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ティル・ナ・ノーグの縁で(後編)

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だれでも歓迎! 編集
人前に立つ時、人の頭をかぼちゃだと思えば緊張しないとよく言われる。
だがそんな俗説の手を借りるまでもなく、壇上に立つななこは堂々としたものだった。
同じ制服を着た数百人は互いに擬態し合っているようで、彼ら一人一人が意識を持ってい
るということが、むしろ不思議に感じられる程だ。
実際にななこが関わった人数を考えれば、それも無理からぬことではある。
けれどななこには自分の受け持ちであったはずの、3年B組の生徒達の輪郭までが朧気に
見えていた。
かすかな胸のざわめきが脳裏に写る彼らの像を、波紋のようにゆらゆらと揺らしている。
そしてななこは式の進行に従って、その暗い水の底から一人の生徒を呼び出した。
「卒業証書授与、3年B組総代、高良みゆき」
はい、みゆきは一声凜と返事をすると、ゆっくりと段を登ってななこの前に立った。
散々見慣れた制服姿が美しく見えるのは、背中に負った光のせいだろうか?
ななこの困惑などお構いなしに、式は淡々と進行していった。


「呆気ないもんやな……」
卒業式を終え、教室でアルバムを渡して別れの挨拶を交わす。それだけで今日の予定は
全て済んでしまった。
友達感覚で寄せ書きや写真を頼まれたが、それもそう長いことはかからなかった。
そうなると自分がいるのに相応しくない気がして、ななこは名残惜しげに語り合う生徒達
の間を抜け出して校門の前にやって来た。
入学式には一杯の花を咲かせる桜も、今はまだ芽吹いてさえいない。
皮膚の感覚を鈍らせるような、人肌の空気だけが春のものだ。
いつもの下校時とは違い人の流れは散発的で、暫く眺めていると最後の下校を思い出深い
ものにしたいのであろうか、バスを使わずに友達同士歩いて帰ろうとする生徒達が散見された。
ならばここで一人立っている自分がしたいこととは何だろう?ななこは自問自答する。
愛着のある生徒達の姿を少しでも長く見ていたいから?それだったら教室に居れば良かっ
たはずだ。
去りゆく生徒達の見送りという理由は確かにある。しかしその割に視線は校門の外では
なく、昇降口の方をちらちらと落ち着きなく伺っている。
そして何十度目かの往復の後、みゆきが昇降口に現れると、ななこは自分の目的が待ち人
であったことを渋々認めざるを得なくなった。
窓越しに手を挙げると、みゆきは慌てて靴を履いてななこの方に駆けてきた、上靴はきち
んと下駄箱にしまったままで。
「高良は来年も学校に来てくれんのか?」
出てきた所に声を掛けてやると、一瞬ポカンとした表情を浮かべた後、みゆきはスカー
トの裾を翻して自分の下駄箱に舞い戻った。
ななこは苦笑しながら、早足でこちらに向かってくるみゆきの所に歩み寄る。
「す、すいません、ありがとうございます」
「相変わらず変な所で抜けとるなぁ、それとも高良はまだここにいたいっちゅうこと
かな?来年もウチのクラスにいてくれたら、そら助かるけどな」
「いえ、あのそれは困ります!……でもそうですね。ここを去るのが寂しくないと言えば
嘘になりますけど」
冗談に決まっているのに生真面目に受け答えするみゆきは可愛かった。
元々の身長差に普段は履かないヒールの高さが加わって、すっかり見下ろす形になった
みゆきの顔には涙の跡がはっきりと残っている。
「そういや、いつもの連中はどうしたんや?一緒じゃないんか?」
必ずいつも一緒にいた三人の姿が見えないことを、ななこは訝しんだ。
「あ……その、ちょっと私一人で先生にお礼が言いたくて、皆さんには外してもらいました」
一人で、というみゆきの言葉にななこの意識が吸い寄せられる。
何か言わなければと思うのに、脳が空回りしてうまく言葉を紡ぎ出せない。
しかしみゆきにはそんな様子が先を促しているように見えたのか、視線を下に向けると
ぽつぽつと語り出した。
「随分昔の話ですけど、一年生の時は本当にお世話になりました。あの頃先生が話し相
手になってくれていなかったら、きっと今の私はなかったでしょう」
「大げさなやつやな、ウチがしたことなんて大したことあらへんよ。大体高良は文化祭
過ぎたらもうウチのとこには来なくなったやないか」
「いいえ、先生はおっしゃったじゃありませんか。人と話さないと表情が貧しくなるって。
本当に一人だったら文化祭で一歩を踏み出すことも出来なかったと思います」
ななこが拗ねて見せると、みゆきは力強く反論した。
「なんかそこまで言われるとこそばゆうて仕方無いわ」
「でも、私は本当に……あ」
静かに上げられたななこの手が、そっとみゆきの頭に乗せられた。
「でも、ありがとな」
指を少し立て、髪を梳くように撫でる。ふんわりした髪の中はほんのりと温かい。
最初驚いた風だったみゆきも、いつしかまどろむように瞳を閉じた
こういう風に誰かと同じ感覚を共有するのは久しぶりで、このまま時間が止まってしまえ
ばいいとさえななこは思った。
「……なんだか一年生に戻ったみたいですね。先生がいて、私がいて、二人きり」
「そうやな、今日が卒業式なんて嘘みたいや」
口にしてみると、それは実に最もらしいことのように聞こえた。
一日から、一年まで、あらゆる単位で繰り返しのリズムを刻む学校という場所で、みゆき
だけがいなくなってしまう理由がどこにあるのだろう?
「実は全部夢なのかもしれませんね。本当の私は授業中に居眠りしているのです。
時間は5時間目あたりでしょうか。ご飯を食べた後ですし、お日様もぽかぽかして気持
ち良いですから。
それでごつんと頭を叩かれて目を覚ますと、ちょっと怖い顔で笑った先生が目の前に立
っていて……」
「それはあらへんな。高良は居眠りなんてしたことなかったやないか」
ななこの記憶にある限りみゆきは常に背筋をぴんと伸ばして座っていた。
「そういえばそうですね。はぁ……こんなことなら私も居眠りしておけば良かったです」
本気で残念そうにため息をつくみゆきに、ななこは笑った。みゆきもつられて笑い出す。
「あー、ったくおかしいなぁもう。大体夢っていうなら、ウチのが可能性高いで。なんせ
仕事とネトゲで慢性的に寝不足やし。
まあウチには起こしてくれるような人はおらへんけど……」
「じゃあ私が先生を起こしに行ってさしあげます。あれ、でもそうしたらこの私はどう
なるんでしょう?先生が目を覚ました途端に、消えてしまったりするんでしょうか?」
みゆきは小首を傾げて無邪気に問いかけた。
その答えがそのまま現実になってしまいそうな気がして、ななこは慎重に言葉を選んだ。
「きっとウチらは同じ夢を見ているんやないかな」
「同じ夢?」
「さしずめ陵桜学園オンラインってとこやろか。ウチもみゆきも本物で、この舞台だけが
夢なんや」
ななこにとってそれは、二人の存在はそのままに全てをリセットできる、魔法のような
アイデアだった。
みゆきと一緒に新しいキャラで始める、2週目のゲームをななこは夢想する。
「私はネットゲームというのをやったことはないですけれど、偶然そこに集まった人達と
時間を共にするという所は、少し似ているかもしれませんね。もう終わってしまったのは
残念ですが」
みゆきにはMMORPGと、通常のRPGの区別が正確にはついていないようだった。
けれど今ここで、そんな勘違いを指摘した所で何が変わるわけでもない。
黙っているななこを置いて、みゆきは先を続ける。
「……先生、実は私、ただお礼を言いに来たわけではないんです。卒業する前に、どう
しても、私……」
みゆきの言葉はそこで途切れた。ななこが表情を読み取ろうとすると、それを避けるよう
に俯く。
全身を小刻みに震わせているみゆきは、緊張しているようにも、何かに怯えているよう
でもあった。
「急にどうしたんや、なんか言いづらいことでもあんのか?」
ななこは身を屈めると、みゆきの表情をカーテンように隠している前髪に指を掛けた。
そしてその隙間から、赤い血管の走る瞳がのぞいたその刹那。
「先生……ごめんなさいっ」
「ごめんってな……んぅっ!」
ななこの唇が奪われた。それは奪うというに相応しい勢いで、ななこがそれをキスだと
認識するまでの間に、みゆきの唇は引き離されていた。
「わ、私、ずっと先生のことが好きでした!そそそれでは失礼しますっ」
「はぁっ!?ちょっと待てや高らわわっ!」
言うが早いがみゆきは背を向けて走り出した。
咄嗟に延ばされた手は勢いよく宙を切り、バランスを崩したななこは胸から地面に倒れ
込んだ。
みゆきが走り寄って行った自転車置き場のほうでは、いつの間にかこなた、つかさ、かが
みのいつもの面子が顔を揃えていた。
「ゆきちゃんすごいねー!私キスまでしちゃうと思わなかったよー」
「いやいや、天然属性の人ってのは意外に情熱的だったりもするからね」
「まあ何にせよよくやったわよ、ちょっと感心しちゃった」
四人はななこを置いて甲高い声でおしゃべりを始めた。
ついさっきまでのドラマのような陶酔感は嘘のように消え失せ、ななこは立ち上がること
もできずに呆然としていた。
「随分お熱いキスでしたね」
後ろから掛けられた声に振り向くと、そこには普段通りに白衣を着たふゆきが立っていた。
急患が出た時のためなのだろうが、正装の人間ばかりの卒業式にあってその格好はかなり
異質だ。
「……いつから見てたんや?」
「黒井先生が高良さんの頭を撫でている所からです……それよりいつまでそのままでい
るつもりですか?」
そう言って差し出しされた手を取って、ようやくななこは立ち上がった。
「おおきに。しかしなんや格好悪い所見られてもうたな」
「言いふらしたりはしないから安心して下さい。あら?黒井先生、唇が切れていますよ」
ふゆきは白衣のポケットから取り出したハンカチで、ななこの唇を拭った。敏感になっ
た傷口がふゆきの指の形を生々しく浮かび上がらせる。
「ったく勢い付けすぎなんや。幾ら緊張してたゆうてもなぁ……」
「かえって良かったじゃありませんか。もし高良さんのキスが上手かったら、黒井先生が
どうなってしまったか解りませんもの」
「おいおい、ウチがその場で襲いかかったとでもいうんかい」
ななこはわざとおどけてみせたが、無言で首を振るふゆきの目つきは真剣だった。
「……そうやな。確かにあのままやったらウチは完全に、いかれてもうたかもしれへんな」
微動だにしない視線に根負けして、ななこは嘆息した。
「自覚はあったんですね」
2学期の期末が終わった頃から、ななこは無意識にみゆきの姿を追い求めるようになっ
ていた。
3Bでの授業中などは他の生徒に悟られないよう、必死にみゆきから目を逸らさなければ
いけない程だったが、それもまだ序の口に過ぎなかった。
たまたま1年次に使っていた教室の前を通りかかった時、ななこはその中に一人寂しそ
うにお弁当を食べているみゆきを見た気がした。
当然それは見間違いで、一度瞬きした後には消えてしまったのだが、それからななこは
たまにそんな幻に遭遇するようになった。
廊下の角や、階段の踊り場。一歩動けば見えなくなってしまう、そんな所にみゆきは
立っていて、ななこを誘うようにゆらめくのだ。
「ここはティル・ナ・ノーグにとても近いから、たまに黒井先生みたいになっちゃう人
がいるんです」
そう言ってふゆきは校舎を仰ぎ見た。
「なんなんやそれは、また神話かなんかか?」
「ケルト神話ですね。永遠の青春の国という意味。深い水底にあるという、妖精達の住む
喜びと幸いの地」
「……そんな場所があるわけないやろ」
ななこが受け持ってきた生徒達は妖精なんてものではなかった。彼らは世間の人間がそう
であるように利己的で、打算をよくした。
違いといったらそれに無自覚なことと、少々見通しが甘いことぐらいだろうか。
そして何より、彼らは3年の間に大きく成長してしまったではないか。
「ありますよ。生身の私達には決して辿り着くことはできませんけどね」
一年教えたらそれっきりの講師だった頃には、気が付かないで済んでいた真理。
けれどみゆきのことを考えている間は、その真理を忘れることができた。
足す所も引く所もない身体つきに、聡明な頭。それでいて大人から見れば本当に些細な
ことでつまずいてしまう。みゆきは絵に描いたような少女だったから。
「それじゃ結局ないのと同じやないか」
物語の登場人物として相応しいのはみゆきだけだった。幾ら親しくてもこなたではだめ
なのだ。
遅刻やズル休みはお手の物。宿題だって毎回ちゃっかり人のを写させて貰っている。
それだけならまだ自分の手でどうにかしてやることもできたが、もしバイトしていること
がバレたらどうするつもりだったのだろうか。
私立の進学校である陵桜は特別な事情がない限りバイト禁止だ。そしてなおかつ勤務先は
コスプレ喫茶ときている。
オタク方面に詳しくないオジサン達には風俗と誤解されたっておかしくない。
しかしこなたはそんな地雷原を軽やかにスキップして卒業証書を手に入れてしまった。
一体何を原動力にしたのやら、立派な進学先のおまけつきで。
こなたは割に極端な例だったけれど他の生徒だって同じだ。誰も彼も蔦のように無秩序に、
伸びて、絡んで、広がっていく。
緑で埋め尽くされた視界の中に、たった一輪の咲いていた花を、ななこは押し花にしよう
とした。水気を切って押しつぶし、思い出の中に栞代わりに挟んでおくつもりだった。
収穫の季節を迎えて、自分の運命を覚悟したかのように自ら頭を垂れた花の前に、ななこ
は鋏を持って屈み込んだ。
「それなら黒井先生は今までどこにいってらっしゃったんですか?」
しなった茎に手を添えてななこは、ようやくその重さの意味を知った。花はその下に、
たわわに実った果実をつけていたのだ。
柔らかく傷つきやすそうな果実の扱いに戸惑っている間に、それはぼとりと音を立てて地
に落ちて果汁をまき散らした。
そして後には名前も知らない種が一粒。
「仕事が忙しゅうて、どっか行く暇なんかありゃせんかったわ」
ななこの瞼を押し開けて、塩辛い涙がとつとつと湧き出す。干上がっていく心の底に、
ティル・ナ・ノーグの姿はもうなかった。
「それもそうでしたね。でも今日はもうお暇ですよね?」
ふゆきは気の置けない友人がするように、軽くななこの肩を叩いた。
「まあそうやけど」
「どっか飲みに行きましょうよ。桜庭先生も誘ってぱあっと」
「飲みに行くのはええけど……あんま見せつけへんでくれよ」
一人もの同士だと思っていたのに、女同士なんて詐欺があったからたまらない。
「そ、それは桜庭先生に良く言い聞かせておきます。ところでそろそろ戻りませんか?
私ちょっと寒くなってきちゃいました」
今まで我慢していたのか、ななこの返事を待たずにふゆきはさっさと歩きだした。
ななこは一歩踏み出す前にもう一度だけ、飽きることなくおしゃべりを続けているみゆき
達の方をちらっと見た。
「あいつらはこれからどこ行くんやろうな」
ななこの祈りのような問いかけに、ふゆきは足を止めずに答えた。
「さあ?ファミレスとかカラオケとかなんじゃありませんか」


「もう一杯頼んでええか?」
「細かいこと気にするな、その代わり私も飲むけどな。おい、ふゆき、そこのメニューを
取ってくれないか」
「まだ飲むんですか?二人共明日どうなっても知りませんよ」
もうもうと煙の立ちこめる焼鳥屋の座敷に未婚の女が三人。
テーブルの上には、空になったジョッキに焼酎の瓶、串だけになった大皿が乱雑に並んで
いる。
みんなもう少し気の利いた店を知らないわけではないが、単純に食べて飲む分にはここは
最高だった。
「なーひかる先生は寂しくないんかぁ?」
「重い、ひっつくな」
「そうされてると少しは私の気持ちが解るんじゃありませんか」
「くそぅ、こいつら一人もんの前でまたいちゃつきおって」
注文を受け付けた店員が行ってしまうと、ななこは大胆に隣のひかるに絡み出した。
ひかるは肘を差し込んで引きはがそうとするものの体格差を覆すことはできず、ななこの
腕の中でまるで縫いぐるみのようになっている。
「ああもう、生徒が卒業するのは仕方のないことだろうが。んなもん慣れだ慣れ」
「いや卒業もそうなんやけどさ、他にも色々あるやん、ウチらの年って。なんかそういう
のが纏めて来ちゃったんよ」
「そうかそうか、まあもう立派な嫁がいる私には関係ないな」
「もう……ひかるちゃん余計な事は言わないって約束したじゃありませんか」
「ひかるちゃん、ねぇ」
ふゆきは自分の失言に気付くと、顔を真っ赤にしながら顔を伏せた。ななことひかる程で
はないにしても大分アルコールが効いている。
「大体なぁ、寂しいだったら黒井先生も、ええと名前忘れた、例の女の子でも追いかけて
捕まえれば良かったんじゃないのか」
ひかるにみゆきの話を持ち出されて、ななこは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「いや生徒で女ってどんだけハードル高いんや……っていうか正直合わせる顔がないっち
ゅうか」
「黒井先生はもう会いたくないんですか?」
会いたくないと言えば嘘になる。未熟なキスが残した熱は今だ冷めていない。
「何やふゆき先生まで。普段公私混同はいけへん言うてるのはふゆき先生やないか」
「まあそうなんですけどもう卒業しちゃいましたし、それに」
ふゆきはみゆきの想いの強さを知っていたから。
『私、ある先生に恋してしまったんです』
あの声はもう覚悟を決めている人間のものだった。ふゆきに話したのも、誰かに知っても
らうことで自分を律しようとしたからなのだろう。
だからふゆきはごく常識的な注意をするだけに留めた。
『もし卒業するまでその思いが続いていたなら、後は自分の判断で頑張ってみなさい。
でもうまくいかなかったとしてもその人のことを恨んじゃだめですよ』
教師と生徒という縛りが消えるまで、みゆきは待った。
けれどこの恋にまつわる縛りはまだ一つあって、そのせいでみゆきは告白だけでこの恋を
終わらせようとしている。
「……少しでも未練があるのなら勿体ないじゃありませんか」
その先に幸せな結末があるかどうか、それはふゆきの知ったことではない。
だがふゆきには同性だからという理由で、恋が種のまま腐っていくのを黙ってみているこ
とはできなかった。
「でもほらアドレスとかも知らへんし。いきなり家に電話するわけにもいかへんやろ?」
「ったく女々しいなあ、黒井先生は仲の良い生徒が一杯いるだろう?そいつらに聞けばい
いじゃないか」
ななこが迷いを覚えるのも仕方のないことではある。同性から告白されたことはあっても、
自分が想う立場になるのは初めてのことなのだ。
場がなんとなく重たくなった所に、店員がさっき注文した酒と料理を持ってやってきた。
目の前に置かれた酒瓶に映った女の顔に、ななこはげんなりした。
自分が袖にしてきた女の子達は、こんな女々しい表情はしていなかったのに。
「……帰ったら泉にでもメールしてみるかなぁ」
精一杯アプローチしてそれでもダメだったら、またこうして酒でも飲みながら友人に愚痴
ってしまおう。
コップになみなみと酒を注ぎながらななこはふと、こうして開き直れるようになっただけマシ
なのかもしれないな、と思った。


















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  • 切ないですね。
    いい話でした。ぜひこの恋は叶ってほしいです。 -- 暁 (2008-07-19 18:59:48)
  • >「あいつらはこれからどこ行くんやろうな」
    >ななこの祈りのような問いかけに、ふゆきは足を止めずに答えた。
    >「さあ?ファミレスとかカラオケとかなんじゃありませんか」

    この部分のやり取りが「夢の終わり」にふさわしい、上手い表現だなと思います。
    -- 名無しさん (2008-05-07 13:40:42)
  • この物語は、まだ始まったばかりなのだな。。。
    -- 名無しさん (2008-05-07 00:04:45)
  • 全俺が泣いた -- みみなし (2008-05-04 21:51:54)
  • 無理矢理『物語』にしないところに『小説』としての完成度を感じました。
    次作も期待しています!! -- 名無しさん (2008-04-29 09:18:19)
  • マイナーカプでしたが、無理なく自然に読むことができました。
    みゆきさん本来の良さを再発見できた、良いSSでした。 -- 名無しさん (2008-04-29 01:42:11)

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