはゲームを投げることはしなかった。
「こなた、負けないわよ」
 依然、闘志を燃やしているかがみに違和感を覚えながら、1対1の闘いに移る。

 そして、更に2巡後――
 かがみは、ババを掴んでしまっている私の手元から、お目当てのカードを引いて
皆に見せてにっこりと微笑む。
 私は最下位となり、つかさと同じ部屋で眠ることが決まった。

 しかし、ゆーちゃんは明らかに不満そうな表情をみせて言った。
「かがみ先輩、どうして、こなたお姉ちゃんに勝っちゃったんですか? 」
 理不尽な怒りを、2年上の先輩にぶつけてしまう。
「ゆたかちゃんだけは、こなたと同室にさせたくなかったからね」
 かがみの返答もかなり挑発的だ。

「どうして…… 邪魔をするんですか? 」
 ゆーちゃんは涙をためながら、かがみの瞳を見据えて精一杯の抗議を続ける。
「ゆたかちゃんにこなたを渡すことなんか、絶対に許さないから」
 露骨に好戦的な答えが返され、二人の間に一触即発という空気が流れる。
「かがみ先輩のいじわるっ! 」

 真っ赤になってふくれるゆーちゃんはとても可愛いけれど、美少女ゲームの
三角関係のような展開には、正直言って戸惑いを隠せない。
 三角関係の結末は、当然ながら鬱やダークなものが多い。
 特にバッドエンドだと、選ばなかった子からグサリとやられたり、屋上から突き落とされたりで、
二股をかけた主人公の末路は悲惨の一言だ。

「お姉ちゃん、ゆたかちゃん。けんかは良くないよ」
 しかし、つかさがほんわかした口調で、ヒートアップする二人をたしなめたことによって、
この時点での破局は回避された。

 お風呂に入って、部屋に荷物を運んだ後に、ベッドに腰掛けていたつかさが言った。
「こなちゃん。大変だね」
「まったくだよ」
 私は大きなため息をつきながら、黄色いリボンをつけた少女の顔を見つめると、
つかさは少しだけ声を落として言った。

「でも、こなちゃんも悪いかな」
 つかさの言うとおり、関係を曖昧なままにしている私が、たぶん一番いけない。
 しかし、女の子同士の関係にゴールなんてあるのか、という疑問が常に思考に付き纏っていて、
自分がゆーちゃんの想いにきちんと答えられないでいる理由も、まさにそれだった。
 私は、つかさに思い切って聞いてみることにする。

「つかさは、同性同士の恋愛ってどう思う? 」
 暫く考えた後、私の髪を撫でながら答えた。
「うーん。よく分からないけれど。人を好きになる事って大切だと思うよ。
女の子だから、好きになっちゃダメなんてことはないと思うし」

 でもね、つかさ……
「今は『好き』で済まされるかもしれないけど、ずっと先はどうなのかな? 」
「私には分からないよ、こなちゃん。でも、それは女の子同士だけの話じゃないよ」
「それはそうだけど、学生時代限定のお付き合いをするつもりはないよ」
「それなら、こなちゃんもはっきりさせないといけないよ」

 間髪入れずに返された言葉は、鋭い槍となって私の肺腑を直撃した。
「痛いところを突くね」
 曖昧なままにしておいて、期間限定の恋愛はダメなんて自分勝手な言い訳にすぎない。
「でもね。こなちゃん」
 つかさは、私の傍によって囁く。
「自分勝手な生き方の方が、ずっと楽なのもホントだよ」
「ちょっ…… つかさ」
 つかさは、私に抱きついてベッドに倒れ込んだ。

「こなちゃん、あったかいね」
 つかさの二の腕や太腿がまともに触れる。
 下手に触れば壊れてしまいそうな、ゆーちゃんの華奢な身体つきとは違って、
芯がしっかりしているような感じがする。
「つかさ…… 顔が近いよ」
 指呼の距離まで近づいて、私の瞳を覗き込みながらつかさは囁く。
「キスしたいな」
 つかさが腕を絡めると同時に、柔らかい唇が迫った。

「つかさ、どうして? 」
 瞳を見据えたまま尋ねると、つかさは唇を止めて軽く舌をだした。
「私、こなちゃんの事が好きなんだ」
 鈴の音色のように澄んだ声が耳朶を叩く。
 ホテルの窓から淡い月光が差し込み、少女の影を薄く伸ばしている。

 私はつかさの事を、地上に舞い降りた神の遣いを見るような目で
見つめながら、小さな声をだした。
「今まで気づかなくて…… ごめん」
「ううん。私ね、こなちゃんを困らせるつもりはないの」
 つかさはかぶりを振った。
「どういう…… ことかな? 」
 不審に思って、つかさの顔を見据えて尋ねる。
 覆いかぶさるように抱きついている少女の体温がじんわりと伝わってきて、
気持ちを落ち着かせることができない。

「こなちゃんが、私の方を向いていないことは、よく知っているんだ」
 独白めいた言葉が漏れて、鋭い痛みが走る。
「つかさ…… 」
 ほんの少し寂しそうな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「こなちゃんは迷っているけど、その中には私はいないんだね」
 つかさの口調はあくまでも穏やかで優しい。それだけに胸が締め付けられるように苦しい。
「ごめん…… つかさ」
「ううん。いいの」

 小春日和のような微笑を浮かべて、つかさは首を横に振った。
「私、こなちゃんの一番になれないことは、ずっと昔から知っていたから」
 笑顔を浮かべていたはずの、つかさの瞼から一筋の雫が生まれ落ちて頬に跡をつくる。
「こなちゃんが誰と付き合っても、最後まで応援するよ。みんながこなちゃんの
敵になっても、私は味方だから…… ね」
「つかさ…… 」
 つかさは小さな嗚咽を漏らしながら、私の肩口に顔をあてた。

「こなちゃん…… 本当に幸せにならないとダメだよ」
「ありがと」
 私の素直な返事に、つかさはようやく微笑を取り戻した。
「こなちゃん、お願いがあるんだ」
「なあに。つかさ」
「今だけ、甘えさせて…… 」
 つかさは、私の小さな胸に顔を埋めて瞼を閉じる。
 私は何も言わずに、彼女が寝息を立てるまでずっと見つめ続けた。

 まだ東の空が白く変わらない時間に目が覚めてしまう。
 布団から身体を起こして隣を見ると、つかさが静かな寝息をたてている。
 喉に渇きを覚えて、私はロビーにある自販機に向かった。
 エレベーターを使って1階までおりると、ロビーの端に小柄な少女が座っていた。

「ゆーちゃん」
「あ、お姉ちゃん」
 オレンジジュースを差し出すと、ゆーちゃんは小さく笑った。
「ありがとう」
 寝巻きにガウンを羽織ったゆーちゃんは、ジュースを両手で持って唇をつけた。
「ゆーちゃん。眠れないの? 」
 私が尋ねると、ゆーちゃんは淡く微笑んだ。
「ちょっと頭が冴えちゃって…… 」
「そっか」

 ゆーちゃんの隣に座ってから缶コーヒーに口をつけると、コクと同時に苦味が口に広がり、
少しだけ眉をしかめる。
 私は深く息を吸ってから、目の前にいる少女に向かって尋ねた。

「ゆーちゃん。かがみの事キライかな」
「う、ううん。そんな事ないよ…… でも」
 ゆーちゃんは言葉を濁した。
 私は何も言わず、ゆーちゃんの次の言葉をひたすら待つことにする。
 腕時計の秒針がたっぷり3回程回った時、ようやく重い口が開かれた。

「かがみ先輩は、こなたお姉ちゃんが好きだと思う。だから…… 私、先輩とお姉ちゃんが
一緒にいると嫌って思ってしまうんだ」
 言葉が痛い。ゆーちゃんを旅行に誘ったことにより、妬心を招いてしまったことに、
今更ながら気がついて、自分の愚かさに愕然となる。

「ごめんね、ゆーちゃん。私が旅行に誘ったばっかりに」
「ううん。そんなことないよっ」
 しかし、ゆーちゃんは強く否定した。
「どうして? かがみと一緒は嫌じゃないのかな? 」
「私、かがみ先輩を嫌ってはいないよ」
 ゆーちゃんの言葉が分からない。
「かがみ先輩はとても良い人だと思う。でも、たまたま好きな人が一緒になってしまっただけなんだ」
 ゆーちゃんは凄く冷静だった。
 視野が広くて思いやりのある、こんな良い子を追い詰めてしまったのは、やはり私の罪なのだろう。

 ひどく疲れを感じて、私はゆーちゃんにもたれかかった。
「こなたお姉ちゃん? 」
「ゆーちゃん。わるいけど膝、貸してくれるかな? 」
「う、うん。いいよ」
 ソファーに仰向けに寝転がって、ゆーちゃんの太腿を枕にする。
 首筋に温かい感触が伝わってくる。

「お姉ちゃん。疲れているんだね」
「そかな」
 ゆーちゃんのドアップが近くに見える。相変わらず可愛くて萌える子だ。

「お姉ちゃん。私とかがみ先輩の両方に気を遣っていると疲れちゃうよ」
 ゆーちゃんは、私を覗き込みながら言葉を続ける。
「私、お姉ちゃんが言うなら、かがみ先輩と仲良くするよ。だから、そんなに哀しそうな顔しないで」

 同学年の友達と集まる時は、かがみやみゆきさんに甘えているポジションが心地良かったけれど、
年下のゆーちゃんに気遣われると、酷く恥ずかしい。
 微かに残ったプライドの欠片も粉々になってしまうよ。

 ゆーちゃんのあどけない顔と、柔らかい太腿によって瞼が酷く重くなっている。
 心配げに見つめるゆーちゃんの顔が、靄に包まれるように輪郭線を喪い始め、
周囲は闇に包まれていき、いつしか深い眠りの井戸に誘われていった。


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危険な関係 第7話へ続く







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  • この作者の作品凄く好き -- 名無しさん (2008-03-21 17:12:05)
  • 三角関係どころか四角関係になってしまうのかどーなんd(ry
    続編希望します。
    -- 九重龍太 (2008-03-14 23:12:07)

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