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Bridal March ~ 愛婚行進曲(2)

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携帯のアラームが鳴る。
今の時間は朝の七時……眠い目をこすりながら、アラームをストップする。
今日は休みなのに……どうやらいつも通りにセットしてしまっていたようだ。
こうなると、もう一度寝ようにも変に目が冴えてしまい、起きるしかなくなってしまう。
ベッドから出て、部屋を出る。
そして台所に向かう、そこには、
「いのり?おはよう」
お母さんが食器を洗っている。
「おはよう、お母さん」
「いのり、今日は休みでしょう?めずらしいわね」
「何か、目が覚めちゃったのよね」
思わず変な見栄をはってしまった、意味は無いのに。
「そう、じゃあいのりも朝ご飯食べなさい」
出してあった皿をもう一枚増やすお母さん、私は素直に従ってイスに座った。
「あ……何か手伝おうか?」
「いいのよ、いのりは座ってて」
暫くしてお母さんはベーコンと目玉焼きを乗せた皿を私の前へ運んできた。
そして、その姿勢のまま私の顔を至近距離から凝視してくる。
「ど、どうしたの?」
思わず上ずる私の声。
お母さんはそのままの体勢でふわっと微笑んで言った。

「目の保養しておこうかな、って思ったの」
……。
「お母さん……やめてよ、私朝っぱらから理性飛ぶわよ?」
それはジョークでも何でもない本当の事だった、というかもう既に飛びかけている。
「そうなの?」
「そうよ」
そう言いながら、私はお母さんの顔に手を添え、唇を押し付けた。
結構強引な口付けではあったが、しょうがない、これでも極限まで抑えているんだから。
やがて顔を離すと、お母さんは照れくさそうに笑った。
「本当はまだ足りないんだけど、朝っぱらだしこの位にしておくわ」
お母さんにそう告げて私も笑う、全く、私も少し自粛しろと自分に言い聞かせた。
その時、向こうからトントントン……と誰かが降りてくる音が聞こえた。
そうか、私と違ってかがみとつかさは学校あるものね、まつりはもう出てしまったみたいだし。
となると、かがみかつかさか、恐らく……。
「おはよ……って姉さん起きてたんだ、今日休みでしょ?」
やっぱりかがみの方だった、つかさは多分まだ寝てるわよね。
「たまにはね」
「おはようかがみ、朝食の用意出来てるから食べちゃいなさい」
「はーい」
私の向かいに座るかがみ、目玉焼きに醤油をかけ、トーストにかぶりつく様を、私は微笑ましそうに眺めていた。



「?どしたの姉さん」
「何でもないのよ、ただ、こうやって改めて見ると大きくなったわねかがみ、って思っただけ」
「んぐっ、な、何よ急に」
私の追突も無い言葉にかがみはパンをつまらせる。
変な話だが、妹達の中で私に一番甘えてきたのは、他ならぬかがみだった。
つかさはかがみに甘えているのだろうし、まつりはそういうタイプじゃないし。

かがみも一見しっかりしてる様に見えるけど、それは一種の使命感みたいなもんから無理に取り繕っている面もあるのを私は知っている。
つかさの前では立派なお姉さんでいなきゃいけないし、家族の前でもしっかり者の位置づけを担っている以上、それを崩せないでいるかがみ。
そうなれば、影で甘えさせてくれる人物が必要になってくるのはある意味当然の事と言える。
つかさ、お父さんやお母さん相手に面と向かって甘える事が出来ないでいるのは仕方の無い事かもしれない、まつり相手などにはもってのほかだ。
そうなると、私しかいないのである。
今でこそ少なくなったものの、こっそり私の部屋を尋ねてきては、よく私に泣きついてきたかがみを思い出す。
その度に胸を貸して頭を撫でてあげていたものだ。
今でも露骨では無くなったにせよ、周りには打ち明けられない悩みや相談事は、私にこっそり打ち明けたりするものだ。
その度に私はかがみに必要とされているのだと思うと、嬉しくてつい相談事に熱くなり過ぎてしまい会社を遅刻なんて事もあったっけね。
「急に変な事言わないでよもう……」
口では軽く毒づきながらも、満更でもないとかがみの表情が語っていた。
つい私はいたずら心から、かがみの頬に指を持っていき、ついていたパンの食べかすを取ってやる。
そして、自分の口に運んだ。
「……!ちょ、姉さ」
動揺して若干顔を赤くするかがみ、初々しいというか何と言うか、やっぱりいくつになっても可愛いものだ。
だからこそからかい甲斐もあるのだが。
「あははははっ、かがみ、まだまだそういう所は子供のまんまよね」
「急にあんな事されれば動揺するっつうの」
「ごめんごめん、でもそういう所見ちゃうと、まだまだかがみには大人になってほしくないかな」
そんなやり取りをお母さんは微笑ましそうに見ていたが、やがてお母さんも近づいてきて、かがみの頬に指を持っていく。
だが既に何もついていないかがみの頬に、ただ指をくっつけて、そして舐めた。
その行動に私は軽く吹きだして笑った。
お母さんも釣られて笑う。
「二人して何よぉ……」
二回も慌てさせられたかがみは流石におもしろくないのか、軽く拗ねる様に口をとがらせた。
「おふぁいあよ~~~……」
これでもかという欠伸をかましながらつかさがリビングに下りてきた、朝ごはん食べる時間あるのかしら?
「あ、ほらつかさ、早く座って食べちゃいなさい」
まるで私たちから逃げる様にしてかがみがつかさを即す、そんなかがみの行動がまたおかしさを買った。

私はこの光景を見て、再び誓いを立てる。
壊す訳にはいかない、この家庭を、だが、お母さんを手放す気になどなれる訳もない。
だから、考えよう、都合がいいかもしれないが、どちらも両立させられる方法を。
それが叶うのであれば私は、文字通り何を投げうっても一向に惜しくは無かった。


「「いってきまーす」」
「いってらっしゃい」
かがみとつかさが二人で家を出る。
「今日は予定あるの?」
開口一番、お母さんは私にそう聞いてくる。
「無いわよ」
私はそう言った、というよりもお母さんからの誘いであれば、先約があったとしても答えは同じである。
「今日一日、いのりの時間、頂戴」
天使の微笑みにその台詞は反則だ。
もちろん断る理由も無く、すぐさまOKを出す私の口。
お父さんを始めとする家族皆の事もある故に、私がお母さんと逢引する時は深夜が常、たまに夜と相場が決まっていた。
だから真昼間からデートというのはかなりめずらしい。
それに……今日は「あれ」を受け取りに行く日でもあったから、丁度よくもあった。
一旦部屋に戻って、軽く化粧を施し、着替えをすませるとリビングへ戻る。
「お母さん?」
お母さんはもう支度を整えていた、手には二枚のチケット。
「今流行ってるんですって……いのり、知ってる?」
手に持っているチケットを見せてもらうと、どうやらSF映画らしい。
「聞いた事がある位ね、これ、見にいくの?」
頷くお母さん、どうやらこの映画うんぬんというより、SFというジャンルが珍しいらしい。
「OK,じゃ行きましょう?」
私は別段好きなジャンルの映画ではないが、何でも良かった。
どんな映画だろうとお母さんが隣にいるというだけで、どうせ集中して見れる訳ないのだから。

実際中に入って周りを見渡しても、真面目にスクリーンに見入ってる人は思いのほか少なかった。
イチャつくカップル、わざわざ金払って何をしに来ているのかとさえ思う。
……もちろん私も人の事などまるで言えないのだが。
墨の目立たない所にお母さんと座り、お母さんが抵抗しないのをいい事に体を抱き寄せ、密着させた。
その温もりに思わず恍惚の息を漏らし、しかもそのまま私は寝入ってしまったのだから、正しく私こそ何をしにここに来たのか、となってしまう。

目を覚ませば既にクライマックスらしく、最初に見ていた時よりやたらと騒がしい。
お母さんはというと、どうやら真剣にスクリーンに見入っているらしい。
そんなにおもしろいの?コレ。
やがて、エンドロールが流れ始めると、お母さんはふう、とため息をついた。
「これ、おもしろかった?」
私がそう聞くと、お母さんは、
「よくわからなかったわ、でも人気あるらしいからおもしろいんでしょうね、きっと」
やはり、よくわからなかったらしい。
私などは途中から見てすらいなかったのだから解説など出来る筈もない。
お母さんはゆっくり座席から立ち上がった。
「このあとは、どうする?」
もちろん私はここでお母さんとの時間を終わらせる気など毛頭無かったが、あえてお母さんに話をふった。


「お昼にしましょ」
「何処で食べるか決めてあるの?」
お母さんはハンドブックらしき物を取り出してみせた、ひょっとして、今日のプランを既に決めてあるのかもしれない。
嬉々としてその本を見て店選びをしているお母さんを見て、私は思わず顔が綻んだ。
「あ、ここよ、ここ、最近この近くに出来たらしいの」
「パスタか、いいんじゃないかしら?」
ぶっちゃけお母さんさえいるなら何でも良いんだけどね……。
なんて台詞を表に出す事は無く、二人で映画館を出る。
人前で手をつなぐのは、最初こそ恥ずかしさはあるものの、慣れれば後は暖かいだけ。
食べ終わった後のお母さんの口を自分が持ってきたハンカチで拭った、大して汚れてなどいなかったが、ただ拭きたかっただけである。
(もちろん自分の口もお母さんの口を拭った部分で拭いた、こっそりと)
後はお馴染みのコース。
二人でデパートに寄り、新しい服を見て周る。
お母さんが食器を見ている間、私は一度お母さんから離れ、ジュエリーショップに寄った。
私が2週間前に注文していた「あれ」を取りにきたのだ。
「いらっしゃいませ」
私は店主に領収書を見せた。
「柊です、注文したもの出来上がってますか?」
「ああ、柊様、出来上がっております、さ、こちらへ」

私は携帯で連絡を取り、お母さんと合流した。
お母さんの手には買ったばかりの品物があった、新しい食器に食材だろう。
「持つわ」
「平気よ」
「じゃあせめて半分ちょうだい」
強引にお母さんから荷物を半分取った。
しばらく歩いて、途中途中でパークショップやアクセサリーショップなどにも寄ったりしてお母さんとウォークデートを楽しんだ。

「今日はありがとうね、いのり」
「ううん、すごく楽しかったわ」
すっかり暗くなっている、私とお母さんは公園のベンチに腰掛けていた。
私はここである物を用意してある、今この場で言葉と共に送るつもりだった。
古いやり方かもしれないが、私にはこれ以外の方法は思い浮かばなかった。
最初の頃に犯してしまった仕打ちも含め、謝罪の気持ち。
家族として、私のお母さんへの気持ち。
それとは別に、どうあっても抑えるのは不可能な、私の気持ち。
全てを込めて、お母さんを想う気持ちを形にしてしらしめたくて、ここまでお母さんを連れてきたのだから。
これが私なりのけじめだ、そして、これからお母さんとの関係をどうしたいのか、それの答えだ。
「ねぇ、お母さん」
「?」
私は一息おき、
そして、言い放った。

「私と結婚してくれない?」




「……」
お母さんの表情は変わらない。
「いや、もちろん法的にとか、そういう意味じゃないのよ、第一そんなの不可能だし」
私は少し慌てて言葉のフォローに入る。
「そうじゃなくて誓約っていうのかしら、それをお母さんに言いたかったの、これが私の嘘偽りない気持ち」
「……」
「無理にとはもちろん言わないわ、お母さんの気持ち、もう一度だけ聞かせて」
お母さんを見る、私がこんな事を言ったにも関わらず、その顔は相変わらず綺麗な微笑に彩られていて……。
「~~♪……~~♪」
お母さんが急に鼻歌を口ずさみ始めた、そのメロディーはまぎれもなく結婚行進曲、結婚式の定番ソングだった。
楽しげに口ずさむ声、私は思わずお母さんの手を取っていた。
やがて、ゆっくりとお母さんがメロディーを止める。
そして……。
私の肩に手をおき、唇が静かに重なった。
普段の私なら暴走しかねないのだが、この時ばかりは唯々お母さんのされるがままになっていた。
唇から伝わるお母さんの答えを感じ、最高の幸福を噛みしめながら。
「お母さん、渡したい物あるの」
ゆっくりお母さんの手を置き、私は内ポケットから細長い箱を取り出した。
それを開けて、お母さんに見せる。
「……」
「流石に指輪っていう訳にはいかなかったから、これ……」
先ほどジュエリーショップから受け取ってきたばかりの物。
緑柱石が散りばめられた、オーダーメイドのペンダント型シルバーネックレス、値は大分はったがそんなの関係なかった。

ペンダントの蓋を開ける、そこにはお母さんの名前「MIKI」と彫られており、その下には、
「Mon amour」(私の愛しい人)と彫られた文字。
「受け取って欲しいの、お母さんに」
「……」
ネックレスを手に取り、しばしそれを見つめているお母さん、言葉も発しない。
私も、お母さんを見たまま言葉を発しなかった。
やがて……。
「……ありがとう、いのり、本当に嬉しい」
両端に湛えた涙を軽く拭いながら、お母さんが私を見て喜びの言葉を伝えてくれた。
それで感極まったのは私も同じだった、お母さんを自分の腕の中に収めて、再度キスを交わした。
「……ね、いのり」
「何?」
「つけてくれる?」

私にネックレスを差し出す。
「わかったわ、後ろ向いて」
素直に後ろを向くお母さん。
私は前に手をやってネックレスを通す、そしてお母さんはこっちをむいた。
……お母さんは何をつけても似合うな。
本心からそう思った。
「私、なんか貰ってばっかりね……」
お母さんが嬉しそうに、そしてすまなそうに言う。
そんな訳ない、貰ってばかりなのはこちらの方だというのに。

「今日は最高の一日だったわ、お母さん」
心からの一言、お母さんはまた嬉しそうに笑った。
お母さんを抱く、ずっとこうしててもキリはない、でも決して飽きはしない。
――――幸せってきっと、そういうものでしょう?
私は今お母さんと結婚式でもあげているような気分で時計を見る。
…………。
……。
…。

「あ~~~~~~~っ!!!!!」
思わず私は叫んでいた。
「え……どうしたのいのり?」
「お母さん!もうあんな時間!!夕食!!」
「え?……あっ……!」
つい時間を忘れて二人の世界に浸りこんでしまっていた。
家で夜ご飯をおあずけされているお父さんとまつり達を思い浮かべる。
慌てて携帯を見ると、不在着信履歴に4人全員の名前が代わるがわる入っていた、うわ~~マナーモード解除すんの忘れてた……。
お母さんもどうやら同じ状態のようだ、携帯のディスプレイを見て、慌てて電話をかけている。
「お母さん、早く帰ろ」
「そうね、急がないと」
急いで荷物を持ち、お母さんと一緒に小走りで家を目指す。
手はもちろん、繋がれたまま。
今日の出来事で、私にはもう怖いものは無くなった。
覚悟は決まった、まつりを始め心強い味方もいる。
家族とお母さん、両立させる方法が無いなら作ればいい。
考える時間だったらあるんだから。
さあ、帰ろう、自分の思い描いた結末を目指して。
この暖かい手を、永遠に勝ち取る為に。
いつになく軽い足取りでお母さんの手を引く。

私達は、ずっと終わる事は無いのだから。


                          FIN






















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コメント:
  • ただおの気持ちになって考えると気の毒 -- 名無しさん (2010-07-27 18:55:56)
  • すげぇぜ柊さん -- 名無しさん (2009-02-17 17:38:18)
  • これはなかなかいいじゃない?
    かがこなとかで見飽きてたけど、これは斬新で良かったと
    思います^^ -- taihoo (2008-08-08 09:51:29)
  • 素敵です……ボクはOKしちゃいそうだな…… -- 美霊☆ (2008-05-10 00:20:05)
  • いのりの愛がヒシヒシ伝わってきました、文章力が無いとこうはいかないですよね、大人なラブストーリー素敵です。GJ! -- hirari (2008-04-28 20:53:54)
  • …この二人ならただおさんも許してくれると思うのは俺だけかな? -- 名無しさん (2008-04-27 20:12:44)

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